スポーツドクターになるには?健康管理を支える健康スポーツ医を解説

スポーツドクター 健康スポーツ医

健康スポーツ医は、スポーツに関わる人を医療行為によってサポートする「スポーツドクター」の関連資格です。運動は健康づくりの基盤として厚生労働省も推奨しており、生活習慣病を中心としたさまざまな疾患において有用とされています。

本記事では、スポーツドクターの概要や資格の種類を解説し、資格の中でも日本医師会認定健康スポーツ医の役割から課題、認定方法、メリットまで詳しく見ていきます。

1.スポーツドクターとは

スポーツドクターとは、アスリートやスポーツ競技者、地域住民などの運動に関するケガや障害、健康管理などを行う医師のことです。
スポーツ医学から運動療法・リハビリテーション、運動と身体の関係性など専門的な知識を活かして人々の健康に貢献します。医師免許を有している場合、どの診療科においてもスポーツドクターの関連資格を取得することが可能です。

1-1.スポーツドクターになるための資格3種

日本には、スポーツドクターに関連する資格として、日本医師会認定健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター・日本整形外科学会認定スポーツ医の3種類があります。

1-1-1. 日本医師会認定健康スポーツ医

健康スポーツ医とは、運動する人に対する診療や運動障害やケガの治療、健康管理などを専門に行う医師のことです。また、運動指導者に対しても医学的な観点から指導方法の助言などを行えます。プロのスポーツ競技者だけではなく、地域住民の健康維持・増進を目的としているため、自治体と協力して学校保健や産業医活動、地域保健におけるスポーツ運動指導など行います。

所定の講習会を受講し、修了すると日本医師会の認定を受けることができます。有効期限が5年間に定められており、期限終了までに再研修会を5単位以上修了し、なおかつ実践活動を行わなければ資格を更新できません。

そのため、健康スポーツ医は第一線で活躍している医師にのみ与えられる資格と言えます。

1-1-2.日本スポーツ協会公認スポーツドクター

日本スポーツ協会公認スポーツドクターは、スポーツ競技者の健康管理やスポーツ障害、外傷の診断や治療のほか、協議会における医療的なサポートを行う医師です。日本スポーツ協会が定める講習会を受講し、修了することで認定されます。有効期限は4年間で、資格を更新するためには有効期限の6ヶ月前までに研修会に参加する必要があります。また、スポーツ医学の臨床経験も必須条件です。

1-1-3.日本整形外科学会認定スポーツ医

日本整形外科学会認定スポーツ医は、整形外科専門医の資格を取得したうえで所定の研修を受けることで日本整形外科学会から認定されるスポーツドクターです。整形外科の専門的な知識を活かし、外傷の治療から運動処方まで行います。また他のスポーツドクターの資格と同じく、スポーツ競技者だけではなく地域の中高齢者や整形外科的・内科的な疾患を持つ方への運動指導、発育期に行う運動に関わる問題への対応なども行っています。

資格を更新するためには、所定の学会や研修会に一定時間以上出席する必要があります。

2.健康スポーツ医が求められる背景・役割

スポーツドクターの中でも健康スポーツ医が求められる背景や役割について詳しく解説します。

2-1.運動は病気の治療や予防につながる

厚生労働省は、健康増進において、まずは運動を行い、次に食事を見直したうえで禁煙し、それでも健康に問題が起きる場合は治療を行うことを提唱しています。
効果的な運動量としては、毎日60分以上の歩行と同等以上の身体活動(そうじ、ラジオ体操など)に加えて、週に60分以上の汗をかく程度の運動です。日常生活の中で少し運動を意識するだけで病気の予防に役立つでしょう。

参考:公益財団法人長寿科学振興財団|健康長寿ネット

そのため、厚生労働省やスポーツ庁、日本医師会が連携し、適切な運動を指導することが重要とされています。

2-2.運動不足が要因の病気が増加傾向にある

日本医師会の「運動・健康スポーツ医学委員会答申」によると、通院者率が高い病気の上位5つには、運動療法が適応となる病気が含まれています。

男女共通で高血圧症が1位、男性は糖尿病、女性は脂質異常症が上位に入っており、いずれも運動療法が有効です。前回の調査と比べて通院者率が増加傾向にあることから、ますます運動を指導する健康スポーツ医の需要が高まっているといえるでしょう。

