医師の転職市場は売り手市場!転職をする際のポイントをチェックしよう

Doctor job change market

専門性が高く、免許制の職業である医師は、転職市場においては求職者側に有利な売り手市場です。

一般的な職種に比べて待遇はよいものの、人手不足による業務負担の増加や、出産や子育てといった生活環境の変化から、より働きやすい職場への転職を検討する人もいます。

この記事では、転職を検討している医師の方に向けて、求人倍率をはじめとして転職をする際に知っておきたいポイントを、失敗例も含めて紹介します。

1.医師は常に人手不足

医師が全国的に不足している状況にあります。そのため、医師が転職すること自体は、難しくありません。

厚生労働省が発表した「令和412月分及び令和4年分の一般職業紹介状況」によると、令和4年度12月時点での医師・薬剤師等(パートを含む)の有効求人倍率は2.32倍です。すべての職業をまたいだ有効求人倍率が1.31ですので、このことからも医師や薬剤師が売り手市場にあることが分かります。

有効求人倍率とは、ハローワークに登録されている求人数と求職者数を元に算出されるもので、1人の求職者に対し、何件の求人があるかを示す指標のことです。

有効求人倍率は以下の式で算出されます。

「有効求人数÷有効求職者数=有効求人倍率」

医師・薬剤師の有効求人倍率は、コロナ禍における患者の受診控えや病院側の新規求人募集控えにより一時的に下がったものの、現在は回復傾向にあります。

医師・薬剤師の有効求人倍率は、前年同月と比べると0.34ポイント上昇しています。

政府発表の統計が閲覧できるポータルサイト「e-stat」では、職業別の有効求人倍率の変遷が確認できます。

統計上の職業の区分は「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」となっているため、幅広くなってはいますが、有効求人倍率の変遷を確認するのに役立ちます。統計をまとめたものが以下の表です。

Physician Job Openings(Physician Job Market)

参考として医療系に限らず、製造や事務などのあらゆる職業をまたいだ求人有効倍率(表の「職業計」)と「保健師、助産師、看護師」「医療技術者(診療放射線技師・臨床工学技師・臨床検査技師・理学療法士など)」の有効求人倍率も併記します。2013年には医師、歯科医師、獣医師、薬剤師の有効求人倍率は6.91と非常に高い数値を記録しています。その後は医師や薬剤師不足を受けての医学部・薬学部での定員増加に影響で徐々に低下しました。

コロナ禍が始まった2020年には有効求人倍率は3.0倍を切り、2021年には2.0倍を切りました。

しかし、2022年には2.0倍まで回復しており、医師・薬剤師に限定すると202212月時点の有効求人倍率は先述のとおり2.32倍です。コロナ前の水準には達していないものの、コロナ禍が落ち着き、回復傾向にあるといえるでしょう。

有効求人倍率の高さは、転職のしやすさを示します。しかし、業界としては「人手不足」を表すため、目的意識なしに転職を決めると、想定以上の業務量を任されてしまうといった、自分の希望とは異なる転職をしてしまうケースもあります。

転職してから後悔しないよう、次項からは、転職を検討する際のポイントについて解説していきます。

【出典】「令和4年12月分及び令和4年分の一般職業紹介状況」【厚生労働省】
一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」【厚生労働省】

2.転職する理由を明確に

転職をする際に最も重要なことは「目的の明確化」です。医師は売り手市場で、比較的転職がしやすいといっても、あらゆる面で100点の職場に巡り合うことは簡単ではありません。

自分がなぜ転職をしたいのか、どんな目的を叶えるために転職がしたいのかを明確にすることが、転職を成功させるための重要なポイントです。転職をする上で重視したい項目については、あらかじめ優先順位をつけておくと、多数ある求人の中から自身の希望に合ったものを選定しやすくなります。

医師がどのような場合に転職を考えるのか、転職理由として多く挙げられるものには以下のようなものがあります。

2-1.職場での人間関係

一般の職業でも、多くの方が人間関係を理由に転職を考えています。医師の場合でも同様に、病院で働くこと自体がストレスになるほど、人間関係が悪いのなら転職を検討するという選択肢もあります。

例えば、自分が対象となっていなくてもパワハラやモラハラが横行している職場では、本来の実力が発揮できませんし、業務へ集中することも難しくなるでしょう。

仕事においては、どんな仕事をするのかと同様に、誰と仕事をするのかも重要です。より良好な人間関係を求めて転職を志すことは十分に転職理由になりえます。

2-2.結婚や育児などのライフスタイルの変化

育児の負担が大きいために勤務日数の減少や当直免除といったことを希望しても許可されない、親の介護が必要となるため自由度の高い職場に移りたいなどを理由に転職を検討するケースもあります。

また、同じ病院内であっても科によって支援体制に差があるといったケースも珍しくありません。

医師側の希望が通らないケースだけでなく、子どもの送迎で周りが忙しい中、職場を抜けなくてはならないことに申し訳なさや肩身の狭さを感じて、転職を決意するケースもあります。転職を検討する際には、医師としてのキャリアだけでなく、自身の家庭環境も鑑みてライフプランを立てることが重要になります。

2-3.業務量が多すぎる

人手不足が慢性化している病院においては、医師1人あたりの業務量が多くなりがちです。深夜でも呼びだされる、過労死ラインを超える残業、当直明けのオペなど、業務量の多さが肉体的にも精神的にも負担となる場合、多くの医師が転職を検討しています。

業務量の多さは医師としてのやりがいや成長にもつながります。

しかし、業務の多さから患者の診察がおろそかになったり、過労からミスが発生したりする危険性もあります。現在自身が抱えている業務量に耐えかねるなら、転職を検討することも選択肢になるでしょう。

