獣医師の仕事とは?活躍の場、年収、将来性まで徹底解説

獣医師と聞くと、動物病院で犬や猫を診療する姿を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、獣医師の仕事は動物診療にとどまらず、食品衛生、感染症対策、医薬品開発など、私たちの日常生活や社会の安全を支える重要な役割を担っています。獣医師は、一般的なイメージよりも活躍の場が広い職業と言えます。

そこでこの記事では、獣医師の仕事内容や活躍の場、年収事情、そして将来性について紹介します。獣医師を目指す方はもちろん、獣医師としてさらなるキャリアアップを考えている方、あるいは獣医師の仕事に興味のある方にとって役立つ情報をまとめていますので、獣医師という職業が気になる方は最後までご一読ください。

1.獣医師とは?獣医師の仕事内容

獣医師は、動物の健康を守る専門家ですが、動物の診療だけでなく、公衆衛生や研究、教育など多岐にわたる分野で活躍しています。その職務の中には、動物の健康を維持するための診療から、人間の健康にも関わる食品衛生、補助犬の適性検査などもあり、あまり世間に知られていない業務も多くあります。

獣医師の主な仕事内容は、大きく分けて次の4つです。

1.1 動物診療

獣医師は、多種多様な動物の診療を担当します。
仕事内容

  • 小動物(犬、猫など)の健康診断、治療、手術
  • 産業動物(牛、豚、馬など)の健康管理、予防接種
  • 動物園・水族館の動物の健康管理
  • 競走馬の健康チェック、レース後検診
  • 家畜の病気予防、診察、治療

ペットだけではなく、全ての動物が診療の対象となります。また、野生動物の診療に関わることもあります。

1.2 公衆衛生・食品衛生

獣医師は、人間の健康にも関わる公衆衛生と食品衛生の分野でも重要な役割を果たしています。
仕事内容

  • 動物の検疫
  • 人獣共通感染症の研究と予防
  • 食肉などの食品安全性確保のための検査
  • 家畜伝染病の予防と対策

狂犬病や鳥インフルエンザなどの研究や予防、対策に携わり、人間と動物の双方の健康を守る重要な役割を担っています。

また、家畜の健康管理は食品の安全性に直結します。そのため、病気の予防や早期発見、治療を通じて、安全な食品供給を支えています。

1.3 研究・開発

獣医学の進展を目指し、研究・開発分野でも多くの獣医師が活躍しています。
仕事内容

  • 動物用医薬品の研究、開発、製造
  • 臨床研究の実施
  • 大学や研究所での獣医学研究

動物の健康管理の向上を図るため、新しい医薬品の開発や既存の薬の改良に取り組んだり、実際の診療現場で得られたデータに基づき、新しい治療法の研究を行ったりしています。

1.4 その他の活動分野

獣医師は、動物診療や公衆衛生以外でも多様な分野で活躍しています。
仕事内容

  • 獣医学生の教育(短大、専門学校での講師)
  • 補助犬(盲導犬、聴導犬、介助犬)の適性検査、健康管理
  • ペット保険関連業務

獣医学の研究や教育を活性化するために獣医学性の教育に携わったり、野生動物の専門的ケアでは、絶滅危惧種の保護や生態系の維持に貢献しています。

また、補助犬の関しては、訓練業者と連携することで候補犬の身体や性質面の適性検査などを行い、補助犬の育成をサポートしたり、使用者のもとに行った補助犬の健康管理指導などを行います。

ペットの保険関連業務としては、ペットの診断結果や症状などを確認し、保険金の支払いが可能かを判断してりします。
野生動物の専門的ケアでは、絶滅危惧種の保護や生態系の維持に貢献しています。日本動物園水族館協会の推進する希少動物の飼育繁殖や野生復帰などに参加する獣医師も増えています。

2.獣医師の働く場所

獣医師の働く場所はさまざまですが、職場によって求められる専門性や役割が異なり、自身の興味がある分野や適性に応じて選択が可能です。

下記で一つずつ紹介します。

2.1 動物病院

動物病院は、獣医師にとって最もポピュラーな職場の一つです。個人開業のクリニックから大規模病院まで、規模や形態は多様です。主に小動物(犬、猫など)の診療を行いますが、近年は高度な専門医療の需要が増加しています。

