IPW(多職種連携)とは?医療の質向上と地域包括ケアの実現へ

現代の医療業界において、地域包括ケアシステムとIPW(多職種連携)との関係が注目されています。医師にとって、IPW(多職種連携)の結びつきは、日々の診療における重要な要素となっていくでしょう。

そこでこの記事では、地域包括ケアシステムの実現を目指す中で、厚生労働省が推進するIPWの役割に焦点を当て、特徴や重要性、具体例や展望を詳しく紹介します。

医療現場が抱える様々な課題をどのように乗り越え、医療の質を向上させることができるのか。多職種が連携するIPWの意義や、実践を通して生まれる新たな可能性について、見ていきましょう。

1.IPW(多職種連携)とは何か

IPWとは「Interprofessional Work」の略で、医療、福祉、教育など異なる分野の専門家や関係者が協力して、患者のケアを改善するために連携する仕組みです。ここに教育や工学などの専門性を含む場合もあります。

また、IPW(多職種連携)では患者や利用する方の利益を第一とし、包括的な保健医療福祉ケアを提供するために、お互いの知識や役割を尊重や協働が求められます。IPWによって、患者やその家族の医療的・心理的・社会的ニーズに対応した最適な支援を提供することが可能になります。

1.1 チーム医療とIPWの違い

IPW(多職種連携)とよく似た概念に「チーム医療」があります。

用語

定義

焦点

特徴

チーム医療

医師、看護師、薬剤師など医療機関内の多職種が協力し、患者の治療計画を総合的に進める

医療機関の内部

患者治療における内部チームの連携

IPW

医療機関内だけでなく、医療機関外の専門職とも連携し、患者の社会的な側面も含めた包括的なケアを提供

医療機関の外部も含めた広範囲

医療以外の専門職(介護、福祉、行政、教育など)を含めた連携

チーム医療は、医師、看護師、薬剤師など、医療機関内の医療従事者が協力し、患者の治療計画を総合的に進めます。

これに対し、IPW(多職種連携)は、医療機関外の専門職とも連携する点が特徴です。チーム医療のメンバーはもちろんのこと、地域の介護や福祉施設の関係者や行政、教育関係者との協力体制が含まれます。患者の社会的な側面も含めた包括的なケアを目指しています。

参考記事)チーム医療のかなめ!医師に求められるリーダーシップの重要性

1.2 IPWとIPEとの関連

IPW(多職種連携)と、IPE(Interprofessional Education)はどのような関連があるのでしょうか。

用語定義焦点特徴

IPE

異なる専門職

教育・学習

多職種間の協働を教育するプログラム

IPEは「Interprofessional Education」の略で、専門職連携教育または多職種連携教育を示しています。医師を含むさまざまな医療専門職が、協働的な学びやチームベースのアプローチを通じて協働を学ぶ教育プログラムです。これにより、患者のケアにおける協力やコミュニケーション能力、チームワークなどを向上させることが目指されています。つまり、IPEはIPW(多職種連携)を機能させるために重要な教育プログラムなのです。

参照:IPE/IPW – 厚生労働省

1.3 IPW(多職種連携)の必要性

日本では、2025年に75歳以上の後期高齢者の人口が全体の18%を占めることが予想されており、超高齢化社会を支えるため様々な課題が生まれます。

求められる医療や介護ニーズの変化、地域や在宅ケアへの取組、医療費や介護費などの社会保障費の負担増加といった課題を解消するために、IPW(多職種連携)は必要不可欠です。

ここでは、IPW(多職種連携)が必要とされる要因に関して記載していきます。

1.3.1 地域包括ケアシステムでの重要な役割を担う

地域の包括的な支援やサービスを提供する体制(地域包括ケアシステム)において、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的とし、可能な限り住みなれた地域でその人らしい暮らしを続けられるようにサポートすることがIPW(多職種連携)に求められています。

