呼吸器内科と呼吸器外科の違いとは?働き方や給与、AIの活用について解説

呼吸器科内科医 呼吸器科外科医

呼吸器科は、日本での死因第5位である肺炎や、肺の生活習慣病とも言われているCOPDといった慢性疾患など扱う疾患が幅広く、年々ニーズが高まっている診療科です。
しかし呼吸器科医不足は深刻で、近年の呼吸器疾患の増加状況を考えると、需要に対して十分とはいえない現状にあります。

そこでこの記事では、呼吸器内科と呼吸器外科の違いから、それぞれの役割、最新の治療法、AI技術の活用まで、呼吸器科医療の全体像をわかりやすく解説します。高齢化が進む日本で、ますます重要性を増す呼吸器科医の魅力と課題、将来性についてまとめていますので、最後までご一読ください。

1.呼吸器内科とは

呼吸器内科は、のど、気管、気管支、肺など、呼吸に関わる臓器の病気全般を内科的に診断・治療する診療科です。風邪や肺炎などの感染症から、喘息やCOPDなどの慢性疾患、肺がんといった重篤な疾患まで、幅広い病気を対象としています。

呼吸器内科医は、問診や視診などの診察やレントゲン、CTなどの画像検査、血液検査、気管支鏡検査などを行い、患者の症状を把握した上で診断を下します。そして、薬物療法、酸素療法、人工呼吸器管理、禁煙指導などから患者の状態に合わせた治療を行います。

1.1. 呼吸器内科で診る病気

呼吸器内科で診る主な病気は下記のようなものがあります。

【感染症】

呼吸器系の感染症は、呼吸器内科で一般的に診療される病気の一つです。
代表的なものとして、風邪(感冒)があり、これはウイルスや細菌による上気道の急性感染症です。また、気管支炎は気道の粘膜に炎症が起きる病気で、激しい咳や痰を特徴とします。重症度が高いものとして肺炎があり、これは肺の組織に炎症が生じ、発熱や呼吸困難を引き起こす感染症です。

季節性の感染症としては、インフルエンザが挙げられ、突然の高熱や全身症状を伴う急性呼吸器感染症として知られています。それぞれ適切な診断と治療が必要であり、状況に応じて抗生物質や抗ウイルス薬による治療が行われます。

    【慢性疾患】

    慢性閉塞性肺疾患(COPD) 

    COPDは、たばこの煙など有害物質の吸入や大気汚染によって引き起こされます。肺や気管支が炎症を起こし、この状態が進行すると肺胞が破壊され、酸素と二酸化炭素のガス交換が行えなくなる肺気腫になります。 また、一度、破壊や変化を起こした肺は元の状態には戻すことができません。

    COPDの症状は、咳や痰、息切れなどが現れ、歩行時呼吸困難など、日常生活に支障をきたす場合があります。

    COPDの治療としては、自覚症状を軽減するために気管支拡張薬の吸入や去痰剤の投与などを行います。しかし、慢性疾患であるため、患者が自身の病気を理解し、病気と付き合うセルフマネジメントの能力を付けることで、治療の継続を行うことが重要になります。

    気管支喘息

    気管支喘息は、気管や気管支でアレルギーによる炎症が起こることで発症します。炎症により気道が過敏になり、気温や気圧などの自然環境の刺激に反応することで気管支が狭くなります。その結果、発作性の呼吸困難や咳、喘鳴、息苦しさなどの症状がでます。

    アレルギー疾患の一つである気管支疾患は、基本的に吸入ステロイド薬で治療を行います。しかし、特に症状がない時も弱い炎症反応が慢性的に続いており、改善と悪化を繰り返しています。そのため、治療を継続していくことが必要です。また、日常的に気道の炎症を抑え、喘息症状をコントロールしていくために、医師は問診や検査に基づき客観的な評価をしてくことが重要です。

    【肺がん】

    肺に発生する悪性腫瘍で、早期発見が重要です。呼吸器内科では、診断から化学療法まで幅広く対応します。診断方法としては、胸部CT検査や気管支鏡検査、CTガイド下肺針生検、経皮的針生検などの精密検査で病変の位置や性状を確認し確定診断をとります。

