医療接遇の5原則とは?医療の質と安全を高める患者対応の基本

医療接遇

医療機関の様々な情報が得やすくなった現代では、患者に対しての対応や接遇が医療機関の評価に直接つながります。患者に「選ばれる病院」になるために、医療接遇の在り方を見直すことが大変重要です。医療接遇は一般的な企業や店舗における接客マナーとは異なる点も多く、取り組みが進んでいない医療現場も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、医療接遇と接客マナーの違いを解説し、医療接遇によって得られるメリットや医療機関だからこそ求められる接遇のスキルなどを紹介していきます。

1.医療接遇とは?

患者が医療機関を選ぶ理由は様々ですが、患者にとって医師や看護師の対応が親切かどうかは病院選びの大きなポイントになっています。実際に、患者が病院のサービスに満足を感じる理由の多くが医師とのコミュニケーションやスタッフの対応に関するものだからです。つまり、医師やスタッフのマナーや接遇により患者の満足度に影響を与えると言えます。

したがって、質の高い医療接遇はただ業務の一環といった位置付けを超え、医療機関の評判や信頼を左右し、選ばれる病院へとつながるものです。

そこでまず、医療接遇が具体的に何を意味し、一般の接客マナーとどう異なるのかに焦点を当てて紹介します。

1-1.医療接遇の特徴

医療接遇とは、患者の心に寄り添い、信頼と安心を与える医療サービスを意識することが特徴です。医療現場での接遇には、医療の専門知識やスキルだけでなく患者一人ひとりの心身の状態に配慮した細やかな対応が求められます。

患者が不安を抱えて病院を訪れた際に、医師や看護師が丁寧に話を聞き、安心感を与えることは医療接遇の特徴の一つです。診察前に医師が患者に明るい表情で挨拶をし「今日はどのような症状が心配ですか?」と優しく尋ねることで、患者は心を開きやすくなります。このように小さな配慮の積み重ねが、患者の不安を和らげるだけでなく医師と患者間の円滑なコミュニケーションを実現し信頼関係の構築にも役立つのです。

また、厚生労働省が公表した「令和2(2020)年受療行動調査」の結果によると、病院を選んだ理由として「医師や看護師が親切」という項目が上位にあがりました。さらに、項目別にみた満足度では、「医師との対話や医師以外の病院スタッフの対応」が満足度の大きな割合を占めており、レベルの高い医療接遇が求められています。

このように接遇の質が高いことは患者が医療機関に期待する重要なポイントであり、患者の満足度が向上し、病院を選ぶ理由にもなっています。そのため、医療機関は接遇スキルの向上を通して信頼関係における高い評価を受け、選ばれる病院として患者の支持を得ることができます。

参照:厚生労働省|『令和2(2020)年受療行動調査』

1-2.接客マナーとの違い

医療接遇と接客マナーは、どちらも人とのコミュニケーションが重要である点は共通のため、基本的な礼儀や態度に根本的な違いはありません。ただ、状況や背景に違いがあります。

医療接遇の相手は心身に不調を抱えた患者であり、精神的な不安や身体的な苦痛を抱えています。そのため、医療接遇では相手の感情を察する心配りが大切であり、単なる形式的なマナーを超えた心のこもった対応が必要です。

また、飲食店ではマニュアル化された接客方法を確立していることもありますが、来院する患者の状況はそれぞれ異なります。言葉遣いや表情においても、ただ明るく元気なだけではなく、患者の立場となった時にどのような対応が安心感を与えられるのか考えることが大切です。

こうした医療接遇ならではの特徴は、医師やスタッフのみならず受付での応対も同様で、単にマニュアルに沿った対応ではなく、待合室の状態に目を配り、患者一人ひとりの状態に寄り添った配慮が求められます。

例えば、受付スタッフの応対の場合、接客マナーでは顧客をスピーディに処理することが重視されますが、医療接遇では患者の緊張を和らげる丁重な態度が求められます。受付のスタッフが患者の不安を軽減し落ち着けるよう、待ち時間や診療までの流れを優しく説明する、患者が安心できる言葉を選ぶといった意識が大切です。

2.医療接遇による医療機関のメリット

医療接遇が医療機関にもたらすメリットは、患者満足度の向上にとどまらず医療の質を高め、リスク対策や医療安全の強化につながるなど多様です。従来は他院との差別化や収益向上のために接遇研修が重視されていましたが、近年はクレームや訴訟のリスク軽減により継続的な医療を目指すために接遇の重要性が再認識されています。

下記で、具体的なメリットを3つ紹介します。

2-1.医療経営に直結する

医療接遇は医療経営に直接的な影響を与えると考えられています。患者満足度の向上により増患や増益につながり、患者の気持ちに寄り添う接遇が患者の間に浸透することで地域での信頼と支持を獲得できます。例えば、医療機関がスタッフ全員の接遇研修を徹底し患者から高い評価を獲得すると口コミで評判が広がり、結果として既存患者のリピート率や新規患者の増加の可能性が高まります。また、医療現場に適した接遇とコミュニケーションにより、患者との意思疎通がスムーズになることで診療待ち時間の短縮や労働時間の削減に繋がり、スタッフのストレス軽減や医療サービスの質向上にも役立ちます。

