医療業界における働き方の多様性が進む中、「フリーランス医師」というキャリア選択が注目を集めています。
フリーランス医師とは、決まった医療機関に常勤するのではなく、病院やクリニックなどの求めに応じ独立して働く医師のことです。自由度が高く成果が重視される働き方のため、時間外労働の削減や働き方改革の動きとともに医師のキャリアパスに新たな可能性をもたらしています。
ただ、フリーランスと常勤のどちらが将来的なキャリアパスにおいて自分に適しているか、フリーランス医師の働き方が気になる方でも悩みどころではないでしょうか。
そこでこの記事では、フリーランス医師になるための流れやメリット、デメリット、常勤医師との比較を通じて、医師としての将来のキャリアパスを考える情報を紹介します。
目次
1.フリーランス医師に注目が集まる理由
フリーランス医師が注目を集めている理由には、医師の時間外労働の問題が深く関わっています。厚生労働省の調査によると、医師の多くが年間960時間を超える時間外労働をしています。こうした医師の過重労働が続く限り、医師個人の健康と生活の質に悪影響を排し患者のケアの質を向上させることは困難です。
そこで医療業界では、医師の働き方改革が推進されています。
具体的には、2024年4月の働き方改革の施行後、医師の時間外労働に罰則付きの上限規制が設けられ「年間960時間以下/月100時間未満」と定められます。その影響で、多くの勤務医は従来のように自由にアルバイトを行うことが難しくなると予測されています。
実際に「株式会社エムステージ」の調査によると、約37.3%の医師が、2024年4月以降アルバイトの時間や回数が減少すると回答しています。さらに、約48.8%の医師は、働き方改革によって年収が減るのではないかと懸念しています。
また、医師の14%がフリーランスとして働いており、約1割がフリーランスへの転向を検討しています。
このような背景から、常勤医師よりも柔軟な働き方が可能なフリーランス医師に注目が集まっています。
参照:厚生労働省「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」
参照:株式会社エムステージ「『医師の働き方改革』医療機関にアンケートを実施
関連記事:2024年4月に開始する「医師の働き方改革」とは?時間外労働の規制はどうなる?
関連記事:医師がアルバイトとして働く理由は?平均年収や仕事内容を解説
2.常勤医師とフリーランス医師の比較
従来の常勤医師とフリーランス医師の働き方や年収を比較しながら紹介します。
2-1.常勤医師の働き方と年収
常勤医師とは、決まった医療機関の業務に専念する医師です。一般的には週に4日以上の勤務と月に1、2回程度の当直が求められます。
業務内容は多岐にわたり、患者の診療や事務処理をはじめ病院内の会議、教育活動などに追われ、時間外労働を伴う場合があります。常勤での正規雇用による勤務体制のおかげで、医師は安定したポジション と収入を手にできます。ただ、所属先の経営方針や勤務環境などにより、働き方としての柔軟性や自由度には限界があることも否定できません。
ちなみに、厚生労働省「第23回医療経済実態調査」によると、病院の常勤医師の平均年収は約1,467万円とされています。しかしながら、あくまで平均値のため、実際には勤務形態、勤務先の規模、地域、専門分野などによって大きく異なる場合があります。
主な収入は基本給に加えて業績に応じたボーナスや各種手当などです。
参照:厚生労働省「第23回医療経済実態調査」
関連記事:医師の生涯年収を診療科・年齢別などあらゆる角度から徹底解剖!
