激務な医師のメンタルヘルス大全!心のセルフケア3つの対策

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近年、日本では全国的に少子高齢化が急速に進み、医療業界の慢性的な人手不足とコロナ対応の影響によって、医師の労働環境は今まで以上に過酷な状況となっています。

長時間労働が当たり前の環境の中で、医師一人あたりの業務量が増えており、医師の精神的疲労が深刻化して、メンタルヘルスの不調を訴えるケースが増えているのです。

もしかして、今この記事をお読みになっているあなたも医師の激務な職場に耐えながら、メンタルヘルスの問題を抱えているかもしれません。

この記事では、医師が激務な職場環境の中でメンタルヘルスを保つための3つの対策法についてご紹介します。心のヘルスケアを見つめるキッカケになれたら幸いです。

1. 医師の勤務環境は過酷な状況にある

まずは、医師の勤務環境はどれだけ忙しいのか、データを見ながら確認していきましょう。

厚生労働省「医師の勤務実態について」の調べによれば、令和元年の病院・常勤勤務医の週当たり勤務時間(全年代の平均)は56時間、当直の回数は月に1〜4回となっています。

1週間の労働時間が60時間を超えている割合は男性医師は41%、女性医師は28%、週80時間の労働時間を超えている割合は男性医師9%、女性医師6%に上り、過酷な状況が伺えます。

▽病院・常勤勤務医の週当たり勤務時間:性・年代別平均

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出典:厚生労働省「医師の勤務実態について」P6

全診療科の労働時間の平均値は週56時間、一般労働者の法定労働時間を超えており、救急搬送の対応が多い診療科(外科、脳神経外科、救急科)は週当たり60時間超えと過酷です。

医師が週休2日制の場合、一日あたりの平均勤務時間は約11時間、週60時間〜80時間超えの場合は、12時間〜16時間という計算となり、過重労働といえるでしょう。

さらに医師は当直があり、24時間体制でオンコールに対応しなければならない病棟の場合は休憩や食事をする時間もないほど、過重労働に追われている医師は多いのです。

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出典:厚生労働省「第9回 医師の働き方改革の推進に関する検討会 医師の勤務実態について」

医師の週当たり勤務時間を年代・性別別に見てみると、男性の20代・30代・40代・50代は「50~60時間」が最も多く、60代になると「40~50時間」まで下がっています。

女性医師は20代の労働時間が最も多く、「60~70時間」、その他の年代は「40~50時間」の範囲に収まっていますが、平成のデータと比べて、女性の全世代平均勤務時間は増加傾向です。

▽病院・常勤勤務医の週当たり勤務時間:性・年代別分布

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出典:厚生労働省「医師の勤務実態について」P6

2. 医師の慢性的なストレスとは?

医師は大変過酷な勤務環境にいることがデータでお分かりいただけたかと思います。では、こういった現状が医師の心と体にどんな影響を与えているのか考察していきましょう。

厚生労働省「メンタルヘルス対策に関する事項」のデータによると、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者(医療従事者)の状況は全体の10%を超えています。※過去1年間(令和2年11月1日から令和3年10月31日までの期間)

勤務医の勤務実態調査報告書(滋賀医科大学)のアンケートでは、医師の勤続年数によるメンタルヘルスの差が明確に現れています。

勤続年数1〜5年未満の若手医師はどんなに忙しくてもやりがいや満足度を感じているようです。 若い医師は仕事を覚えることに一生懸命で、医師としての責任感とやる気に満ち溢れているため、疲れやストレスを感じにくいのかもしれません。

しかし、5~10年未満の中堅層の医師になると、所得が増える嬉しさはある一方で、疲労度が増すにつれて、仕事に対するやりがいが失われていると回答しています。

中堅の医師は後輩医師や研修医に指導したり、チームをまとめる管理職(マネージャー)の役割を担いますので、業務量がさらに増える時期でもあります。

医師は経験を重ねるにつれて、激務な勤務環境に耐えながら、体力と気力の限界まで追い詰められていき、メンタルヘルスの不調を訴えるケースが多いようです。

参照:厚生労働省「メンタルヘルス対策に関する事項」(PDF)