このように、患者一人ひとりに寄り添った対応を行うことで医療機関への信頼感を高められるため、長期的に安定した医療機関の経営戦略に欠かせない要素と言えるでしょう。

2-2.リスク管理の意味合いが大きくなってきている

医療接遇の向上は、医療機関にとってリスク管理と医療安全の観点から非常に重要です。医師やスタッフの一言がきっかけになり、小さな誤解が生まれクレームや医療訴訟につながるリスクもあります。

医療接遇 悪循環 好循環

医療接遇が不十分な場合、医師に悩みを相談しにくかったり、コミュニケーション不足による情報の共有や伝達漏れが発生したりする可能性があり、患者満足度は低下します。すると、受診する患者が減少し、病院は経営不振に陥るリスクがあります。結果、スタッフの維持が難しくなり、スタッフ一人に対しての業務の負担が増え、忙しさからヒヤリハットやインシデントが発生しやすい環境になってしまいます。ヒヤリハットやインシデントの続く病院はさらに患者が減少するという悪循環が発生します。

また、医師と患者のコミュニケーションが上手くできておらず、患者の症状や病気を見逃してしまう可能性があります。情報不足による誤診で行われた検査や治療などで問題が発生し、生命を脅かす結果となった場合、医療訴訟に発展するケースも考えられます。しっかりとコミュニケーションが行われていれば、患者も自身の不安を打ち明けやすく、医師は症状に合った治療方針を示すことができ、誤診につながるリスクを低下させることができます。

このようなリスクを回避するためにも医療接遇は重要です。患者も自身の話を聞いてくれる医師に対し安心感覚えます。患者の緊張や不安に寄り添い、傾聴の姿勢で寄り添う対応で接することを意識すれば、結果的にこれらのリスクを軽減することができます。

2-3.医療接遇が浸透することで目指せる組織

医療接遇

医療接遇が医療現場に浸透することで、優れた接遇力を持つ人材が育つ職場環境や仕組みが構築され、やがて病院の理念に基づいた接遇文化が定着します。そして、患者から選ばれ、支持される医療機関を目指すことが可能です。

医療接遇の浸透した病院を目指すには、段階を踏んでいく必要があります。一人一人が医療接遇を意識し、医療現場でのコミュニケーションの重要性を理解する所から始まります。そこで生まれた気付きから主体的に行動できるようになると、コミュニケーションが活性化し、チーム連携がスムーズに行えるようになります。このように医療接遇により好循環な病院は、提供できる医療のレベルもあがり、患者の満足度は向上します。

さらに、医療接遇が浸透した病院では、同じく接遇力の高い人材が育つ可能性も高く、良い医療接遇のマナーが定着するため、医業継続に欠かさないポイントでもあります。

参照:「医療接遇」とは – 接遇と接客マナーの違い|接遇研修のラ・ポール

3.医療接遇で求められるスキル

医療接遇で求められるスキルを具体的に5つ紹介します。

3-1.接遇マナーの5原則

接遇マナーの5原則とは、患者に対しふさわしい対応を目指すための基本的な行動ルールです。具体的には、

  • 身だしなみ
  • 挨拶
  • 表情
  • 言葉遣い
  • 傾聴

となっています。
それぞれ具体例を挿入しながら説明します。

・身だしなみ

業務を行う上で清潔感や衛生面、機能性、安全性が重要になります。清潔感は患者に安心感を与えることができます。新型コロナウィルスの影響もあり、二次感染への不安を感じる方も多く、さらに医療行為を行うという点で衛生面への配慮も必要です。また動きづらさを感じながら業務を行うとケアに集中することができませんので機能性も重要になります。アクセサリーやネイルなどを禁止しているクリニックも多いですが、患者の肌や患部を傷つけることのないよう安全性に配慮した身だしなみを整えましょう。

・挨拶

挨拶を行うことで「患者に気づいています。声をかけても大丈夫ですよ。」と知らせることができます。また、笑顔で目を見て行う明るい挨拶は患者に安心感を与え、良い印象につながります。一例として、毎朝病棟を回り、入院患者に明るく「おはようございます」と声をかけることで、一日の診療を温かい雰囲気でスタートできます。

・表情

柔らかな表情は、患者から話しかけやすい雰囲気を作れ、緊張を和らげることもできます。心身に不調を抱えて来院する患者は、痛みや苦痛を抱えています。そんな気持ちに寄り添うことができる優しい表情を意識すれば、患者は安心して医療を受けることができます。ただ、患者の状況に応じた表情で接することが大事なため、いつも笑顔でいることが正解とはかぎりません。状況を見極める必要があります。

・言葉遣い

敬語や優しい口調を基本にすることで、患者に対し尊重の意を示せます。診療内容を説明する際に専門用語を避け分かりやすい言葉を選ぶようにすれば、患者の理解を深めることが可能です。コミュニケーションを行う上で親しみやすさは重要ですが、不快感を与えるような馴れ馴れしさとは異なります。どの患者に対しても丁寧で正しい言葉遣いで接することを意識しましょう。