2-2.フリーランス医師の働き方と年収
フリーランス医師は、決まった所属先や勤務地に縛られることなく、自身の専門性や興味に基づいてさまざまな医療機関で働けるワークスタイルです。
常勤や非常勤、スポット勤務など、多様な形態が考えられます。したがって、フリーランス医師はライフスタイルやキャリア目標に合わせて働き方を柔軟に調整することができるため、個人の自由度とキャリアの多様性が特徴と言えるでしょう。
フリーランス医師の年収は、勤務形態や勤務先、業務内容などによって大きく異なります。例えば、厚生労働省「2021年度賃金構造基本統計調査」によると、1時間当たりの所定内給与額は平均約1万1,231円です。仮に週に20時間または40時間勤務し年間50週働いたと仮定した場合、計算結果は下記の通りです。
● フルタイム(週40時間勤務): 約2,246万2,000円 ● パートタイム(週20時間勤務): 約1,123万1,000円 |
フリーランス医師の収入源は、勤務する医療機関からの報酬や、個人で行う診療、コンサルティングなど多岐にわたります。また、複数の医療機関と契約を結ぶことで収入の安定性を高めることも一般的です。
2-3.福利厚生の違い
常勤医師とフリーランス医師では、福利厚生に大きな違いがあります。
常勤医師 | フリーランス医師 | |
健康保険・年金 | 医療機関が提供する社会保険に加入 | 国民健康保険や国民年金への自己加入が必要 |
雇用保険 | 加入済み(医療機関の手続き) | 非該当 |
退職金制度 | 福利厚生に含まれる場合が多い | 非該当 |
有給休暇 | 法定休暇日数が保証 | 非該当 |
研修・教育機会 | 医療機関が提供する研修制度や教育支援制度あり | 自費での研修参加や資格取得が必要 |
雇用の安定性 | 比較的高い | 比較的低い(医療機関との契約に依存) |
常勤医師は、下記の通り、雇用者である医療機関からさまざまな福利厚生を受けることができます。
● 健康保険・厚生年金 ● 雇用保険 ● 退職金制度 ● 有給休暇 ● 研修制度・教育支援 |
一方で、フリーランス医師の場合、福利厚生に含まれる内容を自分自身で管理する必要があります。
具体的には、国民健康保険や国民年金への自己加入が必須となります。退職金制度ももちろんないので、日々の積立や投資を行うことで退職後の貯蓄をしていくことになるでしょう。
また、スキルアップをしたい場合、自費での研修参加や資格取得が必要です。
この他、勤務がない期間は収入がないため、休暇計画を自己管理しなければなりません。
このように、常勤医師に比べて福利厚生を含めた職業としての安定度は低い点を知っておくことが大切です。
3.フリーランス医師のメリット・デメリット
フリーランス医師のメリット・デメリットを下記で紹介します。
3-1.フリーランス医師のメリット
フリーランス医師のメリットは3つ挙げられます。
・働き方を自由に選択できる
フリーランス医師の最大の魅力は、自由度の高さです。勤務地、勤務時間、専門分野など、キャリアのあらゆる面ですべて自分の判断で仕事に取り組めます。そのため、個々のライフスタイルやキャリア目標に合わせた柔軟な働き方が選択できます。
・常勤医師よりも高収入が見込める
フリーランス医師は稼働時間や勤務条件により、常勤医師を上回る収入が得られる可能性があります。例えば、専門性の高い分野や宿直や健康診断など高報酬の単発・短期勤務などに集中し、効率よく稼ぐ方法が考えられます。
・キャリアの多様化が期待できる
様々な医療機関やプロジェクトを通じて、多様なキャリア経験を積むことができるのもフリーランス医師のメリットです。さまざまな現場で業務を行うことで、医療業界内での幅広いネットワークの構築や、専門的なスキルセットの拡大が期待できます。
3-2.フリーランス医師のデメリット
ここでは、フリーランス医師のデメリットを3つ紹介します。
・仕事や収入が安定しにくい
フリーランス医師の収入は契約内容や勤務量によって変動しやすいため、常勤医師に比べると収入が不安定な傾向があります。また、継続的に収入を得るためには定期的な仕事の獲得が必要となるため、働き方にも一定の安定度の低さが伴います。
・社会保障が薄くなり、自身の負担が大きくなる
前章で詳細を説明しましたが、フリーランス医師は、個人事業主となるため福利厚生を受けることができません。
常勤医のように毎月の給与から保険料が天引きされ、年末調整を行ってくれるわけではなく、自身で確定申告をする必要があります。また、仕事の確保や契約書の作成などを自身で行わなければならない作業が多く発生します。税理士などを雇い対応してもらうこともできますが、コストもかかってくるので注意しなければなりません。
・医療過誤やトラブルが自己責任になる可能性がある
フリーランス医師の行う医療の責任は、基本的に医師自身で持つことになります。医療過誤やトラブルの内容によっては、病院側では対応できない場合や、病院から損害賠償を請求される可能性もあります。