3.健康スポーツ医の課題

健康スポーツ医に関して、次の課題が挙げられます。

3-1.運動指導者との連携強化

スポーツ競技者は運動指導者に相談しつつ、必要に応じて健康スポーツ医の診療を受ける、ということが一般的です。そのため、健康スポーツ医にとって運動指導者との連携は欠かすことができません。

ところが、日本医師会が全国の健康スポーツ医に対して実施したアンケート調査によると、1,159件の回答のうち運動指導者と連携している健康スポーツ医は約2割に留まりました。

また、地域医師会は日本医師会認定健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本整形外科学会認定スポーツ医のいずれかの資格を持つ医師の組織を構築していますが、そこに所属している健康スポーツ医も3分の1程度です。

これらの実情を踏まえ、関係団体との関係強化や認知度向上などが課題として掲げられています。

3-2.学校医における健康スポーツ医の取得促進

東京都医師会健康スポーツ医学委員会の「地域における日本医師会認定健康スポーツ医の活躍の方策について」では、学校医のスキルアップを目的として、健康スポーツ医や産業医の資格を取得する必要性が指摘されています。しかし、その必要性について認知が進んでいないのが現状です。そこで、日本医師会運動・健康スポーツ委員会に対し、学校医との連携を加味したカリキュラムの策定を提案しています。

また、学校医を推薦する際に健康スポーツ医を優遇、または健康スポーツ医の資格取得の奨励などについても、日本医師会や東京都医師会に対して繰り返し提言しています。

4.健康スポーツ医において推進されていること

健康スポーツ医において、次のような方策が推進されています。

  • 「運動関連資源マップ」の作成によるニーズのマッチング
    「運動関連資源マップ」を作成し、健康スポーツ医とスポーツ指導者の連携や運動する人、地域の運動施設のマッチングを推進する

  • 「運動・スポーツ習慣化促進事業」の拡大
    スポーツ庁は健康スポーツ医が運動指導者等と連携し、地域で運動やスポーツを実践する地方自治体の取り組みに対して補助金を交付する「運動・スポーツ習慣化促進事業」を策定しています。日本医師会もこの取り組みへ積極的に協力することを通知し、事業の拡大を推進しています。

  • エビデンスに基づく健康スポーツ政策の取組みの促進
    科学的根拠に基づき安全性と効率性が高いスポーツ、すなわち運動による障害や事故防止の観点から運動を継続できる体制の確立をしています。

  • 身近なスポーツの取組み「Sport in Life」の推奨
    スポーツ庁はスポーツが生活の一部となり、スポーツに親しむ社会を実現するべく「Sport in Life」(生活の中にスポーツを)という形を目指しています。スニーカー通勤やスタンディングミーティングの導入など、企業が従業員の健康増進のために取り組む活動を支援する目的で認定証や認定マークの交付を行い、取組みの促進を推進しています。

健康スポーツ医は今後ますます需要が高まるとともに、地域の個人のみならず地域全体に深く関わる存在として認知が進むことが期待されています。

参照:日本医師会|運動・健康スポーツ医学委員会答申

5.健康スポーツ医になる方法

健康スポーツ医は、所定の講習会を終了することで日本医師会から認定を受けます。日本医師会の「認定健康スポーツ医の手引」で掲載されている健康スポーツ医になるための資格申請や登録、研修の受講方法などについて詳しく見ていきましょう。

5-1.まずは講習会を修了する

日本医師会ならびに都道府県医師会によって開催される健康スポーツ医講習会に参加します。日程は日本医師会のホームページや会報誌などに記載されます。「第35回(令和5年度)健康スポーツ医学講習会(web講習会)」の詳細は以下のとおりです。

  • 受講料……前期・後期各12,000円(日本医師会員)、前期・後期各18,000円(日本医師会員以外)

講習科目は、スポーツ医学論や神経・筋の運動整理とトレーニング効果、スポーツによる外傷と障害、運動療法とリハビリテーション、障碍者とスポーツ、保健指導などです。

健康スポーツ医講習会を修了すると、前期・後期それぞれで修了証が交付されます。なお、以下の講習を修了している場合は、初回の新規申請時に限り健康スポーツ医講習会の受講が免除になります。

