救急医のやりがいとは?キャリアプランの鍵を握るダブルボードの働き方

救急医は医療の中でも高い緊急性と総合的な医療知識が求められる激務で知られています。一方で、救命救急の現場で患者を診療しながら複数の専門性を活かせる大きなやりがいもある診療科です。

そこで本記事では、救急医の仕事内容からやりがい、収入、救急専門医への道のりやキャリアパス、男女別の活躍例など幅広く紹介し、救急医の仕事に新たなスポットを当てます。また、救急医のキャリア拡充で注目されるダブルボードやサブスペシャルティといった多様な働き方についても触れていますので、最後までご一読ください。

1.救急医とは

救急医は、緊急医療の最前線で活躍する医師です。日本救急医学会では、救急医専門医の使命を下記の通り定義しています。

救急科専門医の社会的責務は、医の倫理に基づき、急病、外傷、中毒など疾病の種類に関わらず、救急搬送患者を中心に、速やかに受け入れて初期診療に当たり、必要に応じて適切な診療科の専門医と連携して、迅速かつ安全に診断・治療を進めることである。

さらに、救急搬送および病院連携の維持・発展に関与することにより、地域全体の救急医療の安全確保の中核を担う。

出典:救急科専門医の使命|一般社団法人 日本救急医学会

救急医の主な役割として、病院の救急外来や救命救急センターにおける急性期の患者対応が挙げられます。例えば、交通事故や心筋梗塞、脳卒中などの緊急事態に遭遇した患者の初期治療を行います。また、災害時の医療対応にも携わり、地震や洪水などの災害現場で被災した患者への応急処置を行うこともあります。

このように、救急医は内科や外科、小児科や産婦人科など多岐にわたる医療知識と技能を必要とし、迅速な判断と行動力により目の前の急患に対応する能力が求められる重要な役割を担っています。

2. 救急医の仕事内容

救急医の仕事は主に下記の4つに分類されます。

2.1 病院前医療

救急医はドクターヘリやドクターカーを使用して現場に直接出動し、外傷や急病の患者に対して迅速な医療処置を行います。

例えば、交通事故で重傷を負った患者に応急処置を施し、状況に応じて止血処置や一時的血行遮断や緊急気道確保を行うなどの緊急対応が必要となります。病院前医療では、早期に医療介入することで状態を安定させ、医療機関に安全にたどりつかせる役目があります。そのためには、高度な医療知識と技術に合わせ、迅速な判断と処置が必要になります。

2.2 ER型救急医療

幅広い診療科にわたり、軽症から重症まで全ての救急患者に対して初期診療を行います。ERを訪れる患者の多くが軽症であるため、適切かつ迅速な緊急度の判断が必要になります。

2.3 救命救急

救命救急では、多発外傷などの重症患者が運ばれてきた場合、迅速に全身の状態を評価し、必要な手術や集中治療を行います。現場では、救急医を中心に外科医、内科医、麻酔科医、放射線科医、看護師、救急救命士など、さまざまな専門分野の医療従事者が協力し、複数の医療チームで多角的に診療を進める場合が多いです。

2.4 災害医療

災害発生時、救急医は自治体の要請や病院の指示により現場に急行し、多数の傷病者に対してトリアージ(優先順位の判断)を行い、限られた医療資源の中で最も効果が見込める治療に取り組みます。大規模災害時には救急医が指揮を執り、救急隊員や他の医療スタッフと協力して救命活動を行います。

参照:救急科専門医とは|奈良県立医科大学高度救命救急センター

3. 救急医の収入

 
医師の平均年収に関しては、診療科別で大きな差があります。独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、診療科別の平均年収は脳神経外科1,480万3000円、産婦人科1,466万3000円、外科1,374万2000円がトップ3の診療科です。
救急科は第10位1,215万3000円で、トップの脳神経外科と比べ265万円の差があります。

生涯年収を35年で試算した場合、脳神経外科5億1,810万5,000円なのに対し、救急科は4億2,535万5,000円となっており、より差が大きいことが明らかです。