退院後、住み慣れた地域や在宅で過ごすために、かかりつけ医やケアマネージャーや介護系サービス等、その方に応じた医療のサービスに関わる職種の連携が重要になります。

近年、病院から地域や在宅に戻る際の多職種による退院支援が、診療報酬の加算対象となり、IPW(多職種連携)の働きはますます期待されています。

参考記事)【2025年問題】超高齢化社会を支える「かかりつけ医」制度の必要性

1.3.2 求められる医療の変化

高齢化が進む中、健康寿命も伸びており求められる医療や介護ニーズの変化が起こっています。

以前の医療では、病院での治療が求められていましたが、治癒しない慢性的な疾患が増え、病気と付き合いながら在宅で生活をしていく方が増えています。

また、独居のため家族からのサポートを受けることが難しい方や精神疾患を抱える家族を持つ方などが増加し、多重問題があるケースも増加しています。

これらの問題を解決するため、高齢者や家族の医療的・心理的、社会的ニーズに応じた最適な支援を提供していくには、IPW(多職種連携)の働きが必要になります。

2.IPW(多職種連携)のメリット

IPW(多職種連携)には下記のメリット3つが挙げられます。

  • 連携による医療の質の向上
  • チームワークとリーダーシップの発展
  • 教育と学習の拡充

2.1 連携による医療の質の向上

IPW(多職種連携)では、異なる専門職の視点や専門知識を組み合わせることが可能です。求められる医療が変化している現代では、患者一人ひとりのニーズに合わせた個別の医療やケア、それらの医療サービス情報の提供が必要になります。

医師でこの全ての業務を行うことは難しく、自身の専門領域の治療のみでは、患者に必要なケアを行うことは不可能になってきています。

そのため、IPW(多職種連携)による様々な専門職の知識を活用することは、患者の健康結果や満足度などの総合的な患者ケアの向上につながります。

2.2 チームワークとリーダーシップの発展

医師が異なる専門職の一員としてチームで働く経験を得ることができるのがIPW(多職種連携)です。

協力や協働、リーダーシップスキルを発展させる機会が増え、その養ったチームワークのスキルは、患者のケアだけでなく、医療システム全体の改善にも貢献します。

また、チームで行うことで専門職間のコミュニケーションを促進することができます。

医療の現場では、技術や知識の向上以上に、他の医療職種との「顔の見える関係」作りが重要視されています。「顔が見える関係」作りができると相手の考えや感情を読み取ることでき、安心できる信頼できる関係へと変化していきます。このような関係を構築していくことがコミュニケーションにおいて重要です。

また、他の医療職種との信頼できる関係作りを行うことで、適切な情報や意思疎通を円滑に行うことができ、誤解や情報の欠落が減り、ケアの効率性や安全性が向上します。

2.3 教育と学習の拡充

IPWは、医学生や医師の教育においても重要な役割を果たします。

異なる専門職と関りを持ち、協力的な学びを通じ、実践的なスキルや知識を身に着けることができます。

以上のように、IPW(多職種連携)には多くのメリットがあります。患者に寄り良いケアを提供することだけでなく、医師自身のスキルの向上にもつながります。

3.IPW(多職種連携)の実践事例

3.1 コミュニケーションツールを利用したIPW(多職種連携)

大阪府豊中市の医師会では、地域包括ケアや多職種連携のため、コミュニケーションツールを『虹ねっとcom』と名付け運用をしています。

このコミュニケーションツールの導入までの経緯や災害時どのように多職種連携が行われたのかを見てきましょう。

3.1.1 コミュニケーションツール導入の経緯

豊田市では、2006年より医師会、歯科医師会、薬剤師会、保健所、豊中市、他医療福祉関係者による多職種連携の取組が始まり、2009年には、『市民が住み慣れた場所で安心して最期まで暮らせる環境をつくること』を理念とする”虹ねっと”という多職種連携の会が発足しました。

