女性医師のキャリア|現状の課題や選択肢・支援について解説

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「女性医師として、どのようなキャリアを積めばいいのだろう?」「育児が始まっても働き続けられるだろうか?」

 このように考えたことはありませんか?

女性医師は結婚・妊娠・育児を理由に休職を余儀なくされることで、キャリアが中断するケースが少なくありません。現代では、女性医師の活躍を促すことを目的に、さまざまな支援・サポートが行われています。

本記事では、女性医師のキャリア形成における課題やキャリアの選択肢、支援・サポートの内容について詳しく解説します。

1.女性医師がキャリアを考えるときに感じる不安

日本医師会女性医師支援センターの資料「女性医師の多様な働き方を支援する」によると、女性医師が将来にわたり不安を感じる内容について最も多かったのが「家事と仕事の両立」でした。

医療現場では、長時間労働が求められることもあるため、家事や子育てなどに十分な時間を割くことができないうえに、体力的にも難しいのではないかと不安を感じる方が多いようです。また、柔軟な働き方や育児休業、復職支援などの支援体制が整っている医療機関はそれほど多くありません。

女性医師が結婚・子育ての時期にも働きやすい職場が一般化しない限り、女性医師のキャリアに対する不安は拭い去ることはできないでしょう。

2.女性医師のキャリア形成における課題

女性医師は、男性医師と比べて着実なキャリア形成が困難とされています。女性医師の年齢別の就業率の変化と、キャリア形成における課題について詳しく見ていきましょう。

2-1.結婚・子育ての時期に就業率が低下する

厚生労働省の資料「女性医師に関する現状と国における支援策について」によると、女性医師の就業率は、医学部卒業後から年数を経過するにつれて減少していきます。

女性医師_男性医師と女性医師の就業率

卒業から11年目の大体36歳において就業率は76.0%にまで低下し、その後は80%後半まで回復します。これは、結婚・出産時期にあたる2535歳頃に就業率が低下し、その後に育児が落ち着いて再就職しているものと考えられます。

一方、男性の就業率は36歳頃までゆるやかに減少するものの、女性と比べて減少率はわずかです。このように、男性医師と比べて女性医師はキャリアが中断されやすい傾向があります。

2-2.育児休業の取得が難しい

日本医師会の資料「女性医師の子育て~8 年間で何が変わったか、何が変わっていないか~」によると、乳児を育てながら常勤医として働いている割合は2009年度調査では68.0%であるのに対し、2017年度調査では76.5%に増加しています。また、幼児のケースにおいても2009年度調査で70.1%、2017年度調査で71.0%と微増です。

また、日本医師会の資料「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」によると、女性医師の育児休業の取得率は約59%でした。育児休業を取得しない理由として、「代理の医師がいない」「職場に取得しづらい雰囲気がある」が多い結果となりました。

このように、女性医師は育児休業の取得が難しい状況にあります。

2-3.職場の理解を得ることが大きな課題

厚生労働省の資料「平成29年臨床研修修了者アンケート調査」によると、子育てをしながら勤務を続けるために必要と考えられることとして最も多かった回答は、「職場の雰囲気・理解」でした。次いで、「当直や時間外勤務の免除」「子どもの急病等の際に休暇がとりやすい」が多い結果となっています。

このことから、育児休業や短時間勤務などに対する職場の理解・雰囲気が大きな課題になると考えられます。

3.女性医師がキャリア を考えるときに押さえておきたいポイント

女性医師は、キャリアを考えるときに次のポイントを押さえることが大切かもしれません。

3-1.医師にはさまざまな働き方がある

現在のキャリアを中断することにショックを受ける方、大きな悩みを抱える方は少なくありません。ここで考えたいのは、医師にはさまざまな働き方があるということではないでしょうか。例えば、製薬会社の開発職、公的機関の技術職、保健所勤務など、さまざまな選択肢があります。1つの選択肢しかない場合、どうすればその選択肢を選ぶことができるのかを考えるばかりとなり、答えが出ないことに悩むかもしれません。