救急医は激務で知られ、脳神経外科や産婦人科などと同様に24時間365日体制が基本です。働き方改革が推進されているものの依然として人手不足の状況が続いており、今後も厚遇される傾向が強いと言えます。

参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」

4. 救急医のやりがい

救急医のやりがいは下記の3つが挙げられます。

4.1 緊急性の高い患者を救うことができる

救急医の主な業務は、重傷を負った緊急事態にある患者に迅速かつ効果的な初期治療を行うことです。例えば、多発外傷や急速に重篤化する急病の際、救急医は速やかに総合的な治療を行い、外科や内科をはじめ必要な他科専門医と連携して質の高い集中治療を展開します。

救急医は初期治療のみを担当するという誤解がありますが、他科を巻き込むチーム医療により必要に応じて根本治療までカバーします。

このように、緊急医療の最前線に立つ救急医は、初期治療から集中治療、そして退院までの根本治療といった多岐にわたる診療で中心的な役割を果たし、多くの重篤患者の生命を救う使命を持っています。

参照:救急医か迷う君へ(FAQ) _ 救急医をめざす君へ|日本救急医学会

4.2 総合的に患者を診る力がつく

救急医は、ジェネラルな医療知識が要求されるため、さまざまな症状や病状に対応できる能力が身につきます。緊急患者を自身の力を駆使してその場で診断し、必要な検査や治療を迅速に行わなければならないからです。したがって、決まった診療科に関わる疾患や臓器はもちろんのこと、多発外傷や急性疾患など、複数の病状が絡む患者を総合的に診療する力が救急医の専門性と言い換えられます。

医療のジェネラリストとして高いレベルの診察能力を身につけ、患者の症状や状態を迅速に評価し、適切な治療を決定し、精確に実行できるのが救急医の重要な役割と言えるでしょう。

救急医は急変する患者の生命を救う現場経験を通して危機的な状況に直面した際の対応能力を高め、院内急変や事故・災害現場など多様なシチュエーションでの冷静な判断力を養います。

4.3 活躍の場が広い

救急医は、一般の医師に比べてさまざまな現場で活躍できる存在です。ドラマや映画で認知度が高まったフライトドクターのように、病院内だけにとどまらずドクターヘリ、ドクターカーによる事故や災害時の現場対応など、活躍の場は多岐にわたります。

非日常的な状況での迅速な医療提供は救急医の重要な任務であり、日々の努力で培った専門性とスキルが社会的なニーズに応えるものとなっています。

参照:ドキュメント・ドクターヘリ 救急医をめざす君へ|日本救急医学会
参照:ドキュメント・ドクターカー 救急医をめざす君へ|日本救急医学会

5.救急科専門医になるには

救急科専門医になるには、医師免許を2016年(平成28年)以降に取得した場合、2018年4月以降に日本専門医機構認定が運営するプログラム制を3年修了後に取得できます。初期臨床研修を終えた後、そのまま専門研修プログラムを受ける際は、卒後3年目から可能で、プログラム修了まで3年を要します。また、2023年4月以降に日本専門医機構認定のカリキュラム制による研修で条件をクリアした場合も救急科専門医の資格が取得可能です。専門医の試験内容は、救急勤務歴審査と診療実績審査に加えて、最終的に筆記試験に合格する必要があります。

救急科専門医の資格5年間有効であり、認定期限満了前に更新申請が必要です。更新の申し込みの際は、勤務実態の自己申告、診療実績の証明、必要な単位数の取得が必要です。救急科専門医の資格取得と更新により、救急医療における幅広い知識と経験、そして継続的な学習を証明できます。

参照:専門医を取得する|一般社団法人 日本救急医学会一般向けホームページ

6.救急救命医の現状

救急医は、激務である印象が強い診療科ではありますが、男女の比率や年齢層、ライフワークバランスに関しての現状はどのよいになっているのでしょうか。

6.1 救急医専門医の数や年齢層


救急医の現状を見ると、救急科専門医の数は年々増加傾向にあります。若い世代の活躍が目立ち、特に女性の割合が今後も増えていくと予測されます。

1970〜1980年代生まれが救急科専門医の約6割を占めており、30代から50代の中堅からベテラン層が救急医療の中核を担う状況です。そして、1990年代以降生まれの救急医を志望する若手医師の活躍が期待できます。事実、女性の救急科専門医は10年単位で増加しており、特に1990年代生まれでは約3割が女性であるというデータがある程です。

