再生医療の可能性と今後とは?医師が知っておきたい最新情報を解説

再生医療

医師の仕事は、患者のけがや病気を診察して治療し、新たな治療法や臨床研究・医薬品開発を行うことが主流でした。近年、医学の進歩によって「再生医療」のすそ野が広がり、以前なら生涯に渡って継続的な治療が必要だった疾患の根治が可能になったり、新たな治療法で患者のQOL向上が期待されたりと、様々な観点で国民からも高い期待を集めています。
国も、再生医療の推進には力を入れており、国内外で多くの研究が進められていることからも今後ビジネスとして、新たな治療法の開発として注目されていく分野です。
今回は、多くの関心を集めている「再生医療」について、最新情報などの詳細を解説します。

1. 再生医療とは?

そもそも、再生医療の定義や研究内容はどのようなものか簡単に解説します。

1-1.定義

再生医療は、病気や事故、加齢による老化等で働きが弱くなったり、失われたりした組織や臓器の働きを蘇らせる医療です。
具体的には、いくつかの方法によって人工的に加工・培養した細胞や組織を用いて修復・再生させ、元のように機能できるようにすることを目的とした新しいタイプの医療になります。

1-2.研究されている内容

主に3つの方法が研究されています。
骨髄や脂肪組織に存在する「体性幹細胞」を使う方法、さい帯組織中の幹細胞、胚性幹細胞「ES細胞」を使う方法、人工的につくられる多能性幹細胞「iPS細胞」が主流です。
他に、血液細胞を使う方法も研究されています。これらの細胞を使って、損傷した組織の修復を促す成長因子を分泌し、組織や臓器の修復や再生を促進します。
また、未分化の幹細胞を特定の細胞に分化させ、失われた組織の機能を代替する働きを使って再生を促します。

1-3.日本での研究の歴史

日本では、2007年に山中伸弥博士(現在、京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授。カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所上席研究員)たちによって「iPS細胞」の作成方法が世界で初めて報告されました。
2012年のノーベル生理学・医学賞をジョン・ガードン博士と共同受賞しています。この作成方法の発表が世界で再生医療の研究が飛躍的に進む契機となり、現在では日本でも国を挙げて研究が進められています。

参照:厚生労働省「再生医療について」

2. 国内外の研究動向

再生医療の研究は、今後大きな市場が見込めることもあり、国内外で日夜研究が進められています。

2⁻1.海外での研究動向

海外では、特にアメリカやヨーロッパ各国で国が積極的に潤沢な研究予算を提供しているのをはじめ、有力大学付属の研究所や大手製薬会社・ベンチャー企業も巻き込んだ研究が進んでいます。
例えば、アメリカなどでは間葉系幹細胞(MSC)を用いて臓器や体内組織の再生、COVID-19(新型コロナウイルス)臨床試験などが行われています。
また、ES細胞を用いた研究では、眼球疾患である網膜色素上皮の細胞再生、心不全治療のための心筋細胞、パーキンソン病治療のための神経幹細胞、脊髄損傷治療のための神経細胞再生などが研究されています。

また、日本と海外の論文数を比較してみると再生医療分野では中国との差はありませんが、米欧の占める論文数のシェアが大きく、日本と大きな差があるいう結果も出ています。首相官邸「再生・細胞医療・遺伝子治療開発協議会(第1回)_ 日本の研究動向と他国との比較分析について」によると、再生医療分野で日本の論文が占めるシェアは低い反面、米欧各国が発表している論文数シシェアが大きな割合を占めて今います。
この差は、国の研究費予算の配分の影響もありますが、将来日本がこの分野で米欧に比べてビジネスチャンスや研究における主導権で遅れをとる可能性につながることも考えられ、優秀な研究者の海外流出を招く恐れもあります。

2-2.日本国内での研究動向

日本でも、世界で初めて先天性尿素サイクル異常症でヒトES細胞を用いた治験を実施するなど、官民挙げての研究が推進されています。
幹細胞を用いる再生医療等を提供する医療機関は、実施する再生医療技術ごとに再生医療等提供計画を作成し、特定認定再生医療等委員会という厚生労働省が認めた委員会によって安全性、有効性等について審査を受けます。

国内では、iPS 細胞を用いた再生医療拠点事業などを中心に行われています。
大阪大学のiPS細胞由来心筋細胞シートの作成と移植手術は、大きな話題となりました。
他にも、慶応大学の脊髄再生、京都大学のパーキンソン病治療研究、神戸理研の網膜再生など、医学部を持つ大学とベンチャー企業が連携して、研究が進められています。

参照:一般社団法人日本再生医療学会「再生医療の現状と展望」

3. 日本での再生医療の推進状況

日本における再生医療は、美容外科分野が先行して研究が進んできました。

しかし、美容外科は自由診療であり、規制のない中で進められる研究・治療が医療事故として患者に重大な健康被害を及ぼす恐れがありました。
また、再生治療に関する法整備などが進まず、研究予算が潤沢に与えられているとは言い難く、海外に比べて研究が遅れ、ビジネスチャンスに乗り遅れる恐れも指摘されていました。
そこで、政府は薬事法改正によって、より柔軟で安全性の高い再生医療実現に向けた環境整備を進めようとしています。
また、2023年7月に開催された「再生医療 EXPO」では、来場者数が3日間合計で27,826 名となるなど、関心度の高さがうかがえます。
製薬会社・大学・化粧品会社などのシンポジウムや、ブース出展を目的に、医師やビジネスマン・研究者が多く訪れ、積極的な商談も交わされました。
このように再生医療への関心が高まることで、今まで治療法がなかった難病や疾患の治療が発見される等、今後の研究への期待がかかる一方、新しい医療でもあるため、安全性の確保が必要になります。

