整形外科医とは?仕事内容・年収・働き方・専門医について紹介

整形外科医

整形外科は、四肢、脊椎、全ての障害を扱い、診断・治療(手術)・リハビリによる社会復帰をサポートする診療科です。高齢化社会の到来に伴い、関節の変性疾患や腰痛、膝痛、骨粗鬆症などへの需要が急速に増えています。

整形外科医は、患者の完治や元気になった姿を目にすることでやりがいを感じやすく、その幅広い活動範囲からさまざまな認定医やサブスペシャリティの資格を目指し、キャリアを積むことができます。

本記事では、整形外科医の魅力や役割について詳しく解説します。

1.整形外科とは

整形外科は、骨や軟骨、筋肉、靭帯、神経などの疾患や外傷の診断や検査、治療などを行う診療科です。

整形外科の治療範囲

整形外科の治療範囲は広く、事故による骨折のような急性の外傷から、変形性関節症のような慢性疾患まで幅広く対応します。

ここでは、整形外科医の患者数や社会的ニーズについて、詳しく見ていきましょう。

1-1.患者数

整形外科は、その高い需要と幅広い治療範囲から、数ある診療科の中でも多くの患者を抱えています。

「医療施設調査 平成20年医療施設(静態・動態)調査 上巻」によると、整形外科の平成20年度外来患者数は最も多い内科の約2,838万に次ぐ約1,377万人でした。 これは全診療科で2番目に多い結果となります。

患者数が多い背景には、新生児から高齢者まで全ての年齢層が対象となり、治療も多様であることが関係しています。

1-2.社会的ニーズ

整形外科の社会的ニーズは、高齢社会の進展やスポーツ障害、外傷などの増加、さらに労働災害や交通事故の頻発に伴い、一段と高まると見込まれています。

厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査の概況」によると、腰痛、肩こり、手足の関節痛などの症状に悩む患者が多く、自覚症状の割合は男女ともに肩こりと腰痛が上位2つとなりました。

整形外科の有訴者率の上位5症状

これらの症状は生活の質の低下、仕事のパフォーマンスの低下に繋がるため、整形外科は多くの人にとって不可欠な診療科であるといえるでしょう。

出典:社団法人 日本整形外科学会「整形外科医を目指そう」
出典:厚生労働省「医療施設調査 平成20年医療施設(静態・動態)調査 上巻」
出典:厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査の概況」

2.整形外科医の仕事内容

整形外科医は、骨や軟骨、筋肉、靭帯、神経などの不調を訴えた患者に対して適切な検査を実施し、得られた情報をもとに診断して治療を行う医師です。

検査には、レントゲン検査やCT検査、MRI検査、骨密度検査、超音波検査、血液・尿検査など、さまざまな種類があります。

治療では、薬物療法や理学療法、運動療法、ブロック注射、手術療法、日常生活指導などを疾患の病態や進行度、患者のライフスタイルなどに応じて適切に組み合わせて実施します。

整形外科の治療では、エビデンスに基づき最適な治療を実施し、患者が治療法を理解し納得した上で受けることができるようインフォームドコンセントを重要視している特徴があります。

また、高齢者の生活の質(QOL)を向上させるために、人工股関節や人工膝関節の置換手術、頚髄症や腰部脊柱管狭窄症の除圧術といった高度な外科治療を提供することも大きな役割です。

さらに、疾患や外傷によって社会活動が妨げられている場合には、早期の社会復帰を目指してリハビリテーションを実施します。

整形外科の対応範囲は非常に広いため、一般整形外科を広く研修した後に各専門分野で一歩踏み込んだ研修を受けることが求められます。

3.整形外科医の年収

整形外科医の年収について、2012年の国の調査では1,2899,000円であり、全診療科の中でも5番目の水準でした。

しかし、この調査は古いものであるため、最新の動向を把握するために大手医師転職サイトの情報を参考にしたところ、最新のデータによれば、整形外科医の年収相場は1,500万円から2,000万円(※)に上昇しています。

この背景には、超高齢化社会の到来に備えてあらかじめ整形外科医を確保する動きや、医師の地域偏在の解消を目的として、より魅力的な待遇を用意している医療機関が増えていることがあるでしょう。

整形外科医のなかでも外科手術を行うための知識やスキル、経験を持つ医師は希少性が高く、今後ますます年収が上がることも期待できます。

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4.整形外科医の働き方と給与の関係

整形外科医の働き方と給与の関係について、病院とクリニックの2つの職場環境で異なります。

4-1.病院

病院での勤務では、救急患者の手術から慢性疾患の診療まで幅広い業務が求められます。

時間外勤務や当直も多く、忙しい一方で高い給与水準が期待できます。特に一部の地方では高齢化が進むにつれて、医師不足が深刻になっている地域もあり、緊急手術に対応できる医師に対して優遇措置が設けられる場合もあります。