2-4.経営方針に不満

経営陣との意見が合わず、自身が求める医療ができないという理由で転職をする医師もいます。経営陣に経営能力や管理能力ない、理念がなくお金儲けのことばかりを考えているように感じるなど、経営陣に対して疑念や不満を持つようになったら、転職を検討すべき時期かもしれません。

病院の経営方針は、自身の給与やキャリア形成にも大きく影響します。経営方針が自身の価値観と一致しているかどうかは、働いていく上で重要なポイントだといえます。

2-5.待遇や評価に不満

医師の給与は他の職業と比較すると高額です。しかし、医師からすれば他の職業との比較よりも、他の医師、他の病院との比較で考えることになります。

仕事としてのやりがいはあっても、経験や実績に見合った給与をもらえていないと感じるのなら、転職を検討するのは当然のことでしょう。

しかし、評価は同じ病院内の他の医師と比べて相対的につけられるケースもあります。自身の評価に不満がある場合には、客観的な判断で評価が妥当かどうかを確認することも重要です。

3.転職理由ごとの医師の転職の失敗例

前項で紹介したような理由で転職を志した方でも、成功する場合があれば失敗する場合もあります。失敗を防ぐために、転職理由ごとの失敗例を確認することをおすすめします。

3-1.転職先の人間関係が良好とは限らない

転職理由として多い人間関係ですが、面接時には把握しづらいものです。そのため、転職先でも望んでいるような人間関係があるとは限りません。

人間関係を理由にして転職する際には、転職する前に実際に足を運んでみる、見学を複数回するなどし、自身の目で職場の雰囲気を確認するといったことが重要になります。

3-2.ライフスタイルの変化に対応してもらえるかは実績をチェック

小さい子どもがいるので当直の数を減らしてほしい、送り迎えの時間があるので時短勤務をしたいという場合には、面接時にしっかりと自分の要望を伝えることが重要です。

そして、相手の話だけを鵜呑みにするのではなく、可能な限り実績を聞くことも重要です。面接時の話や希望は残念ながら、職場の人手不足を理由に反故にされてしまうことがありますが、実績というデータは参考になります。

これまで時短勤務や育児休暇の実績はあるのか、現在の状況をきちんと数字で聞くことで正確に現状が把握できます。

3-3.待遇や福利厚生は事前確認をしっかりと

求職者側としては、面接時に給与や有休消化率、育児休暇などの待遇面について聞きづらいと思う方は多いでしょう。しかし、待遇を聞くことで不採用となるのなら、何かしら聞かれたくない点があると求職者側は判断してもよいのではないでしょうか。

もちろん、待遇ばかりに終始して質問をしていれば相手の印象は良くないですが、自身が働く場なわけですから、あらかじめ待遇についての疑問点を解消しておくことをおすすめします。特に、転職後に自身が育児休暇や育児休暇後の時短勤務などを希望する予定があるのなら、あわせて確認しておくとよいでしょう。

3-4.失敗を防ぐには事前の調査と見学を

2回や3回の面接だけで、病院全体の職場の雰囲気をつかむのは簡単ではありません。そのため、可能な限り、職場の見学をするようにすることをおすすめします。

職場の雰囲気を知る方法としては、転職エージェントを利用してこれまでその病院に求職した人から話を聞く、エージェントといっしょに病院見学をするといったことが挙げられます。1日の中で働く時間は決して短くありません。フィーリングも重要ですが、念には念を入れた行動も後悔のない転職のためには重要です。

同じ転職理由でも失敗する人と成功する人がいます。この差を運任せにするのはとても危険です。転職にあたっては、可能なかぎり準備をすることが失敗を予防するポイントになります。給与や待遇を理由に転職する場合でも、人間関係の悪さや業務量の多さは働き続ける上でのストレスとなります。

総合的な判断で「働き続けられる環境かどうか」をチェックすることが重要です。

4.医師の転職先は選択肢多数

医師として働く上での転職先は病院という現場だけではありません。医師免許を活かした職種は、臨床医以外にも「産業医」「製薬企業内医師」「社医・診査医・査定医」「医系技官」「ヘルスケア系企業社員」などさまざまなものが挙げられます。

例えば、生命保険会社で社員や職員として働き、加入希望者の健康状態を確認する「社医・診査医・査定医」では、臨床経験が問われないケースもあり、20代後半~30代前半といった比較的若い年齢で転職する医師もいます。勤務時間が917時であることが多いことから、ワークライフバランスを重視したいといった場合には選択肢の候補となるでしょう。

また、製薬企業に勤める製薬企業内医師(メディカルドクター)は、臨床経験を活かして医薬品の研究開発や安全性の仕事に携わります。英語能力が問われることも多く、求められるレベルは高いですが、医師と患者11の関係ではなく、創薬によって世の中のより多くの人に貢献できるという点ではキャリアアップといえます。

「社医・診査医・査定医」や「製薬企業内医師」を含む臨床医以外の職種で働くための条件や業務内容などについては、以下の記事に詳しくまとめてありますのでご確認ください。

医師“臨床以外”のキャリア8選!転職時期や必要な経験まで徹底解説

5.まとめ

医師が転職する際のポイントについて解説してきました。

医師の転職市場は売り手市場です。だからこそ転職を焦らず、自分に合った職場探しにじっくりと時間がかけられるはずです。今の職場に不満があって転職をするのにも関わらず、結果として環境が変わらなかったのであれば転職する意味がありません。

後悔のない転職のために、転職する目的やどんな職場で働きたいかを具体的にまとめてみることをおすすめします。

ぜひ、家庭も含めた自身のキャリアプラン・ライフプランにおける優先順位を設定してみてください。