  • 日本整形外科学会認定スポーツ医
  • 日本整形外科学会スポーツ医学研修会総論修了者
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター養成講習会基礎科目修了者

5-2.都道府県医師会に申請する

以下の必要書類と登録料10,000円を自身が所属している都道府県医師会に提出します。

  • 認定健康スポーツ医新規申請書
  • 医師免許証の写し(日本医師会員は不要)
  • 健康スポーツ医学講習会の修了証や認定証の写しなど

日本医師会員ではない場合の提出先は、勤務している医療機関の所在地を管轄する都道府県医師会です。その後、都道府県医師会長が健康スポーツ医講習会の受講状況等を審査し、問題なければ日本医師会長へ申請します。日本医師会長が審査し、認定基準を満たしていれば認定証を交付する流れです。

その後、認定健康スポーツ医登録台帳に情報が登録され、健康スポーツ医として活動できるようになります。

6.健康スポーツ医になるメリット・やりがい

健康スポーツ医は健康増進・健康寿命延伸に貢献する存在として期待が高まっているものの、自身に適しているかどうか慎重に判断することが大切です。健康スポーツ医になるメリット・やりがいについて詳しく見ていきましょう。

6-1.自身の専門性が向上する

健康スポーツ医は、医学知識とスポーツに関する専門知識を統合し、アスリートや運動愛好者の健康管理やパフォーマンス向上をサポートします。一般の医師と同様に医学の基本知識を持ちますが、さらにスポーツ医学スポーツトレーニング、栄養学、運動生理学など、スポーツに関する専門知識を習得します。これにより、スポーツに関連した健康問題やスポーツ外傷の診断・治療において高い専門性を発揮できます。

また、患者が運動によって健康になったりスポーツで成功を収めたりした際には、大きなやりがいを感じられるでしょう。健康スポーツ医学は常に進化しており、新たな治療法や予防法が開発されています。自身の研究成果がスポーツ医学の発展に寄与することに喜びを感じる方も多いのではないでしょうか。

6-2.キャリアの選択肢が増える

健康スポーツ医の勤務先は、病院や診療所だけではありません。プロのスポーツクラブ、大学のスポーツチーム、スポーツリハビリテーションセンターなどで専門的な医療サービスを提供する選択肢もあります。

そのほか、学校や教育機関で学生の健康管理を担当する学校保健医や、企業で労働者の健康管理や労働環境の安全性を監督する産業医として働くことも可能です。

6-3.地域保健への貢献

健康スポーツ医は、地域住民が運動を通じて健康的な生活習慣を実現できるようにサポートします。また、地域のスポーツイベントや健康キャンペーンに参加し、医療的なサポートを提供する機会もあります。そのほか、ランニング大会やフィットネスプログラムなどのイベントで、怪我の予防や救急対応を行います。このように、地域保健に貢献できることに対し、やりがいを感じる方も多いのではないでしょうか。

運動・健康スポーツ医学委員会答申では、群市区医師会が地域のスポーツ活動を把握している事例において、健康スポーツ医の活動の割合が関連付けられています。そのため、自治体から健康増進やスポーツ関連の協議会や事業の依頼があった場合には、健康スポーツ医を中心に積極的に推薦することが望ましいとしています。

そのための健康スポーツ医のリスト作成、さらに運動できる場所の把握・整備と、支援できる専門家や組織の連携を促すための方策として、自治体単位で運動できる場所・専門家の見える化(マップ作成)も検討されています。

このように、患者個人だけではなく地域全体の健康維持・増進に貢献できることもやりがいといえるでしょう。

7.まとめ

健康スポーツ医は、運動を通じて競技者のみならず一般の方もサポートし、健康増進やスポーツのパフォーマンスの向上などを目的に診療や運動処方などを行います。運動療法が適応となる生活習慣病は増加傾向にあるため、今後ますます健康スポーツの必要性は高まるでしょう。その一方で、健康スポーツ医の必要性について認知が進んでいないのが実情です。

本記事では、健康スポーツ医の役割ややりがい、メリットなどについてご紹介させていただきました。健康スポーツ医になることで専門性の獲得やキャリアの選択肢の増加など多くのメリットがあります。今回、解説した内容が健康スポーツ医を目指すかどうかや自身の適性についての判断材料になれば幸いです。