医師とハラスメント|種類、原因や影響、対処法まで徹底解説

医師 ハラスメント

医療業界は専門性が高く、高い倫理観が求められる場ですが、その裏側で医師がハラスメントに苦しむケースが少なくありません。パワハラやセクハラなど一般の職場でも起こりうるハラスメントに直面した場合、どのような対処をすれば良いのでしょうか。

そこでこの記事では、医師のハラスメントの現状と現場への影響、具体的な対処法を紹介します。

1. 医師とハラスメント、その驚きの実態

医療の現場で働く医師も、ハラスメントの対象となる可能性があります。専門性の高い医療業界でもハラスメントが存在するという現実は、アンケート調査からも明らかです。

以下、医師のハラスメントの現状や具体的な種類を見ていきましょう。

1.1 医師のハラスメントの現状

エムステージグループが発表した「医師734人のアンケート結果」によれば、医師の半数以上が何らかの形でハラスメントを経験しています。例えば、人前で怒鳴られる、妊娠するなと言われるなど、多面的なハラスメントが医療現場で起きている実態が明らかとなりました。

2022年4月に「改正労働施策総合推進法」(通称:パワハラ防止法)を国が制定し、大企業や大規模病院はじめ多くの職場で、パワハラ防止対策が初めて法的に義務付けられました。その結果、2017年に1月に既に施行されていた「マタニティハラスメント防止のために必要な措置」(マタハラ防止措置)も一層強化されています。

ただ、アンケート調査の結果として、回答数に対しての7割以上が「具体的な対処法が分からない・相談先が分からない」とあり、声を上げにくい状況が続いています。

参照:<医師の半数以上がハラスメントを経験>医師734人に「ハラスメントについてのアンケート」を実施し、医療機関におけるハラスメントの実態を調査|エムステージグループ

参照:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント_妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント_パワーハラスメント|厚生労働省

1.2 医師のハラスメントの種類

医師が現場で遭遇するハラスメントの種類は、主に以下の3つです。

【種類1】パワハラ

1.指示・命令の不明瞭性

上司や先輩医師からの曖昧な指示により、仕事が困難になる場合があります。例えば、手術前に「ちゃんとやれよ」とだけ言われ、具体的な手順や注意点が明示されないケースが想定されます。

2.過度な業務量

人手不足を理由に過度な業務を押し付けられる場合、ハラスメントに当たる可能性が高いです。通常2人で行う診察を1人でこなさせられ、休憩も取らせてもらえないなど、働き方改革に逆行するようなスタンスでスケジュールが組まれている場合です。

3.侮辱や冷笑

失敗を指摘することなく、侮辱や冷笑を受けるケースがあります。一例として、何も言わずに患者の前で失笑される、または「この程度のこともできないのか」と言われるなど、著しく医師としてのプライドを傷つける行為が該当します。

【種類2】セクハラ

1.不適切なコメントやジョーク

性別に関する不適切なコメントやジョークが飛び交う現場もあります。具体的には、上司や先輩から「女性医師なんだから、笑顔をもっと見せて」などと不適切な指導を受けるケースです。

2.肉体的接触

医療の現場でも不必要な肉体的接触を受ける可能性があります。例えば、医療用の器具を渡す際に、わざと手や腕に触れる行為などが挙げられます。

【種類3】アカデミックハラスメント

1.研究成果の横取り

大学病院や研究機関などでは、先輩や上司が後輩や部下の研究成果を自分のものとして発表し、手柄をさらわれるケースがあります。自分が主導で行った研究が、上司によって学会で自分の成果として発表されるなどはその典型例です。

2.研究への不当な圧力

研究方針や発表に対する過度な干渉により、自身の思うような研究ができなくなります。一例として、研究の進行に問題がないにもかかわらず、上司から「この方向性は間違っている、やり直せ」と指示される理不尽な対応が考えられます。

上記の記載以外にもハラスメントは多く存在しますが、医師が医療現場で遭遇する可能性のあるハラスメントの種類と具体例です。医療現場でハラスメント問題を放置していると、医療の質や医師自身の心の健康にも影響を与えるため、早急な対策が必要です。

