臨床検査専門医とは?仕事内容や働き方の例・取得方法

臨床検査専門医

臨床検査専門医は臨床検査技師よりも知名度が低いものの、重要性や役割が大きいことから、若手医師を中心に臨床検査専門医会の会員数が増加しています。

臨床検査専門医は、理想的なワークライフバランスを実現しやすいことに加え、自身のキャリアパスを構築できるなど、さまざまな魅力があります。

この記事では、臨床検査専門医の役割や仕事内容、働き方の例などについて詳しく解説します。

1.臨床検査専門医とは

臨床検査専門医は、日本専門医機構が認定する基本19領域の専門医のうちの一つです。

臨床検査専門医は、臨床検査医学という基礎医学と臨床医学を結ぶ架け橋となる総合的な学問分野を修めています。

臨床検査に関する全般的な知識を持ち、臨床検査を通じて得られる診断や治療に役立つ情報、関連する有益な情報を臨床医に提供します。診療科と検査部を仲介する役割を持ち、信頼のおける検査結果の適正性を維持するため臨床検査全体を管理し、患者診療に貢献します。

例えば、臨床検査技師と協力することで的確かつ迅速な臨床検査が実施されるように、検査部の管理や各診療科医師の検査相談を受けるなど、検査業務よりも診療業務の支援を行うことが主な業務になります。

2.臨床検査専門医の仕事内容

臨床検査専門医は検査業務だけではなく、診療や教育も行います。

仕事内容について詳しく見ていきましょう。

2-1.検査業務

血液検査室、遺伝子検査室、免疫検査室などの管理を担当します。

検査装置や検査手順の適切な運用や管理、検査結果の精度管理を行います。

さらに、骨髄像報告書の作成や、その他の検査結果に関するアドバイスも検査業務の1つです。

たとえば、血液検査結果に基づいて治療方針を提案します。

2-2.診療

院内の内科系専門外来を担当します。

診察や診断、治療方針の立案や調整など、他の医師と同じように診療を行います。

2-3.教育

学生や初期研修医の教育も重要な業務です。

実習や講義を通じて臨床検査の基礎知識や技術を教えます。

同時に、臨床検査技師の指導も行い、スキルや知識の向上をサポートします。

2-4.研究・開発

自身の研究テーマに取り組みます。

臨床検査に関連した医学的な課題や新技術の開発など、さまざまな領域に及びます。

同時に、検査技師の研究活動や論文作成の指導も行い、研究能力の向上をサポートします。

2-5.その他

検査部のカンファレンスや各種委員会の会議に参加します。

検査部門の運営や医療の品質管理に関する議論や意思決定に参加し、部門全体の効率化や質の向上に貢献します。

3.具体的な1日の仕事

臨床検査専門医の1日の業務の流れは、常勤か非常勤か、大学病院か一般病院かで異なります。

1日の仕事の流れについて、例を紹介します。

3-1.大学病院常勤医

大学病院の常勤として働く臨床検査専門医は、以下を主な業務としています。

診療業務……検査判読、コンサルテーション、検査部管理
教育……学生や研修医、検査技師の指導
研究

業務内容は曜日によって異なります。たとえば、月曜日の午前は骨髄像判読、午後は内科外来、火曜日の午前中は学生実習、午後は骨髄像判読研究などです。また、曜日によっては検査部管理業務や免疫電気泳動演習なども行います。さらに、他科からの検査に関するコンサルテーション、リサーチミーティング、検査部全体業務会議や血液検査業務会議などが入ります。

大学病院は他科との関わる機会が多く、診療や判読以外の業務も多々あります。

3-2.一般病院常勤医

一般病院の常勤として働く臨床検査専門医の月曜日から金曜日までのスケジュールの例を紹介します。

曜日

午前の業務

午後の業務

月曜日

内科外来(外勤)で診察や治療を行う

検査報告書のチェックを行い、検査の精度や結果の正確性を確認する

火曜日

出身大学で非常勤講師として学生の実習指導を行う

感染症外来(院内)で感染症患者の診断や治療を行う

水曜日

検査センターでの指導を行い、検査技師のスキル向上に努める

検査報告書のチェックを再度行い、必要に応じて追加の検査を指示する

木曜日

骨髄像判読を行い、患者の骨髄像を評価し診断結果を出す

ICTラウンドに参加し、患者の状況をチームと共有し治療方針を確認する

金曜日

院内感染対策会議に出席し、院内感染の防止策や対応方法について協議する

研究活動に取り組み、自身の研究テーマに関するデータ収集や分析を行う

3-3.子育て中の女性医師(大学病院非常勤医)

臨床検査専門医は、大学病院の非常勤としても働くことができます。

スケジュールを柔軟に決めることができるため、子育て中の方も勤務しやすいでしょう。月曜~金曜までのスケジュールの例を紹介します。

曜日

9:00~15:30

月曜日

内科外来(外勤)で患者の受け入れ、診察、処方箋の作成などを行う

免疫電気泳動判定により、血清や尿中の免疫グロブリンの型の判定などを行う

火曜日

免疫電気泳動判定を行う

骨髄像判読により、骨髄中の細胞像を評価して病気の診断や治療法の策定につなげる

水曜日

骨髄像判読を行う

医学生や臨床検査技師の実習生に対する指導や教育を行う

木曜日

医学生や臨床検査技師の実習生に対する指導や教育を行う

骨髄像判読を行う

金曜日

骨髄像判読を行う

※午前のみ出勤

勤務時間は9時~1530分といった時短勤務も可能です。

また、上記のように金曜の午後は勤務しない方法もあります。

臨床検査専門医は医師でありながら柔軟な働き方ができるため、子育て中の方でも働きやすいでしょう。

参照:日本臨床検査医学会「臨床検査専門医についてのQ&A 〜医師として活躍されている方へ〜」

4.臨床検査専門医のキャリア

臨床検査専門医を取得した後のキャリアについて、次のような選択肢があります。

4-1.他の関連した専門医資格の取得

臨床検査専門医

臨床検査専門医を持ちながら、サブスペシャリティ領域の専門医や他の基本領域の専門医資格を目指す方法があります。

現在は、臨床検査専門医の二階として構想されているサブスペシャリティ領域専門医はありませんが、検査室での業務を行う上で候補として上がるのは、超音波や臨床遺伝、人間ドック等の領域が想定されます。これらの専門資格が臨床検査医専門医のサブスペシャリティとして認められれば、取得することで臨床検査全般の専門医としてより幅広い活動が可能になります。