6.2 救急医のワークライフバランス

勤務形態については、シフトワークが進んでおり、プライベートとのバランスを保ちやすい環境が整っている施設も増えています。救急医の一般的なイメージと異なり、家族との時間を充実させたり、自己充実の時間を確保したりなど、勤務外の時間はしっかりとオフとして過ごすことができます。

特に、シフト制の普及により、女性の救急医も育児との両立がしやすい職場が増えています。今後も救急医療の現場で緊張感を保ちながら職務をこなす立場に変わりはありません。ただ、シフトワークによって燃え尽き症候群を防ぎ、仕事のパフォーマンスを高め、長期的なキャリア形成が実現しやすい職場になってきています。

参照:救急医の基本データ _ 救急医をめざす君へ|日本救急医学会

7.救急医のキャリアプラン

救急医のキャリアプランは具体的にどのような流れとなっているのでしょうか。

下記で男性医師と女性医師の例に分けて救急医のキャリアプランの具体例を紹介します。

7.1 男性の活躍例

男性救急医のキャリアプランの一例として、医学部卒業後の初期研修を診療実績の豊富な病院で行い、幅広い診療能力を身につける方向性があります。その後、救急医療を目指した段階で、重症や外傷などの専門的な診療を学ぶために大都市の急性期病院や大学病院等で後期研修を積むルートが考えられます。

また、結婚や子育てなどプライベートの変化に対応しながら、ワーク・ライフ・バランスを保ちつつ、大学病院で臨床以外の研究や教育にも携わる途もあるので安心です。キャリアの途中でUターン・Iターンなどにより地方に転職し、地域医療への貢献やプレホスピタルケアの強化に努めるキャリアパスで活躍する男性医師も見られます。

大学の教員でキャリアを歩む場合、医学部教育や院内システム構築に関わりつつ、家庭内での役割も果たしながら地域や国の救急医療の発展への貢献を目指せます。

7.2 女性の活躍例

女性救急医のキャリアプランは、個々の興味に加えライフイベントに応じて変化する傾向があります。

例えば、最初は授業で呼吸器内科に興味を持った志望者が、救急医療の幅広い診療範囲に魅力を感じて救急医に転向したケースがあります。キャリアを進める中で、家庭との両立や出産を経験し、仕事のスタイルを変更する必要がありました。結婚や出産後は、ワーク・ライフ・バランスのため訪問診療と救急の仕事を組み合わせることで、プロとしての成長を続けながら家庭生活とのバランスを保つといったキャリアプランが考えられます。

このように、男性と女性の活躍例を通して、現場の救急医はワーク・ライフ・バランスの実現を目指し、職場や勤務形態などを柔軟に変えながら家庭と仕事の両立を図ろうと努力している姿勢が見えてきます。

8.救急医のサブスペシャルティ・ダブルボートという働き方

救急医として活躍する場合、サブスペシャルティやダブルボードの働き方が想定されます。ただ、救急科の専門性と多領域のスキルやキャリアパスの両立が可能かどうか心配する声が少なくありません。

下記でサブスペシャルティやダブルボートの特徴や活躍例を紹介します。

8.1 サブスペシャルティ・ダブルボートとは?

