2023年に厚生労働省が発表したデータによると、平均寿命が公表されている世界の国と地域の中で、日本人の平均寿命は女性が1位、男性が5位となっています。
世界的にも日本は長寿の国であり、平均寿命は延伸傾向にあります。
ただ、日本人の平均寿命が年々伸びている反面、健康寿命との差が拡大していることに危機感を感じている方も少なくありません。
そこで今回は、健康寿命とは何か、平均寿命との違いや健康で長生きするためのポイントなどを解説します。
目次
1.人生100年時代とは?日本人の平均寿命や死因について
平均寿命が伸び、100歳まで生きるのが当たり前になる時代がくるという考え方を「人生100年時代」と言います。実際に、2007年に日本で生まれた子どもの半数は107歳より長く生きると推測されています。
ただ、「人生100年時代って本当なの?今の日本人の平均寿命はどのくらいだろう?」
と疑問に感じている方も多いでしょう。
そこで、最新のデータにおける日本人の平均寿命と国際比較、死因などを解説します。
1-1.2023年の日本人の平均寿命
厚生労働省が発表する「簡易生命表」によると、2023年の日本人男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.14歳となっています。
2022年と比較して男性は0.04年、女性は0.05年延伸しています。
新型コロナウイルスの影響により、2021~2022年においては平均寿命が短縮していましたが、2023年になり、再び平均寿命は延伸しているのが現状です。
1-2.平均寿命の国際比較
「日本人は長生き」というイメージがあるとおり、日本人の平均寿命は海外と比較してもトップクラスに長くなっています。
平均寿命が公表されている世界の国と地域の中で、日本人の平均寿命は女性が1位、男性が5位となっています。
| 男性 | 女性 | ||
国 | 平均寿命 | 国 | 平均寿命 | |
1位 | スイス | 82.3歳 | 日本 | 87.14歳 |
2位 | スウェーデン | 81.58歳 | スイス | 85.9歳 |
3位 | ノルウェー | 81.39歳 | フランス | 85.75歳 |
4位 | オーストラリア | 81.22歳 | スペイン | 85.74歳 |
5位 | 日本・イタリア | 81.09歳 | 韓国 | 85.6歳 |
※厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」を参考に弊社にて作成
このように、日本人は世界有数の長寿の国であることがわかります。
ただし、国によって平均寿命の作成方法などが異なるため、厳密には比較できない点に注意が必要です。
1-3.日本人の死因は「老衰」が増加傾向
医療技術の発展や食生活の変化などにより、死因も年々変化しています。
2023年の日本人の男女別死亡確率上位は以下のとおりです。
| 男性 | 女性 |
1位 | 悪性新生物 25.93% | 老衰 19.61% |
2位 | 心疾患 14.24% | 悪性新生物 19.09% |
3位 | 老衰 7.93 | 心疾患 15.44% |
4位 | 脳血管疾患 6.30% | 脳血管疾患 6.73% |
5位 | 肺炎 5.68% | 肺炎 4.24% |
※厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」を参考に弊社にて作成
男女ともに老衰による死亡確率が高まっており、とくに女性は悪性新生物にあたる「がん」を抜いて1位となっています。
また、悪性新生物や心疾患、脳血管疾患による死亡確率は男女ともに減少傾向にあり、医療技術の向上や生活習慣改善意識の高まりなどが要因であるといえるでしょう。
参考:厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」
2.健康寿命とは?