    その後、他の臓器のCT検査やMRI検査、骨シンチグラフィー、PET、腫瘍マーカーなどの検査で病変の広がりや転移があるかなどを調べ、呼吸器科医や放射線科医など協力し、治療方針を決めたり、治療効果を予測したりします。治療としては、外科治療(手術)、放射線治療、薬物療法の3つに大別されます。

    【睡眠時無呼吸症候群(SAS)】

    睡眠時無呼吸症候群は単に薬物療法で治るものではなく、生活習慣を見直すことで治るパターンや機器を導入したり、手術が必要であったりと様々です。そのため、治療法や処方を決める際には、原因や重症度を調べるしっかりとした検査が必要になります。

    睡眠時無呼吸症候群は、高血圧や不整脈など循環器や呼吸器の障害など合併症を引き起したり、日中の眠気から居眠り運転をしたりなど、命に危険が及ぶ場合もあります。また、患者が治療効果を自己判断するのは危険なため、定期的な診察を受けるように促し、医師が評価していく必要があります。

    このほか、最近は、喫煙と呼吸器疾患との関連性から、禁煙外来での禁煙治療も注目されています。

    2. 呼吸器外科とは

    呼吸器外科は、呼吸器系の疾患や外傷に対して、主に胸部の外科的治療を専門とする診療科です。呼吸器内科が内科的アプローチを中心とするのに対し、呼吸器外科では手術を主な治療手段としています。

    呼吸器外科医は、手術の専門家として高度な外科的技術と知識を持ち、患者の状態を総合的に判断した上で、手術方法を選択します。また、術前・術後の管理や、化学療法、放射線療法など他科との連携も重要な役割です。

    2.1.呼吸器外科で診る病気

    呼吸器外科で診る主な病気は下記のようなものがあります。

    【肺がん】

    肺がんは、呼吸器外科で扱う代表的な病気で、様々なステージの悪性腫瘍に対して手術による外科的アプローチが用いられます。がんの進行度や患者の状態によって開胸手術のほか、最近は低侵襲な胸腔鏡手術やロボット支援手術なども増えてきました。

    【胸部外傷】

    交通事故や転倒などによって、胸部に外傷を負った場合です。肋骨骨折、肺挫傷、気胸、血胸など、様々な合併症が起こるケースがあり、重度の場合、緊急手術などの対応を行います。

    【気胸】

    肺の表面に穴が開き、空気が漏れてしまう病気です。症状は、咳、呼吸困難、胸痛などが現れます。自然気胸や続発性気胸に対して、重症度によっては胸腔ドレナージや手術が必要となる場合があります。

    このほか、心臓と肺の間にある縦隔に発生する腫瘍である縦隔疾患や、胸膜炎などの胸膜疾患、肋骨骨折や胸壁感染症なども診療対象です。

    3. 呼吸器科医の給与と働き方

    呼吸器科医は勤務する医療機関によって働き方が異なり、それぞれ給与にも特徴があります。
    ここでは呼吸器科医の平均的な年収を確認した後に、呼吸器科医の具体的な勤務先を3か所上げ、それぞれの働き方や給与を紹介していきます。

    3.1. 呼吸器内科医と呼吸器外科医の平均年収

    呼吸器内科医の平均年収は約1,570万円で、呼吸器外科医の平均年収は約1,600万円と、外科の年収は内科よりも少し高い結果となっています。
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    どちらも2,000万円を越える求人がありますが、医師不足が深刻な地方や過疎地域の求人が多いので、年収を上げる方法として、地方の医療機関での勤務に目を向けることもひとつの手です。

    3.2. 勤務先別の特徴

    呼吸器科医の主な勤務形態とその特徴を紹介します。

    急性期病院の働き方と給与

    急性期病院では、重症の肺炎や喘息発作、COPD急性増悪といった緊急性の高い症例を多く扱います。そのため、呼吸器科医は24時間体制で対応を求められるケースが多く、夜間・休日の当直や呼び出しも頻繁で多忙な働き方となります。

    したがって、時間外労働や当直業務が多いため、給与水準は高くなる傾向にあります。
    病院の規模にもよりますが、急性期病院は最新の医療技術や設備に触れる機会が日常的にあり、専門性を高めるには適した環境といえます。

    慢性期病院、介護老人保健施設の働き方と給与

    慢性期病院や介護老人保健施設(老健)では、主に長期療養中の患者や高齢者を担当します。例えば、寝たきり患者の誤嚥性肺炎などの治療や人工呼吸器管理などを行うこともありますが、呼吸器疾患以外にも、全身管理が必要な患者を診ることが多いため、幅広い医学知識が求められます。

