【クリニック内装のポイント】設計から内装スケジュール、法規制まで解説

クリニック 内装

開業・クリニック経営において内装デザインは非常に重要で、集患・増患にも大きな影響を与えます。

患者のためを思った空間に仕上がったクリニックは自然と患者を惹きつけてくれますので、内装にこだわり、他院との差別化を図ることは、クリニックを運営する上で大切な視点であると言えるでしょう。
とはいえ、漠然としたイメージは持っていても、理想とするクリニックの内装を実現させるのは難しいものです。

この記事では、クリニックの内装設計について、ポイントとなる内装設計スケジュールやコンセプトづくり、診療科目別の注意点を具体的に解説しています。知っておきたい法規制や、内装業者選びのポイントに至るまで網羅して紹介していますので、ぜひご自身が今後クリニックを開院する際の参考にしてください。

1.内装を考え始めるのはいつ?

患者を惹きつけるクリニックづくりのためには、内装デザインが大きなポイントになります。

患者は、通うクリニックを選ぶ際、医師やスタッフの対応だけでなく、待合室や受付の雰囲気なども含めて検討しています。
クリニックを開院するにあたっては、内装工事以外にも様々な準備が必要なため、早い段階から内装を意識した開院準備をすすめていくことが必要になります。
ここでは内装に着目しながら、クリニック開業までのスケジュールを紹介していきます。

Opened a clinic

1-1.クリニックを新規開設する届け出の流れ

クリニックを新規開設する際には、管轄の保健所への届け出が必要です。まずは物件選定が終わり、内装工事を行うことが確定した段階で、開設スケジュール(見込み)や平面図などの準備可能な書類を持って「事前相談」を行い、開設後10日以内に開設届けなどの必要書類を提出、実査後に厚生局での手続きを経て保険診療開始となります。

参照:東京都保険医療局「診療所・歯科診療所の開設等」

1-2.後悔しない具体的なスケジュール

届け出の流れを把握した上で、さっそく開院までの内装のスケジュールを見ていきましょう。

開業地域決定・コンセプト設計:開院98か月前

開業を決めたら、まずはどの地域で行うかを決めます。開院の98か月前には地域選定を完了させておくと余裕を持って準備を進められるでしょう。

地域が決まったら物件選定や内装工事が始まるため、開院の98か月前の期間には、クリニックの治療方針やどのような雰囲気の内装にしたいのかなど、コンセプトを固めておく必要があります。コンセプト設計を入念に行うことが、内装の質を高めることに大きく影響します。

物件選定・契約:開院74か月前

クリニックを開くための物件探しや賃貸契約を行うのがこの期間です。

この期間には、内装工事業者の選定も行う必要があります。内装は、まずはヒヤリングからスタートするため、各部屋の広さや部屋数、予算感、内装イメージなどを決めておきます。その後、基本的なレイアウトや扉や床、壁、天井などの詳細な仕様・設計などの具体的な内装を考えていきます。コンセントの配置や衛生設備の位置は、業務の効率などに関わってきますので動線を意識しておくとよいでしょう。

内装などが残っている居抜き物件か、店舗内の床や壁、天井などの内装がないスケルトン物件かでも内装工事にかかる時間は異なるものの、開院の74か月前までに契約が完了していれば、余裕を持って工事に取り掛かれます。

内装工事・スタッフ募集・各種届出:開院3か月前~

内装工事が始まると、部屋の広さやクリニックの雰囲気、スタッフや患者の動線などを目で見ることができるので、日ごとに開院する実感が大きくなってくるでしょう。床材や壁紙、医療器具などが設置されていくため、図面通りにできているか、不具合などがないかなどを定期的に確認していくことも大切です。

この期間にはスタッフ募集や、開院地域への広告宣伝、行政への届け出などを行う必要もあります。スタッフ募集や広告宣伝はあまり早く実施しても、辞退や費用がかさむリスクがあるため、3か月前からが目安となります。

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クリニック開業の実態|開業数の推移から成功のポイントまで解説

2.患者やスタッフが過ごしやすい内装づくりを目指す2ステップ

クリニックの内装設計は、患者だけでなく働くスタッフを考慮することも大切です。
患者にとっての居心地の良さや通いやすさと、スタッフの働きやすさを両立するクリニックの内装づくりには、2つのポイントがあります。

2-1.診療コンセプトの設定

診療のコンセプトとは、「患者一人一人に寄り添うことができる」や「患者がリラックスして過ごせる」、「待ち時間が少なくスムーズに受診できる」など様々ですが、漠然としたイメージからは理想とするクリニックの内装をつくることは難しいです。

