感染症をコントロールするインフェクションコントロールドクター(ICD)とは?

インフェクションコントロールドクター

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、感染制御に関する専門的な知識を持ったインフェクションコントロールドクター(ICD)の存在が以前に比べ一層知られるようになってきました。

医療機関や福祉施設において、適切な感染制御を実施しようとする動きは活発で、今後インフェクションコントロールドクター(ICD)の活躍の場がより拡大していくことが期待されています。

そこで今回は、インフェクションコントロールドクターの業務内容や感染症対策において果たす役割、インフェクションコントロールドクター取得への道筋についても解説していきます。

1.インフェクションコントロールドクター(ICD)とは

インフェクションコントロールドクター(ICD)は、医療機関において感染症拡大対策や薬剤耐性菌の出現予防など感染症を制御するための対策を行う医療従事者のことです。医師だけでなく、歯科医師・薬剤師・看護師・検査技師などの医療従事者も含まれます。

かつては感染制御に関わる医師の専門医資格の一つとされていましたが、感染制御対策は医師だけではできません。看護師や薬剤師、検査技師など様々な専門職の医療従事者が一丸となって行う必要があるという観点から、現在では感染制御に関わるすべての医療従事者が要件を満たせば取得できる資格となりました。

ICD制度協議会が2019年に行ったアンケート結果では、インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格取得者は、医師が89.58%、歯科医師が6.81%と9割以上が医師または歯科医師となっています。
医師と歯科医師以外がインフェクションコントロールドクター(ICD)の資格を取得するには、博士号取得が必須なため、割合が少ないと考えられます。

ICD活動の業務形態については、兼任が66%、専任が13%、専従2%と多くの医療従事者がそれぞれの資格による専門業務と兼務していることが分かります。また、医師の専門診療分野については、内科一般が一番多く、次いで外科一般、呼吸器科、小児科系、感染症科と続いています。
感染症の専門かどうかに関わらず、様々な診療科から医師はICD活動に従事していることが分かります。

参照:ICD制度協議会「2019年ICD制度協議会アンケート調査結果ー本協議会の現状の把握と今後の活動方針を考えるためにー」

2.インフェクションコントロールドクター(ICD)に期待される役割

インフェクションコントロールドクター(ICD)に期待される役割は、いくつかあります。具体的な事例について紹介します。

2⁻1病院感染の実態調査(サーベイランス)

サーベイランスは「注意深く監視する」という意味を持っています。インフェクションコントロールドクター(ICD)は、病院内で感染症や薬剤耐性菌に関する発生状況や変化を継続的に監視し、調査を行います。

病院内には外来患者や入院患者、勤務する医療従事者だけでなく、様々な関係者が出入りしています。
様々な人が出入りすることで、院内で感染症が発生したり、流行したりする可能性があるため、日頃からそうした兆候がないか監視する活動が主な役割となります。

2⁻2. 病院感染対策の立案と実施

病院内で想定される様々な感染対策を具体的に考え、実行に移します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、各地でクラスター(集団感染)が発生しました。発生事例は福祉施設だけではなく病院内でも報告されています。

クラスターが起こらないように対策を講じ、危険を回避するための重要な役割を務めます。

2⁻3. 対策の評価および見直し

対策を講じた後、適切な内容となっているか、また改善できる点がないかを定期的に見直し、最善の内容へと更新していきます。

対策を一度講じただけでは、最新の感染症対策ができているとは言えません。特に地域の中核病院の場合は、院内感染が起これば地域医療に大きな影響が及びます。
定期的な対策の評価と見直しによって、患者を院内感染から守ることにつなげる役割が期待されます。

2⁻4. 職員の教育・啓発

インフェクションコントロールドクター(ICD)だけでは、院内全体の感染対策はできません。病院内に勤務する医療従事者や職員に対し、最新の感染症対策施策を説明し、実施するために教育と啓発が必要です。

ほぼ毎年流行するインフルエンザに関する情報をはじめ、地域で特定の感染症が流行した場合の対処など、迅速な情報提供は医療機関の運営上欠かせません。
感染症に関する最新情報を提供するほか、定期的に講習会などを実施し、病院内全体で意識を高めていく役割が期待されます。

2⁻5.病院感染多発(アウトブレーク)時の対応・伝染性感染症発症時の対応

どんなに万全な対策を実施していても、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などクラスター例があるように完全に院内感染を防ぐことはできません。
病院感染多発(アウトブレーク)が起こった時にどう対応するのか、また伝染性感染症発症の際には、インフェクションコントロールドクター(ICD)が中心となり、対応することが求められます。

