特定行為研修制度とは?修了者ができること・目的・医師側のメリットを解説

医師働き方改革 特定行為研修制度

看護師の特定行為研修制度は、医師が作成した「手順書」に基づき、看護師が患者の状態を見極め、適切なタイミングで特定行為を行う制度です。医師の働き方改革を支えるタスク・シフト/シェアの推進において、重要な役割を果たしています。

看護師が受ける研修のため、医師には直接関係がないように思われがちですが、特定行為研修制度をうまく現場に導入することには、医師にとっても多くのメリットがあります。

本記事では、特定行為研修制度の内容や修了者ができること、目的、医師にとってのメリットなどについて詳しく解説します。

1.特定看護師が医師や医療機関にもたらすメリット

特定行為研修を修了した看護師である特定看護師は、医師が特定行為に対しての手順書を作成しておくことで、医師の指示や立ち合いなく特定行為を行うことができます。そのため、医師の業務負担を軽減することができます。

また、特定看護師を配置している医療機関では、様々な診療報酬を加算が可能になっています。

ここでは、それぞれのメリットや特定看護師を配置することで変わる点などを具体的にみていきましょう。

1-1.医師のタスク・シフト/シェアの推進

通常であれば、患者の症状の変化の際は、その状態を医師に報告し、点滴や注射の指示などを受けた後に看護師が処置を実施していました。しかし、特定看護師の場合は、手順書に指示された病状の範囲内であれば、医師に報告に行かずとも特定行為を行えます。

特定行為を実施する流れ

※厚生労働省「これからの医療を支える看護師の特定行為研修制度のご案内」を参考に弊社にて編集加工をしております。

特定看護師は、患者の状態を適切にアセスメントして処置を行った後、その結果を医師に報告する能力を持っています。医師は患者の状態を迅速かつ的確に把握できるため、効率的な治療につながります。医師の働き方改革が始まった中、医師の業務軽減は急務です。特定看護師は、医師のタスク・シフト/シェアの推進の重要な役目を果たします。

1-2.診療報酬加算ができるようになる

特定行為研修を修了した看護師がいることは、診療報酬加算における施設基準の要件の1つです。対象の診療報酬加算の一例は以下の通りです。

  • 重症患者搬送加算
  • 重症患者対応体制強化加算
  • 在宅患者訪問看護、指導料
  • 専門管理加算

特定行為看護師が在籍していることで、医療機関は診療報酬加算が可能となり、経営面でのメリットを得られます。

参照:厚生労働省「専門看護師・認定看護師・特定行為研修修了者に関連する診療報酬 (令和4年度))

2.特定行為研修制度とは

特定行為研修制度は、医師や歯科医師の判断を待たずに手順書に基づいて一定の診療補助を行う看護師を養成する制度です。

研修を修了した看護師は、21区分38行為の中から受講した区分の特定行為がおこなえるようになります。特定行為研修は、厚生労働大臣が指定する指定研修機関が協力施設と連携して実施します。研修は講義、演習、実習を通じて行われ、講義と演習はeラーニングなどの通信学習が可能であるなど看護師が就労しながら受講できるように設計されています。

特定行為研修制度の研修内容は、共通科目と区分別科目に分かれています。共通科目では、臨床病態生理学(30時間)、臨床推論(45時間)、フィジカルアセスメント(45時間)、臨床薬理学(45時間)、疾病・臨床病態概論(40時間)、医療安全学・特定行為実践(45時間)の合計250時間の研修が行われます。

区分別科目は呼吸器関連(9時間)、創傷管理関連(34時間)、創部ドレーン管理関連(5時間)、栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連(16時間)、感染に係る薬剤投与関連(29時間)などがあります。

2-1.特定行為とは

特定行為とは、診療の補助として看護師が手順書に従って行う38の医療行為のことです。判断力や専門知識・技術が必要とされ、医師の指示の下で患者の状態を確認しながら実施します。

特定行為及び特定行為区分

看護師が手順を守り、患者の病状が一定の範囲内であることを確認しながら、高度な医療行為を行うことで、より正しい状態の医療が提供できるようになります。

3.特定行為研修制度の目的

高齢化の進展や地域医療構想による病床の機能分化・連携の影響で、2025年までに在宅医療の需要が大きく増加することが見込まれています。そのため、都道府県や市町村、関係団体が一体となって、在宅医療の体制を構築しています。