人生の岐路に立ったとき、自分が手に入らなかったものは諦めて、別の選択肢も検討することも1つの方法と言えます。

3-2.これまでの経験や知識は失われない

結婚や子育てによって現場を離れると、これまでのキャリアがすべて失われるような感覚になることもあるのではないでしょうか。卒業後、医師としてキャリアを積み上げてきた人は、知識や技術、経験などさまざまなものを手に入れています。一度、手に入れたものは失われることはありません。

たとえ、一時的に医師を辞めたとしても、育児が落ち着いた後はこれまでに手に入れたものを総動員して、希望する職場への就職を目指すことができます。まずは、今の自分の知識や技術を整理して、再就職する際にどのような選択肢があるのかを考えることが大切です。

4.結婚・子育ての時期を迎えた女性医師のキャリアの選択肢

結婚・子育ての時期を迎えた女性医師には、さまざまな選択肢があります。キャリアの選択肢とそれぞれ押さえておきたいポイントについて解説します。

4-1.常勤医を続ける

子育てと常勤の仕事を両立させることは至難の業ではありますが、実現している人は存在します。常勤医を続けるためには、早朝・夜間保育や病児保育などの制度が整っている必要があります。もしくは、家族のサポートによって負担を分散できる体制づくりが必要でしょう。また、職場の上司に「産後に戻ってきてほしい」と言われていた場合は気持ち的にも復帰しやすいのではないでしょうか。

常勤医を続けることができる状況かどうかを確認しつつ、職場の上司がどのように考えているのかを探るとよいでしょう。

4-2.非常勤医として労働時間を減らす

非常勤医として短時間労働に切り替える方法もあります。時短で働くことに対し、同僚や上司に申し訳なさを感じる方もいます。しかし、働く時間は短くとも、医師として適切な対応ができていれば問題はないはずです。また、特定の分野に精通した医師を目指すことで、短時間勤務でも自信を持てるのではないでしょうか。

4-3.開業で自身に合った働き方を実現する

開業する場合、自身の都合に合わせて診療時間や診療日を決めることができます。急に休むと患者に負担がかかるため、最初に決めた診療時間・診療日を守る必要があるものの、勤務医と比べると育児と仕事の両立における精神的な負担は少ないのではないでしょうか。

ただし、開業には多くのコストがかかるうえに、必ずしも経営が安定するとは限りません。働きやすい、より多くの収入を得られるといった開業医のメリットは、あくまでも成功した場合であることに注意が必要です。

4-4.研究・学位の取得を目指す

いったん臨床を離れて研究・学位の取得を目指す選択肢もあります。自分のペースでできる研究を選べば、子育てと両立できるでしょう。学位取得後は常勤か非常勤で臨床に戻ることも、他の研究を行うこともできます。

思い切って臨床から離れて研究に打ち込んだ結果、自分には研究の方が向いていると感じることもあるかもしれません。

4-5.退職する・休職する

常勤医や非常勤医などで続けることが難しい場合は、完全に現場を離れることになります。やむを得ず臨床・研究のいずれからも離れる場合、いつでも復帰できるように最新の医学知識を習得し続けることが大切です。教科書や専門誌、研究会への参加などによって知識や技術を蓄えましょう。完全に医師から離れないことによって、仕事にスムーズに戻りやすくなります。

5.国が主導している女性医師の支援・サポート

女性医師の活躍は国が推進しているため、さまざまな支援・サポートの事業や制度が策定されています。国が実施している女性医師の支援・サポートは、以下の4つです。

  • 女性医師等就労支援事業
  • 女性医師キャリア支援モデル普及推進事業
  • 病院内保育所事業に対する支援
  • 女性医師支援センター事業

それぞれの概要を紹介します。

5-1.女性医師等就労支援事業

女性医師等就労支援事業は、女性医師の再就職に関する相談先として窓口を設置する都道府県に財政支援を行う事業です。女性医師の相談窓口を設置するために必要なコストを国がある程度負担することで、支援を加速させることが狙いです。相談窓口では、保育サポートや保育所の紹介、現在の医療の現場について知識を得るための講習会や実地研修の紹介などを行います。