    急性期病院に比べて急患対応は少ないので、比較的ゆとりある勤務が可能です。給与面では、特に当直回数が多い介護老人保健施設(老健)で働く場合、比較的高い水準となることが多いです。

    無床クリニックの働き方と給与 

    呼吸器科を標榜する無床クリニックでは、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性疾患管理や軽症患者の外来診療をおこないます。そのため、急患対応や夜間・休日の勤務もほとんどないため年収水準はそれほど高くないものの、育児が必要な女性医師などワークライフバランスを重視する医師に人気があります。

    ただし、こうした働きやすさにより、競争倍率は高く、給与水準は病院勤務に比べてやや低くなる傾向があります。一方で、都市部では高い専門性と豊富な経験を持つ医師を高給で募集するクリニックも存在します。

    4. 高まる呼吸器医療のニーズ

    日本の医療現場では、高齢化社会の進展に伴い、呼吸器疾患の患者数は増加傾向にあります。
    呼吸器内科と呼吸器外科へのニーズがますます高まっている現状を紹介します。

    4.1. 呼吸器内科が必要とされる理由

    呼吸器内科の重要性は、近年急速に高まっています。その背景には生活習慣の変化や環境要因などいくつかの要因が挙げられます。

    【生活習慣による要因】
    1. 喫煙
    喫煙は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がんなどの呼吸器疾患の主要なリスク要因です。喫煙者の増加や、受動喫煙の影響も問題となっています。

    2. 運動不足
    運動不足は全身の健康に影響を及ぼし、呼吸器の機能低下を招くことがあります。特に高齢者においては、運動不足が肺活量の低下につながることがあります。また、長時間のデスクワークによる運動不足も要因にあげられます。

    3. 食生活の乱れ
    近年では食生活に欧米化も進んでおり、不健康な食生活は免疫力の低下を招き、感染症に対する抵抗力を弱める可能性があります。これにより、呼吸器感染症のリスクが高まることがあります。

    【環境要因】
    1. 大気汚染
    都市部を中心に大気汚染が深刻化しており、微小粒子状物質(PM2.5)や二酸化窒素(NO2)などが呼吸器に悪影響を及ぼすことが知られています。

    2. 気候変動
    気候変動により、アレルギーを引き起こす植物の花粉の飛散時期が変化したり、極端な気象条件が増加したりすることで、呼吸器疾患のリスクが高まることがあります。

    結果として、これらの要因が複合的に作用し、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性呼吸器疾患の患者が増加することが予測されています。いずれも長期的な管理が必要であり、呼吸器内科医による継続的なケアが不可欠となっています。

    また、日本社会の高齢化が進む中で、肺炎患者、特に誤嚥性肺炎の患者数が顕著に増加しているのも大きな理由の一つです。厚生労働省「2022年人口動態統計」によると、肺炎による死亡数は7万4,002人で日本人の死因の第5位を占めています。

    日本の主な死因の構成割合
    「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」より当社にて加工

    そして、慢性気管支炎や肺気腫を総称したCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は「肺の生活習慣病」として注目を集めており、早期発見・早期治療の重要性が広く認識されるようになってきました。

    呼吸器内科医のニーズは全国的に拡大していますが、現状では呼吸器内科医の数が十分とは言えず、特に地方では深刻な医師不足が問題となっています。また、呼吸器疾患は免疫力低下やフレイルとの関連性が指摘されており、高齢化に伴い呼吸器内科の需要はさらに高まると考えられます。

    参照:厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」

    4.2. 呼吸器外科が必要とされる理由

    呼吸器外科もまた、近年重要性が増しています。主な理由として、肺がん患者の増加が挙げられます。
    日本では、部位別がん死亡率の第1位は肺がん(男女計)となっています。

    国立がん研究センターの呼吸器外科では、肺がんを中心に多岐に渡る外科治療を行っていますが、2023年の手術総数746件に対し原発性肺がんは650件と8割以上を占めています。このように肺がんの手術は多く、この傾向は今後も続くと予想されます。

