小児科医の高まるニーズの実態とは?やりがい、年収、働き方まで解説

小児科医は子どもの病気の治療や予防だけでなく、成長・発達を見守り、健やかな未来をサポートする診療科です。子どもの笑顔に元気をもらい、医師としてのやりがいを感じられる魅力的な分野でもあります。

しかし、少子化の影響で小児科医の需要は減少していくのではないかとの見方があります。 その一方で、実際は小児医療の重要性が高まっており、小児科医のニーズはむしろ高まっているのです。

そこでこの記事では、小児科医のやりがいや年収、キャリアパス、今後の需要を含めた将来性について紹介します。小児科医という選択肢に少しでも興味がある方は、最後までご一読ください。

1. 小児科医とは

小児科医は、生まれてから大人になるまでの子どもの成長と発達を総合的にサポートする医師です。病気の診断や治療はもちろん、予防接種や健康診断における健康管理も重要な役割です。また、子どもの家族や地域の人々に対する支援など、子どもの健やかな成長を見守る役割も担います。

日本小児科学会では、小児科医は「子どもの総合医」をキャッチフレーズに掲げています。子どもの病気は、成長段階や発達状況によって症状や治療法が異なる場合が少なくありません。例えば、同じ発熱であっても、乳児と小学生では症状の出方や重症度が異なることがあります。また、薬の投与量や種類も、年齢や体重によって調整が必要です。

乳幼児では保護者への病歴の聞き取りや、丁寧な説明・サポートが重要となる一方、思春期では本人のプライバシーに配慮した対応が求められます。このように、小児科医は、子どもの年齢や発達段階に応じて、身体的・精神的・社会的な側面に配慮した総合的な医療を提供することが求められます。

参照:小児科医 – 職業詳細 _ job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
参照:小児科医は子どもの総合医です|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY

参照:『小児診療の実際』|日本医師会総合政策研究機構

2. 小児科医のやりがいや魅力

小児科医には、他の診療科では得られないやりがいや魅力がたくさんあります。

下記で、その中でも特に大きな3つの魅力を紹介します。

2-1.子どもたちの成長を見守る喜び

小児科医の仕事は、子どもの不安な心を落ち着かせて信頼関係を築いたり、重症化しやすい年齢層を診療するため臨機応変な対応力が求められるなど、大変な面もあります。しかし、子どもの成長を間近で見守り、健やかな発達をサポートできることは小児科医ならではの喜びです。例えば、定期的な健康診断や予防接種を通して、子どもの成長を感じることができます。

小児科医は、子どもたちの未来を担う大切な存在です。「子どもたちの無限の可能性を守りたい」「一人でも多くの病気の子どもを救いたい」という志の高い医師が多く、日々、子どもたちの健康と成長のために尽力しています。

子どもの不安な心を落ち着かせて信頼関係を築いたり、重症化しやすい年齢層を診療するため臨機応変な対応力が求められるなど、大変な面もあります。しかし、病気と闘う子どもたちが治療を経て笑顔を取り戻していく姿は、医師として何物にも代えがたい感動を与えてくれるでしょう。

2-2.キャリアアップと専門性の向上

小児科には、総合診療から新生児内科、小児循環器内科、小児神経内科、小児脳神経外科などさまざまな専門分野があり、幅広い知識と技術が求められる分野です。そのため、常に新しい知識や技術を学び続ける必要がありますが、その分、医師としてのスキルに成長を実感できる機会も多いでしょう。

診療科によっては夜間や休日の呼び出しがあるなど、体力的に厳しい面も少なくありません。しかし、日々の診療を通じ自分の興味や適性に合わせて専門性を高め、キャリアアップを目指すことが可能です。

2-3.理想のワークライフバランスを実現

小児科医は、他の診療科に比べて女性医師の割合が高い傾向があります。厚生労働省によると、女性医師の診療科別割合は1位内科(14.7%)に次ぎ、小児科は2位(8.4%)です。そのため、育児と仕事を両立しやすい環境が整っている病院も少なくありません。

産育休や時短勤務、非常勤勤務など、自分のライフスタイルに合わせて働き方を選択できることも、小児科医の魅力の一つです。仕事とプライベートのバランスを大切にしながら、医師としてのキャリアを築いていくことができます。

