日本の女性医師の割合は外国に比べて低い水準にあり、その原因の一つとして結婚・出産後の復職の難しさが挙げられます。
厚生労働省の調査によれば、女性の育児休業取得率(全産業平均)83.2%と比べて、女性医師は特に育児休業の取得率は59.1%と低い数値です。
産休育休中に臨床現場で求められる医学知識や技術を維持するは難しく、復職が困難になるという課題もあります。
今回は、日本の女性医師の復職を支援するため、女性医師の復職の現状、復職を成功させるためのポイントについて解説していきます。
1. 【最新データ】日本における女性医師の割合は?
まずは、日本における医師数全体のうち、女性医師の割合はどれくらいなのか確認していきましょう。
厚生労働省が公開している「女性医師の年次推移」によれば、平成24年時点で女性医師の占める割合は19.7%となっており、若年層における女性医師は増加しています。
出典:令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
厚生労働省が発表した、2020年「医師・歯科医師・薬剤師統計の結果」によれば、医師数は男性医師数が26万2,077人、前回調査に比べて6,625人(2.6%)増加し、女性医師数は7万7,546人、前回調査に比べて5,788人(8.1%)増加し、医師全体に占める女性医師の割合は22.8%となっています。
近年、女性医師は増加しているとはいえ、全体における女性医師の割合は2割程度と少なく、全体の約8割を男性医師が占めていると分かりました。 また、2020年の医師の総数は32万人で、そのうち女性医師は7万人(22.8%)です。
年代別にみると、20代は36.3%、30代は31.2%、40代は28.3%、50代は18.8%、60代は11.7%、70代は9.7%となっています。
日本の女性医師の割合は年齢層によって大きく異なり、年齢が高くなるほど、女性医師が占める割合は低くなっています。
20代30代は、女性医師が全体の3割以上を占めていますが、年代が上がるにつれ女性医師の割合は減り、出産を機に医師を辞める女性が多いことが考えられます。
1.1 日本の女性医師の現状
日本における女性医師の割合は低いことが分かりましたが、海外と比べてどうなのか、経済協力開発機構(OECD)の雇用局医療課が発表したデータによると、OECD加盟国における女性医師の割合の平均は49%となっていますが、日本は22%とかなり低くなっており、海外と比較しても女性医師の割合は顕著に少ないといえます。
全体的に日本では女性医師が少ないのが現状ですが、診療科によっては、女性医師の割合が高い科もあり、一概にすべての科で少ないわけではありません。
女性医師が長く働きやすい診療科は、外来診療が中心で夜勤や当直の回数が少ない診療科です。これらの診療科は将来性もあるので、女性医師が増える可能性があります。
ただし、長時間労働の少ない診療科でも、女性医師が働きやすい環境を整備するためには、院内保育や短時間正規雇用などの取り組みが必要です。
▽【2020年の最新データ】 診療科別の女性医師割合のデータ
=高い水準の科=
・内科(14.8%)
・小児科(8.8%)
・眼科(7.2%)
・産婦人科(6.1%)
・皮膚科(6.7%)
・耳鼻咽喉科(2.9%)
=低い水準の科=
・外科(1.2%)
・泌尿器科(0.8%)
・消化器外科(0.6%)
・脳神経外科(0.6%)
・心臓血管外科(0.3%)
参照:OECD Health Statistics 2021 女性医師の割合、2000年と2019年(または直近年)
参照:厚生労働省「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
1.2 女性医師の数は増加傾向にある
日本の女性医師の割合は低いですが、女性医師の数自体は年々増加傾向にあります。
1980(昭和55)年には国家試験合格者数に占める女性の割合と大学医学部入学者に占める女性の割合は15%程度でしたが、1998(平成10)年を過ぎてから約30~35%で推移しています。
近年は、特に若年層における女性医師が増加しており、全医師数に占める女性医師数の割合も徐々に増加して2020年には22.8%となっており、年々増加傾向にあります。
参照:女性医師に関する現状と国における支援策について – 厚生労働省
参照:厚生労働省「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
1.3 出産・子育てを機に休職・離職する人が多い
ここからは、なぜ日本は女性医師の割合が少ないのか、その理由について考察していきます。
日本の女性医師が少ない理由は日本では女性は結婚して出産後、母親が中心となって育児や子育てするものだという社会通年が残っていることが考えられます。
