一般的に多忙とされる医師は、育休を取得できるのでしょうか。男女共同参画局の「男女共同参画白書 令和4年版」によると、医師が属する医療法人を含む全民間企業における男性の育児休業の取得率は上昇傾向にあり、2020年度で12.65%でした。女性は81.6%であることから、まだまだ女性が主に育休を取得しているものの、男性も取得しやすい体制づくりへとシフトしていることがうかがえます。
このような現状を受け、2022年4月1日から段階的に育児・介護休業法の改正案が施行され、法的にも育休を取得しやすい状況へ変わりつつあります。
本記事では、医師の育休の事情や法改正の内容を解説するとともに、育児休業の体験談も紹介します。
1.育児・介護休業法の改正内容
育児・介護休業法は、働き方改革の一環として2022年4月1日から3段階に分けて改正法が施行されました。それぞれの改正の内容について詳しく見ていきましょう。
1-1.育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
今回の法改正によって設立された産後パパ育休とこれまでの育児休業のどちらも取得しやすくするために、事業主は、以下いずれかの措置を講じる必要があります。
- 育児休業・産後パパ育休に関する研修を行う
- 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制を整備する
- 自社の育児休業・産後パパ育休取得事例を収集し提供する
- 自社の育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針を周知する
育児休業・産後パパ育休の存在を知らない、取得したいが誰に相談すればよいかわからない、そもそも取得が現実的なのかがわからないなどの悩みにより、育休の取得を諦める方もいます。
このような事態を防ぐために、上記のような措置を講じることが求められています。
1-2.妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
男性医師が配偶者の妊娠・出産を申し出た、または女性医師が自身の妊娠・出産を申し出た場合、事業主は育児休業・産後パパ育休について情報を提供するとともに、取得の意向を確認する必要があります。また、周知や意向確認は個別に行うことが原則で、結果的に取得を控えさせるような形で行うことはできません。
例えば、大勢の前で意向を確認すると、育休を取得したくても言い出しにくいことがあります。このような対応は育休の取得を控える原因となるため、必ず個別に確認しなければなりません。
個別周知・意向確認の方法は、面談(オンライン面談可)、書面交付、FAX、電子メールなどです。
また、周知事項は以下のとおりです。
- 育児休業・産後パパ育休に関する制度の内容
- 育児休業・産後パパ育休を取得したい場合の申し出先
- 育児休業給付に関すること
- 育児休業・産後パパ育休期間において負担する社会保険料の取り扱い
1-3.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
有期雇用労働者が育児・介護休業を取得する際は、以下の要件を満たす必要がありました。
- 継続的に雇用されている期間が1年以上
- 子供が1歳6ヶ月になる前に契約満了となることが明らかではない
今回の改正では、「継続的に雇用されている期間が1年以上」が撤廃され、「子供が1歳6ヶ月になる前に契約満了となることが明らかではない」のみが要件となりました。これは、無期雇用労働者と同じ要件です。
また、育休に伴って給付される育児休業給付についても同様に緩和されました。
1-4.産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
産後パパ育休(出生時育児休業)は、従来の育児休業にプラスして取得できます。
- 取得可能期間……子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能
- 申し出の期限……原則休業の2週間前まで
- 分割取得……分割して2回取得可能(初めに期間をまとめて申し出る必要がある)
- 休業中の就業……労使協定を締結している場合、 合意した範囲で休業中に就業できる
休業中の就業については、労働者が申し出た候補日や時間の範囲内で事業者が働き方を提案し、労働者が同意すれば行うことができます。就業可能日数の上限は、休業期間中の所定労働日および所定労働時間の半分です。また、産後パパ育休の開始日と終了予定日に就業する場合は、その日の所定労働時間数を超えてはいけません。
(例)
- 育児休業期間14日
- 週の所定労働日が10日
- 所定労働時間が1日8時間
