医師に求められる能力|アンケートから紐解くコミュニケーションの重要性とは?

医師 コミュニケーション

近年、医師としてのコミュニケーション能力がより一段と重視されています。専門知識や技術を備えていることをベースとして、患者やスタッフ間の信頼関係の構築や医療サービスの質向上を目指す医師が求められているためです。特に、患者満足度の向上、チーム医療の推進、医療接遇の改善は今後の医師や医療機関にとって欠かせません。

そこでこの記事では、医師に求められるコミュニケーション能力について、アンケート結果を利用し、キャリアアップのためのポイントを紹介します。

1.医師が考える今後医師に求められる能力

医師に求められる基本的な資質と能力には、プロフェッショナリズムや専門知識・診療技能のほか、コミュニケーション能力やチーム医療の実践、医療の質と安全の管理などがあります。これらは医師としての基礎を形成し継続的にスキルアップすべき特性ですが、実際の医療現場で活躍する医師が仕事を通じて必要と感じたスキルはどのようなものなのでしょうか。ここでは、医師を対象に行ったアンケート情報を元に求められる能力を見ていきます。

1-1.コミュニケーション能力の重要性が高まっている

医師が医療現場で直面する多様な状況に対応するには、高度なコミュニケーション能力が欠かせません。

医師を対象に行われた調査では、「今後医師にとって重要性があがるもの」として下記のような結果が出ています。

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医師の回答によると最も今後の重要性が上がる可能性が多かったのは、コミュニケーション能力でした。また、次に多かったのは人とのつながりであり、デジタル技術では代替できない部分の重要度が高まっていることが伺えます。

具体的には、患者との信頼関係の構築やチーム医療の円滑な運営など、医療DXでは補えない対人スキルの重要性が高まっています。患者が自身の健康状態や治療法の選択について不安を感じている場合、医師はコミュニケーションを通して不安を軽減し治療への参加を促すことでスムーズな診療が可能です。

このように、医療現場での効果的なコミュニケーションは患者の満足度向上や医療サービスの質の向上に直接的に影響するため、今後より一段と重要性が増していくことが予測されます。

参照:エムスリー株式会社|医師にとって重要性上がるのは「コミュニケーション能力」―医療界の20年後調査◆Vol.6

1-2.採用したい医師は?高スキルVS協調性

医療の質の向上をはじめ患者および医療チームと信頼関係を構築するには卓越したコミュニケーション能力が求められます。医師の採用基準においても優れたスキルと同等、あるいはそれ以上に重視される時代を迎えるでしょう。

m3.comが会員医師に行ったアンケート調査によると、医師採用においてスキルよりコミュニケーション力を重視する医師は55.4%で、スキル重視派を10.8ポイント上回る結果が出ました。

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エムスリーキャリア株式会社の調査を参考に弊社にて編集加工をしております

年代別に行われた調査では、20代の若手医師は66.4%がコミュニケーションを最優先しており、特に外科系の医師はチーム医療の重要性からコミュニケーション力のある先輩や同僚を高く評価する傾向がうかがえます。

参照:エムスリーキャリア株式会社|高スキルVS協調性抜群 どちらの医師を採用する?―究極の選択アンケートvol.1 – 病院経営事例集

2.患者へのアンケートから考える医師のコミュニケーション力

患者が病院や医師を選ぶ際、技術的なスキルだけでなくコミュニケーション能力も大きなポイントとなります。医師と患者間の信頼関係を構築する場合、具体的にどのようなコミュニケーションが重要なのでしょうか。

厚生労働省のアンケート結果を通して外来患者が病院選びの際に重視する点、医師への相談をためらう理由、他の医療機関を考えるきっかけを紹介します。

2-1.外来患者が病院を選ぶ際の理由

厚生労働省が公表した『令和2(2020)年受療行動調査』によると、外来患者が病院を選ぶ理由として、医師や看護師から親切な対応が受けられることが上位に上がっています。

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※1

また、項目別の満足度において「医師との対話やスタッフの対応」の「満足」の割合が年々大きくなっており、医療接遇に対する改善が進められている病院が多く、医療接遇の平均レベルが上がっていることがわかります。

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※2

このように、質の高い医療接遇に取り組む病院は患者からの信頼や好感度を勝ち取り、その結果、医療接遇の平均レベルの向上に貢献していると言えるでしょう。

参照:厚生労働省|『令和2(2020)年受療行動調査』
1.2の図は、厚生労働省の調査を参考に弊社にて編集加工をしております。

2-2.医療機関受診時に医師に相談をためらう理由

Q 他に気になる症状や質問があっても、医師に相談しない理由は何ですか。(複数回答可)

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一般消費者を対象に実施された『医療機関受診に関する意識調査報告』によると、患者の48%が医師に余計なことは相談しにくいと考えていることが分かりました。医師に相談をためらう理由は様々ですが、医師が忙しそうであることや相談して良い内容か自信が持てないために躊躇する場合が多いようです。

また、以前に相談した際の医師の反応に不満を感じた経験や、追加で医療費が発生するかもしれない金銭的な心配も相談を控える理由として考えられるでしょう。このような患者の不安や疑問を払拭するためにも、質の高いコミュニケーションによる医師と患者間の信頼関係が重要です。

参照:株式会社レイヤード(旧メディアコンテンツファクトリー)|『医療機関受診に関する意識調査報告』

2-3.医療機関を変えたいと思うきっかけ

Q 医療機関を変えたいと思ったきっかけを教えてください。(複数回答可)

