クリニックのトイレは、毎日不特定多数の人が利用することに加え、患者がクリニック選びで重要視しているポイントの一つです。
診察や処置には直接関係のない場所だと思われがちですが、トイレの清潔感や使い勝手がクリニックに選びに大きく影響しているのです。たとえば、クリニックのトイレが不衛生では、クリニックのイメージダウンにつながり、「ここで診察を受けたい」という気持ちを持たれにくくなります。
そこで今回は、クリニックのトイレの重要性や求められる条件について解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
1.クリニックにおけるトイレの重要性
トイレは診察や処置に直接的な関係はありません。しかし、クリニックにおけるトイレは、患者のクリニック選びを左右するほど重要な場所です。
では、クリニックにおけるトイレの重要性について、TOTO株式会社が実施した「2019年クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」をもとに見ていきましょう。
1-1トイレが汚いとマイナスなイメージを持つと回答した人は82.2%
アンケート調査では、トイレが不衛生な場合、クリニックに対してマイナスなイメージを持つと回答した人は82.2%となっています。
さらに、「クリニックのトイレが汚いと何を思いますか?」という問いに対する回答は以下のとおりです。
回答 | 割合 |
あまり患者に配慮されていないと思う | 36.6% |
クリニック全体が汚いと思う | 27.1% |
ほかのクリニックに行きたくなる | 12.9% |
仕方ないと諦める | 10.4% |
なんとも思わない | 6.3% |
ほかの人に勧めたない | 5.6% |
その他 | 1.1% |
このように、クリニックのトイレが汚いと、大半の人が「患者に配慮されていないクリニックなのかな」「クリニック全体が汚いのではないか」といったマイナスな印象を抱きやすくなることがわかります。
1-2トイレのきれいさがクリニック選びに影響すると回答した人は66.5%
では、反対にクリニックのトイレがきれいに維持されていれば、どのような影響が期待できるのか見ていきましょう。
アンケート調査において、「クリニックを選ぶときに、トイレのきれいさはどのくらい影響しますか?」という問いに対する回答は以下のとおりです。
回答 | 割合 |
とても影響する | 20.9% |
やや影響する | 45.6% |
あまり影響しない | 24.6% |
まったく影響しない | 4.9% |
わからない | 4.0% |
クリニックのトイレのきれいさがクリニック選びに「とても影響する」「やや影響する」と回答したのは60.1%にのぼり、半数以上の人がトイレのきれいさをクリック選びの一つの要素としていることがわかります。
このように、クリックにおけるトイレは、患者がクリニックに対して抱く印象を左右したり、クリック選びに影響を与えたりするほど重要であるといえるでしょう。
出典:TOTO株式会社「2019年クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」
2.好印象につながるクリニックのトイレの条件
クリックではきれいなトイレを維持しておくことが重要であるとわかりましたが、具体的に患者が好印象を持ちやすいトイレとはどのような環境なのでしょうか。
ここでは、好印象につながるクリニックのトイレの条件を解説します。
2-1清潔感があること
クリニックのトイレは、清潔感が欠かせない条件の一つです。
床や壁、便座に汚れや水滴がない状態を維持し、定期的な清掃と消毒を徹底することで清潔な状態を保ちます。また、壁紙などはベージュ系を選ぶと汚れが目立ちにくく、上品な印象を与えます。明るい照明と合わせることで清潔な空間を演出することもできます。
なお、クリニックのスタッフだけで清潔感を維持するのがむずかしい場合は、数ヶ月おきに専門業者に清掃を依頼するのもおすすめです。
2-2ペーパータオルが用意されていること
手を洗った後にすぐに乾かせるように、ペーパータオルを設置しましょう。
なお、ジェット式のハンドドライヤーを設置することも可能ですが、雑菌をまき散らすといった見解を持っている人もいるため、設置を控えるクリニックが多い傾向にあります。
