【2025年問題】超高齢化社会を支える「かかりつけ医」制度の必要性

super aging society

少子高齢化が急速に進む日本では、2025年には全人口の18%が75歳以上の後期高齢者になるという「2025年問題」に直面し、医療・介護業界は大きな変換期を迎えることになります。

超高齢化社会が進むと、医療と介護の需要は拡大する一方で、各業界で労働力・人材不足になることが懸念されており、各自治体は地域を中心としたケアシステムの構築を進めています。

今後は、「地域包括ケアシステム」の一環として、医師が他の医療機関や介護施設との連携・役割分担をする「かかりつけ医制度」の重要性がますます注目されることでしょう。

本記事では、2025年問題が医療業界に与える影響、超高齢化社会を支える「かかりつけ医」制度の必要性、「地域包括ケアシステム」について詳しく解説していきます。

1. 超高齢社会に突入する2025年問題

「2025年問題」とは、戦後の第一次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた「団塊の世代」にあたる約800万人が、2025年に75歳以上の後期高齢者となることで、社会全体に及ぼす問題の総称です。

「令和元年版高齢社会白書(内閣府)」のデータによれば、2025年に後期高齢者は2,180万人、前期高齢者(65歳~74歳)は1,497万人、合計3,677万人になると予測されています。

Transition of aging population

出典:第1節 高齢化の状況|令和元年版高齢社会白書(概要版) – 内閣府

国民の5人に1人が後期高齢者となる超高齢化社会に突入し、大勢の高齢者を支えるために、医療・介護人材の人手不足、社会保障費・年金などの負担が増大することが懸念されています。

高齢者の人口が急速に増える一方で、現役で働く若い世代の人口が急減するという極端な少子高齢化が進み、65歳以上の高齢者を、現役世代(15~64歳)の約2人で1人を支えることになるのです。

※算出方法:7,170万人(15~64歳)÷3,677万人(65歳以上)=1.94…人

2025年問題の最優先課題としては、超高齢化社会に突入することで、各業界において深刻な労働力不足に陥り、医療・介護・社会保障が上手く機能せず、日本経済が衰退するのを避ける必要があります。

1-1. 2025年問題に備える政府の取り組み

医療・介護業界に携わる私たちが今から考えておくべきことは、国民が元気に健康的に、楽しく生きることができる「健康寿命」を伸ばすサポートをすることが挙げられます。

2019年、厚生労働省は「健康寿命」を「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義し、「健康寿命延伸プラン」と「スマート・ライフ・プロジェクト(SLP)」を提案しました。

「健康寿命延伸プラン」とは健康寿命の目標を2040 年までに男女ともに75歳以上(男性75.14歳以上、女性77.79歳以上)とする取り組みを推進するプランです。

▽「健康寿命延伸プラン」を達成するための取り組み3分野

  1. 健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進
  2. 地域・保険者間の格差の解消に向け 「自然に健康になれる環境づくり」や「行動変容を促す仕掛け」など「新たな手法」を活用する
  3. 「次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成」「疾病予防・重症化予防」「介護予防・フレイル対策、認知症予防」の3分野を中心に取り組みを推進する

2040年までに健康寿命を男女ともに2016年に比べて3年以上延伸し、75歳以上とすることを目指しています。

参照:平均寿命と健康寿命 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
参照:健康寿命延伸プラン | e-ヘルスネット(厚生労働省)
参照:SLPとは | スマート・ライフ・プロジェクト

2. 2025年問題が医療業界に与える影響

この章では、2025年問題によって医療業界は3つの影響を受けることを解説していきます。

2-1. 介護を必要とする人が急増する

75歳以上の後期高齢者は身体が不自由になるだけでなく、高齢者の約5人に1人は認知症になると推測されており、2025年には認知症患者数が約700万人になると見込まれています。

Dementia patients 65 years and older

出典:高齢者の健康・福祉|平成29年版高齢社会白書(概要版) – 内閣府

超高齢化社会に入ると、要介護者を介護する側も65歳以上の高齢者という「老老介護」の状況になり、場合によっては肉体的・精神的な限界が来ていわゆる「共倒れ」のリスクも考えられます。

2-2. 医療・福祉・介護業界の労働力が不足する

少子高齢化により、様々な病気や認知症を患う高齢者が増えるに伴って、全国の医療機関と医療従事者の需要が高まり、医療・福祉・介護業界の労働力不足が懸念されています。

日本の医療・福祉・介護業界は厳しい労働環境や低賃金などを理由に慢性的な人手不足に陥っています。

2025年には237万~249万人の介護職員の確保が必要で、その人員を確保するために毎年6.8万~7.7万の人員確保が必要と予測されていることから、状況は深刻です。

今後は、医療・福祉・介護の現場で働きやすい環境づくり、子育て支援などに取り組み、賃金アップ、外国人労働者の受け入れ体制を整えるといった取り組みが必要になるでしょう。

