「研究医はどのような仕事をしているのだろう?」
「臨床医から研究医になれるのだろうか?」
このように考えたことはありませんか?
研究医は、薬学や生化学などの分野で治療法の確立や疾患の原因解明などの研究を行う医師のことです。近年、研究医の数が減少していることから、研究医の増加を促すことを目的に、さまざまな施策が行われています。
本記事では、研究医の仕事内容や就職先、現状などについて詳しく解説します。
目次
1.研究医とは
研究医には、臨床研究医と基礎研究医があります。それぞれの役割は以下のとおりです。
- 臨床研究医……病院やクリニックなどで患者を診察し、疾患の治療や予防などを行いつつ医学の進歩に貢献する
- 基礎研究医……患者の診察はほとんどせず、疾患の原因やメカニズムの解明、治療効果、薬の副作用などを研究する
2.研究医と臨床医の違い
臨床医は、病院やクリニックなどで患者の診察や治療を行う医師のことです。一方、研究医の中でも基礎研究医は患者をほとんど診察せずに、研究機関で疾患の原因やメカニズムの解明などの研究を行います。臨床医の主な就職先は病院やクリニックであるのに対し、基礎研究医は製薬会社や警察、防衛省などに就職します。
臨床研究医は患者の診察や治療を行いつつ研究を行うため、臨床医と研修医を掛け合わせた職種といえるでしょう。
3.研究医の仕事内容
基礎研究医と臨床研究医はどちらも研究が仕事です。具体的な研究内容について詳しく見ていきましょう。
3-1.疾患の原因やメカニズムの解明
基礎研究は、生化学や解剖学、薬理学、病理学、免疫学、衛生学、微生物学など幅広い分野に分かれています。各分野に応じて研究の内容が大きく異なります。中でも病理学や解剖学、免疫学などは疾患の原因やメカニズムの解明に主軸を置いた分野です。
また、研究の手法も分野に応じて異なります。例えば、疾患の原因やメカニズムの解明を目的とした病理学や微生物学では、病変を顕微鏡で詳しく観察します。
一方、生化学では細胞の培養、実験動物の利用などを行います。いずれの分野においても、最新のデータを収集し、研究の目的を達成すべく研究を重ねることが重要です。研究の結果、新たに発見したことについて論文を作成し、学会で発表します。
3-2.治療法の確立
治療薬の開発や治療技術の研究などを通じて、治療法を確立することも目的の1つです。治療法を開発するためには、疾患の原因やメカニズムの解明が欠かせません。治療法の確立は患者の命を救うことや生活の質(QOL)を高めることにつながります。
臨床研究医であれば、自ら確立した治療法を行うこともできるでしょう。なお、注目度が高い疾患の治療法は、大規模な研究チームを結成して進める場合もあります。
4.研究医の年収・労働時間・就業形態・就職先
研究医を目指すにあたり、労働環境や就業形態、やりがい、就職先などについて確認しておくことが大切です。
自身に適した職種かどうか、今から目指せそうかどうかなどの判断にお役立てください。ここでは、厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」の医学研究者の項目で紹介されているデータを参考に解説します。
4-1.研究医の年収
医学研究者の平均年収は703.9万円です。年代が上がるにつれて年収が増加し、約60歳には972.51万円でピークを迎えます。その後、65歳にかけて減少しますが再び増加します。
厚生労働省の資料「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、医師の年収は約1,428万8,900円です。このことから、研究医は医師免許を所有しているにもかかわらず、現場で働く医師よりも年収が低い傾向にあるといえます。
4-2.研究医の労働時間
研究医の月の平均労働時間は165時間です。週休2日制で9~17時頃の勤務が一般的とされています。また、裁量労働制やフレックスタイム制を採用している職場が多いようです。
研究医は、データ収集、文献研究、実験設計、実験実施、データ解析、論文執筆など、さまざまな業務を行います。研究の進捗によっては、労働時間が大きく変化するでしょう。
※参考:病院勤務医の週あたりの勤務時間は、週50~60時間……23.6%、週40~50時間……20.7%、週60~70時間……18.4%
(参照:厚生労働省の資料「時間外労働規制のあり方について③」)
4-3.研究医の就業形態
最も多い就業形態は正規の職員・従業員で、次いで自営・フリーランスが多い結果となりました。契約社員やパートタイマーなどで働いている研究医が少ないことから、多くの研究医は1日8時間程度働いていることがわかります。
出典:職業情報提供サイト「jobtag」“医学研究者” | 厚生労働省
研究医の就業形態のデータについては、関連団体や企業などへのヒアリング調査、インターネット調査などをもとに「実際に働いている人が多いと感じる就業形態」を調査したものです。そのため、すべての割合を足すと100%を超える結果になっています。
4-4.研究医の就職先
患者の診察や治療を行う臨床研究医の就職先は、病院やクリニックなどです。一方、研究を中心に行う基礎研究医は製薬会社や大学、行政機関などに就職します。研究医の就職先別の特徴について詳しく見ていきましょう。
4-4-1.医療系企業
医療系企業には、製薬会社や医療機器メーカーなどがあります。研究医は、新しい医薬品や治療法の開発、臨床試験の実施など、医療に関連した研究に従事します。医療系企業における職場は研究開発部門や臨床開発部門などで、複数の研究医とチームを組んで特定のテーマの研究を行います。
