今話題の「口腔育成(口育)」とは?子どものために知っておきたいサインと対策

こども 歯科 口腔育成

2018年、15歳未満の子どもにおいて、「しっかりと噛んで飲み込む・舌を上手に動かすことができる」などの口周りに関する基本的な機能である「口腔機能」が正常でない状態に「口腔機能発達不全症」という病名が新たに制定され、その治療に公的医療保険が認められるようになりました。

そして「口腔機能発達不全症」を防止することを目的とした「口腔育成(口育)」という概念が生まれ、歯科医師の間で話題になりました。

一方で、口腔機能や口腔育成を普段から意識している親は3割未満と少なく、「口腔機能発達不全症」という病名を知らない親が大多数です。子どもにその症状があることに気づける家庭が少ない、ということは今後の大きな課題となります。

そこで本記事では、口腔育成についての正しい情報を分かりやすくまとめ、口腔育成(口育)の重要性を理解いただくとともに、症状に気付くためのサインなど、すぐにできる対策も紹介します。

1.口腔育成(口育)とは

食べる・話す・呼吸するといった3つの口の機能を口腔機能といいます。口腔機能に深い関係のある歯並びや顎などの骨格と、口腔機能の発達をサポートすることが口腔育成(口育)です。

口腔機能が正しく発達しないと全身の成長発育にまで影響が及びます。口腔機能が未発達の場合、気道や鼻の中の空間(鼻腔)が狭くなり、呼吸がしづらくなる結果、睡眠不足や鼻づまりなどを引き起こすこともあります。気道が狭くなることで酸素が十分に入らず発育や発達に障害が生じたり、学習能力や運動能力にも支障が生じたりする可能性もあります。

子どもの発育のためには、親が子どもの口腔機能の発達をサポートすることが、欠かせないことだといえます。

2.知っておきたい「口腔機能発達不全症」について

「口腔機能発達不全症」とは、先天性の疾患などがない15歳未満の子どもにおいて、「食べる機能」、「話す機能」、「呼吸する機能」などが十分に発達していないか、正常に機能獲得ができていない状態のことをいいます。2018年に「口腔機能発達不全症」という病名が新たに制定され、治療に公的医療保険が認められるようになっています。

2-1.「口腔機能発達不全症」をそのままにしておくとどうなる?

「口腔機能発達不全症」を放置しておくと、以下のような症状が表れやすくなります。

口呼吸

口で呼吸をすると、細菌やウイルス、空気中の有害物質が直接体内に入りこみ、風邪や肺炎などを引き起こしやすくなります。また、口を開けることによって口や喉が乾燥し、感染症にかかりやすくなったり、虫歯や歯周病、口臭が発生する原因になったりもします。

さらには、口周りの筋肉のバランスが崩れ、歯並びや噛み合わせが悪くなる可能性もあります。

アデノイドの肥大

アデノイドは喉の奥にあるリンパ組織で、体の抵抗力に関係があります。細菌やウイルスに感染すると通常よりも大きく腫れ、気道が狭くなることで、鼻詰まりや鼻声、いびき、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすことがあります。口腔機能発達不全症で口呼吸になると、哺乳がうまくできず、母乳やミルクを飲みづらくなり、低体重や低栄養になってしまうこともあります。

3. 「口腔機能発達不全症」は多いの?発達の実態とは

実際に「口腔機能発達不全症」の子どもはどのくらいいるのでしょうか。また、保護者のこの疾患に対する認知度は高いのでしょうか。ここでは、調査結果をもとにその実態や口腔育成を始めるタイミングなどを解説していきます。

3-1.約5人に1人に「口腔機能発達不全症」のサインが

2022年に株式会社ロッテが3~12歳の子どもを持つ男女に対して行った「子どもの口腔機能発達」に関する意識調査によると、有効回答数400名の結果は下記のようになっています。

サインの内容

割合

お口ポカン(気がつくと口をポカンと開き、顎があがっている)

18.0%

鼻もつまっていないのに、いびきをかいている

18.8%

柔らかいものばかりを好んで食べる

16.0%

食べ物を口に入れてからなかなか飲みこまない

15.5%

滑舌が気になる

11.5%

食事の際、片側の歯・顎ばかりで噛んでいる

11.0%

※株式会社ロッテの調査を参考に弊社にて表を作成いたしました。

口腔機能発達不全症のサインとなる症状である「お口ポカン」は18.0%、「鼻もつまっていないのに、いびきをかいている」は18.8%に見られることが分かりました。この2つの口腔機能発達不全のサインとなる症状を約5人に1人の子どもが抱えていることを示しています。