手を拭くものがなければ、両手を振って自然乾燥させる人もいるため、清潔な衛生環境を維持するためにもペーパータオルの設置は必須といえます。
2-3除菌スプレーが設置されていること
コロナ禍の影響により、ジェット式のハンドドライヤーの使用を控えるクリニックが増えた反面、除菌スプレーをトイレなどに設置するクリニックが増えました。
除菌スプレーで消毒するのを習慣化している人も多いため、トイレの個室や手洗い場周辺には除菌スプレーを設置しましょう。利用者自身が手や便座を清潔にできるようにすることで、清潔な空間を維持しやすくなります。
2-4ニオイ漏れがないこと
トイレからのニオイ漏れは、クリニック全体の印象を損なう要因となります。
クリニックの開業当初は気にならなかったとしても、飛散した尿が結晶化すると臭いが気になりやすくなります。
こまめに掃除をして清潔な状態を維持するのはもちろん、換気システムを導入する、消臭剤を使用するなどして、ニオイ漏れが起こらないようにしましょう。
2-5車椅子で利用できる広さが確保されていること
クリニックは車椅子の方がトイレを利用することが想定されるため、車いすの方でも利用しやすいよう工夫されていることもポイントとなります。
【車椅子の方がトイレを利用しやすくなるポイント】
- 十分な広さが確保されている
- 手すりが取り付けられている
- 段差がない
以上のような条件がそろっているか確認してみてください。
2-6防音性が高いこと
トイレの防音性が高いことも条件の一つです。
音漏れが気になる環境では、落ち着いてトイレを利用できなくなり、患者がストレスを感じやすくなります。
トイレの配置や壁や扉の材質を検討するほか、流水音発生器を設置する、BGMを流すといった工夫をしましょう。
2-7暖房便座やウォシュレットが装備されていること
暖房便座やウォシュレットは今や当たり前となっているため、設置されていないトイレに対してマイナスな印象を抱く方も少なくありません。とくに冬場は便器が冷たいと、不快に感じる方が増えます。
快適なトイレ環境を実現するためにも、暖房便座やウォシュレットは設置するのがおすすめです。
2-8男女別になっていること
場所によっては男女兼用のトイレもありますが、男女兼用のトイレを嫌がる方は大勢います。
これからクリニックを開業する場合は、男女別のトイレにすることを想定して設計することをおすすめします。また、男女別のトイレにすることに加え、ベビーベッドや多目的トイレなども設置できると、さらに利用者の利便性を向上させられるでしょう。
3.【診療科別】クリニックのトイレで求められる条件
クリニックのトイレに求められる基本的な条件を解説しました。
しかし、ひとえにクリニックといってもさまざま診療科があり、診療科ごとに患者のトイレに対するニーズが変わります。では、クリニックのトイレで求められる条件を診療科別に見ていきましょう。
なお、診療科別のトイレに求められる条件は、TOTO株式会社「2019年クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」をもとに解説します。
3-1内科
内科は、子どもから大人までさまざまな人が利用することから、トイレ全体の清潔感や衛生面が求められます。
また、風邪を引いて来院している方も多く感染拡大を抑えるために、トイレの個室や手洗い場周辺にアルコールスプレーを設置するなど、衛生対策を強化するのがおすすめです。
3-2歯科
歯科も子どもから高齢者まで患者の年齢層が幅広く、トイレではとくに乳幼児に関連する設備を要望する回答が多い結果となりました。
たとえば、赤ちゃんを座らせるシートがあることやベビーカーを入れられる広さが確保されていることにほか、おむつ替えシートを要望する回答が多い結果となっています。
3-3外科・整形外科
外科・整形外科は、クリニックに求められるトイレの条件とあまり変わらず、明るくニオイのないトイレや、清掃が行き届いていることといった回答が上位を占めています。
骨折などで腕や手をうまく使えない場合も考えられるため、洗面化粧台は自動水栓を要望する声が多い結果となりました。また、車いすが使えることや、転倒しても怪我をしない床材といった設備を求める声もありました。
3-4小児科
小児科のトイレは、乳幼児関連設備の要望が高い結果となりました。
