デジタルヘルスケアによるウェアラブルデバイスの進化と医療の未来

ウェアラブルデバイス

新型コロナウイルス感染症の流行を機に、私たちの健康管理に大きな変化をもたらすデジタルヘルスケアが注目されています。その中でも医療のデジタル化の中心的存在となっているのがウェアラブルデバイスです。

日常的な健康管理から医療現場での活用まで、ウェアラブルデバイスは幅広い分野で影響を与える可能性を秘めています。日本政府もヘルスケアDXを推進し、ウェアラブルデバイスの医療分野での活用を支援するなど動きが活発です。将来的には、ウェアラブルデバイスを通じて、医療の質の向上や新たな医療技術の開発が期待されています。

本記事では、急速に成長を遂げるデジタルヘルスケア市場の動向を踏まえた上で、国の政策や医療現場での応用事例からウェアラブルデバイスがいかに医療の質を変え、新たな可能性を切り開いているかを紹介します。

1.デジタルヘルスケアとウェアラブルデバイスの台頭

まず、デジタルヘルスケアとウェアラブルデバイスが台頭して来た経緯を紹介します。

1.1 新型コロナが変えた健康意識

新型コロナウイルス感染症の流行以降、健康意識の高まりが注目されています。フォーネスライフ株式会社が発表したアンケート調査によると、94.5%の人々が「コロナ後に健康意識が高まった」と回答し、そのうち20.2%が「病気になるリスクを予測できるサービスを利用したいと思った」と回答しました。

こうした健康志向の意識の高まりの中で特に注目されているのがウェアラブルデバイスです。ウェアラブルデバイスの活用により日々の健康管理や活動量の記録などが容易になり、健康維持や向上、病気予防への関心がさらに深まっています。

参照:【プレスリリース】長引くコロナ禍9割超が「健康意識が高まった」 うち2割が「将来の疾病リスクがわかるサービスを利用したい」と回答|フォーネスライフ株式会社

1.2 ウェアラブルデバイスとは

ウェアラブルデバイスは、健康管理やコミュニケーション、ゲームといった多様な用途に使用される身に着けるタイプの端末です。主な種類には、リストバンド・腕時計型、眼鏡・ゴーグル型、指輪型、首掛け型、ヘッドセット・帽子型などがあります。

医療現場で活用されているウェラブルデバイスの例としては、心拍数モニターが挙げられます。患者の心拍数を24時間監視し、心機能の低下や不整脈など心臓病の早期発見や予防に役立てることができます。特に心疾患のリスクが高い患者にとっては、継続的な心拍数モニタリングは重要であり、異常が発生した際には迅速な対応が可能です。

また、ウェアラブルデバイスは日常生活においても有用です。日々の生活をデータ化し健康管理に役立てたり、スマートグラスで目の前の景色にナビゲーション情報を表示したりなど、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)技術を利用して新しい体験を提供できます。

2.ウェアラブルデバイス市場の拡大

世界的にウェアラブルデバイス市場は拡大しています。

下記で、市場規模の現状とコロナ感染症パンデミックからの市場成長予測を紹介します。

2.1 市場規模の現状

ウェアラブルヘルスケアデバイスの世界市場規模は、2026年には301億米ドルに達すると予測されています。2021年からの年間平均成長率は13.2%での成長が見込まれており、この数年で市場が急速に拡大しています。

特に、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックが、人々の健康意識の高まりや医療への関心を高め、スマートウォッチ、スマートバンド、フィンガーリングなどの製品の需要がより増加しました。

2.2 コロナ感染症パンデミックからの市場成長予測

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが大きなきっかけとなり、ウェアラブルヘルスケアデバイスの市場成長がスタートしました。特に、在宅ケアの需要が高まり、遠隔モニタリングや患者エンゲージメントソリューションの需要が急増しました。

例として呼吸器やマルチパラメーター、血糖値、心臓、温度などのモニタリングシステムやパルスオキシメーター、BPモニターなど、COVID-19診療に活用できるウェアラブルデバイスのニーズが一気に増加しました。

近年、高齢者人口や慢性疾患の増加により在宅医療市場も拡大しており、この点もウェアラブルデバイス市場の成長を後押ししています。

ウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイスからリアルタイムで送信される患者の重要な生体情報追跡により、医師や医療機関の負担も軽減でき、在宅医療の質や安全性の向上にも貢献できるためです。

参照:ウェアラブルヘルスケアの市場規模、2026年に301億米ドル到達予測 | 株式会社グローバルインフォメーションのプレスリリース

3.日本でのウェアラブルデバイス政策

日本では、国を挙げてデジタル技術を活用したヘルスケアの革新、いわゆる「ヘルスケアDX」を推進しています。とりわけ、ウェアラブルデバイスの利用拡大は重要な政策の一環です。国民が自らの健康データを管理し、医療や健康増進に活用することを目的としています。

ウェアラブルデバイスの活用を通じた予防医学の推進や個別化医療の実現が期待されており、今後の医療の質の向上に関わる重要な鍵となっています。

3.1 ヘルスケアDXとしての期待

国が推進するヘルスケアDXの普及において、ウェアラブルデバイスを利用した健康管理が重要な役割を担っています。具体的には、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)と呼ばれるもので、個人の健康データをデジタルで管理し、マイナポータルを通じて取得できるような情報インフラを整備中です。将来的に、国民が自分自身の健康情報を適切に管理し、必要に応じて医師と共有しながら治療を進められるようになります。

こうしたデジタルヘルスケア環境が整うことで、病気の予防や健康状態の改善はもちろんのこと疾病の早期発見・早期治療につながると期待されています。安全なデータの共有と活用を通してより患者に個別化された医療サービスが可能になり、国民の健康増進が大きく向上することが見込まれます。