そのため、クリニックの診療コンセプトを固めることで、クリニックに通う患者の年齢層や診療内容、働くスタッフのことを意識した内装にしていきましょう。

その際には、抽象的なイメージだけではなく、内装やインテリアの細部にまで踏み込んで考え、明確化することが大切です。

例えば受付カウンターの場合、作業がしやすい高さにする、カルテの収納ができるような棚や広さを設ける、待合室であれば子どもがケガをしないように角が丸いテーブルやソファーを設置する、患者同士の視線が合わないようにするなど、具体的に考えるとよいでしょう。

2-2.スタッフと患者が使いやすい動線にする

内装工事は一度完成すると、改装するのに費用も時間もかかってしまいます。そのため、設計時から入念に患者やスタッフの動きをシミュレーションしておくことが重要です。スタッフが効率的に動けないと、その分患者対応に時間がかかり、不必要な混雑が発生してしまいます。

患者にとっても、待合室から診察室への往来や、トイレへの移動がスムーズにできないとストレスになります。なるべくスタッフの動線と患者の動線が不必要な箇所で重ならないように配慮し、居心地の良さや働きやすさの向上につなげましょう。

また、患者の医療情報は個人情報です。カルテを収納している場所が患者から見えるといったことは避けなければなりません。薬剤・金銭の紛失や患者情報の流出など、院内トラブルを防止するために、防犯カメラを設置したり、入退室の管理ができるシステムを導入したりすることも検討することをおすすめします。

3.診療科目別の内装ポイント

クリニックの診療科目によって、通院する患者の年齢層や体調は異なります。内装におけるそれぞれのポイントも確認していきましょう。

3-1.内科

内科は子どもからお年寄りまで幅広い年齢層が通います。体調不良時にはとりあえず内科を受診するという方が多く、1日あたりの患者数も多い傾向にあります。そのため、なるべく混雑しないよう回転率を上げる設計が望ましいでしょう。例えば、待合室と診察室の距離を近くする、お年寄りのために出入口にスロープを設置する、クリニック内にも手すりを設置し、段差もなるべくなくす、といった設計だとスムーズな診療につなげられます。

また、小児科も兼ねる場合には、小さな子どもが待ち時間に退屈しないよう、キッズスペースを設けるとよいでしょう。キッズスペースの充実具合も、自分の子どもを通わせ続けるかどうかを判断するポイントになります。

3-2.循環器内科

診察前に採血やX線検査を行うことが多い循環器内科は、専用の検査室の設置が必要になります。それに伴い、診察室だけでなく検査室への動線がスムーズになるように留意するとよいでしょう。心電図検査では、患者の服をめくって処置を行いますので、心電図検査を行う場所やカーテンの設置などにも気を配る必要があります。

心臓疾患の患者や車いすを使う患者でもスムーズに通院できるよう、廊下の幅を広めに設計する、段差をなるべくなくすといったことも重要です。

3-3.消化器内科

診察後に各種の検査や治療を行う場合がある消化器内科では、診察室から検査室・処置室へスムーズに移動ができるような設計が必要です。クリニック内で下剤を服用してもらうこともあるので、トイレを多く設置することも重要になります。

3-4.小児科

子どもや赤ちゃんを診察する小児科では、安全な空間作りが重要です。机やいすなどは角がないものを使用する、壁や床にはクッション性が高い素材を使うといった対策を行いましょう。保護者目線での設計が重要で、キッズスペースだけでなく授乳室やおむつ交換スペースなどの設置や、ベビーカー置き場を確保するなどして、過ごしやすい空間作りを行うのが望ましいでしょう。

また、子ども同士が院内感染をしないような、動線設計やレイアウトの工夫も求められます

3-5.耳鼻咽喉科

特に春先などに他の診療科よりも来院患者数が多い傾向にある耳鼻咽喉科は、スムーズな診療が行える体制づくりが重要になります。医師の動線と患者の動線を意識し、効率よく診察が行えるようにするとよいでしょう。

また、待ち時間が長くなりがちなので、待合室を広く設ける、キッズスペースも確保するといった工夫が必要です。

3-6.皮膚科

保険診療を行う皮膚科の場合、診療単価が低い傾向にあるため、回転率を上げる工夫が必要になります。

動線を意識するだけでなく、待合室を広くとって多くの患者を受け入れられるようにするのもよいでしょう。感染症の治療のために来院する患者もいるため、スリッパではなく靴のまま入室できるようにした方がよい場合もあります。