日本人の平均寿命は延伸傾向にあり、世界的にも長寿の国であることがわかりました。
最近では、単に平均寿命が長いだけでなく、“健康で長生きすること”が大切であるという考え方が広まっており、「健康寿命」にも注目が集まっています。
ここでは、健康寿命の定義や算出方法について見ていきましょう。
2-1.健康寿命の定義
「健康寿命」とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされています。
健康寿命は生活の質(QOL:Quality of life)を高めることと密接に関わっており、2000年にWHO(世界保健機関)が健康寿命を提唱して以来、関心が高まっているのです。
2-2.健康寿命の算出方法
健康寿命は、平均寿命とは異なる概念であり、算出方法にも違いがあります。
平均寿命は、各年代の死亡率を計算し、0歳児が何歳まで生きられるか(平均余命)をシミュレーションして求めます。
一方、健康寿命は平均余命を「健康な期間」と「不健康な期間」に分け、健康な期間の平均年数を計算して求めています。
なお、「健康」と「不健康」の分け方は、「日常生活に制限があること」を不健康とし、3年に一度実施される「国民生活基礎調査(大規模調査)」で以下の二つの質問から得られた回答をもとに、データを算出しています。
質問1(主指標):あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか
回答:ない(健康)、ある(不健康)
質問2(副指標):あなたの現在の健康状態はいかがですか
回答:よい・まあよい・ふつう(健康)、あまりよくない・よくない(不健康)
参考: e-ヘルスネット(厚生労働省)「健康寿命の定義と算出方法」
3.健康寿命と平均寿命の違い
健康上問題がなく日常生活を送れる期間である「健康寿命」に対し、「平均寿命」は生まれたばかりの0歳の子どもが生存するであろう平均年数を意味します。
つまり、平均寿命と健康寿命に差があるということは、日常生活に制限がかかる「健康ではない期間」が何年かを意味します。
平均寿命と健康寿命は定義や算出方法が異なるため、データにも違いがあります。
ここでは、健康寿命と平均寿命の違いについて、詳しく見ていきましょう。
3-1.平均寿命と健康寿命の推移
2001年から2019年までの日本人の平均寿命と健康寿命の推移は以下のとおりです。
2019年の日本人男性の平均寿命は81.41歳、女性は87.45歳であったのに対し、同年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。
平均寿命と健康寿命の差は、男性が8.73歳、女性12.07歳であり、2001年からみると女性よりも男性の方の健康寿命が延伸している傾向にあります。
3-2.平均寿命と健康寿命に差を縮小させるべき理由
平均寿命と健康寿命に差があるのは、日常生活に制限のかかる不健康な期間が長くなるということを意味します。
日本では、少子高齢化が社会問題となっており、高齢者の人口は増え続けています。さらに2040年には団塊ジュニア世代が65歳以上になり、高齢者人口がピークになると予測されています。
そのため、平均寿命と健康寿命の差が広がっていく中で高齢者人口が増えると社会保障費が増加してしまいます。しかし、平均寿命と健康寿命の差が縮小し、健康な高齢者が増えれば医療費が減り、社会保障の充実や持続性が高まります。
高齢者自身の生活の質が向上するのはもちろん、家族や社会にとってもプラスの要素が多いのです。
【平均寿命と健康寿命の差を縮小させるメリット】
- 高齢期の生活の質を高められる
- 家族の介護負担を軽減できる
- 高齢者の医療費を減らせる など
参照:eーヘルスネット(厚生労働省)「平均寿命と健康寿命」
参照:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)_健康寿命と平均寿命の推移」
4.40代以上の人の健康寿命に対する意識
「人生100年時代」といった言葉を耳にする機会が増え、「健康寿命」を意識し始める方が増えています。
ここでは、40代以上の人200名を対象に実施された「健康寿命に対する意識についてアンケート」(株式会社林商会)の調査結果をもとに、健康寿命への意識を見ていきましょう。
4-1.8割以上の人が健康寿命を意識している
「健康寿命に対して意識したことがありますか?」という質問に対して、「ある:81%」「ない:12%」「わからない:7%」という結果となっています。
つまり、40代以上の人の8割以上は、健康寿命を意識しているのです。
さらに、「ある」と回答した人がなぜ健康寿命を意識したのかについては、以下のような理由が挙げられています。
- 健康診断の結果が悪かったため
- 身近な高齢者が介護を受けている様子を見て
- 健康な状態で長生きしないと周囲の人に迷惑をかけるから
一方、「ない」と回答した人の理由は以下のとおりです。
- 健康寿命という言葉を知らなかった
- 今は健康だと思うから
「ある」と回答した人は、自身の健康診断や、周囲の人の介護の現実を見て、意識し始めるケースが多いとわかります。
反対に「ない」と回答した人は、言葉自体に馴染みがなかったり、自身や周囲の人が健康で意識するきっかけが少なかったりすることが要因であるといえるでしょう。
4-2.9割以上の人が老後の健康に不安を感じている
「老後の健康について不安を感じますか?」という質問では、「ときどき感じている:63%」「常に感じている:29%」「あまり感じていない:7%」「感じたことがない:1%」という結果となっています。
つまり、40代以上の人の9割以上は、老後の健康に対して不安を感じているのです。
さらに、「ご自身の健康について不安を感じてることは何ですか?」という質問では、1位が「がん・心臓病・脳卒中などの重病」、2位が「生活習慣病」、3位が「認知症」という結果になりました。
がんや心臓病、脳卒中は死因の上位に入っており、年齢を重ねるにつれて患うリスクが高まるため、不安を感じている方が多いといえるでしょう。