参照:第5回 再生医療 EXPO 東京/第25回 インターフェックス Week 東京

4.今後の再生医療の展望

今後の展望について、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課が「第8回 再生・細胞医療・遺伝子治療研究の在り方に係る検討会」において今後の再生医療についてまとめています。

4⁻1.基礎研究の成果をベースにした「実用化」の推進

アンメットメディカルニーズ(未だに有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ)に応えることを目標に、治療法がない患者に新たな医療を届けることを目指しています。
この10年間の研究支援によって、日本では世界初の臨床研究が複数すすめられたことにより、論文、特許、人材に厚みが出てきました。
次の10年間では、これまでの取組みによって培われた強みを損なうことなく、有機化学等の工学分野をはじめ、周辺産業、スタートアップ企業、知財分野に関係する様々な立場の組織や研究者が関わり、より研究を推進していくことが大切だと提言しています。
また、潤沢な研究開発費の支援だけではなく、研究結果の事業化に向けたハンズオン支援、治験ガイドラインの整備、有効性評価などの各研究段階における支援強化を目指そうとしています。

4⁻2.再生・細胞医療と遺伝子治療をつないだ研究による新たな価値創出

遺伝子治療領域は、世界を見渡すとビジネス上で有望な投資先となっている反面、日本ではまだまだ基盤が脆弱な部分があるため、強化が必要です。
日本独自の技術実現、既存技術の未適応疾患への適用解禁で、医療分野の進展を促進したいと考えられています。
再生・細胞医療・遺伝子治療の融合研究、本分野における強みを持った病院・研究機関の臨床研究拠点整備、細胞・ベクター等の製造のプラットフォーム化等の取組を通じ、両分野の融合によって新たな価値の創出を促していきたいとしています。

4⁻3.新しい遺伝子治療などの「革新的な研究開発」

再生医療を細胞レベルからスケールアップし、人工臓器にたどり着くまでにはさらなる基礎研究が必要です。また、細胞から分泌されるエクソソーム、多能性幹細胞化を経ないダイレクトリプログラミング、ゲノム編集医療など、基礎研究領域には新しいモダリティが出てきました。
もっと垣根を超えた幅広い研究ですそ野を広げ、可能性を高めていくべきではないかと提言されました。

参照:文部科学省研究振興局ライフサイエンス課資料(令和4年5月27日)

5.再生医療に関する医師の求人動向

再生医療は、今後の医療において大きく進展が見込まれる分野です。求人動向や、身につけておきたいスキルを紹介します。

5-1.求人動向は大きく伸びることが予測される

・美容医療業界
美容医療として皮膚や頭髪の若返り治療など見た目に関わる再生医療が進んでいるだけでなく、あらゆる臓器や器官の再生が試みられており、今後さらに大きくすそ野が広がると予測されています。従来の美容という枠にとらわれない治療法の確立も期待されており、幅広い診療科から転職できるチャンスが広がっています。

・不妊治療などの生殖医療
不妊治療の分野でも、再生医療は重要な役割を果たしています。例えば、妊娠成立に重要な役割を果たす子宮環境を整えるために、自己末梢血(自己血液)を使い、、高濃度血小板血漿(血液中の血小板)を分離して子宮内に注入する再生治療などが実施されています。
晩婚化による出産年齢の高齢化などで、不妊治療を必要としている人が増加傾向にあり、今後の伸びも期待できる分野です。産婦人科をはじめとする医師の転職が考えられます。

・化粧品メーカー
既に、幹細胞などを使った化粧品は世界で発売されていますが、安全性や副作用についてはまだ明確なルールや法整備がされているとはいいがたいのが現状です。
化粧品の研究開発だけでなく、安全性の確認、製造ラインでの管理、品質保証の分野で医師の知見が求められています。

再生医療は、様々な診療科や企業で注目されており、今後多くの分野で必要とされることが想定されます。そのため、再生医療に関わったことがない方でも、豊富な治療や臨床経験、知見を持っていれば採用される可能性もあります。

5-2.身につけておきたいスキル

医師が再生医療に取り組むためには、自分の診療科における専門的知見を深めておく必要があります。
現在、様々な分野で研究が進む再生医療は、今後多くの診療科で実用化が見込まれます。
欠損組織や臓器の再生、最終的には人工臓器が登場することも考えられる中、今の診療科の知識はもちろん、最新の治療法や論文を読み、知見を深めておくことが大切ではないでしょうか。

また、学会やシンポジウムへの参加など、時間が許す限り新たな情報の収集にも励んでみるといいでしょう。
他にも、厚生労働省を中心に議論される法改正・規制緩和の動向や、研究予算の行方についても、注目してみてはいかがでしょうか。

6.まとめ

ここまで再生医療の研究事例や今後予測される求人動向・身につけておきたいスキルを解説しました。
再生医療は世界中で研究が推進されており、今後大きな発見や治療法の確立のニュースがある可能性も充分考えられます。
ぜひ、ご自身の診療科での知見やキャリア選択の一助になれば幸いです。