2.医師のハラスメントの影響とリスク3

医師 ハラスメント

医師のハラスメントが医療現場に与える影響やリスクは以下3つあります。

2.1 医師の心の健康

ハラスメントによるストレスは医師の心の健康に深刻な影響を及ぼします。過度のストレスがメンタルヘルスに与える影響は計り知れません。極度の疲労や不眠はもちろん、鬱症状や不安症状を引き起こす可能性もあります。

具体的には、過度な業務量や職場のメンバーの不適切な言動によるストレスが積み重なり、急な欠勤や休職・退職に至るケースが挙げられます。

2.2 患者ケアの質

日常的に医師がハラスメントを受け続けると、医師が提供する医療の質にもさまざまなかたちで影響を与える可能性があります。精神的に不安定な状態の医師には、診断の精度や治療の質の維持が難しくなるためです。

例えば、ハラスメントによるストレスで医師が集中力を欠き、誤診や医療ミスが起きる可能性が高まります。

2.3 職場の環境

医師がハラスメントにさらされ続けた結果、その影響は医師にとどまらず職場全体に広がります。特に医療の現場では、チームワークが非常に重要であり、スタッフ同士の連携が崩れ治療の質の低下につながる恐れも少なくありません。

一例として、一人の医師が上司から過度な業務量を押しつけられるハラスメントを受け、ストレスで対人関係がうまくいかなくなり、他のメンバーとのコミュニケーションが低下する影響で、チームワークに乱れが生じます。結果として、診療の効率化や診断ミスなどによる信頼低下や患者数の減少など、具体的な医療機関の経営にも影響を与える場合があります。

このように、医師が遭遇するハラスメントが及ぼす影響とリスクを放置すると、病院やクリニックはもとより社会全体に悪影響を及ぼすため、解決策を速やかに見つける姿勢が大切です。

3.なぜ医師のハラスメントが起きるのか?原因3

なぜ医師のハラスメントが起きるのでしょうか。

例えば、医師の業務において、部下への指導は不可欠な活動の一つです。ただ、その線引きが難しいこともあり、近年、パワハラの基準が注目されています。

具体的には、20年前やそれ以前には、職場のメンバーに見える形での叱責も職場全体に自覚を促す目的で一定程度容認されていました。しかし、現在、こうした言動はほぼ確実にパワハラと見なされます。とりわけ患者の前で行うような場合は絶対に避けなければならない行為です。

こうした職場の言動に対する捉え方の変化は、医療現場におけるコミュニケーションのあり方や、医師が持つべきプロ意識に対する期待の変化を反映しているとも言えるでしょう。したがって、誰もがハラスメントの被害者にも加害者にもなり得るのです。

下記で、具体的な原因を3つ掘り下げてみましょう。

【原因1】多忙な職場

多忙な職場で勤務をする医師は、スタッフ間でのハラスメントが引き起こしやすい環境に囲まれています。特に上司や先輩医師が「業務が多いから仕方ない」という意識を持っていると、後輩や部下に過度な仕事を押し付けがちです。

一方で、被害を受ける医師の側に立てば、自分だけ多くの業務を抱えストレスが増加するジレンマに陥ってハラスメントと感じると言えます。例えば、ある医師が夜勤明けにも関わらず、上司から次の日に行う手術の準備も命じられるケースがわかりやすいでしょう。

【原因2】人間関係のもつれ

人間関係のもつれによるハラスメントの原因は、年齢や性別、担当の診療科目などの違いにより生じることがあります。年齢に関するものであれば、先輩医師や上司が後輩医師や新人医師に業務範囲を超える指示や命令を出す場合があります。他の医師と比べ偏った業務負担を強いられていると不適切な扱いを受けていると感じ、ハラスメントの一つになりえます。