患者を診察・治療するのは臨床を担当する医師ですが、そのために必要な医療機器や治療法、薬などの開発には研究医が深く関与しています。
4-4-2.大学
研究医は、大学の研究室に就職する場合もあります。研究だけではなく後進育成のための教育や指導も重要な役割です。また、大学病院や関連施設で患者の診察や治療を行うこともあります。自らが在学していた大学の研究室に入る研究医が多いといわれています。
4-4-3.公的な研究施設
公的な研究施設には、政府や公的機関が運営する研究機関や研究センターなどがあります。国立がん研究センターや国立成育医療研究センターなどが代表例です。公的な研究施設では、医療や健康に関するさまざまな研究が行われています。公的な研究プロジェクトに参加することで、これまでの常識を覆すような目新しい治療法や予防法などの知見を得られることもあります。
5.研究医の現状
研究医は、医療の進歩に欠かせない職種である一方で、日本は研究医不足の状況にあります。研究医不足は日本の医療の進歩を妨げる原因になることから、政府は研究医を増やすためにさまざまな取り組みを行っています。
研修医の現状について、詳しく見ていきましょう。
5-1.基礎医学論文数は低調で推移
基礎研究医は、病気の原因やメカニズムの解明、治療法の確立などに成功した際に論文を作成します。基礎医学論文数は世界の主要国が順調に推移している一方で、日本は西暦2,000年以降は低調で推移しています。
世界で見ると、中国や韓国、インド、ブラジルなどが基礎医学論文数を大幅に増やしており、日本の基礎医学研究が世界に遅れを取ることが懸念されています。研究医の数を増やすだけでは基礎医学論文数は増えないため、研究を円滑に進めるための取り組みが必要と考えられます。
5-2.研究医の数も減少傾向にある
文部科学省の「基礎研究医養成活性化プログラム」によると、基礎研究医が減少傾向にあります。基礎医学研究は医療の基盤であるとともに、後進育成にも深く関与しています。そのため、基礎研究医の減少は日本の医療の基盤をゆるがす重大な事態であり、早急に対策を取ることが望まれています。
すでに研究医を増やすための取り組みは行われていますが、大学院進学者における基礎研究医の割合は1993年から2008年にかけて大幅に減少しており、その後は2016年に向けて増加しています。増加はわずかなもののため、今後も新たな対策によって基礎研究医を増やすことが重要といえるでしょう。
一方、臨床研究医の数は堅調に推移しています。しかしながら増減を繰り返しているため、安定しているとは言えません。
日本では、研究医を増やすために次のような取り組みが行われています。
- 臨床医学分野との連携を見据えた各大学独自の教育プログラムの構築
- 人材交流やキャリアパスの開拓
臨床医学分野との連携を見据えた各大学独自の教育プログラムとしては、臨床研修と基礎研究の両方の教育を受けることができる「基礎研究医プログラム」が挙げられます。令和4年度以降、大学が行政機関の許可のもとで実施しています。
また、時事メディカルによると、日本専門医機構が2021年度から専門医制度の一つとして設けた「臨床研究医コース」の資格要件を緩和する方針を明らかにしました。研修期間の短縮、発表論文の条件の緩和など、臨床研究医を目指す人の不安を解消すべく、制度を大幅に改変しています。
6.研究医のやりがい
研究医は、最新医療に触れることができる職種です。
過去に見たことがない現象、最新医療の知識などを得られることにやりがいを感じる方は多いのではないでしょうか。また、自ら発見した疾患の原因やメカニズム、治療などが患者の人生に大きな影響を及ぼすことに対し、喜びを感じる方もいらっしゃるでしょう。
医療はここ数十年で大きく進歩し、不治の病とされていた疾患も治療できるようになっています。このような目覚ましい進歩には、臨床医と研究医の活動が大きく関与しています。医学の進歩に貢献し医療を支えたい人にとって、研究医は大きなやりがいを感じられる職種といえるでしょう。
7.研究医になるには?
研究医になるためには、医師国家試験に合格したうえで大学医学部を卒業する必要があります。医師免許を持たない基礎医学研究者の場合は、大学医学部に限らず、理学部や薬学部、工学部などの出身でもなることができます。
公立の研究機関や医療機関に就職するためには、公務員試験に合格する必要があります。民間の企業や医療機関の場合は、独自の採用試験への合格が必要です。
なお、臨床医から研究医に転向する方もいらっしゃいます。研究医と臨床医は行う業務が大きく異なるものの、どちらも医学の発展や患者の健康に影響を与える重要な職種です。
研究医から臨床医、臨床医から研究医のいずれの場合においてもご自身が何をしたいのか、何を目標・目的に医学に携わりたいのかを踏まえ、今後を考えることが大切といえるでしょう。
8.まとめ
研究医は、日本の医学・医療の発展に欠かせない研究を行う重要な職種の1つ。
その一方で、日本の研究医は減少傾向にあるため、国を挙げて研究医増加に取り組んでいます。
研究医は、疾患の原因やメカニズムの解明、治療法の確立など直に診察や治療を行わない仕事でありながら、患者の人生を大きく左右する結果を生み出し得るため、大きなやりがいを感じる方も多いでしょう。
本記事では、研究医の現状や労働環境などについてご紹介させていただきました。
現時点で医師免許を所有していれば、転職するだけで基礎研究医や臨床研究医に転向できます。今回、解説した内容が、ご自身にとってより良いキャリアを積むための判断材料になれば幸いです。