参照:厚生労働省「資料2:介護人材の確保_v8」

2-3. 社会保障費が増大する

「社会保障のデータ(財務省)」によれば、2000年の医療費は30.1兆円、2022年には1.6倍に増えて46.7兆円、2025年には54.9兆円まで急激に増えると予測されています。

75歳以上の後期高齢者は他のどの世代と比べても、医療費と介護費用の負担が大きくなるため、社会全体の社会保障費は急激に増加し、医療体制の維持が困難になる可能性があります。

Changes in medical expenses

参照:社会保障(財務省)p16

2023年現在、高齢者の医療費の自己負担は原則1割、残りは社会保障費によって補われていますが、社会保障制度や年金システムの財源は20歳~64歳の現役世代が支払っている税金です。

医療費の負担が増える一方で、労働人口が減ると、十分に財源を確保できなくなり、医療の質が低下し、社会保障制度が上手く機能せず、破綻するリスクが指摘されています。

3. 超高齢化社会を支える「かかりつけ医」の必要性

2025年問題は超高齢化社会によって医療・介護業界が大きく変わるだけでなく、労働人口の激減に直面する日本経済が生き残りをかけた重要な課題でもあります。

今後は、国、自治体、企業、医療従事者が一丸となって、新たに2025年に増加する約800万人以上の後期高齢者を支えるために「持続可能な社会」を実現する取り組みが行われています。

3-1. かかりつけ医制度とは?

日本医師会は超高齢化社会を視野に入れて、地域住民から身近で頼りになる「かかりつけ医制度」の維持・向上を目指すために、積極的に取り組んでいます。

「かかりつけ医」とは、患者が健康について何でも相談することができ、最新の医療情報を熟知して、地域医療・保健・福祉を担う総合的な能力を持つ医師(または医療機関)のことです。

「かかりつけ医制度」は地域の人々が病気や体調がすぐれないときに頼りになる存在となり、医療機関同士の役割分担、保健・福祉を担い、地域に根ざした医師という特徴があります。

厚生労働省と日本医師会では「かかりつけ医」の定義の仕方が若干異なりますが、一般的には以下の役割がある医師のことです。

▽かかりつけ医

  • 身近で頼りになる医師
  • 患者が健康に関することを気軽に相談できる
  • 家族単位で病気・生活環境を理解してもらえる
  • 必要な時に専門医、医療機関を紹介してもらえる

かかりつけ医の専門外の治療や検査が必要な場合は、紹介先の医療機関に患者の症状・病名などを記載した「診療情報提供書」が提示されて、情報が共有される仕組みです。

参照:厚生労働省「かかりつけ医機能について」(pdf)
参照:厚生労働省|「かかりつけ医」ってなに?

3-2. かかりつけ医と主治医の違い

「かかりつけ医」は地域に根ざした総合的な能力を持つ医師になりますが、総合病院にいる担当の医師(主治医)とはどう違うのか見ていきましょう。

かかりつけ医は診療所やクリニックなど、比較的小規模な医療機関に勤めていますが、一方で主治医の場合は大学病院や総合病院など大規模な医療機関に所属していることが多いです。

かかりつけ医は日頃の健康管理や予防医療など、日常の健康に関する悩みを相談する窓口的な存在となり、患者の症状に合わせて、適切な専門医(もしくは医療機関)を紹介します。

一方、主治医は特定の病気を治療し、手術時には病歴や検査結果を元に専門的な治療をすることが中心となります。

かかりつけ医の役割はちょっとした症状が気になるときや日常的な悩みも相談しやすい存在であり、患者との距離感が近いのが特徴です。

主治医の方は、患者の特定の病気を治療してくれる専門性が高い医師という役割があります。

3-3. 患者にかかりつけ医として選ばれるために

患者にとって、かかりつけ医は長きに渡り、定期的に診てもらう医師になりますので、通いやすさ、相談しやすさ、医師の専門性、医療施設など、総合的に判断されるでしょう。

かかりつけ医に求められる要素はいつでも相談できる、地域の医師がチーム一丸となって患者を支え、必要に応じて専門医療機関を紹介してもらえる存在になることです。

▽「かかりつけ医」の努め

  • 患者さんとコミュニケーションをとって診察する
  • 診察の結果をわかりやすい言葉で伝える
  • 患者さんのライフスタイルを理解したうえで治療目標を共有する
  • 適切なタイミングで適切な専門の医師や医療機関につなぐ
  • 在宅医療やオンライン診療などを導入する

今後は、 かかりつけ医が地域での連携の中心となっていくと予測されるため、地域の医療機関での患者情報の共有や介護との連携も求められます。

参照:国民の信頼に応えるかかりつけ医として|国民のみなさまへ|日本医師会
参照:厚生労働省「かかりつけ医機能の強化について外来医療における多職種の役割について」

患者がかかりつけ医を見つけるために使うサイトはコチラです。
参照:医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について |厚生労働省

4. 超高齢化社会対策「地域包括ケアシステム」とは?