また、2つの基礎領域の専門医を取ることをダブルボードと言いますが、臨床検査専門医を持ちながら他の基本領域の専門医資格を取得することは可能です。時間と努力は必要になりますが、細胞や組織の病理診断を行うことができ、幅広い知識が必要である病理学専門医とのダブルボードを持つ医師も存在します。

参考:公益社団法人 日本人間ドック学会「専門医の在り方に関する検討会報告書」概要および新しい制度での「人間ドック健診専門医」の在り方について」

4-2一般病院の診療科勤務や開業医として活動する

臨床検査専門医は、診療実績を積むことで資格更新の要件をクリアできます。

そのため、検査室で勤務せずとも一般病院で他の診療科で勤めたり、開業医として働いたりしながらキャリアを積むこともできます。

例えば、一般病院での診療科勤務しながら検査室に関わることで診療実績を達成できる可能性があります。また開業医の場合は、非常勤で病院検査室に関わったり、検査センターと契約し診断業務を行ったりすることで、臨床検査専門医の資格を更新できる可能性があります。

4-3.予防医学のチーム医療に関わる

生活習慣病の増加や遺伝子解析技術の進歩により、検査を専門とする臨床検査専門医の役割はますます大きくなっています。

生活習慣病は、食生活や運動習慣、ストレスなどの生活習慣が原因で発症する疾患群であり、心臓病や脳卒中などの主要な死因となっています。

臨床検査専門医は、検査結果を通じてこれらの疾患の早期発見や予防に貢献します。

特に、遺伝子解析技術の進歩により、遺伝子関連検査が重要性を増しています。

これにより、個々の遺伝情報を活用して疾患の発症リスクを把握し、予防的な医療を受けることが可能になります。

臨床検査専門医は、遺伝子検査やその他の高度な検査を通じて、個々のリスクを評価し、適切な対応方法をアドバイスします。

チーム医療の一員として、遺伝情報を含む検査結果を正確に解釈し、患者に適切なアドバイスや治療法を提供することで、疾患の予防や管理に貢献できるでしょう。

参考:日本臨床検査専門医会「JACLaP NEWS No.120/2013.10

5.臨床検査専門医としてキャリアを積む医師の経験談

臨床検査専門医のキャリアプランは具体的にどのようなものなのでしょうか。

下記で、臨床検査専門医を取得し活躍されている2人の医師の経験談を紹介します。

5-1.臨床検査専門医を第二のキャリアと選択し活躍している医師

私は、そもそも治療よりも診断に興味があったため、さまざまな検査に興味を持つようになりました。

そうして内視鏡検査を習得するために消化器肝臓内科に入局し、多くの経験を積みました。

その中で感じたのは、夜間に頻繁に呼び出される状況下では、症例を1つずつ吟味しながら診断するのは困難であることです。

その後、大学院に進学し、超音波で肝臓を検査する臨床研究を行うこととなったのですが、その際に臨床検査医学の方が向いているのではないかと感じました。

そうして臨床検査専門医の道へと進み、受験の際に物学、臨床免疫学、輸血学、臨床生理学など、幅広い知識を習得しました。

このような豊富な知識によって検査能力を習得できれば、自信を持って診断できる医師になれると思います。

5-2.ワークライフバランスを重視しながら臨床医として活躍している医師

臨床検査専門医は、希望によって臨床医としても活動できるため、ワークライフバランスを重視する女性医師に適した職種です。

また、臨床検査部門では夜間の当直が少なく、家庭との両立がしやすい環境が整っています。

大学病院では、教育能力のある女性医師が歓迎され、若いうちから教員としての道が開かれることがあります。

また、臨床検査を求める施設が多く、雇用と収入の両方が安定していることも大きな利点でしょう。

臨床検査部門では、女性医師と男性医師の隔たりがなく、女性医師が働くことやそれに伴う限界に理解がある環境が整っています。

参照:日本臨床検査医学会

6.臨床検査専門医の取得方法・更新について

臨床検査専門医になるには、日本臨床検査医学会の会員であり、なおかつ学会が定める5年間の研修プログラムを修了し、専門医試験を受験・合格する必要があります。

5年間の研修プログラムに初期臨床研修の2年間も含まれます。

試験は筆記試験と実地試験に分かれています。

臨床検査専門医の更新のタイミングは5年ごとです。更新時には、勤務実績の証明や更新のための講習の受講が求められます。

7.まとめ

臨床検査専門医は、臨床医と連携したり、豊富な知識と技術をもって診断の信頼性を高めたりする職種です。

予防医学が注目されている昨今では、検査結果に基づいた治療法や予防法のアドバイスができる医師が求められています。

本記事では、臨床検査専門医の仕事内容や役割、キャリア等について紹介させていただきました。

今回解説した内容を参考に、臨床検査専門医の自身の適正やキャリア選択、転職の判断に役立てていただければ幸いです。