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医療機関を変えたいと思うきっかけは「医師が自分の話を十分に聞いてくれない」(13%)、「医師の対応・態度が不快だった」(27%)で、全体の40%を占めています。待ち時間が長いことや、看護師や受付スタッフ等の対応に比べて、具体的に医療機関を変えるきっかけとなる傾向が高く、医師の接遇を通じ高い患者満足度を維持できるかが、既存患者の定着やリピート率に大きく影響します。

参照:株式会社レイヤード(旧メディアコンテンツファクトリー)|『医療機関受診に関する意識調査報告』

3.医師にコミュニケーションが求められる理由

医師にコミュニケーションが求められる理由を、患者とのコミュニケーション、医療現場におけるコミュニケーションの重要性、チーム医療での医師のリーダーシップの3つの視点で紹介します。

3-1. 患者と医師のコミュニケーションはなぜ重要か

医療においてのコミュニケーションは、日常会話とは異なり患者の持つ疾患や症状に着目し進められます。そのため、医師と患者間のコミュニケーションが不十分である場合、診断内容や治療方針にずれが生じてしまい、患者の生命を脅かす可能性もあります。そのため、医師は丁寧なコミュニケーションを通じて患者の症状や不安を正確に理解し、治療方針を明確に伝えることが必要です。医師がしっかりと傾聴を行うことで、患者との信頼関係が構築され、最終的には治療成果に直結します。社会の進歩と共に患者自身が自己決定する権利意識が高まる中、医師と患者の間のコミュニケーションは、より一層の配慮と繊細さが求められるようになっています。

3-2. 医療現場におけるコミュニケーションの重要性

医療現場では、国民の健康に対する関心の高まりと、医療過誤・医療事故などマスメディアによるネガティブな医療関連報道の増加に伴い、患者側の医療サービスの質への要求が高くなっています。そんな中、医師や医療従事者間の高度なコミュニケーションスキルがますます重要です。

例えば、ヒヤリハット事故の主な要因は院内におけるコミュニケーション不足です。医師はスタッフに指示を出すだけでなく、医療事故防止のためにも患者やスタッフの立場に配慮し双方向性を重視したコミュニケーションが求められます。

3-3.チーム医療での医師のリーダーシップ

チーム医療は院内だけではなく地域医療連携という点でも求められています。超高齢化社会において地域医療の役割が増大しており、チーム医療の推進が不可欠です。患者が病院での治療を終え、在宅生活へ復帰する場合に地域における医療資源を効率的に活用するためには、地域との連携が重要になります。そのような場合、医師は病院と地域というチーム医療において中心的役割を担う必要があります。

また、医師はチーム医療のリーダーとしてチームの方向性を定め、メンバー間の調整を行いながら、患者中心の診療をする役割があります。

このように、チーム医療の中心的役割である医師がどのようにリーダーシップを発揮するかが、チーム医療の成功を左右すると言えるでしょう。

4.コミュニケーションを高める「医療接遇」が求められる時代へ

医師にとってコミュニケーションスキルが重視される中、特に「医療接遇」に注目が集まっており、医療の一環としてコミュニケーションやサービスが求められている現状があります。ここでは、今求められている医療接遇に関して説明していきます。

4-1.医療接遇とは

医療接遇は、マナーや接遇を医療行為と切り離して考えずに業務の一部として含めて提供していくスタイルです。医療現場では「おもてなし」の精神に基づき、患者の不安を和らげ信頼関係を築くことが求められるようになっており、医療現場でのコミュニケーションの重要性を考える上で、知っておきたい言葉と言えます。

質の高い接遇は患者満足度を向上させるだけでなく、医療サービスの質自体を高めるために重要です。時代と共に、マナーや接遇スキルを医療業務へ統合する必要性がより高まっています。

医療接遇における具体例として、採血時の接遇が挙げられます。採血前に患者に対し採血の目的や全体の流れを丁寧に説明し、患者が安心できるように声掛けするよう心がけることで、患者の不安が和らぎ信頼関係の構築が可能です。結果として、スタッフの印象を通じ医療機関全体への高評価につながります。

4-2.医療接遇はリスクマネジメントに不可欠

医療接遇は、患者に対し深い配慮を図るコミュニケーションを大切にしており、きめ細かい気遣いが患者の心を穏やかにし受診時の緊張をほぐします。そして、接遇は医療安全の一環としても非常に重要です。患者との信頼関係を築くことにより、患者誤認や取り違い、投薬・処置の間違いが大きな医療事故に発展するのを防ぎます。また、来院時や診療前に挨拶をしたり、目を見て対話したりなど基本的なマナーがクレームを未然に防ぎ、リスクマネジメントにつながります。

このように、医療接遇は患者満足度を向上させるだけでなく、患者の生命・健康に関わる重大事においても、医療従事者にとって不可欠なスキルです。

5.まとめ

医師としてのコミュニケーション能力は、患者との信頼関係の構築や医療サービスの質向上に直接影響する重要なスキルです。患者満足度や医療安全の向上、リスクマネジメントにとって、医療接遇を含む高度なコミュニケーションスキルを高めることが避けて通れない時代となっています。医師のキャリアアップをはじめ医療現場での役割を全うするためにもコミュニケーション能力のスキルアップが欠かせません。患者への丁寧な接遇とコミュニケーションは、医師にとってより一段と重要になってくるでしょう。