多職種連携の会としては、医師とケアマネジャー(以下ケアマネ)を中心として患者についての事例紹介やグループディスカッションなどをメインに定期的なミーティング開催を前提として、エリアごとの活動から始まりました。ミーティング回数を重ねていく内に、地域包括ケアや多職種連携のためのコミュニケーションツール『虹ねっとcom(MCSを採用)』の導入に至りました。

このようなコミュニケーションツールを導入していく段階においても多職種での話し合いが行われ、関係性を作り上げることができています。

3.1.2 コミュニケーションツールによる災害時の多職種連携

天災時にも、多職種連携が可能なコミュニケーションツール『虹ねっとcom』が大いに活躍しました。

地震や台風による停電が発生した際に『虹ねっとcom』に登録している医療や介護スタッフに連絡を行うことで、地域内の被害状況や安否情報をリアルタイムで提供することができました。このような情報は、特に在宅医療の分野で効果を発揮し、在宅酸素療法を受けている患者の予備酸素ボンベが不足していないかなどの人命にかかわる重要な情報の共有に役立ちました。

また、停電でファックスや電話がつながりにくい場面でも登録しているスタッフから情報を得ることができるため、多職種の連携と同時に災害時にも活用できるツールとしても注目を集めています。

参照:災害時に役立った400名超の多職種ネットワーク『虹ねっとcom』(大阪・豊中市)

3.2 患者情報の共有により退院から在宅医療への移行がスムーズに!

97歳の独居で認知症を患う女性患者のケースも、IPWの効果を示す具体例のひとつです。

褥瘡の症状悪化により、訪問診療を開始しましたが外科的な治療が必要となり、対応できる病院への入院手配を進めることになりました。入院中に在宅医療への移行に向けが必要となった際、在宅医師と病院医師、看護師を含むチームによる医療連携が行われ、患者情報の共有と医療連携が行われました。

また、退院後にも情報共有を継続することで強化されました。おかげで、在宅から病院への移行時でも、切れ目のない医療提供が可能となりました。
今回の実例では、訪問看護、在宅主治医、病院・他科の医師や看護師、グループホームなどの入所施設、ヘルパー、訪問入浴、ケアマネージャー、医療ソーシャルワーカーとの多職種連携が行われました。

その結果、入院中の情報や退院時指導の予定も把握しやすく、退院後の治療方針などのアドバイスを受けることができ、円滑な入退院の実現につながりました。

参照:医療介護専用SNSを活用した多職種連携の実際「医師からみた多職種連携の有用性」

4.IPW(多職種連携)の課題

 IPW(多職種連携)には下記の3つの課題があります。

  • データの一元化とアクセス管理
  • 患者のプライバシー保護とセキュリティ
  • 情報共有のICT化と共通ルールの整備

では、具体的に見ていきましょう。

4.1 課題1 データの一元化とアクセス管理

IPW(多職種連携)の推進には適切な情報共有システムの確立が欠かせません。

患者ニーズに寄り添うの効果的や治療計画や全面的なケアを実現するには、必要な情報が迅速に各専門職の間で共有される必要があります。

異なる医療機関や介護施設が使用する様々な医療データの一元化とアクセス制御の運用を図ることは、データの安全性と利用効率を高める上で重要な要素です。

4.2 課題2 患者のプライバシー保護とセキュリティ

患者情報のプライバシー保護とセキュリティの確保も大きな課題のひとつです。

特に、情報共有が必要な医療従事者間での安全なネットワークの構築と、患者データの適切な管理が求められます。患者の信頼を維持するためにも非常に重要な視点です。

4.3 課題3 情報共有のICT化と共通ルールの整備

多職種間での情報共有ルールの確立も重要です。また、異なる医療機関や介護施設が使用するシステム間でのデータ互換性の確保や、共有情報の品質管理に関する共通のガイドラインの策定も必要です。