また、その他にも食事中に観察できる行動を中心に、口腔機能発達不全症の恐れがあるさまざまなサインが高い確率で表れていることが分かっています。

参考:「子どもの口腔機能発達」に関する意識調査のニュースリリース(株式会社ロッテ)

3-2.子どもたち自身も2人に1人が口腔の問題を経験

公益社団法人日本歯科医師会が2022年に実施した「歯科医療に関する一般生活者意識調査」によると、10代の子どもたちのおよそ2人に1人が「滑舌が悪くなることがある」「食べこぼしをすることがある」などの口腔機能発達不全症の疑いがある症状を経験していることが分かっています。

食事の傾向
※日本歯科医師会の調査を参考に弊社にて表を加工いたしました

また、同調査のうち、食事の傾向や「噛む力」に関するアンケートでは「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」、「硬い物を食べるときに噛み切れないことがある」と答えた10代の割合は他の年代に比べて高くなっています。

特に、10代のうち約半数は「食事で噛んでいると、顎が疲れることがある」と答えており、その割合は70代の2.7倍となっています。10代の子どもたちは、柔らかい食べ物への志向が高まり、噛む力が未発達な傾向にあることがうかがえる内容となりました。

歯の定期チェック実施
※日本歯科医師会の調査を参考に弊社にて表を加工いたしました

さらに歯の定期チェックの実施については1070代の全体では45.3%が行っていたのに対し、10代では35.7%10ポイント以上低く、歯科治療や歯の定期チェックを受けた経験がある10代のうち、3人に1人はかかりつけ歯科医がいないという結果になっています。

参考: 「歯科医療に関する一般生活者意識調査」(日本歯科医師協会)

3-3.口腔育成は0歳から

骨の成長は0歳の時点から始まっています。例えば、歯並びは顎の大きさと歯の大きさのバランスが関係しており、顎が小さいと歯並びが悪くなりやすくなります。

口腔育成は虫歯治療と異なり、歯科医院で治療して終わるものではなく、継続して行っていくべきものです。歯並びや誤った口の使い方は、年齢が上がれば上がるほど改善が困難になります。現在気になっている点がない場合でも口腔育成のための知識を身につけておくことは重要です。

上顎の骨は一般的に10歳までに完成するとされているので、正しい発育のためには、幼児期からの口腔育成が重要です。必要に応じて行う骨格の矯正は58歳ごろに開始する必要があります。子どもの永久歯が生え揃う前の早い段階で口腔育成に取り組んでいくことで、口腔機能の低下によって引き起こされる全身への悪影響を予防できます。

3-4.保護者が子どもの口周りをチェックしよう

子供の成長(虫歯 口腔機能)意識調査

先述した株式会社ロッテの調査では、6割以上の親が「むし歯予防」を日常的に意識している一方で「口腔機能」を普段から意識している親は3割未満でした。また7割近くの親が「口腔機能発達不全症」という病名を知らないという結果になりました。虫歯と口腔機能への意識の違い、認知度の違いが表れています。

虫歯だけでなく、口腔機能の発達に関する正しい知識を身に付け、普段の生活の中でも子どもの行動を観察しましょう。気になる仕草や症状があるのなら、まずは歯科医院へ相談することをおすすめします

4.口腔機能が発達不足だと表れやすいサイン

ここからは、子どもの口腔機能の発達不足を早めに察知するためのサインを紹介します。2018年からは小児口腔機能不全症の治療には保険が適用されるようになっていますので、以下のようなサインが頻繁に見られるようであれば、歯科医院へ相談することを検討してみてください。

4-1.歯のサイン

・生えてくるのが遅い歯がある

・出っ歯や受け口

・歯がガタガタに生えている

・食事に影響する虫歯がある

4-2.食べるときのサイン

・食事中によく食べものをこぼす

・あまり噛まずに丸飲みしている

・クチャクチャと音を立てて食べている

・食べものが飲み込みにくそう

4-3.話すとき・表情のサイン

・カ行・サ行・タ行・ナ行・ラ行の音が正しく発音できない(例:魚⇒”タカナ”、5歳⇒”ゴタイ”など)