参照:『令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』|厚生労働省
参照:『ようこそ小児科へ』|日本小児科学会

3. 小児科医の年収

3.1 データで見る小児科医の年収

独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(2012年)によると、小児科医の平均年収は1,220万5,000円と、全診療科の平均年収をやや下回っています。

しかし、直近の大手医師転職サイトの求人情報によると、年収相場は1,300万円~1,900万円程度となっており、2012年の調査時よりも上昇傾向が見られます※

※調査方法:大手医師転職サイト3社に掲載された求人より算出(2024年4月時点)

3.2 年収が低めである2つの理由

小児科医の年収が他の診療科よりも低めと言われる理由は、主に下記2つが考えられます。

1.時短勤務や非常勤勤務の医師が多い

子育て中などの女性医師など、ライフスタイルに合わせて働く医師が多い特徴があります。そのため、時短勤務や非常勤勤務を選ぶ傾向が大きく、全体の平均年収を押し下げていると考えられます。

2.女性医師が多い

令和4(2022)年度の厚生労働省の調査によると、全診療科における女性医師の割合は23.6%ですが、小児科においては病院で38.2%、診療所で34.2%と、他の診療科よりも高い割合となっています。女性医師は、出産や育児のために離職や、時短勤務を選択するケースが多いため、平均年収が低くなる傾向にあります。

しかし、上記の理由の裏を返せば、小児科医はライフスタイルに合わせて柔軟な働き方ができるとも言えます。時短勤務や非常勤勤務など自分に合った働き方を通じ、仕事と家庭を両立させやすくなるためです。

また、在宅医療やオンライン診療など、多様な働き方が可能になってきており、自分のライフステージや希望に合わせて働き方を選択できるという点は、小児科医の大きな魅力と言えるでしょう。

参照:令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』|厚生労働省 

4. 小児科専門医になるには

小児科専門医を目指すためのステップを紹介します。

医師免許を取得後、全国の臨床研修病院で2年間の初期臨床研修を行います。内科、外科、救急など、様々な診療科をローテーションしながら、医師としての基礎を身につけます。

初期臨床研修修了後、日本小児科学会が認定する小児科専門研修プログラムに参加します。プログラムは3年間で、大学病院や総合病院などの研修施設で、小児科診療に必要な知識や技術を習得します。

専門医研修プログラムを修了すると、小児科専門医試験の受験資格が得られます。試験に合格すると、晴れて小児科専門医として認定されます。

小児科専門医の資格制度の詳細は、日本小児科学会や日本専門医機構の公式ホームページをご確認ください。

小児科専門医の取得は、決して簡単な道のりではありませんが、海外留学や出産・子育てをしながら資格取得を目指す医師もいます。

また、専門分野をさらに絞り込み、小児循環器専門医や小児神経専門医などのサブスペシャルティ資格の取得も可能です。特に、日本小児科学会は、日本新生児生育医学会や日本小児血液・がん学会、日本小児腎臓病学会など23の多様な分科会を持ち、サブスペシャルティのスキルアップを積極的に支援しています。「子どもの総合医」としての役割と共に、より専門性の高い小児医療の実現を目指すことができます。

参照:小児科医 – 職業詳細 _ job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
参照:『ようこそ小児科へ』|日本小児科学会

5. 小児科医の活躍する現場

小児科医の活躍の場は、病院やクリニックだけではありません。

専門性を活かして、下記のような現場で活躍できます。

  • 勤務医

大学病院や総合病院、小児科専門病院などで、外来診療、入院診療、救急診療などを行います。専門性の高い医療を提供し、重症な子どもの治療に携わることも可能です。

  • 開業医

小児科クリニックを開業し、地域の子どもたちの健康をサポートします。身近な存在として、子どもたちの成長を見守り、病気の予防や早期発見に貢献します。

  • 在宅医療開業医

在宅医療専門のクリニックを開業し、自宅で療養生活を送る子どもたちをサポートする働き方です。定期的な訪問診療や緊急時の対応など、子どもたちが安心して過ごせるよう、きめ細やかな医療を提供します。