参照:厚生労働省「医療安全に関する体制について」

3.インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格取得方法と更新方法

インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格取得方法と更新方法について解説します。

3₋1.インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格取得方法

ICD制度協議会では、インフェクションコントロールドクター(ICD)の取得条件について、次のように定めています。

a)協議会に加盟しているいずれかの学会の会員であること(会員歴の長さは問わない)。
b)医師歴が5年以上の医師または博士号を取得後5年以上のPhDで、病院感染対策に係わる活動実績(感染対策委員歴、講習会出席、論文発表)があり、所属施設長の推薦があること。
c)所属学会からの推薦があること。
ICD認定委員会で以上の条件を満たしていることを確認し、協議会がICDとして認定します。

取得条件のb)の病院感染対策に関わる活動実績についての詳細は以下になります。

1.感染症対策実務歴が5点以上であること。
下記の項目から選択し、その詳細や頻度、回数等の具体的な記載を行います。さらに、院長または感染対策委員長による活動証明が必要になります。

【平時の感染対策:1項目5点と換算】
・感染対策チーム(ICT)として定期的なラウンド
・病院感染の定期的な実態調査(サーベイランス)
・血液培養陽性者への定期的な対応
・病院感染対策の立案と実施(感染対策委員会のメンバーであること)
・周術期患者の定期的な感染管理
・抗菌薬の適正使用チーム(AST)として定期的なラウンド
など

【臨時の感染対策:1項目2点と換算】
・病院感染多発(アウトブレイク)時の対応
・伝染性感染症発症時の対応
・職員の教育・啓発
・耐性菌発生時の対応
・体液汚染事故時の対応
・ワクチン接種
・結核発生時の対応
・インフルエンザ発生時の対応
など

2.指定の講習会に3回(45点)以上の参加実績があること。
・ICD制度協議会の主催する講習会(名称:第◯◯回ICD講習会):15点
・厚生労働省の委託による院内感染対策講習会(名称:◯◯年度院内感染対策講習会):15点

3.感染制御に関する論文または、学会や研究発表があること(筆頭1編または共同2編)。

・論文の場合:論文の表紙、論文タイトル・著者名・所属名・要旨が記載されている頁のコピーを添付する。
・発表の場合:抄録(プログラム)の表紙、本文のコピーを添付する。

詳細は、ICD制度協議会のホームページを確認することをおすすめします。

3-2.インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格更新方法

更新は、5年毎になります。認定推薦学会の会員を継続した上で、指定の講習会に参加し、必要単位50単位以上を取得します。

そのうち20単位以上は、ICD制度協議会または厚生労働省主催の講習会に2回以上参加した単位が含まれていることが必要です。更新単位対象の講習会は、ICD協議会ホームページから申込みできます。

また、講習会に計画的に参加し、単位を取得する以外にも感染症に関する最新の情報を入手し、自己研鑽を積むことが求められます。

参照:ICD制度協議会

4.インフェクションコントロールドクターの必要性と活躍の場

インフェクションコントロールドクター(ICD)は、超高齢化社会により基礎体力が低い高齢者の増加や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行など不測の事態に備え、より重要性が増しています。

厚生労働省は、医療提供体制の構築に向けた取組の1つとして、感染防止対策が実施されている医療機関に対して診療報酬加算を行い、インフェクションコントロールドクター(ICD)のさらなる推進を図ろうとしています。

また、「感染制御実践看護学講座」を修了した者が、医療機関の感染防止対策の専従又は専任者となることにより、その医療機関は感染対策向上加算の基準を満たすことになるため、近年注目されている抗菌薬適正使用の推進においても活躍の場があると考えられます。

参照:厚生労働省保険局医療課「令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅰ(感染症対策)」
参照:日本赤十字医療センター「感染症科の特色」

5.インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格を活かした働き方

インフェクションコントロールドクター(ICD)を日々の業務と連携させて働く医師もいます。

この資格を取得した消化器外科医は、院内感染の中でも手術部位感染の発生リスクの高い消化器外科手術において安全な医療を提供したいという考えを持っていました。
消化器外科手術中に行われる消化器吻合では、一旦消化器が開放されるため、腸内細菌の暴露を受けます。そのため、感染がおこる可能性が高い消化器外科において、感染症の管理を行うことは非常に重要な役割になります。
そのような点から感染症対策に関わり、インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格を取得することは大きなメリットとなると考え、取得された事例になります。

このようにインフェクションコントロールドクター(ICD)の資格を取得し活かすことで、院内の感染制御委員会のメンバーとして活躍し、自身の診療と院内の活動を通じて感染症対策に貢献するなど、実務と掛け合わせることで、より安全な医療を提供することが可能になります。

参照:播磨病院感染制御委員会 医師 宮本 勝文外科部長「感染制御ドクター(ICD)の資格について」

6.まとめ

以上、インフェクションコントロールドクター(ICD)の仕事内容や資格の取得方法、重要性などについて解説しました。
今後、新たな感染症の流行や、医療の高度化による院内での患者管理において、インフェクションコントロールドクター(ICD)の果たす役割はますます重要となり、活躍の場が広がると考えられます。
本記事が、新たなキャリアの選択の一助となれば幸いです。