これらは実現するには様々な障壁がありますが、多職種間で情報共有の共通ルール化により患者ケアの質の向上と効率性の両立が期待されます。

5.IPW(多職種連携)で医師が心がけること

IPW(多職種連携)で医師が心がけることは下記の2つです。

  • 各専門職種の役割を理解し尊重する
  • フィードバックの共有と継続的な改善の取り組み

では、ひとつずつ見ていきましょう。

5.1 各専門職種の役割を理解し尊重する

医師は、IPW(多職種連携)の中心的存在であり、医療チームのリーダとしての役目を担います。

医師は、診断、病状の評価、治療計画の策定、薬物管理などを行いますが、他の職種の専門的知識やスキルを把握し、役割や責任の明確化を行うことも必要です。

また、各専門職の役割を明確化にすることで、専門分野ごとの意見を尊重し、治療などに組み込んでいくことで、信頼関係作りや知識の共有を促すことができます。

このような関係作りを行うためには、チームメンバーが自身の持つ知識から意見を述べやすい環境づくりを心掛けることも重要です。

多職種が連携することで得ることができる知識や環境は、医師や他の専門職だけではなく患者により良い医療の提供を行うこともできます。

5.2 フィードバックの共有と継続的な改善の取り組み

治療においてはまず患者の状態を評価し、必要性に応じた計画や目標を設定する必要があります。

その際に生まれる疑問や問題点を話し合い、フィードバックを積極的に行えば、連携の質や効果を向上させることが可能です。

また、必要性や目標の明確化を行えば、他のメンバーとの共通認識を持つことができ、一貫した治療や連続性のあるケアを提供できます。

また、連携方法やコミュニケーションルールの定期的な見直しも大切です。

PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)の活用で連携のプロセスを効果的に管理し、必要に応じた改善につなげられます。

こうした継続的な学習と連携結果に基づく改善への取り組みは、医師個人だけでなくチーム全体の成長にも貢献するポイントです。

6.IPW(多職種連携)の今後の展望

IPW(多職種連携)の今後の展望を下記で紹介します。

6.1 技術活用による連携の最適化

情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)の進歩により、医療現場でのリアルタイム情報共有や迅速な意思決定が可能になります。

その結果、多職種同士の連携が強化し患者個々に最適化された医療やケアが提供できるようになるでしょう。

さらに、遠隔医療の利用拡大を通して地域における医療アクセスの格差を解消し、高齢者や障害者へのより良い医療・ケアの提供の推進も期待されます。

最先端の技術の積極的な活用により、特に医療資源が限られた地域や過疎地域では大きな変革をもたらす可能性を持っています。

参考記事)デジタル医療の未来|ICT化で医師に求められる具体的な行動とは?

6.2 地域社会との連携強化

IPW(多職種連携)のさらなる普及によって、医療機関と地域社会との連携が強化されるため、地域包括ケアの実現へとつながります。

特に、医療や福祉の範囲を超えて企業・団体、ボランティア、家族や患者自身との連携を促進することで、患者中心のケアの実現とともに、地域全体の健康を支援する動きが加速するでしょう。

地域社会全体で住民の健康を支え合う体制の構築は、持続可能な医療システムの実現に向けた重要なステップとなります。

7.まとめ

IPW(多職種連携)の導入が進めば、医療の質が向上し、地域包括ケアの実現が期待されます。医師と患者の双方にとって有益な変化をもたらすでしょう。

医師にとってIPW(多職種連携)の最大のメリットは、患者の全面的なケアに必要な情報とサポートを多職種のチームから得ることができる点です。その結果、医師は治療計画の策定や実行においてより多角的な視点を持つことができ、患者の状態のより深い理解につながります。また、多職種の専門家との連携により医師自身の知識とスキルセットの拡充にも役立つため、専門性を向上させることができるでしょう。

そして、IPW(多職種連携)は患者の個別化されたニーズに対応しやすくなるため、患者の治療結果や生活の質の向上に大きな影響を与えます。

このように、IPW(多職種連携)の実践は医療現場の業務を通じて地域全体の健康増進に貢献するものであり、医師がより広い視野で医療に携わる未来を明示するものです。医療業界における新たな潮流として、今後もさらなる進展が期待されます。