また、性別や診療科目のハラスメントの一例として、女性医師が手術後、男性の先輩医師から「男性が多い外科で、女性は手術室で緊張するんだろうな。慰労会を兼ねて一杯飲みにでも行こうか」と言われたとしましょう。仮に女性が少ない診療科目であっても、女性であることが緊張につながるとは限りません。手術を担当する医師として患者の命や身体を預かる医師は、その責任に緊張を感じることは起こりえることです。そのため、極めて性別に関する不適切な発言であり、ハラスメントの原因になる可能性が高いと言えます。

【原因3】業界の常識や慣例

医療業界自体が持つ「風習」や「常識」もハラスメントの土壌を作り出しています。

具体的には、新人や若手医師が業界独自の厳格な規則や慣例によって過度なストレスやプレッシャーを感じることがあります。

その一方で、ハラスメントの加害者となる先輩や上司医師は、自らが若手時代に受けた厳しい指導を正当化し、同じような指導を部下にも行う傾向が少なくありません。また、臨床や研究経験を経た医師が研究チームの一員となり上司に研究成果を報告した後、その上司が自分の名前で学会に発表するといったアカデミックハラスメントが起きるケースも見られます。

4.医師のハラスメントの問題解決方法3

医療現場でのハラスメントは深刻な問題となっており、その解決策は一筋縄ではいきません。具体的で多角的なアプローチが必要です。

下記で、医師のハラスメント問題に効果的な3つの解決方法を紹介します。

4.1 方法1 組織内のガイドライン策定

医療機関が組織内でハラスメントに対する明確なガイドラインを策定することが基本的な対処法となります。このガイドラインには、何がハラスメントに該当するのか、どのように報告すればいいのか、どのような対応が取られるのかなど、具体的な方針が明示されるべきです。

具体的にはパワハラ防止法に基づき、ハラスメントが疑われる行動が発生した場合の報告手段や相談窓口、報告後の対応プロセスについても詳細に説明しましょう。このようなガイドラインがスタッフに周知され、適切に運用されることが大切です。結果として、被害者が適切な対応を受けられるようになるだけでなく、加害者にも各種ハラスメント行動が社会的に問題であるという自覚を促す効果が期待できます。

4.2 方法2 働き方改革

組織内の働き方改革を通じて、医師が長時間労働や過度なストレスから解放される環境を作ることが重要です。特に医療の現場では、長時間労働や過度なストレスが常態化している場合が多く、これがハラスメントを引き起こす土壌を作っている可能性があるからです。

例えば、研修プログラムにハラスメント防止のトレーニングを組み込んだり、新たなシフト制度を導入するなどの対策が考えられます。

医師たちが健康的な労働環境で働けるように病院や部署を巻き込み働き方改革を推進することで、ハラスメントを未然に防ぐだけでなく、医療提供の質の向上にもつながります。

4.3 方法3 自分で身につける対処法

言葉遣いや対処方法を学ぶことや、ストレス解消法を身につけることも有効です。

具体的には、接遇マナーやアンガーマネジメント、マインドフルネスやリラクゼーションテクニックの研修を通して学ぶといったアプローチがあります。

また、一般的に医療従事者が就職する際に加入する賠償責任保険の再確認も重要です。パワハラ防止法の施行により、特にハラスメントに対しても保障する保険が注目されています。自身が加入している保険にハラスメントに関する項目が含まれているかどうかのチェックをし、必要に応じて保障内容の見直しをしてはいかがでしょうか。

ここで挙げた対処法を組織全体、または個人が採用することで、医師が医療現場でハラスメントに遭遇するリスクを減らすことが期待されます。

5.まとめ

医師のハラスメント問題は医療現場でも深刻で、医師自身の心の健康、患者ケアの質、そして職場環境に多大な影響を与えています。パワハラ、セクハラ、アカデミックハラスメントがあり、それぞれ特徴とリスクがあるため全体の把握が大切です。多忙な職場環境や人間関係のもつれ、業界特有の常識や慣例に起因してハラスメントに発展する場合が多く、組織的なアプローチによる解決が求められます。

ハラスメント問題は個々の意識改革だけでなく、組織全体での取り組みによって解決するものです。現場でハラスメントに対する共通の認識を深め、より健全な医療環境を作り出すアプローチを通じて、患者に対する医療の質を高めることができるでしょう。