- 休業期間中の所定労働時間の合計が80時間
↓
(就業日・就業時間の上限)
- 就業日数上限5日
- 休業期間中の所定労働時間の合計が40時間
- 育休開始日および終了日の就業は8時間未満
1-5.育児休業の分割取得が可能に
育児休業は、原則として分割して取得することができませんでしたが、分割して2回の取得が可能になります。また、1歳以降の延長についても、育休開始日は1歳および1歳6ヶ月の時点に限定されていましたが、柔軟に選べるようになりました。
さらに、1歳以降の再取得については不可でしたが、特別な事情がある場合には再取得がみとめられます。法改正後の育児休業の詳細は以下のとおりです。
- 取得可能期間……原則子供が1歳まで(最長2歳)
- 申し出の期限……原則休業の1ヶ月前まで
- 分割取得……分割して2回取得可能(初めに期間をまとめて申し出る必要がある)
- 休業中の就業……原則不可
- 1歳以降の延長育休……開始日を柔軟に決められる
- 1歳以降の再取得……特別な事情がある場合は再取得できる
1-6.育児休業取得状況の公表の義務化
今回の法改正により、育児休業の取得状況の年1回の公表が従業員1,000人以上の企業に義務づけられました。公表内容は、男性の育児休業の取得率もしくは育児休業と育児を目的とした休暇の取得率です。
インターネットをはじめとする外部の人が閲覧できる方法で公表する必要があります。このように、育児休業の取得について透明化が進むことで社会全体の育休に対する意識も高まり、取得しやすくなることが期待できます。
2. 医師の育休に対する現状
医師が育休を取得したくても取得できない理由に、周りの人の理解を得られない、不快に思われていないか心配といったことが挙げられます。そこで、育休に対する印象と男性医師の育休の現状について解説します。
2-1.男性医師が育休を取ることに対する印象
医学生向け情報誌のDOCTORASEは、育休の取得に対する印象についてアンケート調査を実施しました。男性医師および女性医師が育休を取得することに対する印象については以下のとおりです。
【女性医師の育休取得に対するアンケート】
女性医師の育休取得が、「望ましい」、「こどものために必要なら取るべき」という育休取得を推奨する意見が、男性医師では約8割、女性医師では約9割の結果になりました。
「パートナーのために取るべき」という意見は、男女ともに10%未満と少なくなっています。
また、女性医師に求められる役割としては、「乳児期・幼児期の子どものケア」が50%以上を占めています。
【男性医師の育休取得に対するアンケート】
男性医師の育休取得に関しては、「望ましい」、「子どものために必要なのでとるべき」との回答が男女ともに70%を超えています。一方、「パートナーのためにとるべき」という意見が女性医師と比較して多く、20%ほどありました。
男性医師に求められる役割としては、「家計を支えること」と考える男性医師が半数を占めていましたが、女性医師の求めるものとしては「乳児期(育児以外)の家事」となっています。
上記のアンケート結果から分かるように、男性医師の育休を必要とされているが、自然と役割が分かれているようです。育休を女性は子どものケアを行うために取得し、男性は育児以外の家事などパートナーのために取るという補助的な認識が現状ではあるようです。
出典:DOCTORASE「そもそも、医師は育休を取れるんですか?」
2-2.男性医師の育児休暇の取得率・取得期間
日本医師会が2014年に実施した調査によると、4,286人の男性医師のうち97.4%が育休を取得していませんでした。
ただし、男女共同参画局の「男女共同参画白書 令和4年版」によると、民間企業に勤める男性の育児休業の取得率は上昇傾向にあり、2020年度で12.65%でした。少しずつではありますが、男性が育児休暇を取得できる社会的な環境が整ってきているので、将来的に男性医師も取得率が上昇する傾向がみられるでしょう。
3.育児休業を取得した男性医師の体験談
育児休業を取得した男性医師の体験談をもとに、周囲のサポートや取得して良かったことなどを紹介します。
【体験談1】上司や同僚のサポートのもとスムーズに育休を取得
医師歴10年目で4歳と5ヶ月の2人の子どもがいる医師は、大学病院に勤務されています。
子供が生後1か月の時に、産休・育児支援制度を利用して実際に2週間の育休を取得しました。
この男性医師の職場では、医局員の育児休暇をサポートする取り組みが進んでおり、申し送りから引き継ぎまでしっかりとしたバックアップ体制が整っていました。
また、上司や同僚も育休への理解があり、出産の数か月前には育休の取得が決定しており、スムーズな育休を取得することが可能でした。