その一環として、「地域における医療および介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」に基づいて、特定行為研修制度が平成27年10月に創設されました。看護師が計画的に養成されることで、在宅医療や慢性期医療、外科術後病棟管理、術中麻酔管理などの分野で重要な役割を果たすことが期待されています。

参考:厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度について
参考:厚生労働省「在宅医療の充実に向けた取組について

4.研修を修了した看護師の推移

特定行為研修を行う指定研修機関の数は年々増加しており、令和4年8月現在で338機関に達しています。この増加により、年間あたりの受け入れ可能な人数(定員数)は4,811人に上ります。

特定行為研修の修了者数も着実に増加しており、令和4年9月現在で6,324名となっています。特に直近1年間では1,900人が新たに修了しており、研修制度の普及が進んでいることがわかります。

また、領域パッケージを開講している指定研修機関数は171機関です。2022年9月時点における各領域別のパッケージ研修実施指定研究機関数と修了者数は以下のとおりです。

各領域別のパッケージ研修実施指定研修機関数

出典:厚生労働省「2022年度 特定行為研修シンポジウム特定行為研修制度の現状と今後の方向性

5.特定看護師と診療看護師・認定看護師・専門看護師の違い

特定行為研修を修了した看護師のように、看護の専門分野の知識や技術を習得した看護師をリソースナースと言います。リソースナースには、特定行為看護師以外に専門看護師、認定看護師、診療看護師があります。

この4つの看護師の大きな違いは、特定行為看護師は研修を修了することで得ることができますが、認定看護師・専門看護師・診療看護師は看護協会や機構、団体などの組織が認定する資格になります。

5-1.特定看護師に求められる役割や目的

特定行為看護師は、超高齢化社会を迎えることで、専門的な知識や技術を持つ看護師だけでは、医師の補助に足りないことが予想されたため生まれました。医師があらかじめ作成した「手順書」があれば、医師の立ち合いや指示がなくとも患者の症状を判断し、看護師が適切な処置を行うことができるため、症状の悪化を防ぐことにもつながります。

今後、在宅医療を推進していくために、在宅医療を支えることができる看護師を養成していくことが目的とされています。

それぞれの違いについて、詳しく見ていきましょう。

診療看護師との違い

診療看護師は一般的な看護師では行うことができない特定行為を実施できるため、特定看護師と混同されがちです。しかし、特定看護師が特定研修を受けた区分の特定行為のみしかできないことに対し、診療看護師は特定行為の全区分を実施することができ、さらに医師からの具体的な直接指示があれば腹腔穿刺、気管内挿管、ERなどの相対的医療行為を行うことができる点も大きな違いです。

また、診療看護師は医療・看護に貢献でき、自立した看護師を養成し、看護師の裁量を拡大することが目的とされている点でも異なります。

認定看護師との違い

認定看護師は、特定の看護分野において高度な技術と知識を持ち、後進の指導や看護ケアの質の向上を担うスペシャリストです。たとえば、認定看護分野の専門知識に基づいて、患者の状態を判断し、必要な看護を実践します。また、他の看護師に対しても、専門知識や看護技術を指導し、高水準の看護を提供できるように支援します。

特定行為看護師が修了した研修に対応する特定行為を行える看護師であるのに対し、認定看護師はあらゆる場で質の高い看護を実践する看護師のことです。

専門看護師との違い

専門看護師は、専門看護分野において技術と知識を深めており、患者や家族が抱える複雑な問題に対して判断する力と広い視野を持ちます。また患者や家族だけではなく、施設全体や地域の看護の質を向上すること目的としています。

具体的には、在宅医療に移行した患者に対して、適切な医療を受けられるよう、医師や他の看護師、地域訪問看護ステーション、ケアマネジャーなど、連携が必要な職種や施設への働きかけや調整を推進します。

その他、日々の看護課題を研究対象と捉え、改善策を探求し実践に移すことで、地域全体の看護の質を向上させることに貢献します。

特定行為看護師が特定行為を手順書に基づいて実施することで医師の負担を軽減するのに対し、専門看護師は看護の質を高めるために教育や調整、研究を行い、患者とその家族への総合的なケアを提供します。

6. 特定看護師と医師との協働の事例

特定行為研修を修了した看護師と医師の協働の例を2つ紹介します。

6-1.医師が高リスク患者に注力できるようになった

特定看護師を配置することで、麻酔科医の業務負担が大幅に軽減され、高リスク患者への集中が可能になった事例があります。この事例では、特定看護師に任せる業務を具体的に想定し、複数の修了者を1つの部門に配置することで、円滑な浸透を図りました。