明るいトイレやニオイのないトイレといった、基本的な条件はもちろん、赤ちゃんを座らせるシートやおむつ替えシート、おむつを捨てられるごみ箱、ベビーカーが入る広さであることなどを要望する声がほかの診療科よりも多くなっています。
赤ちゃんや子どもと親が一緒に利用することを前提とした設備が必要でしょう。
3-5産婦人科
産婦人科も小児科とトイレに求める条件が似ており、赤ちゃんを座らせるシートやおむつ替えシート、おむつを捨てられるごみ箱など、乳幼児に関連した設備が多いことがわかりました。
ただ、妊婦さんも多いことから、立ち座りをサポートできる手すりが設置されていることが求める条件の上位に入っていることが特徴です。
3-6心療内科
心療内科は、明るいことや掃除が行き届いていること、ニオイがないことなど、清潔さや衛生面に関する要望が上位を占めています。
洗面化粧台についても同様に、明るく、掃除が行き届いていることが上位であり、空間全体の清潔さが求められているとわかります。
3-7眼科
眼科のトイレは、視覚的な配慮を行い、目の治療を行う人に配慮した空間であることが求められます。
たとえば、十分な明るさが確保されていることや、立ち回りをサポートできる手すり、転倒しても怪我をしない床材などの割合が、ほかの診療科と比べて高くなっています。
出典:TOTO株式会社「2019年クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」
4.開業時に押さえておきたいクリニックのトイレ設計のポイント
最後に、これまで解説したトイレの条件をふまえて、よりよいトイレにするための設計のポイントを見ていきましょう。
なお、クリニックのトイレの設計のポイントについては、TOTO株式会社「2019年クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」をもとに解説します。
4-1清掃が行き届いた状態を維持できるようにする
クリニックのトイレは、常に清掃が行き届いた状態にしておくことが大切です。
同アンケートの「クリニックのトイレで困ったことがありましたか?」という質問に対し、「狭かった」「臭かった」「床が汚れていた」という回答が2~4位を占めています。三つの回答を合計すると約4割の人が衛生面に関して不満を抱いていることがわかります。
このことから、トイレの清掃マニュアルを作る、換気システムを取り入れる、定期的に専門業者に清掃してもらうといった工夫を行い、清潔な状態を維持するようにしましょう。
4-2荷物置きを設ける
同アンケートの「クリニックのトイレで困ったことがありましたか?」という質問で、2~4位は衛生面に関することであったのに対し、1位は「荷物置きななかった」という回答で16.9%となっています。
クリニックの利用者は、子どものおむつを持ってきていたり、リハビリ用の衣類を持ってきていたりと、荷物が多い方もいるでしょう。
そのため、トイレや洗面化粧台周辺に荷物置きがないと、利便性が下がってしまうと考えられます。これからクリニックのトイレを設計するときは、各個室と洗面化粧台周辺に荷物置きを設置するようにしてください。
4-3温水洗浄便座や自動水栓などの設備を導入する
近年では、温水洗浄便座や自動水栓など、便利な設備を導入しているトイレが増えています。そのため、今や当たり前になりつつある設備はないと、困る方も少なくありません。
実際に、「クリニックのトイレ・洗面化粧台で困ったことがありましたか?」アンケート調査では「温水便座機がなかった」「水栓が自動式ではなかった」という困りごとが上位に入っています。
これからクリニックのトイレを設計するときは、利用者の利便性を向上できる設備を積極的に取り入れるのがおすすめです。
出典:TOTO株式会社「2019年クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」
5.まとめ
今回は、クリニックのトイレに求められる条件について解説しました。
クリニックのトイレは、クリニック選びを左右するほど重要なポイントであり、とくに清潔が維持されていることが大切であるといえます。
ただし、診療科によって求められる条件が異なるケースもあるため、患者の年齢やどのような人が利用するのかをイメージして設計していくことが大切です。
ぜひ今回の記事を参考に、好印象を与えられるクリニックのトイレを実現してみてください。