小児在宅医療とは?仕事内容や医師が求められる背景を解説

小児在宅医療 医師

日本では、子どもの出生数が年々減少している反面、高度な小児医療を担う医師が必要とされるケースが増えており、現場では人材確保が求められている現状があります。
その中でも、小児在宅医療の分野は今後注目の領域の一つとなっており、同時に人材育成が求められています。
「小児在宅医療の現状について詳しく知りたい」
「子どもが減っている中で、どうして小児在宅医療が注目されているのか」
と興味を持っている医師に向けて、今回は小児在宅医療の概要や注目されている理由・役割などについて解説していきます。

1. 小児医療の置かれた現状とは?

Number of Births and Total Fertility Rate

画像(厚生労働省:出生数、合計特殊出生率の推移)

人口統計を出すための指標とされる合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)は年々低下しています。
出産適齢期の女性人口も減少傾向が続いているだけでなく、婚姻数の減少などで「今後ますます少子高齢化は進行するのではないか」と予想されています。

また、日本の乳児死亡率は戦後間もない1947年に76.7(出生千対)でしたが、2005年には2.8、2021年に過去最低の1.7となりました。
出生数が減少し、乳児死亡率が下がることにより、現在の小児医療はどのような状況に置かれているのでしょうか?

1-1.少子高齢化が与える影響

少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少するにつれ、小児人口の過疎化が進みます。
小児人口が減少すると特に人口密度の少ない地域の小児科医が減り、ひとりの小児科医が多くの小児患者を支え、疾患を見ていかなくてはなりません。地方になればなるほどその傾向は強く現れます。現在、小児科医数は増加傾向にはありますが、都道府県格差は広がりつつあります。

〇参考:政府統計の総合窓口(e-Stat)「人口動態調査 人口動態統計 確定数 乳児死亡」
〇参考:小児保健研究 73(6):767-767,2014.「少子高齢化社会において地方の小児医療をどう守るか」

1-2.医学の進歩による患者病態の変化

日本では1970年ごろからNICUの設置が始まりました。そこから日本の新生児医療は急速に成長し、以前なら救うことのできなかった子どもを多く救えるようになりました。その結果、出生直後から高度な医療を必要する子どもが増え、さらには人工呼吸器や気管切開、経管栄養等の医療ケアが常に必要な子ども増加しました。

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小児人口が減少しているのに相反し、小児の病院受診率は年々増加しています。
また、入院数に関しては減少傾向にあります。これらのバランスの変化は、以前は入院対応により治療が必要だった疾患が、一次予防(健康診断や予防接種)の普及や疾患のコントロールを外来や在宅医療で対応できる幅が広がっていることが推測できます。

〇参考: 一般財団法人厚生労働統計協会「日本における小児患者数の推移と疾病構造の変化」
〇参考:厚生労働省「小児医療に関するデータ」

1-3.近年の出産を取り巻く環境

近年の産科では不妊治療の進歩などにより、妊婦の出産年齢の高齢化・女性の妊娠前の過度なダイエットを行った弊害などによって、早産児や低出生体重児と言われる未熟児が増加していることも挙げられます。

出生前診断を受ける妊婦の増加や前述の未熟児が増えたことで、出生直後から新生児集中治療室(NICU)での治療が必要な新生児の割合が増えているのが現状です。
しかし、地域によってNICUの受け入れ態勢にはばらつきがあり、決して小児医療が十分とは言えません。NICUに余裕のある地域はなく、全国的にベッド数は不足しています。

総合病院でも、小児科は診療科として常勤医師が複数配置されている病院は多くありません。特に、新生児科医は特に不足していて、場合によっては迅速な医療体制を取れないことが問題となっています。
新生児医療・高度な小児医療以外を担う小児科医師や、小児専門の診療所や診療科の数は微増傾向にあるが地域差は否めません。