3.2 医療・健康分野での活用事例

ウェアラブルデバイスは医療・健康分野での活用が進んでおり、手首装着型デバイスを用いることで24時間の行動評価が可能になります。例えばApple Watchに代表されるウェアラブルデバイスによるデータ収集・分析のメリットとして、従来の質問紙による主観的評価と異なり、客観的なデータに基づく健康管理が挙げられます。特に睡眠の質の向上や、心拍数、位置情報などを利用した詳細な健康分析が可能で、個人の健康状態に合わせ具体的に医療の介入が可能です。

2021年からは、Apple Watchに不規則な心拍を検出するプログラムおよび心電図アプリケーションが実装されました。不規則な心拍リズム通知を受けた場合や、動悸などの症状を感知した際に心電図を記録し、心房細動の有無を確認できます。そのため、これまで困難だった無症候性の心房細動の検出が容易となり、症状の有無にかかわらず心房細動を見逃さずに検出できるようになりました。

3.3 国内市場の将来性

日本におけるウェアラブルデバイスの将来性は、精密なセンサー技術、データ分析、小型化技術、エネルギー効率の高い設計など高度な技術力を背景とし、加速する高齢化社会による健康管理へのニーズの高まりから非常に大きいと考えられます。健康管理や疾病の早期発見が日常生活により密接に結びつき、その重要性が高まるでしょう。

近年、ウェアラブル技術の適用範囲は広がっており、フィットネス追跡から高度な医療監視に至るまでカバーしています。特に、日本では高齢化社会の影響と生活習慣病の増加により、糖尿病患者向けで血糖値を24時間モニターできるCGM(グルコースモニタシステム)のような医療用ウェアラブルデバイスの需要が今後急速に増加すると予測されます。

こうした医療用ウェアラブルデバイスのおかげで、患者は自己管理をより効果的に行い長期的な慢性疾患管理を実現できます。

参照:「PHR(Personal Health Record)サービスの利活用に向けた国の検討経緯について」|厚生労働省
参照:心房細動が「見つかる」時代に必要なこと|日経メディカル
参照:血糖値を24時間モニターできるCGM(グルコースモニタシステム)|NHK健康チャンネル

4.ウェアラブルデバイスの医療分野への応用と未来

ウェアラブルデバイスは医療分野でどのように応用されるのでしょうか。ウェアラブルデバイスの可能性や将来展望についても併せて紹介します。

4.1 医療現場でのメリット

ウェアラブルデバイスの医療分野での応用が進むことで、早期発見・治療、病気のモニタリング、そして患者の生活の質が大きく向上します。患者の日常生活を通して連続的に病状のデータを収集できるため、疾患の早期発見や治療の適切な進行が可能になります。これにより、医師はより正確な診断を行い個別化された治療計画を立てることが可能です。

また、リアルタイムでのモニタリングにより患者自身が健康状態をより良く把握し、必要に応じてすぐに医療機関へ連絡できる点も大きなメリットです。医療現場では患者管理の効率化が図られ、患者にとっても安心した日常生活を送れます。

4.2 ウェアラブルデバイスの可能性

ウェアラブルデバイスの活用が医師の働き方改革の推進にも役立つと期待されています。

例えば、東北大学病院とNECが共同で開始する実証実験では、AI技術を活用した医師の働き方改革の実現を目指します。ウェアラブルデバイスやカメラ映像から収集したデータを解析し、医師の業務課題を抽出して改善策を提示するシステムです。業務中の医師の行動を追跡し、業務にかかる時間を整理したり、ストレス度を可視化したりすることで効率的かつ持続可能な医療提供体制の構築を目指しています。

参照:AIの活用で医師の働き方改革実現へ 全ての業務フロー可視化 東北大病院とNEC | 株式会社官庁通信社

4.3 ウェアラブルデバイスの将来展望

ウェアラブルデバイスの活用では、ヘルステック分野の将来性が特に注目されています。日常の健康管理や疾病予防における役割を担い、災害時やパンデミック期間中の通院制限下でも慢性疾患の管理を遠隔で行える可能性があるからです。

今後の医療機器開発においてセンサー技術やアルゴリズムの進化がより重要となるでしょう。新たな評価指標の創出や患者モニタリングの精度を向上させる鍵を握るためです。心拍数や活動量を計測するデバイスは慢性疾患の管理に役立ち、病状の追跡や治療効果のモニタリングに使用できます。また、皮膚温度や発汗量を測定するウェアラブルセンサーは、ストレスレベルや睡眠パターンの分析に活用され、精神疾患の診断や管理での応用が進められています。こうしたウェアラブルデバイスと最先端技術を組み合わせて活用することで、医薬品の効果をより正確に評価し個別化医療の実現に向けた発展が期待されます。

このようにウェアラブルデバイスは医療分野でのさらなる応用が期待されています。学会や製薬企業をはじめ、厚生労働省や医師会などでウェアラブルデバイスを活用したデータが共通の評価指標と成りえれば、高齢化人口が進んでいる日本においても個別化された医療サービスが可能になり、国民の健康増進が向上することが見込まれます。

5.まとめ

ウェアラブルデバイスが切り開く新たなヘルスケアの時代では、日常的な健康管理の利便性をより向上させ医療に革新を与えると期待されています。健康管理が自動化されより精密度が高まることで医師の診断や治療の質を向上させ、より効率的かつ個別化されたケアが可能になるからです。

ウェアラブルデバイスに代表されるデジタルヘルスケアの普及は、医療従事者と患者双方にとっての利便性を高め、医療サービスの未来を大きく変える可能性を持っています。