3-7.眼科

診察までにさまざまな機器での検査を行うことも多い眼科は、患者の移動が複雑化しやすいので、なるべくシンプルな動線にするとよいでしょう。また検査後に診察を行う場合には、検査室でも待機できるようすると、患者の移動が減り、効率的に診察ができます。

視力の低い患者や視覚障害を持っている患者も通院しやすいよう、バリアフリー化はもちろんのこと、階の移動が必要ない場所にクリニックを設けることも重要になります。

3-8.整形外科

脚や腕などをケガしている患者が多く通う整形外科では、松葉杖や車いすでもストレスなく移動できるレイアウトが求められます。段差をなくし、手すりを設置する、廊下の幅を広くするなどの工夫が必要です。また、脚が悪い状態で立ちっぱなしの時間がないように、待合室には椅子を多めに設置するとよいでしょう。

3-9.精神科・心療内科

精神科や心療内科には、通っていることを知られたくないと思っている患者が多くいます。そのため、内装設計は患者のプライバシー性が保てるように特に配慮する必要があります。大きな道に面した場所ではなく、ビルの上階や、駅から少し離れた場所にすると、安心して通いやすくなります。

患者が暴れてしまう、といった事態にも対応できるよう、各部屋や受付カウンターには出入口を複数設けるようにしましょう。内装としては、患者がリラックスできるような壁紙の色にするなど、落ち着きのある空間づくりを意識することをおすすめします。

3-10.産婦人科

産婦人科では、分娩室・手術室・新生児室・授乳室など、さまざまな部屋が必要になります。入院用ベッドを設けるかなど、診療内容によって必要な機能が異なるため、それらを踏まえた上での内装設計を検討しましょう。また、急患の多い診療科目ですので、24時間出入りが可能な場所にクリニックを設ける必要があります。

小さな子どもを連れた患者も多いので、キッズスペースも確保しておくとよいでしょう。

3-11.美容クリニック

自費診療がメインとなる美容クリニックでは、高級感を演出することが効果的です。処置室だけでなくパウダールームを設けることや、患者同士が顔を合わせないような動線にするなど、待合室への工夫が必要です。

4.クリニック内装を設計する際に把握しておきたい4つの法規制

クリニックの内装を設計するにあたっては、患者に合わせたものにするだけでなく、「建築基準法」「消防法」「バリアフリー法」「医療法」の4つの法律に則った内装にする必要があります。
それぞれの法規制の主なポイントについて紹介していきます。

4-1.建築基準法

建築基準法とは、国民の生命や健康、財産の保護、また公共福祉の増進を資することを目的として、建築物の敷地や構造、設備及び用途について最低の基準を定めた法律になります。

建築基準法では、クリニックに入院ベッドを設けるかどうかで扱われ方が異なります。入院ベッドが20床以上あれば病院扱いになり、入院ベッドが19床以下なら診療所となります。入院ベッドが1床でもあると「特殊建築物」という扱いになるため、床面積および通路や階段の素材などに追加の制限が設けられます。

入院ベッドがない場合は、「一般建築物」となるので特殊建築物と比較すると、自由に内装が行えます。

4-2.消防法

消防法とは、火災の予防や警告、鎮圧することで国民の生命や財産を火災から保護し、また地震などの災害から受ける被害を軽減することで、社会公共の福祉の増進を図ることを目的にした法律です。

消防法と建築基準法では病院の定義が異なり、消防法では入院ベッド4床から病院扱いとなります。
消防法では消火器・火災報知器・火災通報装置・スプリンクラー・屋内消火栓について設置基準が設けられており、入院ベッド有無によって設置基準が異なります。

 

有床診療所の設置基準

無床診療所の設置基準

消火器

延面積に関わらず全て設置

150㎡以上

自動火災報知設備

300㎡以上

火災通報装置

500㎡以上

スプリンクラー設備

3,000㎡以上

※診療科目により異なる

6,000㎡以上

屋内消火栓設備

700㎡以上

700㎡以上

参照:防用設備等設置に関わる消防法令の改正(一般財団法人日本消防設備安全センター違反是正支援センター)

4-3.バリアフリー法

バリアフリー法の正式名称は「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」と言います。この法律は、高齢者、障害者等の移動上および施設の利用上の利便性や安全性の向上の促進を目的としています。

バリアフリー法は2,000㎡未満の診療所では努力義務となっています。ただし、どれほどの広さからバリアフリー法を義務化するかは、地方公共団体が条例で定められていることがあるので確認する必要があります。

仮に義務化されていなくても、通いやすいクリニックを実現するため、バリアフリーを組み込むことは大切です。国土交通省が発表している資料では、バリアフリー法が適用される場合の廊下や出入口の広さ基準などが示されているので、内装設計時に参考にすることをおすすめします。