具体的な内容としては、ASA-PSⅠ、Ⅱの低リスク患者の全身管理や薬剤調整を特定看護師が担当することで、麻酔科医の負担が軽減され、高リスク患者へ注力できるようになりました。また、術前説明で患者の不安を取り除くこと、手術室での麻酔準備、術中の人工呼吸器設定変更や導入補助、術後の経過観察などを特定看護師が実施することで、医師の業務量を削減できました。

特定看護師とのタスク・シフト/シェアを実施するため、2人分の手順書を週に8~10例発行し、術中管理や術前説明、術後管理の合計約10例を任せています。

6-2.異変に備えて対策できたことにより急変による医師へのコールが減少した

医師の業務量を大幅に軽減し、急変時に迅速かつ効果的な対応を行えるようになった特定看護師配置の事例を紹介します。この事例のポイントは、特定看護師が「何かおかしい」と感じた患者の異変を的確に見極めることで、万一に備えて対策を立てられ、急変時のコールが減少しました。

また、特定看護師は的確なアセスメントを行い、その結果を適切に言語化して医師に報告するため、医師は患者の状態を迅速に判断できます。日勤や夜間問わず、医師が不在時にも特定看護師が患者の処置をタイムリーに行うことが可能です。

さらに、緊急の帝王切開などの場面でも、特定看護師が術前の対応や手術準備を行うことで、医師の確認作業が不要となりました。

特定看護師とのタスク・シフト/シェア内容に関しては、入院時に対象の患者に対し、手順書を発行するシステムを導入することで進めています。特定看護師は、手順書に従い切迫早産や前置胎盤の患者に対してPICCを挿入したり、回診時に点滴の投与量を調整したりなどの業務を行います。

以前であれば、医師が対応をしていた業務を特定看護師が実施するため、医師は高リスク患者の対応に専念でき、医療全体の質が向上します。特定看護師がタスク・シフト/シェアできる担当業務はインスリンの投与量の調整が多く、そのほかにもPICCの挿入やドレーン抜去、気管カニューレ交換、持続点滴の調整、動脈ライン確保などさまざまな業務を担当しています。

参照:厚生労働省「看護師の特定行為研修の 修了者に関する 医師との協働の事例集」

7.特定行為に係る看護師の研修制度に関するQ&A

特定行為に係る看護師の研修制度について、よくある質問と回答を紹介します。

7-1.Q. 特定行為研修を修了すれば、全ての特定行為を行えるようになるのでしょうか。

特定行為研修を修了したからといって、すべての特定行為を独自に行えるわけではありません。

特定行為研修には、全ての人が共通して受ける「共通科目」と、特定行為区分ごとに受ける「区分別科目」があります。区分別科目は、21区分の中から必要な科目を選択し、受講することで得ることができます。そのため、特定行為研修を修了した際は、自身が受けた区分別科目の特定行為が行えるようになります。一つの区分ごとに設定された時間数は534時間程度になっています。

7-2.Q. 手順書と従来どおりの医師の指示との違いを教えてください。

手順書は、看護師が診療の補助を行うための詳細な事前指示が記載された文書です。下記、6項目が記載されています。

  • 看護師が診療の補助を行う患者の病状の範囲
  • 診療の補助の内容
  • 特定行為の対象患者
  • 特定行為を行う際に確認すべき事項
  • 医師または歯科医師との連絡体制
  • 特定行為後の報告方法

各医療現場の判断で内容を追加できます。

7-3.Q. 特定行為研修を修了した看護師は、処方や死亡の診断はできますか?

処方や死亡の診断は、特定行為研修を修了した看護師でも行うことはできません。これらは特定行為には該当せず、従来どおり医師のみが行えます。

参照:厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度に関するQ&A」

8.まとめ

特定看護師がいる医療機関では、医師の業務効率化や労働時間の軽減などが実現されています。

医師は、特定行為の修了者と連携することで自身の業務の質向上や、ハイリスクな患者の処置への注力が可能になります。医療施設経営者としても、医師の働き方改革の一環として、特定行為研修の修了者の配置を検討することが大切ではないでしょうか。

今回、解説した内容を参考に、特定行為研修制度について理解を深めましょう。