〇参照:厚生労働省「小児医療に関するデータ」
〇参照:厚生労働省出生数、合計特殊出生率の推移

2. 小児在宅医療の現状と課題

在宅医療の充実については、高齢者や成人・小児といった年齢を問わず求められています。
在宅医療の充実が、日本の医療・保健システムを維持していくために重要だと位置付けているだけでなく、NICUの受け入れ態勢に限界がある以上、小児在宅医療体制の確立は病院の医療体制を維持するためにも欠かせません。

その中で、小児在宅医療を推進していくことは、在宅ケアを必要としている子どもたちが増えている日本にとっての課題になっています。また、小児在宅医療の対象となる子どもの特徴として、複数の医療機器を使用していたり、気管切開など気道管理が重要であったり、24時間介助者が必要である場合が多くなります。
そのため小児医療全体を維持していくためにも、今後の人材育成や医療体制整備の充実が必須となります。
地域によって小児医療の充実度には差がありますが、それぞれの地域で課題に向き合って地道に取り組むことが、結果的に小児医療全体の底上げにつながっていくと考えられます。

3.小児在宅医療で対象となる病気や症状

多い症状としては、呼吸器装着や気管切開・胃ろう・静脈点滴による栄養補給などが挙げられます。
特に、重い喘息などの呼吸器疾患や染色体異常を含む先天性疾患・神経筋疾患・重症のてんかん・小児がん・NICUを退院した神経疾患や心疾患を持つ小児・その他さまざまな理由で通院困難な子どもが対象となっています。
その中で、医師は気管切開や人工呼吸器の管理・胃ろう・中心静脈栄養など高度な医学管理を必要とされることが多いでしょう。
大人と違うのは、子どもが成長していく点です。
特に複雑な先天性疾患を抱えている子どもは、身体の成熟に伴って根治を目指し、体調・成長度合いを見ながら手術を受けて成長していきます。その経過において、様々な医学管理やサポートが必要になることも珍しくありません。

例えば、ヒルシュスプルング病で新生児期に小腸を切除、短腸症候群となった子どもは、新生児期から中心静脈栄養だけでなく、人工肛門や胃ろうなどを造設することもあり、何年にもわたってCVラインの管理が必要です。人工肛門となれば、排便などのケアも必要です。
今までの医療では救うことのできなかった、または長く生きることが難しかった子どもたちに対する医療が進歩したこともあって、手厚いケアを必要とする場面が増えていると言えます。

〇参照:厚生労働省「総論4と各論」
〇参照:厚生労働省「小児_総論」
〇参照:厚生労働省「小児在宅医療」
〇参照:日本小児在宅医療支援研究会

4.小児在宅医療で連携する他の専門職について

診療を必要とする子どもが、通院と在宅医療を併用している場合は通院先の医師との連携は欠かせません。
また、訪問診療専門の看護師・薬剤師・ソーシャルワーカー・保健師といった医療関係者とも関わる機会が増えますが、必ずしも医療関係者だけではありません。
就学年齢に達した子どもを担当する場合は、通学状況によって教師・養護教諭・スクールカウンセラーといった学校関係者、時には教育委員会などの行政関係者とも話をする場面が出てきます。
それぞれの専門性を持ち寄ることはもちろんですが、子どもの年齢によっては就学支援も必要となってくるので医療関係者以外にも幅広い専門家・担当者と連携を求められる場面が出てくることが特徴です。

5.求められる能力・知識や経験

小児在宅医療に携わるために、求められる経験や知識を紹介します。

5-1.コミュニケーション能力

小児在宅医療の現場では、多くの医療専門職や学校関係者・行政担当者と連携が必要となります。また、子どものご両親や家族と密な関係を築き、よりよい医療が提供できるようにサポート体制を作っていく必要があるでしょう。
もちろん、患者である子ども本人とのコミュニケーションも大切です。様々な専門を持つ担当者やご両親・家族とのコミュニケーションはもちろん、時には子ども目線で柔軟に話ができるとより良い医療を提供できるのではないでしょうか。子どもの間で流行っているアニメやキャラクターを知っておくだけでも喜ぶでしょう。