参照:滋賀医科大学「勤務医の勤務実態調査報告書」

▽医師が感じている慢性的なストレス

【職場の人間関係】

・大学病院の教授や上級医の指導が厳しい

・看護師やコメディカルとの意思疎通が上手く行かない

・注意するとすぐ落ち込む性格の若い医師、研修医に困る

・患者からのセクハラ行為、発言

・患者や家族からの理不尽なクレーム

【業務上の問題】

・コロナ診療の対応が激増した

・自分が感染するリスクと家族に感染してしまう心配

・プライベートの両立が難しい

医師が感じている慢性的なストレスとして“職場での人間関係”を挙げる医師は多く、また新型コロナウイルス感染症の影響下においては、“コロナ患者への対応による業務負担の増加”が挙げられています。(2023年6月時点)

医療現場は長時間労働や過重労働といった過酷な労働環境にありながら、さらに職場の人間関係や患者からの苦情といったストレスが重なって、心身の健康を崩す医師がいるのです。

厚生労働省の令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、医師や看護師などの医療従事者のうつ病罹患率が増えており、メンタルヘルスの不調が原因で休業・退職する医師も少なくありません。

参照:令和3年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況|厚生労働省

3. 医師のメンタルヘルスが増えている要因

医師が悩むメンタルヘルスの不調は以下のような症状が一般的です。

・朝スッキリ起きられなくなった

・寝付きが悪くなった、ぐっすり眠れない

・仕事中に頭痛や吐き気、胃痛がする

・仕事に集中できない、ミスが増えた

・わけもなく涙が出てくる

・ボーッとすることが増えた

・好きなことに夢中になれなくなった

・気力、体力、精力の低下を感じる

このような体の変化を感じたら、メンタルヘルスの不調が体に現れた可能性があります。

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出典:日本医師会|勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書(PDF)

健康分野のプロフェッショナルである医師がどうしてメンタルヘルスの不調に陥るのか、不思議に思う方もいらっしゃるかと思いますが、その要因の一つに医師の性格が挙げられます。

医師は責任感が強い性格であるため、自分自身の体の不調や心の悩みを他人に相談したり、助けを求めることが少なく、何でも自力で解決しようとする傾向にあるのです。

実際に、日本医師会が匿名の健康相談窓口「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」を設けたところ、相談の件数は3か月間でたった7件だけという結果でした。

勤務医に自分の体調不良について他人に相談することがあるかアンケートで質問したところ、過半数を超える医師が「したことがない」「自己解決できる」と答えています。

同僚や職場の人間に弱い人だと思われたくないという気持ちから、心身の不調があっても無理をして働き続けて、うつ病やメンタルヘルスに不調が起きるパターンが多いと推測されます。

参照:勤務医|医師のみなさまへ|日本医師会

4. 医師のメンタルヘルスが医療現場に与える影響

ここからは、医師がうつ病になったり、メンタルヘルスに不調をきたした場合、医療現場ではどんな影響を及ぼすのか見ていきましょう。

厚生労働省などの調査結果では、心身ともに元気な医師であっても、当直明けの医師は集中力・判断力が低下して電子カルテの入力ミス、診療上のミスが増えると分かっています。

医師が心身の過度な疲労によってメンタルヘルスに不調が現れると、仕事上の集中力や判断力が通常よりもさらに低下して、医療ミスの原因になるため、大変危険な状況になるのです。

▽医師のメンタルヘルスが医療現場に与える影響

・ミスや事故が目立つ

・遅刻、早退、無断欠勤が増える

・残業、休日出勤が増える

・思考力・判断力が低下する

・業務報告や相談が少ない

・表情に活気がない、元気がない

・服装が乱れ、衣服が不潔になる

参照:厚生労働省「職場における心の健康づくり」

5. 医師がメンタルヘルスを保つために活用できる4つの対策

ここからは、医師が心の健康を維持するために活用できる4つの対策をご紹介します。

5.1 医師の働き方改革

2019年に働き方改革関連法が施行され、医師には5年間の猶予期間が設定されていましたが、 2024年4月1日からは「医師の働き方改革」による時間外労働規制の上限規制が始まります。