    呼吸器外科領域では、胸腔鏡手術やロボット支援手術、VATSなど、様々な医療技術が導入されており、より難易度の高い手術への対応が可能となっています。また、周術期治療の選択肢も増えており、治療の幅が広がっています。このような状況において、高度な手術技術だけでなく、薬物療法に関する知識も備え、多職種連携のチーム医療の中心となれる呼吸器外科医の需要が高まっているのです。

    5. 呼吸器内科医・呼吸器外科医になるには

    呼吸器内科医や呼吸器外科医を目指すには、初期研修を修了し、日本専門医機構の基本領域から内科専門医または外科専門医の資格を取得します。その後、呼吸器内科または呼吸器外科のサブスペシャルティ領域へと進むことになります。

    サブスペシャルティ領域一覧

    日本呼吸器学会の規定によると2024年度の申請要項では、下記のようになっています。

    ・申請時に日本呼吸器学会の会員であること
    ・内科または外科医の専門医資格を取得し、取得年度も含め、日本呼吸器学会の会員歴が3年以上であること
    ・内科または外科医の専門医資格を取得後、認定施設や指定施設などの関連施設で3年間、所定のカリキュラムに従い、研修を受け終了した者
    ・呼吸器関連の業績報告のため、呼吸器病学関係の論文3編および呼吸器関連学会での発表3編 を行うこと
    ・臨床呼吸機能講習会の受講をすること

    このように、呼吸器内科医や呼吸器外科医になるには、医学部卒業後少なくとも7年以上の研鑽が必要です。

    参照:一般社団法人日本呼吸器学会「専門医 – 認定申請」
    参照:日本専門医機構「サブスペシャルティ領域一覧」

    6. 呼吸器領域におけるAIの現状と未来     

    呼吸器科は、AIの活用が急速に進んでいる診療科の一つです。特に画像診断と呼吸器管理の分野で、AIの導入による次のような革新的な進展が見られます。

    6.1. 画像診断におけるAIの活用

    画像診断の分野では、AIを用いた胸部X線画像からの肺機能推定が注目を集めています。大阪公立大学を中心とする研究チームが、14万枚以上の胸部X線画像を用いてAIモデルを開発し、高精度で肺機能を推定することに成功しました。

    このAIモデルは、推定精度の高さで大変優れており、AIによる推定値と実際の肺機能検査の測定値とを比較したところ、非常に高い一致率が確認されました。
    特に、従来の肺機能検査に代わる新たな手法として、次のような場面での活用が期待されています。

    • 認知症患者や小児など、通常の肺機能検査が困難な患者への適用
    • COVID-19などの感染症流行時、通常の検査が実施できない状況での代替検査方法
    • 胸部X線撮影のみで肺機能も推定できることによる検査の効率化

    参照:大阪公立大学「AIが肺機能を推定! 胸部X線画像を使用した高精度モデルを開発」

    6.2. 呼吸器管理におけるAIの活用

    人工呼吸器に関連するインシデントは年間150~200件程度発生しています。それらのインシデントを防ぐために、ヒューマンエラーを予防する確認業務や安全管理の教育が追加され、看護師の業務量が増加している現状があります。

    これらのインシデントや看護師の業務負担を軽減するために、呼吸器管理の分野では、AIを活用した人工呼吸器ケア支援システムの開発が進められています。

    現在研究されているAIを活用した解決策は、下記のようになっています。

    ・人工呼吸器関連のインシデントを予測するためのデータベース開発
    ・AIを活用したインシデント予測アルゴリズムの構築
    ・インシデント予測モデルに基づいた、人工呼吸器に関連する安全管理教育の検討

    参照:科研費「AIを活用した人工呼吸器ケア安全管理支援システムの開発 (KAKENHI-PROJECT-23K09934)」

    7. まとめ

    本記事では、呼吸器内科・外科に分けて、その特徴やニーズを解説しました。

    どちらの科であっても関わるであろう肺炎やCOPD、肺がんなどの呼吸器疾患は年々増加しており、高齢化が進む日本において、呼吸器内科・外科の専門医の需要はさらに高まっています。

    また、呼吸器科はロボット手術の導入や薬物療法が進展しており、AIを用いた画像診断にも成功しています。さらに、呼吸器管理に関してもAIの導入研究が進められているため、最新の医療を活用し、専門性を高めたい医師にはやりがいに感じられるでしょう。

    今回の解説した内容を参考に、自身に最適な診療科を考えてみてはいかがでしょうか。