近年、若い女性医師が増加していると述べましたが、結婚した女性医師は出産・子育ての準備に入るために休職・離職する人が多く、働き盛りの女性医師ほど離職率が高いのです。
仕事を休職・離職をした理由で最も多いのは出産、次に子育てと続き、休職・離職をした女性医師の7割が出産を理由に挙げています。
出典:厚生労働省 女性医師キャリア支援モデル普及推進事業の成果と今後の取組について
出産・子育てを理由に休職・離職した女性医師はどれくらいの期間の休みを取得しているか見ていくと、最も多いのが6か月~1年未満、次に1か月~6か月未満となっています。
2017(平成29)年のデータでは取得した育休期間は最多で7~12か月の40%、5~6か月の22%となっており、近年は早めに復職を果たしている傾向にあると分かりました。
1.4 常勤勤務に復職する人が少ない
女性医師が出産・子育てを機に休職・離職し、復職したとしても、パートタイムの割合が高く、常勤勤務を選ぶ人が少ないことも分かりました。
病院における女性医師の雇用状況は、以下のとおりです。
・女性医師の割合は、全体の17.4%
・女性医師の短時間正規雇用は4.4%、非常勤は24.2%
・全体の短時間正規雇用は2.1%、非常勤は18.3%
つまり、女性医師は全体に比べて非常勤の割合が高い傾向にあります。女性医師の非常勤の割合は、全体の非常勤の割合の約1.3倍です。
この背景には、女性医師の多くが結婚・出産・育児などのライフイベントを経験する中で、フルタイムでの勤務が難しいことが挙げられます。
病院側も、女性医師の採用や育成に力を入れており、短時間正規雇用や非常勤の雇用形態を整備する動きも見られます。
年齢が30歳以降になると男性医師の方が長く勤務しており、女性医師の多くは復職を希望しながら現実的に難しい就労形態となっており、働き方の見直しが求められてきました。
今後も、女性医師の活躍を支援するためには、働き方の多様化や職場環境の整備が重要です。
1.5 女性医師の復職支援の活用が難しい
女性医師の復職支援は存在しますが、現実的に活用が難しいというのが現状です。
医師の1日の労働平均時間は10.5時間と長時間となっており、復職したい女性医師にとって過酷な労働環境は家庭と仕事の両立が難しくなる不安要素になっていると考えられます。
2. 今後の課題|女性医師が復職しやすい働き方とは?
女性医師が常勤に復帰しやすいように、当直免除や急な欠勤や早退に対応できる労働環境を整えて、上司や同僚、家族の理解も大切です。
最新の医学的知識や現場での業務に対してブランクが心配な女性医師も多いと考えられ、離職ではなく育児休業を取得して、現場復帰しやすくする環境づくりも必要です。
2.1 子育てとの両立を支援する体制を整える
女性医師が復職しやすくするには、医療業界全体で女性医師が仕事と子育てを両立できるように支援する体制を整えることが最優先課題といえるでしょう。
2.1.1 子どもの預け先があること
女性医師が安心して働くためには、子どもを預けられる環境を整えることが重要であり、病院内に託児所を設置したり、ベビーシッターの利用料金を補助したりするなどの支援策が有効です。 具体的な支援策としては、以下のようなものが挙げられます。
・急な呼び出しなどに対応できるベビーシッター制度
・ベビーシッター・家事サービスの費用補助・補助券配布などの支援
・地域保育所、学童保育所などへの送迎支援
近年は医療機関の施設内に託児所が併設されているところもあり、子供を長時間安心して預けることができる施設を増やす取組が進められています。
参照:日本医師会「女性医師の勤務環境の現況に関する調査(H29.8)」
2.1.2 職場と家族の理解
女性医師に気持ちよく復職してもらうには、職場と家族の理解が大変重要であることは間違いありません。
厚生労働省「平成25年臨床研修修了者アンケート調査」によれば子育てをしながら働くには職場の理解・雰囲気が重要だと回答しています。
子育て中の女性医師はどうしても労働時間が制限されるため、当直やオンコールなどに対応できないケースも多く、職場の理解が寛容であれば働きやすくなるでしょう。
ただし、診療科や緊急を要する職場ではオンコール対応を求められることは避けられませんので、そういった面では家族や両親の理解と協力が大事です。
復職する際の職場選びに関しては、実際に医療機関に足を運び、子育て中の医師が多い職場はお互いに助け合う風潮がありますので、仕事がしやすいと判断する基準になります。
参照:厚生労働省「平成25年臨床研修修了者アンケート調査結果概要(中間報告)」
2.1.3 キャリア形成が考えられること