「かかりつけ医制度」の機能を浸透させるには、自治体が医療・介護を一体的に提供する取り組み「地域包括ケアシステム」の構築が欠かせません。

超高齢化社会における医療・介護従事者の役割は大きく、今まで以上に医療機関や介護施設、自治体との連携が求められています。

「地域包括ケアシステム」とは各自治体が地域の特性に応じて、住民が住み慣れた生活圏の中で医療・介護・福祉サービスを一体的に提供する街づくりのことです。

住民が重度の介護が必要になった時も、地域全体で連携した訪問介護や在宅医療などの体制を整え、できる限り今までと変わらない環境で自分らしい生活を送れることを目標にしています。

参照:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

4-1. 地域包括ケアシステム5つの要素

地域包括ケアシステムにおける「5つの構成要素」とは、「住まい」と「生活支援・福祉サービス」を前提に「介護」、「医療」、「予防」を連携させて、日常の生活圏内で生活支援を提供することを目指します。

  1. 住まい…生活の基盤として必要な住まいを整備する
  2. 生活支援・福祉サービス…食事の準備、福祉サービスなど
  3. 介護…専門職による介護・リハビリテーション
  4. 医療…医療・看護を必要に応じて提供する
  5. 予防…疾病・重症化予防、フレイル対策

参照:厚生労働省「地域包括ケアシステムの5つの要素(PDF)」

4-2. 地域包括ケアシステムにおける「かかりつけ医」の役割

かかりつけ医は、受診した地域住民に対して健康指導・診察・相談応需・医療機関の紹介等を行う必要があります。

中でも、地域におけるかかりつけ医は、地域住民の医療の必要性に応じて、専門の診療所や地域包括ケア機能を備えた医療機関などと連携しながら、地域のネットワーク内で紹介対応していくことが期待されています。

急変時においても、できる限り地域のネットワークで対応し、必要な場合に救急要請や、高度急性期の医療機能を担う医療機関での対応に移行していく必要があります。

4-3. かかりつけ医機能を強化 “かかりつけ医機能報告”制度

地域単位でのかかりつけ医機能強化を目的に「かかりつけ医機能報告」制度を設け、2025年度からの運用を目指しています。

かかりつけ医機能を整え強化し、目的や効果が明らかになれば、医師・医療機関は自身が担う役割を明確にすることができ、さらには地域住民がわかりやすくかかりつけ医機能を知ることもできます。

2020年7月に調査された「第7回日本の医療に関する調査(日本医師会総合政策研究機構)」によると、かかりつけ医を持つ国民の割合は全体の55.2%でした。

しかし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備が行われれば、住み慣れた地域で日常的に受けることができる医療の質が高まり、大きな病院を受診せずとも必要な医療が受けられる等の効果が期待されています。

その結果、地域住民がかかりつけ医を持つ必要性を認識し、かかりつけ医を持ちたいと考える方も増加すると予測されます。

family physician function

参照:厚生労働省「かかりつけ医機能が発揮される制度整備について」

▽「かかりつけ医機能報告」制度

▼医療機関に「かかりつけ医機能」の保有状況を都道府県に報告する義務を課す

▼都道府県は報告内容を整備し、「かかりつけ医機能を持つ」医療機関を確認して公表する

▼地域で報告内容をもとに「かかりつけ医機能」のどの部分が不足しているかを分析し、不足分を補う方策を地域の協議の場で議論し、実行する

参照:日本医師会「かかりつけ医機能への診療報酬の評価p26.27」

System for providing information on medical functionality

参照:厚生労働省「かかりつけ医機能が発揮される制度整備について」

▽かかりつけ医機能への評価の充実・強化する国の取り組み

〈診療報酬の評価の充実・強化〉

  • 診療所における地域包括診療料・加算、機能強化加算、小児かかりつけ診療料、在宅療養支援診療所・病院
  • 急性期における初診料及び外来診療料における紹介・逆紹介割合に基づく減算規定、連携強化診療情報提供料

〈補助金等の活用〉

  • 地域に根差した活動への評価・支援
  • 連携やネットワークの構築等の環境整備等

参照:日本医師会「かかりつけ医機能への診療報酬の評価p26.27

 5. かかりつけ医は地域包括ケアシステムを支える役割を担う

かかりつけ医の役割は患者の日常の診療や健康アドバイスをするほか、専門的な治療が必要な時に、他の医療機関と繋ぐ連携体制が求められます。

地域医療の中心を担う役割があり、高齢者が高い割合を占める地域において、社会的な医療・介護・福祉活動の関係者とのチーム連携が必要となり、幅広く積極的にかかわります。

かかりつけ医は、地域の高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できるように地域包括ケアシステムを支える重要な存在になることでしょう。

まとめ

超高齢化社会を迎える2025年問題は医療・介護業界においては特に影響が大きいと予想され、労働力不足や医療体制の機能不全など、心配な要素が多いことは間違いありません。

国を上げて注力している「地域包括ケアシステム」は重度の要介護者も住み慣れた地域で自分らしく生きるために、医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される街づくりです。

かかりつけ医は地域の特性に応じて「地域包括ケアシステム」を底から支える存在になると期待されています。