実際に、日本医療安全調査機構の「医療事故調査・支援センター2021年 年報」によると、2021年の医療事故の相談件数は1,685件(医療機関725件・遺族869件)でした。
毎年一定数以上の相談があるため、注意が必要です。
関連記事:医師を守る賠償責任保険について|必要性や補償内容、対象事例まで解説
4.フリーランス医師になるための流れ
フリーランス医師になるための流れをステップ別で紹介します。
よくある質問をQ&A形式で紹介しますので、あわせてご覧ください。
4-1.フリーランス医師になるためのステップ
フリーランス医師になるためには、計画的に準備を進めていくことが大切です。
一般的に、以下のステップを積み上げることでフリーランス医師を目指せます。
ステップ1 キャリアの棚卸しと目標設定
まず、自分の専門分野、興味、ライフスタイル、収入目標をまとめた上で、フリーランスとしてのキャリア目標を明確に設定します。
ステップ2 収支計画を立てる
自分の収入、税金、保険、退職金などの収支管理計画を立てます。必要に応じて、税理士やファイナンシャルプランナーのアドバイスを受けると良いでしょう。
ステップ3 仕事の獲得方法を準備する
他の医師や医療専門家との人脈から仕事の機会がないかアンテナを広げます。医師向け求人情報サイトや人材エージェントなどの活用もおすすめです。
ステップ4 契約を結ぶ
希望する医療機関や施設が見つかったら、報酬、勤務条件、責任範囲などを明確にして契約を締結します。契約書の内容を把握した上で、必要に応じて条件交渉を行いましょう。
ステップ5 スキルアップを続ける
医療業界は常に進化しているため、最新の医療知識や技術を身に付けるための継続的な学習とスキルアップが必要です。個々の専門のスキルを掘り下げる、専門医の資格取得やDX化の研修に参加するなどのアプローチがあります。
4-2.【Q&A】フリーランス医師になりたい人のよくある質問
フリーランス医師になりたい人によくある質問を2つまとめて紹介します。
Q1: フリーランス医師で活躍しやすい診療科はありますか?
A1:救急医療のように緊急性が高く専門性を発揮できる分野が代表例です。人材不足により病院の常勤スタッフだけではカバーしきれない現場が多く見られます。また、心臓病や腫瘍学など特に専門性の高い専門知識や技術を持つ医師も、フリーランス医師として活躍しやすいです。
このほか、一般内科や外科、介護施設などでは、さまざまな現場で単発・短期の案件があります。
Q2: 専門外の診療科でもフリーランス医師として働けますか?
A2:専門外の診療科でも活躍可能ですが、該当する分野に関する基礎知識やスキルを自学や研修に参加して身につけることが重要です。医療機関によっては専門の医師が指導をしながらフォローする場合もあります。
ただ、自身のキャリアや専門的なスキルアップとのバランスを考えながら専門外の診療科のフリーランス勤務を検討することがおすすめです。フリーランス医師の初期で収入が安定するまでの選択肢として捉える視点も大切になるでしょう。
5.フリーランス医師に必要なこと
5-1. 自身で情報収集し、スキルアップを続けていく
フリーランス医師としてのキャリアを成功させるためには、独立して働くこと以上に日頃の努力が重要です。
まず、学会やセミナー、オンライン学習などを通じて、最新の治療法や施術、研究結果に注意を払い、常にアップデートしていく姿勢が重要です。
フリーランス医師になると、新しい手技や薬剤、器材などの情報が減ってしまうため、自身で意識して情報を収集し、勉強を進めていくことが必要です。
また、自身の専門的なキャリアセットを拡充するため、希少な疾患の治療法や高度な技術が求められる術式を集中して身につけることで、他の医師との差別化を図ることができます。
そして、フリーランス医師としてパーソナルブランディングの構築も有効です。SNSや専門ブログ、YouTubeなどの情報発信ツールを活用し、専門的な経験やスキルを持った医師としての知名度を高め、新しい仕事の機会を引き寄せる努力も求められます。
5-2. 柔軟性
フリーランス医師は、様々な職場に向かい、いろいろな人と関わります。
自身の求める医療を貫きたいという医師よりも、その場の雰囲気や流れを上手く読み、立ち振る舞うことができる医師に仕事は集まります。
スキルは重要ですが、それと同様に人間関係を上手に構築し、柔軟に取り組める医師は長くフリーランスを続けていける要素になります。
6. まとめ
フリーランス医師に注目が集まる今、従来の常勤医師とは異なる働き方が可能になっています。自分自身のライフスタイルやキャリア目標にあった柔軟な働き方ができることが、フリーランス医師の大きな魅力です。
働き方の自由度や専門性の高さに魅力を感じる医師が増加し、多くの医師にとって新たなキャリアモデルとなるでしょう。