動物病院での勤務は、24時間対応や緊急手術の必要性から、長時間かつ不規則になることがあります。夜間に急患が運ばれてきた場合、即座に対応する必要があり、獣医師には高い専門性と同時に柔軟な対応力が求められます。

2.2 公務員

公務員として働く獣医師も多く、公衆衛生や食品衛生などの分野で重要な役割を担っています。

国家公務員として検疫所や動物検疫所で勤務する場合もあれば、地方公務員として食肉衛生検査所や家畜保健衛生所などで働くこともあります。主な業務には、食品安全確保、感染症対策、家畜伝染病対策などがあります。

さらに、WHOやJICAなどの国際機関への派遣の機会もあり、グローバルな視点から獣医学的知識を活かす機会もあり、獣医師としてのキャリアを国際的に拡げる貴重な経験となります。

    2.3 製薬会社・研究機関

    製薬会社や研究機関で働く獣医師は、薬学の観点から動物医療の発展に重要な貢献をしています。

    主な業務として、動物用医薬品の研究開発が挙げられます。新しい治療法や予防法の開発は、動物医療の進歩に直結する重要な仕事です。また、医薬品の有効性・安全性検査も獣医師の重要な役割です。動物用医薬品が市場に出る前には、厳密な検査が必要不可欠で、獣医師は、その専門知識を活かして、新薬の効果と安全性を綿密に確認します。さらに、獣医師向けセミナーの実施を通じ、最新の医薬品情報や治療法を現場の獣医師に伝えることで、動物医療全体の質の向上に貢献しています。

    加えて、感染症や予防法の研究も行っています。動物の健康を守るだけでなく、人獣共通感染症の研究を通じて公衆衛生にも寄与しているのが獣医師の特徴です。

    2.4 畜産診療所・家畜衛生研究所

    NOSAI(全国農業共済協会)の畜産診療所やJA全農の家畜衛生研究所は、牛、豚、馬、鶏など産業動物の健康を守る拠点として機能しています。

    こうした施設で働く獣医師は、家畜診療所での産業動物の診療や、畜産農家への往診、健康管理アドバイスを行い、緊急時には24時間対応も求められます。特に注目すべきは、畜産農家への往診や健康管理に関するアドバイスです。獣医師は農場を直接訪問し、家畜の健康状態を確認や出産ケアを含めて幅広く診療するとともに、飼育環境や管理方法についても専門的なアドバイスを行います。

      2.5 動物園・水族館

      動物園や水族館で働く獣医師の役割は、施設内で飼育する多様な動物の健康管理です。

      主な業務には、展示動物の健康管理と診療、予防医療、病理解剖による死因究明などがあります。通常、シフト制勤務が一般的です。特に予防医療では、野生動物は病気の症状を隠す傾向があるため、日常的な観察と予防的な健康管理が極めて重要になります。

      獣医師は、日々の体調管理や飼料管理など、さまざまな健康管理に取り組むことで、希少種の保護や繁殖にも大きく貢献し、生物多様性の保全にも寄与しています。

      3.獣医師になるには

      獣医師になるためには、獣医系大学の卒業と国家資格の取得が必要です。

      6年制の獣医系大学での学習を経て、最終学年である6年次に獣医師国家試験を受験します。合格すると晴れて獣医師の資格を取得することができます。

      2024年2月に実施された第75回獣医師国家試験では、受験者数1,394人に対し合格者数は1,013人で、合格率は72.7%でした。

      3.1 獣医学部の選び方

      日本には全国で16の大学に獣医学科が設置されています。国立大学と私立大学では、一般的に力を入れている分野が異なる傾向があります。国立大学は研究に重点を置いているところが多く、最新の獣医学研究に携わりたい学生にとっては魅力的な選択肢となります。一方、私立大学は臨床面により力を入れている傾向があり、将来動物病院での診療や動物園・水族館を希望する学生には適しているかもしれません。

      大学によって施設の規模や実習の内容にも差があります。特に、牛や馬などの大動物と触れ合う機会は大学によって違いが見られるケースが多いです。したがって、大動物診療に興味がある場合は、この点も重要な視点に加えておきましょう。

      そして、研究職を目指すのか、臨床獣医師になりたいのか、あるいは公務員獣医師を目指すのかなど、将来の希望職種を踏まえた上での大学選びも重要です。

      3-2.獣医学部の学費一覧

      全国の獣医学部の学費一覧を表にまとめました。

      ▼国立大学

      大学名

      都道府県名

      授業料(年額)