救急科専門医の中には、自身の診療科におけるスキルに加えて、サブスペシャルティやダブルボードの専門知識を習得し活躍するケースが増えています。サブスペシャルティやダブルボードでキャリアパスを形成すると、救急科の基本的なスキルを基により専門的な領域での知識を深め、複数のスキルやキャリアパスを持つことが可能です。

サブスペシャルティとは、基本領域専門医資格を持つ医師がさらに専門的な分野での資格を取得する場合を指します。救急科専門医が感染症専門医や集中治療専門医といったサブスペシャルティ領域を取得するケースがあります。いずれも研修による自己研鑽を重ね更新基準を毎回クリアし続ける必要がありますが、医師はより専門的な知識と技術を習得し、多角的な診療が可能です。

一方、ダブルボードとは、一人の医師が二つの異なる専門医資格を持つことです。例えば、救急科専門医が他の基本領域専門医である内科専門医や総合診療専門医などの資格を取得し、より幅広いキャリアパスの構築を実現するケースが該当します。

日本専門医機構は、こうした専門医に関して複数資格の取得を禁じていないため、救急医の将来性は非常に広がっています。

参照:救急医か迷う君へ(FAQ) _ 救急医をめざす君へ|日本救急医学会
参照:ダブルボード|一般社団法人日本専門医機構 総合診療専門医検討委員会
参照:サブスペシャルティ領域について _ 一般社団法人 日本専門医機構一般社団法人 日本専門医機構

8.2 サブスペシャルティで専門性を広げた事例

救急医として勤めながら外傷専門医を取得し、活躍する事例を紹介します。外傷専門医の資格を得ることで、極めて緊急性の高い重症外傷患者に対しての迅速かつ的確な対応が可能になります。

外傷専門医を取得し、サブスペシャリティとして活躍する救急医は、国際協力や救急、スーパーローテーション方式など、幅広い診療に触れ経験を積みたいと考え研修先を選択しました。初期研修で各診療科を回り、横断的に急性期を診療できるよう救急医を目指すことを決意しました。外傷診療に興味を持ち始めたのは、当時勤めていた病院でJATEC(外傷初期診療)コースの開発が行われていたのがきっかけでした。

救急医を取得後は、重症外傷患者をより多く救うため外傷診療のスペシャリストを目指し、海外の病院での臨床研修などを行い、医学部卒業13年後に外傷専門医を取得しました。重症外傷患者を救うため、外傷疫学やデータベースの構築に力を入れており、迅速か正確な判断・状況や環境での応用力、チーム医療としてのリーダシップを意識しながら、さらなる経験を積んでいます。また、救急科指導医の資格も取得し、後進育成も行っています。

参照:救急医を目指す君へ「私のキャリアプラン_+外傷専門医」

8.3 2つの基本領域専門医を持つダブルボードでの事例

救急医はその他の基本領域専門医の取得により、専門性を活かしさまざまな分野での活躍が可能です。脳神経外科専門医として活躍する例では、救急医が脳外科の専門知識を活かして、脳血管事故などの急性期治療に対応し救急医療の質の向上に貢献しています。

救急科専門医と脳神経外科専門医のダブルボードを持った医師の場合、学生時代から救急医学に対する興味を深め、初期研修を通じて幅広い医療スキルを身につけるところからキャリアパスが始まりました。その後、脳神経外科での専門研修を経て脳神経外科専門医を、続いて救急科専門医の資格も取得。高度な脳血管手術の技術を習得すると共に最終的には自身で救急科を立ち上げ、様々な専門性を持った救急科チームの構築を目指しています。

参照:救急医を目指す君へ「私のキャリアプラン_×脳神経外科専門医(救急脳神経外科医)」

このように、サブスペシャルティやダブルボートの専門性を活かすことで、より多くの患者を救うことにつながり、救急医にとって非常に将来性があるキャリアパスだと言えます。

9.まとめ

救急医は激務でありながら、直面する緊急事態において迅速な判断や多様な医療技術の応用が求められるなど、大きなやりがいを感じる職業です。重篤な患者の命を救う現場に立ち会う体験で得られる達成感や、他の診療科の医師や看護師、コメディカルとの連携によるチーム医療の経験を通して、専門性の向上を図ることができます。

同時に、救急科においてもシフトワークの導入によりワーク・ライフ・バランスの実現が進み、長期的なキャリア形成を目指せます。特に、ダブルボードやサブスペシャルティを実現すると専門性とキャリアの幅を広げ、救急医療の質を高めることが可能です。