都市部の専門病院では、高度な技術が求められる手術に長けた医師に対しても高額な給与が支給されることがあります。

病院の規模や人員の状況に応じて忙しさや手術の頻度なども異なるため、あらかじめ十分に調査したうえで就職先や転職先の候補を決めることが大切です。

4-2.クリニック

クリニックでの勤務では、外来診療と日帰り手術が主な業務となります。クリニックの特性上、時間外勤務や当直は少なく、病院勤務と比較して給与水準は低めです。

ただし、実施手術件数に応じてインセンティブが支給される場合があり、手術経験の豊富な医師には高額な報酬が期待できます。

また、将来的なクリニックの後継者として採用される場合には、好待遇が保証されることもあります。

5.整形外科に関する専門領域とサブスペシャリティ専門医の種類

整形外科医を目指す人は、まず2年間の初期臨床研修修了後、4年間の整形外科専門研修を受けて専門医を目指しましょう。

整形外科専門医として資格取得した後は、各専門領域に進むことが一般的です。

整形外科は医学の分野の中でも、専門領域が極めて豊富です。専門領域の例は以下のとおりです。

専門領域

治療内容

脊椎脊髄外科医

腰痛や肩こり、手足のしびれ、歩行障害などを引き起こす椎間板ヘルニアや腰部脊柱間狭窄症など脊椎の疾患を治療する。薬物療法、理学療法、リハビリテーション、手術療法などを行う。

関節外科医

膝関節や肩関節、股関節などの疾患に対して、人工関節全置換術や関節鏡を用いた手術、骨切り術関節鏡を用いた靭帯再建術、半月板縫合術、腱板修復術などを行う。

手の外科医

手の疾患や外傷を治療する。特に難易度が高い部位とされており、繊細で緻密な技術が求められる。マイクロサージャリーを用いた微小血管や末梢神経の縫合ができることが必須とされている。

足の外科医

先天性内反足や外反母趾、麻痺足などの疾患、足首や足の骨・関節・腱・靭帯の外傷を治療する。ギプスや装具を使った保存的治療も選択肢の1つとなっている。

外傷整形外科医

外傷整形外科医は、外傷による骨折や脱臼、靭帯損傷などの急性的な運動器系の障害を診断し、治療する。また、スポーツや交通事故などでの怪我から生じる障害に対するリハビリテーションや機能回復にも携わる。

骨・軟部腫瘍医

骨や筋肉、皮下組織などにできる腫瘍の検査・診断・治療を行う。腫瘍には良性と悪性があり、診断と治療に高度な専門性が求められる。また、診断の際は放射線診断医や病理医との連携が欠かせない。

マイクロサージャリー医

顕微鏡や微細な器具を使い、血管吻合などの手術を行うマイクロサージェリーに特化している。マイクロサージェリーは通常の手術よりも高度な技術と正確さが求められる。

関節リウマチ外科医

関節リウマチの症例に特化した専門家で、薬物療法から手術、リハビリテーションまで包括的に対応する。薬物治療や症状が進行していないかの確認、内科との連携、栄養面や心理面、社会生活面などでのマネジメントも行う。

骨代謝・骨粗鬆症医

骨粗鬆症のような骨代謝に関連する疾患の治療を行う。軽度から難治性の骨粗鬆症まで対応できる骨代謝疾患のスペシャリストで、骨粗鬆症に関連する健康問題への対応と予防にも長けている。

小児整形外科医

股関節脱臼や骨形成不全症など、小児整形における先天性疾患から成長に伴う問題まで幅広く対応する。乳児健診や学校検診で異常な所見がみられた子供に対して、適切な検査を実施し、問題の早期発見・早期治療を目指す。

スポーツドクター

スポーツによる外傷や障害の治療を担当する。アスリートだけではなく、学校や地域でのスポーツ活動によるケガについても診断・治療・予防に取り組む。

運動器リハビリテーション医

運動器の疾患に特化した医師で、運動療法や作業療法など多岐にわたる治療法を組み合わせ、患者の運動や生活機能の回復・維持に努める。リハビリテーション計画の策定やチーム医療の統括も行う。

さらに、整形外科専門医の中には、日本整形外科学会が認定している下記のようなサブスペシャリティの専門医資格を持つ人もいます。

  • 日本整形外科学会認定リウマチ医……リウマチなどの関節疾患に特化
  • 日本整形外科学会認定スポーツ医……スポーツに関連した外傷や障害に特化
  • 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医……脊椎や脊髄に関連した疾患に特化
  • 日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術・技術認定医……脊椎内視鏡下手術や技術に特化
  • 日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医……運動器疾患のリハビリテーションに特化
  • 日本整形外科学会認定骨・軟部腫瘍医……骨や軟部組織の腫瘍に特化

参照:日本整形外科学会「医学生・研修医の方へ」

.整形外科専門医のキャリア例

整形外科専門医のキャリアについて、3つの事例を紹介します。

6-1.大学院で基礎研究を行う

整形外科医として優れた知識とスキルを身につけるために、大学院へ進学して基礎研究を行うという選択肢があります。大学院は学習と研究に特化した環境のため、基礎研究を行いたい方に適しています。

