リフィル処方箋は、医師や患者双方の負担を軽減し、医療費の適正化にも貢献している画期的な制度です。近年、リフィル処方箋の対象は徐々に増加しているものの、認知度の低さなどの理由から、現場での普及はまだ十分に進んでいません。
そこで本記事では、リフィル処方箋の仕組みやメリット、長期処方や分割調剤との違いなどについて詳しく解説します。
目次
1.リフィル処方箋とは
リフィル処方箋とは、1回の診察で最大3回までの薬の受け取りが可能になる処方箋のことです。通常の処方箋では、医師の診察ごとに新しい処方箋が発行され、その都度薬を受け取ります。しかし、リフィル処方箋では医師の指示によって定められた期間内であれば、診察を受けなくても薬局に処方箋を持参するだけで薬の受け取りが可能です。
ただし、リフィル回数が終了した後や有効期間が過ぎた場合は、再び医療機関での診察が必要となります。
また、リフィル処方箋は電子化も可能です。
【電子処方箋のメリット】
- 紙の処方箋の保管や持参が不要となり紛失の心配がなくなる
- 次回の調剤予定日をスマートフォンやマイナポータルで確認できるため、予定を忘れるリスクが軽減される
- 調剤結果が他の医療機関と薬局へリアルタイムで共有されるため、薬の重複や副作用のリスクを軽減できる
リフィル処方箋を電子化するメリットは様々ありますが、電子処方箋を発行するには、医療機関で患者の本人確認をすることに加え、過去の診療と薬に関する情報提供について同意を得る必要があります。
参照)日本保険薬局協会『リフィル処方箋の手引き(薬局版)Ver.1』
2.リフィル処方箋の注意点
リフィル処方箋には、対象外の薬や使用回数の制限などがあります。リフィル処方箋の注意点について詳しく見ていきましょう。
2-1.リフィル処方箋で処方できないお薬
リフィル処方箋は、新薬や劇薬、麻薬、向精神薬といった1回に使用できる限度量が厳しく定められている薬は対象外です。これらの薬は、患者の健康状態や薬の効果に対する慎重な管理が必要であるため、リフィルでの処方は適切ではありません。また、湿布薬も対象外とされています。
さらに、リフィル処方箋が発行できるのは、症状が安定している患者に限られます。服用する薬の種類や量が定まっていない患者や、体調に変動がある患者の場合、定期的な診察が必要とされるため、リフィル処方箋の利用は難しくなります。
出典:厚生労働省「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について」
2-2.リフィル処方箋の使用回数
リフィル処方箋は、1つにつき3回まで利用が可能です。ただし、医師の判断によって2回までとされる場合もあります。これは、患者の病状や治療状況に応じて、医師が最適な治療計画を立てるためです。さらに、1回あたりの投薬期間や総投薬期間も、医師が患者の健康状態を考慮し、医学的に適切と判断した期間に基づいて決定されます。
たとえば、病状が安定している患者には比較的長めの期間が設定される一方で、症状が変動しやすい患者には短めの期間が設定されることがあります。このように、リフィル処方箋は患者1人ひとりに合わせて柔軟に運用されています。
2-3.リフィル処方箋の使用期限と薬を受け取れる期間
リフィル処方箋による1回目の薬の受け取り期限は、通常の処方箋と同様の「交付の日を含めて4日以内」です。2回目以降の調剤については、前回の調剤日を起点とし、次の調剤予定日はその投薬期間が終了する日となり、その前後7日以内に薬を受け取ることができます。
また、保険薬局では、リフィル処方箋で薬を受け取るたびに調剤日や次回の調剤予定日を記載し、薬局の名称や担当した保険薬剤師の情報も書き込む義務があります。
2-4.その他の注意事項
リフィル処方箋で調剤を行う際、保険薬局の保険薬剤師にはいくつかの対応が求められます。まず、患者の服薬状況を確認し、リフィル処方箋での調剤が適切かどうかを判断します。もし、調剤が不適切と判断される場合には、薬の提供を中止し、速やかに医師に連絡して、患者には受診を勧めます。さらに、調剤内容や患者の服薬状況を必要に応じて医師に報告しなければなりません。
また、保険薬剤師は、継続的な薬学的管理指導のために、患者に対して同じ薬局で継続的に調剤を受けることの重要性を説明する必要があります。患者が予定の時期に薬局を訪れない場合は、電話などで確認を行い、もし他の薬局で調剤を受ける場合は、その薬局に必要な情報を事前に提供することも求められます。
3.リフィル処方・長期処方・分割調剤の違い