年齢階級別にみた医師としての悩みに関する調査では、30代40代で「キャリア形成・スキルアップ」が最も多く回答されました。
女性医師が出産・子育てをする年代30代~40代はキャリア形成をしたい時期とも重なっており、男性が圧倒的に多い医療業界でキャリア形成をする難しさが課題といえます。
参照:日本医師会「女性医師の勤務環境の 現況に関する調査報告書」
3. 女性医師の復職を支援する5つの活用法をご紹介
この章では、実際に女性医師が復職するために活用したい5つの施策をご紹介します。
女性医師に向けた就労支援事業や民間期間によるサポートが拡大しています。
3.1 各自治体における女性医師の就労支援事業
各都道府県・自治体では女性医師が仕事と家庭の両立しやすい職場環境を整えて再就業の促進するため、病院や医師会に相談窓口を設置して、就労支援事業を実施しています。
▽具体的な取り組み内容
- 病院や医師会に相談窓口を設置
- 復職のための勤務先の紹介
- 復職のための研修を実施する
- 仕事と家庭の両立のアドバイス
- 医療機関に対して研修経費を補助する
- 勤務環境改善の取組みを図る
- 医療機関に対して補助を行う
国全体としては医療機関内の従業員向けの保育所の整備を進めており、病院が整備する院内保育所については補助金を出しています。
院内保育を実施している病院の割合は2011年では37.9%、2017年には41.5%、2020年には43.8%と増加傾向にあります。
託児施設を併設している医療機関はまだ少ないですが、病児保育や24時間保育に対応可能な近隣の託児施設と提携している医療機関もありますので確認しておくと安心です。
参照:厚生労働省「女性医師キャリア支援モデル普及推進事業の成果と今後の取組について」
3.2 民間機関による女性医師の支援
民間機関による女性医師の支援も拡大しています。
例えば、日本医師会が運営する「女性医師支援センター」は以下の支援を行っています。
▽具体的な取り組み内容
- 都道府県医師会と協力のもと講習会を開催
- 女性医師の相談窓口を設置
- 託児サービス併設の促進や補助
- 職業紹介事務所、就業先の紹介
- 医師確保の支援
参照:日本医師会における女性医師支援の取り組み
参照:日本医師会 女性医師支援センター_活動方針(令和4年5月)
3.3 男性の育児休業制度
社会全体で男性の育児休業制度の取得が推奨されています。
2021年6月より施行された「育児・介護休業法」は男性の育児休業取得を推進するため、育児介護休業法が改正され、2022年10月には「産後パパ育休」が施行されました。
今後、男性の育児休業の取得がしやすくなると、出産・育児と仕事の両立しやすい環境となり、キャリア形成を目指してフルタイム勤務で復帰する女性医師も増えるでしょう。
参照:育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説
3.4 短時間勤務制度や短時間正規雇用を活用する
厚生労働省が定める「育児・介護休業法」によって、子育て中の女性医師は労働時間を短縮して勤務できる「短時間勤務制度」を活用してみてはいかがでしょうか。
医療機関によって時短勤務の制度は異なりますが、厚生労働省はフルタイムより短時間の勤務であっても、正規雇用扱いにするよう求める通知を各都道府県知事に出しています。
労働時間は原則1日6時間ですが、短時間正規雇用が導入されたことで以下のような働き方が可能です。
- 午前のみもしくは午後のみ働く(4時間/日×5日=20時間/週)
- 1週間で2日半の勤務(8時間/日×2日+4時間/日×1日=20時間/週)
- 始業時間や終業時間の繰り上げ・繰り下げ(6時間×5日=30時間/週)
「短時間勤務制度」は育児・介護休業法によって医療機関にも適用されます。
短時間正規雇用を活用すれば、仕事と子育てを両立させて、休職・離職をせずにキャリア形成ができるでしょう。
※継続雇用期間が1年に満たない場合など、適用除外となる場合もあります
3.5 好条件のフリーランス医師として働く
子育て中の女性医師は医療機関の常勤・非常勤という働き方のほかにも、フリーランス医師として時間が空いた時にだけ仕事をする働き方もあります。
フリーランス医師は「スポット求人」というカテゴリーで単発の医師のアルバイトとして募集されています。ご自身の都合に合わせて勤務時間や勤務日を選ぶことができます。
育児が落ち着くまでは、スケジュールを変更しやすいスポットアルバイトや定期非常勤などで働くことも選択肢になるでしょう。
まとめ
日本における女性医師の割合は低いのが現状ですが、医師を目指す女性は増えており、女性医師が活躍する職場は拡大しています。
子育て中もキャリア形成できるように、今回ご紹介した復職を支援する5つの活用法を参考にしていただければ幸いです。