大学院へ進む際は、疾患や治療法に関する研究テーマを明確にすることに加え、研究が終了した後に臨床医になるか基礎研究を続けるかなど、キャリアについても考えておくことが大切です。

6-2.サブスペシャリティ領域を深める

関節外科、腫瘍、脊椎外科、手の外科などの分野での研修や研究を通じて、より高度な専門性を獲得する選択肢があります。例えば、骨・軟部腫瘍医はがん治療に特化し、手術や化学療法などの治療法に精通しています。

卓越したスキルと豊富な知識をもって、1人でも多くの人の健康問題を解決するだけではなく、後輩の指導や教育を行うことも重要な役割です。

6-3.整形外科診療によって地域医療に貢献する

地域の総合病院や救急病院、診療所で、一般的な外傷や疾患を治療することで経験を積みながら、地域住民の健康と生活の質を向上させるために貢献する方法もあります。

また、後輩の指導や教育も担当し、次世代の整形外科医を育てることも役割の1つです。臨床経験を通じて培った知識や技術を後進に伝えることで、地域医療の発展に寄与します。

7.整形外科で注目の先端医療

整形外科の先端医療は、患者の生活を大きく改善する可能性を秘めています。先進医療を患者の疾患やライフスタイル、希望などに応じて取り入れることで、従来よりも早く社会復帰できたり、機能をより大きく回復させたりできます。

先進医療をどのように取り入れるかを適切に判断することも整形外科医の仕事です。導入している先進医療は医療機関によって異なるため、先進医療を活用したい場合は事前に確認しておきましょう。

整形外科で今注目の先端医療を紹介します。

7-1.ロボット支援手術

ロボット手術は、ナビゲーションシステムを活用して、より安全で確実な手術を可能にする方法です。手術の精度が向上し、合併症のリスクが低減されるため、患者の安心感と手術の成功率が高まります。

重度の変型性関節症や関節リウマチの患者に対して行う人工関節の置換手術に、ロボット支援手術が活用されています。

術前に整形外科医が作成した計画通りにコンピューターによって制御されたロボットアームが、骨を切ったり削ったり、あるいは医師を誘導して正確な切断を補助します。

CT画像を基にコンピューター監視下で実施することで、人的ミスの軽減だけではなく、術前プランニングや術中評価を高精度かつ短時間で行えるようになります。

7-2.3Dプリンター技術

整形外科手術において、骨の欠損に対する治療には、従来から人工骨が使用されてきました。しかし、これまでの人工骨は金属アレルギーなどの副作用が懸念されていました。そこで近年、3Dプリンター技術を用いた人工骨造形が注目を集めています。

骨の内部まで含む3次元構造を高い精度で設計し、高強度材料で任意の3次元形状を造形することが可能です。患者ごとに異なる形状に合わせた複雑な形状の人工骨造形が可能となり、オーダーメード医療を実現できます。

さらに、3Dプリンター技術を活用して、患者の実物大の骨モデルを作成する取り組みも行われています。

患者の骨の形状を正確に把握するだけでなく、手術の予行演習を行うことも可能です。これにより、手術前の計画がより具体的になることに加え、患者自身も手術の内容を理解しやすくなります。

7-3.再生医療・移植医療

移植医療は、患者の身体に適合した組織や臓器を移植することで、機能の回復や再建を図る医療技術です。

例えば、悪性腫瘍の治療で用いられる遊離血管柄付き複合組織移植術が注目されています。悪性腫瘍の切除後に、血管の付いた皮膚と骨を移植することで、患肢を切断せずに温存することが可能です。また、骨軟骨移植術も移植医療の1つで、軟骨や骨を移植して関節の再建や修復を行います。

再生医療は、脊髄、神経、筋肉、腱、骨、軟骨などを再生させる医療技術です。細胞や組織の再生を促すことで、慢性的な疾患や障害の治療が可能になります。

例えば、ヒトiPS細胞から分化した神経細胞を用いた神経系疾患の治療、神経人工骨の表層に再生骨を搭載することで、早期に骨との固着性を高める取り組みなどがあります。

また、再生医療と移植医療を組み合わせた治療もあります。自家培養軟骨細胞移植では患者の軟骨細胞を培養、再生した後、欠損した箇所に移植することが可能です。

出典:社団法人 日本整形外科学会「整形外科医を目指そう」

8.まとめ

整形外科医は、肩こりや腰痛といった日常的に起きる症状の検査や治療を行うほか、超高齢化社会の到来、労働災害や交通事故の頻発などの理由から社会的ニーズが増加しています。

本記事では、整形外科医の役割や年収、キャリアなどについて解説しました。

整形外科は、ロボット支援手術や3Dプリンター技術、移植医療・再生医療などの先進医療が進歩している分野のため、最新の医療を活用して1人でも多くの患者の問題を解決したい人に向いているでしょう。

今回、解説した内容を参考に、整形外科医が自身に向いているかどうか考えてみてください。