      入学金

      初年度納入金

      北海道大学

      北海道

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      帯広畜産大学

      北海道

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      岩手大学

      岩手

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      東京大学

      東京

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      東京農工大学

      東京

      642,960円

      282,000円

      924,960円

      岐阜大学

      岐阜

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      鳥取大学

      鳥取

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      山口大学

      山口

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      宮崎大学

      宮崎

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      鹿児島大学

      鹿児島

      535,800円

      282,000円

      817,800円

      国立大の入学金は文部科学省が基本的に一律に定めています。授業料も現時点ではほとんどの大学が同額に設定していますが、東京農工大学は教育・研究環境の整備拡充 のため2024(令和6)年度より授業料の値上げがされました。

      ▼公立大学

      大学名

      都道府県名

      授業料(年額)

      入学金

      初年度納入金

      大阪府立大学

      大阪

      535,800円

      282,000円(大阪府民)/382,000円(大阪府外)

      1,002,800円(大阪府民)/1,102,800円(大阪府外)

      ▼私立大学

      大学名

      都道府県名

      授業料(年額)

      入学金

      初年度納入金

      酪農学園大学

      北海道

      1,710,000円

      300,000円

      2,490,000円

      北里大学(十和田キャンパス)

      青森

      1,500,000円

      300,000円

      2,330,000円

      日本獣医生命科学大学

      東京

      1,300,000円

      250,000円

      2,431,000円

      日本大学

      神奈川

      1,500,000円

      260,000円

      2,450,000円

      麻布大学

      神奈川

      1,800,000円

      250,000円

      2,500,000円

      北里大学(相模原キャンパス)

      神奈川

      1,500,000円

      300,000円

      2,330,000円

      岡山理科大学

      愛媛

      1,500,000円

      220,000円

      2,500,000円

      表からわかるように、初年度納入金は国公立大学の約82万円から私立大学の最大約257万円と幅広くなっています。国公立大学は比較的低額である一方、私立大学は国公立の約3倍と高額の傾向です。ただし、私立大学の中でも、年間授業料に約55万円の差があります。

      地域によっても学費に差があり、自身の卒業後のキャリアプランや経済状況に合わせて選択することが重要です。

      4.獣医師の年収

      獣医師の年収は、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると約687万円でした。しかし、獣医師の年収は勤務先や経験年数、専門性によって大きくことなります。

      今回は動物園獣医師とJRA(日本中央競馬会)、開業した獣医(院長)の年収を比較してみましょう。

      動物園獣医師の平均年収は約400~450万円で、月収にすると30万円前後です。一方、JRA獣医師の平均年収は約650~1,200万円と、かなり高額です。年収に大きな差が生まれる背景として、JRAが政府からの資本支援を受けていることが挙げられます。ただし、JRAの獣医師採用枠は年間5~7名程度と非常に狭き門で、実際に採用されて活躍するためには激しい競争を勝ち抜く必要があります。

      動物園獣医師の年収が比較的低い理由は、獣医師としての専門業務を対応する割合が少なく、飼育員と同様の業務が多い為だと考えられます。また、多くの動物園が公共施設は非営利組織として運営されており、予算に制約がある点も給与水準に大きく影響しているでしょう。

      開業した獣医(院長)の場合、年収相場はさらに幅広くなります。年間の売上が3,000万円程度の場合、所得税や住民税、人件費、経費などを差し引き、院長の収入は1,000万円程度と言われていますが、経営次第では年収3,000万円以上になることもあり、本人の経営手腕に大きく左右されると言って良いでしょう。

      獣医師の年収アップは簡単なことではありませんが、自身の選択と努力よって大きく変えられる可能性があります。

      5.獣医師の役割の変化と将来性

      近年、社会から求められる獣医師の役割や職務が変化しつつあります。また、長期的な視点で見ると、人口減少に伴う畜産業やペット産業の緩やかな衰退が予測されています。

      では、一体獣医師に求められる職務や役割はどのように変化しているのでしょうか。

      5-1.獣医師の就職動向からみた現状

      獣医師は厚生労働省の職業情報提供サイトjobtagによると、2024年度の有効求人倍率1.7と比較的高く、現在は就職しやすい状況となっています。しかし、就職先として新卒獣医師の約45%が小動物診療を希望する一方で、実際の就業者は40%程度にとどまっています。