5-2.指定難病・先天性疾患の知識

指定難病・先天性疾患の知識や治療経験、そして最新の医療情報を知っておくと役立ちます。特に最新の医療情報は、研究が進んで新たな治療法が出てくることも考えられます。
できるだけ、最新の情報を得られるように他の小児科医とも連携しておくといいのではないでしょうか。

5-3. 地域の子育て支援や子供を対象とした医療制度

現在、少子化対策として各市町村が独自の子育て支援策を打ち出すことが増えています。
特に、子育て世代の移住を目的にした手厚い支援策を発表している地域もあり、今までなかった制度がつくられるケースもあります。
一般的に多いのが一定年齢までの医療費免除ですが、その地域ならではの制度も多種多様です。ぜひ、知っておくといいでしょう。

5-4.学校などの教育制度や支援学級の知識

学校など教育に関わる制度や支援学級・支援学校との連携が必要になるケースも考えられます。
教育に関わる制度も年々変わっています。在宅医療を受けている子どもが、学校へ通うにあたり、様々なサポートを話し合ったり、学校へアドバイスをしたりすることもあるでしょう。
特に、地域の支援学級・支援学校の実情について知っておくと、就学年齢に達した子供にとってよりよいサポートができるのではないでしょうか。

5-5. 福祉関係の知識

子どもの症状が重い場合、福祉関係の制度を利用する可能性も考えられます。
ソーシャルワーカーの管轄のため、詳しく知る必要性はありません。しかし、訪問医療先で家族から尋ねられる場面も考えられるため、ある程度の知識を持っておくとスムーズな対応が取れるのではないでしょうか。

6.小児在宅医療に携わるためには

医師国家試験に合格して資格取得後、まずは診療科として小児科を選択し、一般外来や入院病棟で幅広い疾患・けがなどの医療経験を積んでいきます。
その後、より高度な小児医療を行っている大学病院や小児医療を専門とする施設へ転職などで移り、さらに多くの経験を積んでいきます。十分な経験を積んでから、小児在宅医療を行っている病院や診療所へ移るルートを経ている医師が多くいます。
各地域によって、小児在宅医療に対して抱えている課題は様々です。
子どもの数自体が減っている一方で、高度な小児医療を必要とする人の増加に対応するため、各都道府県では積極的な人材育成事業に取り組み、少しでも不足する小児在宅医療の体制充実に力を入れています。
また、公益社団法人日本小児科学会でも、様々な活動を行う中で日本小児保健協会、日本小児科医会、日本小児期外科系関連学会協議会と連携し、日本小児医療保健協議会(四者協)を設置して少しでも人材育成や環境が整備されるよう、厚生労働省などに働きかけています。

〇参照:公益財団法人日本小児科学会
〇参照:厚生労働省「第8次医療計画に向けて(小児医療)」

7.小児在宅医療医師のニーズや求人

小児在宅医療の求人内容は様々です。
フルタイムではなく、週1日から働けるもの、日勤のみで時短勤務が相談できるもの、当直なしなど、必ずしもフルタイム・当直ありでしっかり働かなければならないものばかりではありません。
求人によって条件が異なりますので、最初は勤務医として仕事をしながら並行して非常勤で働き、徐々に小児在宅医療へとシフトすることも可能なのではないでしょうか。
各都道府県が人材育成に力を入れている今、小児在宅医療のニーズは今後より伸びると同時に、求人数が増えていくと考えられます。地域で取り組まれている小児在宅医療人材育成事業を確認し、問い合わせてみるのもいいでしょう。
医師専門の人材紹介会社でも非公開の求人がありますので、自分が働ける条件を整理して少しずつステップアップすることも視野に入れてみてはいかがでしょうか。

〇参照:各都道府県の在宅医療に関する 医療計画に基づく取組状況

8.まとめ

この記事では、小児在宅医療が求められる背景や、仕事内容・求められるスキルや知識をはじめ、実際に携わるためにはどうしたらいいのかを解説してきました。

小児在宅医療は、大人を対象とした医療とは違った一面もありますが成長していく子どものサポートができるという他の診療科にはない一面も持っています。

今後、ますます必要とされることが予想される分野です。キャリアを考える一助として参考にしていただければと思います。