御侍史(おんじし)・御机下(おんきか)とは?使用方法・例・注意点

御侍史 御机下

御侍史(おんじし)・御机下(おんきか)は、医療機関において紹介状や医師宛ての手紙などの宛名を書く際に使われる言葉です。

医療業界では古くから一般的に使用されていますが、意味や使い方について今ひとつわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、御侍史・御机下の正しい使い方や使用例、注意点などについて詳しく解説します。

1.「御侍史・御机下」とは

御侍史(おんじし・ごじし)、御机下(おんきか・ごきか)は、手紙の「脇付(わきづけ)」として使用する言葉です。

脇付は、手紙の受取人に対する敬意を表す言葉のことで、御侍史・御机下のほかによく使われるものに「御中(おんちゅう)」があります。

御侍史・御机下の意味や医療業界で使われている理由について詳しく見ていきましょう。

1-1.意味

御侍史は、「先生に手紙を直接渡すのは恐れ多いため、侍史に渡します」という意味です。

侍史は、現代で言うと秘書のような役割を持つ人物のことで、医療業界では医師の秘書や医療事務の人が該当します。

御机下は、「先生に手紙を直接渡すのは恐れ多いため、机の下に置きます」という意味です。ただし、実際に机の下に手紙を置くわけではありません。

1-2.使われる理由

医師は多くの診察や検査、治療などで慌ただしい日々を過ごしているため、手紙を直接渡すことで手間をかけさせるのは失礼にあたるという考え方があります。

そこで、「御侍史・御机下」という言葉を使うと、医師の手をわずらわせないことへの配慮の気持ちを示すことができます。

そのため、医師によっては脇付を記載したとしても、直接手紙を受け取ることもありますが秘書や医療事務を経由するかどうかに関係なく、医師に手紙を出すときは御侍史・御机下を使うことが大切です。

2.御机下・御侍史の使用頻度や使用方法・印象

エムスリー株式会社が1,626人の医師に対して行ったアンケート調査によると、御机下・御侍史を使用している医師の割合や印象について、次の結果がでました。

2-1.御机下・御侍史は実際にどれぐらい使われているのか

御侍史 御机下 アンケート

御侍史・御机下を差出人から使われているかどうかを質問したところ、製薬企業をはじめとする関係企業から「ほぼ使われている」と答えた医師会員は53.3%でした。内訳は、勤務医が56.2%、開業医が43.5%です。

「使われないこともある」と回答した勤務医は21.3%、開業医が23.9%と、「ほぼ使われている」を含めると全体の約68割の医師が御侍史・御机下という記載で手紙を受け取っていることが分かりました。

このことから、御侍史・御机下を使用することは医療業界の一般常識になっていると言えるでしょう。

2-2.医師同士でも使用しているのか

御侍史 御机下 アンケート

医師同士で御侍史・御机下を使用しているかどうかの質問に「例外なく使っている」と回答した勤務医は49.8%、開業医が54.6%と、約2人に1人は使用していることがわかりました。

また、「相手や状況によっては使っている」と回答したのは、勤務医が37.2%、開業医が31.6%です。このことから、医師同士で使用している割合は85%以上にのぼることがわかりました。また、「全く使っていない」と回答したのは、全体のわずか6.3%です。

医師同士の手紙のやり取りにおいても、御侍史・御机下を使用することは常識になっていると言えるでしょう。

2-3.御侍史・御机下を使われない場合の印象

御侍史 御机下 アンケート

医療業界における常識と言えるほどに使われている御侍史・御机下ですが、使われなかった場合に不快感があるかどうかの質問に対しては、「不快な気持ちになることがある」と答えたのは全体の6.5%でした。

一方、「不快な気持ちになることはない」と回答したのは81.7%と大半を占めます。

このように、御侍史・御机下をつけるのは常識ではあるものの、つけなければ失礼に値するとは断言できないこともわかりました。

出典:m3.com「「(御)侍史」「(御)机下」50%超が高頻度で使用」

3.御侍史・御机下の「御」は必要?についての医師の意見

続いて、御侍史・御机下の使用に関する医師の意見をまとめてみました。

3-1.「御」を付けない医師の意見

医療業界ではよく使われていますが、医師になって初めて御侍史・御机下という言葉を知る場合も多く、意味を理解せずに使用している医師も多いとの指摘が上がりました。

「侍史」「机下」には、既に謙譲の意味が含まれており、「御」をつける必要がないと考えている医師も多いようです。例えば、「侍史」は秘書や付き人への敬意を表す言葉になりますが、「御」を付けることで相手の秘書を謙遜する意味合いになってしまいます。また、「机下」には年下や秘書がつかない役職の方に向けて使う言葉であるため、目上の方に使用してはいけません。

「御」を付けると意味が変わるため、正しく理解することが重要であり、理解せずに使用すると混乱を招く可能性があるようです。ただ、周囲で「御」を使っている医師も多く、「御」を入っていたとしても気にならないとの意見もありました。

3-2.「御」を付ける医師の意見

御侍史・御机下の「御」を付けないことが正しいとは理解していますが、実際に「御」を付けずに使用している医師が周囲に少ないとの意見がありました。仮に、正しい表現ではないことを知らない医師に対し「御」を付けずに送ってしまうと失礼になる可能性もあるため、「御」を付けている方も居るようです。