      これは、社会から獣医師に求められている分野と希望就職先にズレが生じていることを指しています。

      5-2.公衆衛生獣医師の必要性が高まっている

      新たな感染症対策や食の安全供給に対し、消費者の注目が集まっています。

      このような状況において、獣医師は適切な獣医療を提供し、伝染性疾患の発生予防や防疫措置、家畜改良による生産性の向上など、畜産の生産基盤を強化し、国民へ安全な畜産物が安定的に供給できるようサポートすることが求められています。

      5-3.産業動物診療分野での獣医師が確保できていない

      農林水産省は畜産分野の獣医師不足を問題視しており、地域によっては確保が難しくなることを懸念しています。

      獣医師数自体は不足しているわけではありませんが、産業分野への就業を希望する獣医学生が2割と少なくなっています。

      こうした状況を踏まえ、農林水産省では、新規就業後の早期離職者や他分野から産業動物診療分野への人材誘導施策を推進中です。

      このように、獣医師の役割は時代とともに変化し続けており、業界や社会の変化に柔軟に対応できる人材が今後ますます求められるでしょう。

      参照:令和2年 農林水産省「獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針」
      参照:日本獣医師会「今後における獣医師需給」
      参照:農林水産省「獣医師を巡る情勢」

      6.獣医師としての将来性を高めるキャリアプラン

      獣医師としての将来性を高めるためには、変化しつつある獣医師に求められる役割を念頭に入れておく必要があります。それぞれの分野で必要とされる専門知識は異なりますが、下記のいずれかを検討してみてはいかがでしょうか。

      6.1獣医療サービスや専門分野の充実化を図る

      獣医療の進歩に伴い、小動物と畜産業の両分野で高度な獣医療サービスへの需要が高まっています。それぞれに分野で求められているものは下記のようになります。

      【小動物分野】
      最先端の医療技術や、高度な医療機器を使用した最新の診断や治療、予防技術が求められ、飼育者の求める獣医療の内容は多様化してきています。また、飼育者にインフォームドコンセントを得て診療を進めるなど、飼育者の意向もしっかりと勘案した獣医療の提供が求められています。

      【畜産業分野】
      経営の安定や生産性の向上を目指し、畜産業分野でも最新の診断技術や治療方法の導入など、高度な獣医療技術が求められています。画像診断や超音波検査機器、飼養管理へのICT技術の活用、家畜人工授精など、技術の普及や他分野の専門職との連携強化が重要となっています。

      参照:農林水産省 『獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針』

      6.2 認定医の資格取得

      認定資格を取得をすると専門性の向上を証明するだけでなく、獣医師としての信頼獲得や転職時の優位性確保、収入増加などのチャンスが広がります。

      具体的な資格には、下記のようなものがあります。

      【獣医師の認定医資格】
      • JAHA認定総合臨床医
      動物循環器認定医
      獣医腫瘍科認定医
      獣医皮膚科学会認定医
      獣医画像診断認定医

      変化する獣医療環境において、常に学び続け専門性を高めていくことが、獣医師としての長期的な成功につながるでしょう。

      参照:農林水産省「日本の獣医師関係学会・研究会⼀覧 (専⾨性認定のあるもの)」

      7.まとめ

      獣医師は動物診療にとどまらず、公衆衛生、食品衛生、研究開発など、幅広い分野で社会に貢献する重要な職業です。近年、特に公衆衛生獣医師の必要性が高まっており、新たな感染症対策や食の安全供給に対する役割が注目されています。一方で、産業動物診療分野では獣医師の確保が課題となっており、社会のニーズと獣医師の希望就職先にはギャップが生じています。このような変化に対応するため、獣医師には従来の専門知識に加え、最新の医療技術や ICT 技術の習得、他分野の専門職との連携能力が求められています。

      将来性を高めるためには、先端医療技術や専門科診療の知識を深めることが重要です。また、認定医資格の取得は専門性の証明となり、キャリアアップの機会を広げます。獣医師の年収は勤務先や経験、専門性によって大きく異なりますが、自身の選択と努力によって向上させる可能性があります。

      社会のニーズに応じて変化する獣医師の役割を理解し、柔軟に対応することで、動物と人間の両方の健康と福祉に貢献できる、魅力的でやりがいのあるキャリアを築くことができます。