5.健康で長生きするために!健康寿命を伸ばすうえで押さえておくべきポイント
40代以上の人の多くが老後の健康に対して不安を感じており、健康寿命を意識しているとわかりました。
では、実際に健康寿命を伸ばしていくために、どのようなことができるのか見ていきましょう。
5-1.健康寿命は生活習慣の見直しが大切
まず、健康寿命を伸ばしていくためには、生活習慣の見直しが大切であり、以下の二つの理由が挙げられます。
理由1:介護が必要になった要因は生活習慣病が3割
厚生労働省「健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料」によると、介護が必要になった要因は、生活習慣病が3割を占めています。
さらに、全ての疾患の中でも生活習慣病の一つである「脳血管疾患 (脳卒中)」が 24.1%と最も多くなっています。
生活習慣病とは、食事や運動、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関係し、生活習慣が主な発症の要因となる疾患の総称です。
生活習慣病は、生活習慣が関係していることが多いため、まずは日々の生活習慣を見直すことが健康寿命を伸ばすことにつながるといえます。
参照:厚生労働省「健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料」
理由2:生活習慣と病気の関連性
健康的な生活を意識していても、病気にならないとは言い切れません。
しかし、「生活習慣病」という言葉があるとおり、生活習慣と病気は深いかかわりがあります。
厚生労働省「令和4年版 厚生労働白書」によると、2019年リスク要因別の関連死亡者数は以下のとおりです。
このように、喫煙や運動不足などの日々の生活習慣を見直す余地がある人ほど、病気を発症し、結果的に死亡リスクを高めることがわかります。
参照:厚生労働省「令和4年 厚生労働白書」
5-2.普段の生活から取り入れられることを決める
健康寿命と生活習慣は深いかかわりがあるため、健康寿命を伸ばしていくには生活習慣の見直しが欠かせません。
とはいえ、「生活習慣の見直し」と言われても、何をすべきか混乱しがちであるため、普段の生活から取り入れられる方法を紹介します。
【すぐにできる生活習慣の見直し】
- 飲酒を控える
- 運動を始める
- タバコを控える、やめる
- 塩分や脂質を抑えた食事を意識する
- 野菜を積極的に取る
- 規則正しい生活をする など
具体的に何をすべきか明確にすることで、生活習慣を改善しやすくなります。
5-3.健康習慣を日常に取り入れて習慣化する
健康寿命を伸ばすには生活習慣の見直しが大切ですが、改善した生活習慣を継続していくことも大切です。
たとえば、禁煙を始めたとしても、1週間後に再び喫煙してしまっては改善できたとは言えません。
そこで、改善した生活習慣を、日常的なものにして習慣化するよう意識しましょう。
習慣化できれば意識しなくても健康習慣を手に入れることができ、結果的に健康寿命を伸ばすことにつながります。
6.健康寿命を伸ばすための国の取り組み
健康寿命の重要性が認識され始めており、国でもさまざまな取り組みが行われています。
ここでは、健康寿命を伸ばすための国の取り組みを紹介します。
6-1.健康日本21(第三次)
「健康日本21」とは、21世紀における国民の健康に関する方針であり、厚生労働省が2000年に開始されたものです。
2024年度からは「第三次目標」の運用が開始しており、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」を目標としています。
基本方針は以下の3つです。
- 個人の行動と健康状態の改善
- 社会環境の質の向上
- ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり
基本方針を実現するための目標数値が51項目ほど設定され、2029年に中間評価、2033年に最終評価が行われる予定です。
詳しい内容に関しては下記をご参照ください。
- 厚生労働省「健康日本21(第三次)概要」
6-2.スマート・ライフ・プロジェクト
厚生労働省が実施している「スマート・ライフ・プロジェクト」とは、国民の健康づくりをサポートするプロジェクトのことです。
2011年2月に国民の生活習慣改善、健康寿命の延伸を目的として開始されたものであり、とくに「健康寿命を伸ばすこと」に注力されていることがポイントです。
具体的には、「運動」「食生活」「禁煙」「健診・検診の受診」をキーワードとして、実現するために個人への問いかけをはじめ、企業や団体と連携して社会全体に活動を普及させるよう取り組んでいます。
詳しい内容に関しては下記サイトをご参照ください。
6-3.健康寿命延伸プラン
2019年5月から厚生労働省では「健康寿命延伸プラン」という計画をスタートしています。
2040年までに男性の健康寿命を75.14歳以上、女性の健康寿命を77.79歳以上にすることを目標として、以下の3つの取り組みを実施しています。
- 次世代を含めたすべての人の穏やかな生活習慣形成
- 疾病予防・重症化予防
- 介護予防・フレイル対策・認知症予防
異なるポイントからアプローチを行い、2040年の目標達成に向けて取り組みを実施しています。
詳しい内容に関しては下記をご参照ください。
- 厚生労働省「資料4 健康寿命延伸プラン」
7.まとめ
今回は、健康寿命について解説しました。
日本は世界的にも長寿の国ですが、平均寿命を伸ばしていくだけでなく、“健康で長生きすること”が大切であるという考えから、「健康寿命」を重視する人が増えています。
健康寿命を伸ばすことは、高齢期の生活の充実度がアップするのはもちろん、家族の介護の負担を減らしたり、持続可能な社会保障の実現につながったりと、多方面でメリットがあります。
健康寿命は生活習慣の改善が重要なポイントとなるため、日々の生活を見直して、健康で長生きできるよう取り組んでいきましょう。