御侍史・御机下と書かれた手紙は、看護師やクラークなどの他スタッフも開封できるため、業務がスムーズに進みやすいため助かっているとの意見もありました。

医療業界で共通の慣用的な表現として使用すればいいとの考えも持つ医師も多くいるようです。

4.御侍史・御机下の使い方・使用例

御侍史・御机下は、使い方を誤ると失礼になる恐れがあるため、正しい使い方を理解しておくことが大切です。使い方の基本と使用例をそれぞれ紹介します。

4-1.御侍史の使い方・例

御侍史は、院長宛ての手紙に使うことが多い言葉です。院長はスケジュール管理や雑務への対応のために秘書を雇っていることが多いため、御侍史を使うのに適しているとされています。使い方の例は以下のとおりです。

使うとき

使い方の例

医師の名前がわかっている

〇〇病院 佐藤先生 御侍史

医師の名前がわからない

〇〇病院 担当医先生 御侍史

このように、医師の名前がわからない場合でも御侍史を使用できます。

4-2.御机下の使い方・例

御机下は、秘書がついていないと思われる医師に対する手紙に使用することが一般的です。

使い方の例は以下のとおりです。

〇〇病院 佐藤先生 御机下

御机下は基本的に医師の名前がわかっている場合に使用するため、医師の名前がわからないときは御侍史を使うのがマナーとされています。

5.御侍史・御机下の封筒やメールでの使い方

御侍史・御机下は、封筒やメールなど、メッセージの送り方によって使い方が異なります。御侍史・御机下の正しい使い方について詳しく見ていきましょう。

5-1.封筒

封筒の場合、医師の名前がわかる場合は「御机下」、わからない場合は「御侍史」とします。

ただし、院長のように秘書がついている可能性が高い人物に送る場合は、「御侍史」を使用しましょう。つまり、封筒の場合は前述した基本の使い方を適用します。

5-2.メール

メールの場合は、一般的に「御机下」を使用します。

これは、メールは秘書や医療事務を介さず、本人が直接開封することが多いためです。

医師のメールアドレスに送信しているにもかかわらず「御侍史」を使用すると、不自然な印象を与える可能性があります。

6.御侍史・御机下の注意点

御侍史・御机下は、正しく使用しなければ不自然な印象を与えたり失礼になる可能性があります。

使い方の注意点について、詳しく見ていきましょう。

6-1.医師以外の医療従事者や事務スタッフなどには使わない

御侍史・御机下は、医師以外の職種の人に対して使うべきではありません。

例えば、事務長や事務室長などの管理職に手紙を書く場合でも、御侍史・御机下を使用するのは誤りです。

同様に、看護師や介護士といった医療スタッフに送る手紙にも、これらの脇付は使用しません。

6-2.漢字を間違えないようにする

御侍史・御机下を正しく使用するには、漢字の間違いにも十分な注意が必要です。

「御侍史」を「御史」、「御机下」を「御下」といった間違いが発生する可能性があります。

漢字の間違いがトラブルにつながることは通常はありませんが、不快感を与える可能性があるため、正しい使い方を心がけるべきです。

言葉の意味や由来を理解しておくことで、間違いに気づくことができるでしょう。

例えば、「御机下」は机の上に置くのが恐れ多いという意味を含んでいます。この意味を理解していれば、「机」を他の文字と間違えにくくなります。

6-3.個人的に不要と言われた場合は書かないようにする

御侍史・御机下を書く必要はないと受取人が言っている場合は、書かないようにすることが重要です。

相手が求めていないにもかかわらず無理に書くことは、失礼な行為となります。

相手に不快感を与えるだけでなく、信頼関係を損なう可能性もあるため、不要と言われた場合は書かないようにしましょう。

7.御侍史・御机下のよくある質問

7-1.Q.「先生」の後につけても二重敬語にならない?

先生そのものが敬称のため、先生の後に脇付があると二重敬語にならないか気になる方もいるでしょう。

二重敬語は相手に不快感を与える可能性があるため、避ける必要があります。

しかし御侍史・御机下は二重敬語には該当しません。相手を敬う言葉であるものの、医療業界の慣習として、「先生」の後につけることが可能です。

7-2.Q.年賀状でも御侍史・御机下を使うべき?

年賀状には、御侍史や御机下の脇付は書かないことが一般的です。

年賀状には、親しい間柄であることを伝える意図もあるため、格式張ったイメージを与えないためにも脇付を書かない場合が多いです。

ただし、勤務先ではない他の病院の医師に年賀状を送る場合は、脇付を入れる方が適切な可能性があります。

相手との関係や状況を考慮して、脇付を書くかどうかを決めましょう。

7-3.Q.年齢や性別で使い方を変えるべき?

相手が医師であれば、年齢や性別に関係なく、御侍史や御机下を使用できます。

むしろ、使い分けることは失礼にあたるため、医師全員に対して同じように使いましょう。

8.まとめ

御侍史と御机下は、医師に対して手紙やメールを送る際に書くことが一般的な脇付です。

本記事では、御侍史や御机下の使い方や例、注意点について紹介しました。

使用場面や方法、漢字などを間違えないように注意しつつ、適切に使うようにしましょう。

御侍史や御机下の使い方を誤ったからといって大きなトラブルになることは通常はありません。

しかし、一種のマナーとして、正しく使うことを心がけましょう。