・前歯が口元から見えている

・口を閉じると唇の下、顎の先にしわができる

・あひる口

・口角が下がっている

4-4.呼吸のサイン

・口が乾燥している

・鼻が詰まっていなくても口で呼吸をしている

・寝ているときにいびきをかく

・口を開けてうつぶせや横向きで寝ている

これらのサインを放置しておくと、口腔機能の発育不足が深刻化します。

口を閉じられない、顎の発達が正しく進まないことにより、鼻炎、アトピー、ぜんそく、花粉症・歯列不正、顎関節症・虫歯、歯周病などになりやすくなります。

さらには食物繊維の多く含まれる硬い食品や、タンパク質を豊富に含む肉などの噛み応えのある食品の摂取量が少なくなり、その結果、栄養不足や運動機能の低下にもつながるおそれもあります。

5.口腔機能の治療方法

口腔機能の治療法には、歯科医院で受けるものから器具を使用するもの、自宅でできるトレーニングなど様々です。ここでは、各治療方法を紹介していきます。

5-1. 口腔筋機能療法(MFT)

歯科医院での口腔機能不全症の治療では口の周りの筋肉(口輪筋)を鍛えるトレーニングを行い、口呼吸や滑舌の改善、咀嚼やものを飲み込む嚥下(えんげ)の仕方を身につけます。治療には痛みは伴わないので、小さな子どもでも問題なく取り組めます。これらの各種トレーニング全般を歯科分野では「口腔筋機能療法(MFT)」と呼ばれています。

5-2. 舌・顎・筋肉を正しく育てるマウスピース

口腔機能の治療方法には、マウスピースなどの器具が用いられることもあります。「Vキッズ」というマウスピースは就寝時に下の歯に装着します。マウスピースを装着することで口の中に高さが生まれ、舌の置き場ができ、呼吸が楽になります。また、かみ合わせが正しくできるようになるので、就寝時の噛む力が伝わり、頭や首の成長を促します。

参考:Vキッズ公式サイト

5-3.自宅でできるトレーニング

口腔機能のトレーニングは自宅で行えるものも多くあります。

・ブクブクとうがいをする
うがいには口周りや舌の筋肉を使うので、効果的に口腔機能が鍛えられます。

・ガムトレーニング
左右の歯で均等にガムを噛む、ガムを舌の上で丸め、上あごに押し付けて薄く広げる、ガムを上あごにつけたままツバを飲み込みます。

・あいうべ体操
口を大きく開けながら「あー」「いー」「うー」とゆっくり動かし、最後は舌を出して「べー」とします。

6.子どもが高齢になったときにも生きてくる口育

幼児期に口腔機能を正しく発達させることは、将来子どもが老齢に達したときにも生きてきます。口腔機能が正しく発達しないまま老齢になると口腔機能が早期に衰え、摂食・嚥下障害に陥ります。

すると、食事のバランスが悪くなることで運動機能や生理機能を保つのが難しくなり、介護が必要になったり、食事摂取が上手くできず、胃ろうを付けなければならなかったりする可能性も高まります。

口腔ケアが不十分であると歯周病などの口腔疾患が発生し、口腔内の細菌が血管を通って体全体を巡り、各臓器に侵入・繁殖し、動脈硬化、心筋梗塞、糖尿病、誤嚥性肺炎などの大きなトラブルの原因となります。

また、口腔ケアを行うことは口腔内の細菌を減らすだけではなく、口腔に対しての刺激となり、嚥下や咀嚼機能の回復へとつながり、食事を楽しめるようになります。結果、栄養状態の改善が行われることで免疫力も高まり、肺炎やそれ以外の病気の予防も期待できます。

7.まとめ

口腔育成は、虫歯ケアと同様に子どもの正しい発育にとって重要なものです。口腔機能の育成が不十分だと、顎の成長不足や歯並びの乱れのみならず、鼻炎やアトピーになりやすくなったり、学習能力や運動能力にも支障が生じたりするおそれがあります。

今回紹介した口腔育成の発達不足時のサインが表れたら、一度歯科医院へ相談をしてみることをおすすめします。歯科医院では治療だけでなく、普段の生活における注意点なども併せてアドバイスをしてもらえます

今回の記事が、子どもの口腔育成を考えるきっかけになれば幸いです。