▽医師にも36協定による時間外労働の上限規制が適用されます

・時間外労働規制の上限規制が始まる

原則として月45時間、年360時間の上限

・特別条項付きの36協定を締結した場合のみ

月100時間未満、年960時間以下(休日労働を含む)の時間外労働が認められる

▽時間外労働賃金率の引き上げ

・時間外労働が月60時間を超えた場合 50%以上の割増賃金率を算出する

▽追加的健康確保措置の実施

・時間外労働が月80時間を超えたら、睡眠・疲労の状況確認

・月100時間を超えたら、面接指導を行い、健康確保に注力する

参照:厚生労働省「医師の働き方改革について」P2

参照:医療従事者の勤務環境の改善について

5.2 オンコールがないオンライン診療・遠隔医療

従来の医師の職場は、勤務時間外に患者の急変や救急搬送による緊急の呼び出し(オンコール)が多くあったため、拘束時間が長くなるという問題点がありました。

近年、オンライン診療や遠隔医療によって患者と対面せずに診療する方法が注目されており、どちらもオンコールがないため、医師の精神的な負担を軽減すると期待されています

▽オンライン診療の特徴

・患者の通院時間の負担を軽くすることが目的

・情報通信機器(スマートフォン、パソコン、タブレットなど)を使用し、患者の診察と診断を行う

・都合のよい時間に診察できる

▽遠隔医療の特徴

・通信技術を利用した医療行為全般のこと

・医療従事者間、患者間で必要な情報の伝達・提供・共有を行う

5.3 ストレスチェック制度の実施

「労働安全衛生法」の改正により、労働者(週1回程度のアルバイトやパート社員も含む)が常時50名以上の職場ではストレスチェックの実施が義務化されていました。

メンタルヘルス不調を未然に防止するためにも、ストレスチェックを受けて、自身の健康状態をチェックすることが推奨されています。

参照:ストレスチェック制度|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

5.4 医療AIを活用する

政府は医療業界におけるAI(人工知能)の規制を緩和し、厚生労働省は医療業界のAI活用を推進し、医療現場での業務効率化、医師の負担軽減、長時間労働の抑制を目指しています。

AIは大量のデータを活用して予測したり、判断の精度を上げるため、ゲノム医療、画像診断、問診、画像診断のほか、カルテの入力補助、治療計画の立案など幅広い業務を担うでしょう。

6. 医師のメンタルヘルスケア3選

激務な医師がメンタルヘルスの不調を予防するために、心のセルフケア3つの方法をご紹介します。

6.1 週に1日は完全休養する

最も効果的なストレス解消は「十分な睡眠時間(最低6時間)を確保する」こと。週1日は完全休養日を設けて精神的疲労を解消し、心身ともにゆっくり休むことを心がけましょう。

6.2 信頼できる人に話を聞いてもらう

ストレスが溜まったときには一人で抱え込まずに、信頼できる相手に話を聞いてもらうと、心の支えになってもらえるので気持ちが落ち着き、孤独を感じることはありません。

多くの医師は、職場の人間(上司や同僚など)よりも、職務上の利害関係がない家族や友人、パートナーなどが話しやすいと感じているようです。

6.3 外部カウンセリングを利用する

うつ病かもしれない…と不安になった方は、医療従事者向けのカウンセリングを活用するのも有効です。医療業界に詳しい専門家に相談することでストレスを軽減します。

参照:日本精神神経学会「医療従事者のメンタルヘルス」(PDF)

※カウンセリングは面談・電話・オンラインにて対応可能です。

まとめ

医師は患者の健康や命を守る責務を担っていますが、医師本人が心身の不調に悩まされているケースが多いことはあまり知られていません。

医師のメンタルヘルスを健全に保つことは医療の質や患者にも影響を及ぼすため、日頃からセルフケアを意識して、ストレスを最小限に抑えることを心がけましょう。