リフィル処方箋、長期処方、分割調剤は、それぞれ異なる特徴を持つ制度です。ここでは、この3つの制度の詳細を見ていきましょう。
【リフィル処方箋】
リフィル処方箋は、医師の指示に基づき最大3回まで同じ処方箋で薬を受け取ることができる仕組みで、患者が医療機関に頻繁に通わなくても良いため、通院の負担を軽減する目的で使用されます。
【長期処方】
長期処方は、1回の診察で長期間分の薬をまとめて処方する方法です。これは特に慢性疾患の患者に対して用いられ、頻繁な処方の手間を省くことができますが、一度に多量の薬を管理しなければならないため、保管や適切な服用が課題となることがあります。
【分割調剤】
分割調剤は、同じ処方内容を繰り返すリフィル処方箋とは異なり、処方箋に記載された日数分の調剤を医師の指示のもとで複数回に分割して薬剤を交付する仕組みです。
例えば、90日分の処方の場合、30日分の処方箋を繰り返し(最大3回まで)利用できると記載して発行するのがリフィル処方箋で、90日分の処方箋を発行し、調剤薬局に対して3回の分割指示を出すのが分割調剤になります。
リフィル処方箋がある程度症状が安定している患者の受診回数を減らすことを目的としたものであるのに対し、「分割調剤」は薬の長期保管が困難な場合や、ジェネリック医薬品を初めて使用する場合、新しい薬の効果や副作用を見ながら調整が必要な患者などに対して用いられます。
4.リフィル処方箋の導入の背景・目的・期待されていること
リフィル処方箋は、「処方箋をもらうためだけの受診」を減らすことで、患者の通院負担や社会保障費(医療費)を削減、また医師の業務負担を軽減することができるのではないか、という考えのもとで導入が進められました。
処方日数が31日以上の処方割合は増加傾向にあり、令和2年には34.7%に達しています。これは、症状が安定している慢性疾患の患者が増えていることを示しているため、リフィル処方箋の対象となる患者も今後増加していくと考えられます。特に、40歳以上の患者では、外来で受けた処方の約半数が前回と同じ処方内容です。
40歳以上の長期処方患者の再診料や処方箋料を全国で推計すると、再診料に約355.9億円、処方箋料に約336.1億円がかかっています。リフィル処方を導入することで、再診頻度が減少すれば、全国的に362億円程度の医療費適正化効果が期待できます。このように、リフィル処方箋の活用には、医師の業務負担の軽減や患者の通院・医療費負担の軽減、医療費適正化効果が期待されています。
出典:厚生労働省「医薬品の適切な使用の推進」
出典:健康保険組合連合会「政策立案に資する レセプト分析に関する調査研究Ⅳ」
5.リフィル処方箋の現状と課題
リフィル処方箋は、患者の通院や医師の業務の負担、社会保障費(医療費)の削減など多くの効果が期待されています。ここでは、リフィル処方箋の実施状況や認知度などの現状を確認し、今後の課題を考えていきましょう。
5-1.リフィル処方箋の実施状況や認知度
では、実際にリフィル処方箋はどのくらい使われているのでしょうか。また、医師と患者にどの程度認知されているのでしょうか。
リフィル処方箋の実施状況
中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会によるリフィル処方箋の実施状況調査によると、令和5年3月時点でリフィル処方箋の処方箋料の算定回数は、全体の0.05%と非常に低い水準に留まっています。この結果から、リフィル処方という言葉や制度自体の認知度が低いことが課題として挙げられます。
出典:中央社会保険医療協議会「中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会(第69回) 議事次第」
医師からの認知度
医師からの認知度について、病院や診療所でのリフィル処方箋の発行経験の有無に応じて認知度には大きな差が見られます。たとえば、病院の医師でリフィル処方箋を発行した経験がある場合、90.0%が「制度の内容を知っている」と回答していますが、発行経験がない医師では、その割合が51.5%にとどまっています。
また、診療所の医師においても、発行経験がある医師は96.0%が内容を理解している一方で、発行経験がない医師では63.2%にとどまります。このように、発行経験の有無によって制度の理解度に差が生じていることが確認できます。
患者からの認知度