・傾聴

患者の話に耳を傾けることで、信頼関係を築きます。患者の不安の声や個々の質問に対してじっくりと耳を傾け、心情に寄り添い適切なアドバイスを伝える姿勢が重要です。特に、心理学やカウンセリングで重視される傾聴を心がけ、共感的な理解を示す態度をおすすめします。

医療接遇において、医師やスタッフが患者から信頼され安心できる医療サービスを受けられる環境を作り出すために、上記で挙げた5つの原則が重要です。好印象を与え、ポジティブなコミュニケーションの確立を行うため、そして患者の心情に寄り添うためのベースとなる接遇マナーとなっています。

参照:接遇マナーの5原則とは?医療現場で求められる接遇について解説 |NEWS|キャリアラボ
参照:傾聴とは|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

3-2.コミュニケーション力

コミュニケーション能力が高い医師やスタッフは、患者に信頼され精度の高い医療サービスが可能です。医療接遇では患者の心身状態やニーズに応じて必要な情報を伝え、良好な関係性を構築することが求められます。

3-3.柔軟な対応力

傾聴力を基に患者の話を丁寧に聴き、それぞれの状況や気持ちに合わせた柔軟な対応をすることで個々の患者に対しベストなケアを行えます。

例えば、待合室で外来患者が急な症状を訴え、予約の順番を繰り上げて診療するケースが挙げられます。患者一人ひとりの医療ニーズは多様で常に変化しており、現状の方針や前例、ルールに縛られすぎない接遇も必要です。

3-4.チームワーク

医療現場では医師や看護師をはじめ多職種が協力しチームワークで成り立っています。したがって、患者に対し最善のケアを実現するためには、各メンバーの専門知識を活かしながらスムーズな情報共有と協力が必要です。

複数の基礎疾患を抱える患者の手術において複雑な周術期管理に対処するために、多職種の専門知識やスキル、経験を結集し、共同で手術計画を策定する場合があります。

チーム内での良好なコミュニケーションによって医療安全と質の高い医療サービスが実現します。

3-5.当事者意識

自身の役割と責任を自覚し、主体的な行動が医療現場では求められます。患者の立場に立ち何がベストかを常に意識し、必要に応じて積極的に接遇改善に取り組む姿勢が、患者の信頼を獲得する土台となります。

例えば、スタッフが自発的に清掃スケジュールの見直しや感染予防対策の強化を徹底し、患者に対する病院の清潔感や衛生管理をアピールするといったケースが挙げられます。

4.【シーン別】医療接遇実施のコツ

医療接遇における対応では、患者のタイプを理解し、状況に応じた対話を心がけることが重要です。

そこで初診時、再診時、クレーム時の各シーンに応じた対応例を通じて、患者満足度の向上につなげる医療接遇を考えてみましょう。

4-1.新規患者の初診

新規患者が初めて診察室に入った時、医師や看護師は患者の名前を呼び明るく挨拶をしましょう。特に、最初の体の向きが大切です。患者のほうに向かって声を掛けることで、相手を尊重する気持ちを伝えることができます。

そして、「今日はどうしましたか?」といったオープンクエスチョンを通じて患者が何に困っているのかを聞きます。このような対応をすることで患者は医師や看護師に安心感を持ち、少しずつ信頼し始めます。新規患者を再診へと繋げるためにも、初対面で心を開いてもらえる気持ちを込めた接遇が重要です。

4-2.既存患者の診察

既存患者の診察では、医師は過去の診療情報に基づいて患者の現在の状態を把握し、継続して必要な治療を行います。患者はこれまでの経緯を医師が理解した上で診察をしていると思っているため、患者間の信頼関係をより深めるために、患者のニーズを的確に捉えた診療が大切です。そのため、医師は患者の話を丁寧に聞き、現状と今後の治療についてわかりやすく説明することが求められます。

4-3.クレーム対応時

クレーム対応時は、まず冷静になることが重要です。患者のクレームによっては、自分に注意を引きたい、ただ気持ちを理解して欲しいといったニーズから言動している場合もあります。したがって、現実的な解決を目指して話し合いを行い、問題が解決しても、クレーム自体が収まらない可能性も少なくありません。丁寧に説明を繰り返しても患者の理解をなかなか得られない場合は、患者に必要な医療を行うことを優先し感情的にならず合理的に対処する姿勢を貫くことが大切です。

一方で、患者が診察室に入室する際は明るく丁寧な声がけをするなど、初めから信頼を築く接遇がクレームの防止につながります。例えば、待ち時間が長いときなどには当日の混雑状況を説明し、謝罪や感謝の気持ちを伝えて理解を得る対応がおすすめです。

5.まとめ

医療接遇の重要性は高まっており、特に医師やスタッフの対応や接遇の質が患者の病院選びに大きな影響を与えます。したがって、医療接遇では患者満足度の向上、リスク管理、医療安全の強化を目指し、患者一人ひとりの心身状態に配慮した細やかな対応が必要です。

本記事で紹介した医療接遇に必要なスキルを身につけ、新規患者の初診、既存患者の診察、クレーム対応時の接遇のコツを押さえることで、患者の満足度を上げ安定した医業経営につながります。