  • 医系技官

医系技官として、小児医療に関する政策立案や制度設計に貢献します。現場の声を政策に反映させ、子どもたちの健康を守るための仕組みづくりにマクロの観点から貢献できる有意義なキャリアパスです。

  • 世界各地で働く

国際機関や医療NGOなどで、途上国の子どもたちの医療支援を行います。発展途上国では医療制度が整っておらず、小児科医が不足している国がほとんどです。その結果、予防や簡単な治療で回復するはずのこどもたちが苦しんでいます。このような状況から発展途上国のこどもたちを救うため、日本で学んだ小児医療の知識や経験を提供することで、世界で活躍している小児科医も少なくありません。 

このように、小児科医の活躍の場は多様に広がっています。自身の興味や関心、ライフスタイルに合わせた働き方を選ぶことができるでしょう。

参照:『ようこそ小児科へ』|日本小児科学会

6. 小児科医の将来展望

少子化が進む現代においても、小児科医の需要は決して減少していません。

小児科医の将来展望について、国や日本小児科学会の取り組みを中心に紹介します。

6.1 少子化でも小児医療体制強化が推進されている

将来的に少子化が加速していく日本では、小児科医の需要は減少していくのではないかと考える方も多いかもしれません。しかし、子ども一人ひとりを健康に、大切に育てていくためには小児科医の存在が必要不可欠であるといった考え方が強まっています。

このような状況を踏まえ、日本小児科学会は小児科医の増加を図るために労働環境の整備や採算性の確保などの対策が必要と国に働きかけ、国も小児医療の体制構築に力を入れています。

例として、厚生労働省は、小児医療体制の強化を重点課題の一つとして掲げ、下記の具体的な施策を推進しています。

小児中核病院や小児地域医療センターがない地域において「小児地域支援病院」を設定し、地域に必要な入院診療を含む小児診療体制確保を目指します。また、地域で活躍する小児科医の育成や、地域住民の小児医療への理解を深めるための情報発信などの取り組みを進めます。このほか、代診医の確保やタスクシェア・タスクシフトなどを通じて勤務環境改善を図り、小児科医の負担軽減へと繋げます。

参照:『小児医療について』|厚生労働省
参照:日本小児科学会小児医療委員会報告「地域における教育分野との連携」web調査

6.2 発達課題をもった小児への小児科医の対応

2022年の文部科学省の調査によると、小中学生の8.8%の子どもが発達障害を抱えており、教育、福祉、医療の連携強化など社会を挙げて支援が必要です。

一般的に、発達障害の診断や治療は児童精神科や小児神経科、発達外来などで行われています。しかし、小児科医も学校・家庭との連携を通じて子どもたちの成長と発達を総合的にサポートする役割を担っており、教育現場での取り組みも進んでいます。

例えば、教育委員会が作成した要発達支援児のリストに基づいて学校を訪問して診察を行い、個別相談や医療受診の手配、学校へのフィードバックを行っています。また、幼稚園や保育園で5歳児健診の診察や行動観察を通じ作成した支援シートを小学校に共有します。こうした継続的な活動や支援により早期発見・早期支援に繋げ、親の育児不安の軽減や、不登校や精神疾患の減少にもつながることが期待されます。

このように、多角的なサポートが必要な発達支援において、発達障害を抱える子どもたちとその家族にとっても小児科医の役割はますます重要になっています。

参照:小中学生の8.8%に発達障害の可能性 文科省調査 – 日本経済新聞
参照:日本小児科学会小児医療委員会報告「地域における教育分野との連携」web調査

7. まとめ

本記事では、小児科医のやりがいや年収、キャリアパス、将来性について紹介しました。

  • 子どもたちの成長を間近で見守ることができる大きな喜びがある
  • 専門性を高め、勤務医や開業医はもちろん多彩な分野でキャリアアップできる
  • 勤務時間や年収は平均より低めだが、ライフスタイルに合わせた働き方ができる

上記のように小児科医は多くのやりがいや魅力を兼ね備えたお仕事です。今後は子ども一人ひとり健康を大切に育てていくため、発達の段階に起こりえる様々な悩みや問題に寄り添える小児科医が求めれています。親の抱える育児不安や増えつつある不登校や精神疾患など、心の問題についても理解を深め、教育分野などとの連携を取ることが必要となるでしょう。