参照:バリアフリー法の概要について(国土交通省)

4-4.医療法

医療法とは、国民が医療を安心して受けることができるよう医療の提供体制を定めた法律になります。クリニックを開業する際に最も意識すべきなのが医療法です。

基本的なところを表にまとめました。

建物の構造

・戸建ての場合

診療所と居宅が併設されている場合、診療所と居宅の出入口がそれぞれ別にあり、廊下などを共用することなく明確に区画されていること。

・ビル内の場合

ビルの階段、廊下等と診療所が明確に区画され、また、他の施設との区画は、原則として天井まで仕切りがあること。

診察室

1室で多くの診療科を担当することは好ましくない。

・小児科については、単独の診察室を設けることが望ましい。

・他の室と明確に区画されていること。診察室が他の室への通路となるような構造は不適当。

・診察室と待合室との区画は、患者のプライバシー保護等に配慮し、扉が望ましい。

・診察室と処置室を兼用する場合は、処置室として使用する部分をカーテン等で区画することが望ましい。

・診察室は、医師1人につき一室が望ましい。

・給水設備があることが望ましい。

・室の面積の標準

診察室9.9㎡以上

待合室3.3㎡以上

エックス線診療室

・エックス線診療室の室内には、エックス線装置を操作する場所を設けない。

・エックス線診療室である旨を示す標識を付する。

・管理区域である旨を示す標識を付け、管理区域内に人がみだりに立ち入らないような措置を講じる。

・エックス線装置を使用しているときは、エックス線診療室の出入口にその旨を表示する。

・移動式のポータブル装置であっても、診察室などで大半を使用する場合、エックス線診療室が必要。

調剤場所

・待合室との調剤所の間には天井までの仕切りを設ける。

・採光および換気を十分にし、かつ清潔を保つ。

・冷暗所(又は電気冷蔵庫)を設ける。

・感量10ミリグラムの天びん及び500ミリグラムの上皿天びんその他調剤に必要な器具を備える。

・鍵のかかる貯蔵設備を設ける(毒薬庫、麻薬庫等)

・診察室と調剤所の隔壁がない構造は、衛生上適当でない。

室の面積標準

調剤室6.6平方メートル以上。

クリニックの内装を考える上で、これらの法律は必ず順守しなければなりません。内装は工事業者と進めていく場合がほとんどですが、自身でもある程度の法律は把握しておくことをお勧めします。

参照:診療所の構造設備基準等について(荒川区)

5.クリニックの内装を依頼する業者選びのポイント

クリニックの内装に着手する段階になったとき、「どの業者に依頼するか」も重要なポイントになります。クリニックの内装では、建築基準法だけでなく、医療法なども順守した設計にする必要があります。そのため、クリニック内装の実績が豊富なところに依頼するのが前提となるでしょう。

上記に記載した前提以外にも業者選びのポイントを3つ紹介していきます。

5-1.コミュニケーションが取れ、イメージを具現化してくれる

設計をする段階では、廊下や受付、診察室などのイメージを具体的に説明できない場合もあるでしょう。クリニックづくりは注文住宅づくりと似ており、内装業者が自分の希望やイメージをどれだけ具現化してくれるかが重要になります。そのため、円滑で密なコミュニケーションが取れるかがポイントになります。内装工事中も適宜進捗や現場写真などを共有してもらえるようにしておくと安心です。

5-2.設計から施工までワンストップで依頼できる

設計だけを担当する業者の場合は、施工が始まると追加の相談や現況確認をしづらい点がデメリットになります。また、責任の所在も不明確になるので、設計から最終的な施工までワンストップで依頼できる内装業者を選ぶのがおすすめです。

5-3.費用感に納得できるか

クリニックの内装費用は、内装などが残っている居抜き物件か、店舗内の床や壁、天井などの内装がないスケルトン物件かによって異なります。
また、機器の数にも左右されるため、診察科目によっても変わってきます。クリニック内装の費用は、坪単価で30~40万円前後が目安です。

複数業者に見積もり書を作成してもらい、費用に納得ができる業者に依頼するようにしましょう。

6.まとめ

患者に通ってもらえるクリニックにするためには、法規制はもちろんのこと、診療科目ごとに考慮しなくてはならない様々な点があります。また、患者だけでなくスタッフのことを考慮し、働きやすいクリニックづくりを実現するためにも、開院場所選びや内装業者選びなどにはスケジュールに余裕を持たせて、開院までに入念な準備を進めることを心がけましょう。
今回の記事が参考になれば幸いです。