育休を取得して育児にしっかりと取り組んだ結果、妻から感謝の気持ちを伝えられ、夫婦関係が深まったとのことです。そのほか、育児の1日のスケジュール感を理解し、自主的に子どもや妻のために行動するようになったそうです。
参照:大分大学医学部「育休取得パパ医師インタビュー」
【体験談2】育児の大変さを理解したことで協力すべきポイントが明確に
夫婦ともに医師をされている方の体験談になります。
夫婦は両医師とも専攻医であり、ブランクを少なくしつつ、親子ともに保育園に慣れた状況で職場復帰をしたいと考えていました。そのため、妻は育休と産休を合わせ約4か月半、夫である男性医師は子供の出生後に3か月の育休を取得しました。
男性医師の3か月の育休は、一般的ではないとの思いもありましたが、所属する医局の医師の大半は、子育て経験を持っていたため、理解やサポートを得ることができたようです。
男性医師はまとまった期間に育児を行うことに対して有意義に感じているポイントを挙げています。制約が多い中での家事や日常生活の難しさを経験し具体的な育児の大変さを理解できたことに加えて、妻が家にいる際の協力すべきポイントも見えてきたと語っています。
参照:獨協医科大学「育休男性医師からひとこと」
【体験談3】家族を大切に思う気持ちが育まれて仕事に良い影響があった
大学病院の救急総合内科に勤める男性医師の体験談をご紹介します。
男性医師は、3人の子供がおり、今回第3子のために7か月の育休を取得しました。また、第一子第二子出産のタイミングにも育休を取得されています。
こちらの病院では、育休で休むことによるキャリア中断や他のメンバーにかかる負担などにより育休を取得することに引け目を感じることのないよう、育休を取る本人の希望を確認し、月2回の夜間や休日勤務を行えるよう取り組んでいました。そのため、男性医師も育休取得1か月目に当直勤務をされています。
月2回勤務の取り組みを始めた当時は、育児・介護休業法により育休を取得中の勤務はできませんでしたが、労働基準監督署と協議を重ねた結果、『技術を廃絶させないための研鑽』であれが月2回までの勤務は、研鑽の範囲内であるという見解を得ることで、この取り組みを開始しました。
現在では、産後パパ育休の創設により『労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲休業中に就業することが可能』となり、育休中の就業も相談できるようになっています。
また、育休者は夜間や休日勤務の方が家族の協力を得やすく、残るメンバーにとっても大変助かり、お互いに良い関係を維持することもできたようです。
このような取り組みが行われることで、育休を取りやすい環境づくりが行われていました。
参照:東京新聞「医療シン時代>藤田医科大病院 救急総合内科 男性医師の …」
【体験談4】育休は取得できなかったが配慮によって両立できた
医師歴7年目で2歳の子供がいる大学病院の医師ですが、子どもが生まれた当時は大学院生でした。
医師が大学院に進むのは、大学を卒業後3~10年ほど医師の経験を積んで入学する方が多く、子どもを持つ年齢層と大学院で学び始める時期が重なりやすいのが特徴です。
子供との時間を大切にしたいと思い、育休取得を検討しましたが、大学院生の場合は学生であるため育休は無給休暇となります。
そのため、有給休暇を育休期間に充てることで給料も確保しつつ育児を行ったそうです。休暇は、子どもが生まれた直後に取得しましたが、勤務先の協力もあり、医師の予定に合わせて全体の勤務の調整を行い、快く送り出してもらえたと言います。
大学病院に勤める医師は、外勤を行っている医師が大半です。また、育休中の外勤は認められず、収入が減少することが懸念材料でしたが、有給休暇中の外勤は可能なため、収入の大きな助けとなりました。また、勤務先は柔軟な対応が可能な環境であり、子供が体調を崩した際や特別な事情がある場合には休暇を取りやすくなっています。また、周囲の協力もあり、先生方の理解を得られているそうです。
育児期間は家庭のサポートに追われる日々が続き、勉強や学術活動にかける時間が減少しましたが、わずかな時間を使って画像診断の勉強を続けることで仕事と育児を両立しています。
参照:鳥取大学医学部統合内科医学講座画像診断治療分野|育児も仕事も頑張りたい男性医師の皆さんへ
4.まとめ
医師が育休を取得することに対して、取得するべきと考える人は8割以上にのぼります。育児休業の法改正に伴い、今後ますます男女問わず育休を取得しやすい状況に改善されるでしょう。
今回は、医師の育休の取得状況や法改正の内容、体験談などについて紹介しました。育休はワークライフバランスを整えるだけではなく、仕事にも良い影響が期待できます。
自身が積極的に育休を取得するとともに、育休を取得した人をサポートする体制づくりに協力することが望ましいでしょう。