リフィル処方箋の認知度に関して、郵送調査とインターネット調査の結果には大きな差が見られます。郵送調査では「制度の内容まで知っていた」と回答した患者が28.4%に対して、インターネット調査ではわずか6.6%でした。また、「名称だけ知っていた」も郵送調査の20.9%に対し、インターネット調査では15.0%にとどまっています。一方で「知らなかった」と答えた人の割合は、郵送調査では49.2%であったのに対し、インターネット調査では78.4%と圧倒的に高い結果となっています。
5-2.リフィル処方箋普及のための課題
リフィル処方箋の実施状況や認知度を確認すると、医療現場での使用頻度はまだ低く、発行経験のない医師の認知度も高くないことが分かります。制度の普及促進のためには、発行経験のない医師に対しても制度の内容を広く周知することが重要な課題となっています。
また、患者の認知度も郵便・インターネット調査ともに50%に届かず、インターネット調査に関しては15%と低くなっています。この結果からも、リフィル処方箋の普及を進めるためには、インターネットやデジタルメディアを活用した広報活動が重要であることが示されています。特に若年層やインターネットを積極的に利用する層に向けて、制度の周知やメリットを効果的に伝える手法が必要です。
このようにリフィル処方箋の普及が進んでいない現状は、医師と患者双方の負担を軽減するための重要な手段であるにもかかわらず、制度の効果を最大限に引き出せていないことを示しています。今後、制度の周知活動や適切な利用を促進する取り組みが求められています。
出典:中央社会保険医療協議会「中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会(第69回) 議事次第」
6.リフィル処方箋活用の医師のメリット
リフィル処方箋の活用には多くのメリットがあります。まず、医師の外来業務負荷を軽減できる点が挙げられます。リフィル処方箋を利用することで、患者が何度も医療機関を訪れる必要がなくなるため、医師は同じ患者に対して繰り返し診療を行う負担が減少します。例えば、糖尿病や高血圧といった慢性疾患の患者では、定期的に同じ薬が処方されることが多いため、リフィル処方箋を使うことで外来での再診回数を減らし、医師の時間を効率的に使えるようになります。
これにより、他の患者に対して診療時間を増やすことができ、医療機関全体の診療効率が向上します。また、診療時間が増えることで新たな患者を受け入れる余裕が生まれ、医療機関の収益改善にもつながる可能性があります。
さらに、リフィル処方箋の活用は医療機関と薬局の連携を強化する効果もあります。薬剤師と医師がよりスムーズに連携し、患者の薬の管理がより円滑に行われることで、医療全体の質の向上に貢献します。
7.リフィル処方箋活用の医師のデメリット
リフィル処方箋の活用にはメリットが多い一方で、医師や医療機関にとってのデメリットも無視できません。まず、リフィル処方箋を使用することで患者の通院回数が減少するため、医療機関の収入が減少するリスクがあります。特に、慢性疾患を抱える患者が定期的に通院しない場合、外来の再診料や検査費用が発生しないため、病院の経営に影響を与えることが考えられます。
また、リフィル処方箋によって受診間隔が長くなると、症状の悪化を見過ごすリスクが高まる点もデメリットの1つです。定期的な診察を行わないことで、病状の変化や副作用に気づく機会が減少し、患者が病気の進行に気づかないまま悪化してしまうことが考えられます。
さらに、リフィル処方箋を使用する場合、患者は処方箋を無くさないように保管しなければなりません。そのため、医師は発行する前に普段の処方箋とは異なる点などをしっかり把握し、説明を行わなければなりません。また、対象の患者にとって有用性があるのかを判断するという手間が増える可能性があります。
これらの問題点を解消するためにも、医療機関や薬局はアドバイスやサポートが必要となるでしょう。
8.まとめ
本記事では、リフィル処方箋の仕組みやメリット・デメリット、現状などについて解説しました。リフィル処方箋は、医師や患者の負担軽減、医療機関と薬局の連携強化、医療費適正化に寄与する一方で、受診回数の減少による病状悪化のリスクや医薬品の不正流通といったデメリットも存在します。
医療機関においては、リフィル処方箋の活用による収益減少が懸念されるため、慎重な運用が求められます。今後、リフィル処方箋の普及を進めるためには、制度の認知度向上や、医師・患者双方にとって安全かつ有益な運用方法の模索が必要です。リフィル処方箋が医療現場で広く浸透することで、医療の質がさらに向上し、患者にとっても医師にとってもより良い医療環境が実現されることが期待されます。