相談窓口の設置先は、主に大学病院や医師会などです。

5-2. 女性医師キャリア支援モデル普及推進事業

女性医師支援の先駆的な取り組みを行う医療機関を「女性医師キャリア支援モデル推進医療機関」として、支援策のモデル構築やシンポジウムなどの普及啓発に必要な経費を補助する事業です。

取り組みの一例として、女性医師等に対するキャリア教育・育児支援があります。現場を離れても最新の知識を習得できるように支援するほか、院内保育所の利用を促します。また、Eラーニングやシミュレーターを用いた実技練習も受けることができます。

5-3.病院内保育所事業に対する支援

病院内保育所事業に対する支援とは、子供を持つ女性医師をはじめとする医療従事者の離職防止や再就職を促すことを目的に乳幼児保育を行う「病院内保育所運営」を支援する取り組みです。保育士1人あたり、毎月約18万円、24時間保育123,410円など、事業の開始・維持に必要なコストの一部を国が負担します。

5-4.女性医師支援センター事業

女性医師支援センター事業は、日本医師会への委託事業です。女性医師が柔軟な勤務形態で就職できるように斡旋する「女性医師バンク事業」、女性医師が働きやすい職場作りの方法を病院責任者や女性医師、研修医などに対して提示する「再就業講習会事業」などがあります。

女性医師支援センター事業は、女性医師のキャリアに課題を感じている方が積極的に利用したい事業と言えるでしょう。利用できるサービス、相談内容、支援などについて詳しく解説します。

カウンセリングとアドバイス……キャリアプランニングやワークライフバランスなど、女性医師が直面する悩みや問題について、専門のカウンセラーやアドバイザーに相談できます。

交流イベント……女性医師同士で交流し、情報や経験を共有できます。

研修会……日進月歩の医療業界では、現場から離れると知識や技術に遅れを取りやすいことから、知識や技術を習得するための研修会を実施しています。

情報提供……女性医師のためのキャリア開発やライフステージに応じたサポートに関する情報を提供しています。就職支援、育児支援などの情報を提供し、女性医師のキャリアをサポートします。

法律に関する情報提供……女性医師の権利や平等な働き方を推進するために、政策や法律について情報提供しています。女性医師の声を反映させるための提案や活動を行い、社会的な変革を促進します。

例えば、埼玉県女性医師支援センターでは最新の医学・医療知識の提供や外来・病棟実習、救命救急実習などを行う研修プログラムを行っています。

過去の取り組み事例を紹介します。

  • 女性医師の就業等に係る実情把握調査の実施
  • 就職を希望する女性医師に対する医療機関や再研修先の紹介
  • 学会等におけるブース出展やシンポジウムの開催
  • 都道府県医師会等において病院管理者や医学生、研修医に対する女性医師のキャリア形成や勤務環境改善に関連する講習会・講演会の開催
  • 全国の大学医学部や各医学会の女性医師支援や男女共同参画の担当者に対する「大学医学部・医学生女性医師支援担当者連絡会」の開催
  • 講習会等への託児サービス併設補助

出典:厚生労働省「女性医師キャリア支援モデル普及推進事業の成果と今後の取組について

このように女性医師が働きやすい職場環境を作るため、様々な取り組みが行われています。働き方に悩んだ際は、一度女性医師支援センターの情報を検索してみることをお勧めします。

6.まとめ

結婚・子育ての時期に就業率が低下することから、キャリアを中断せざる得なくなるのではないかと不安を感じている方も多いのではないでしょうか。本記事でご紹介させていただいたように、女性医師の働き方は常勤のほかにも非常勤や研究職などがあります。

また、女性医師支援センター事業のように、女性医師のキャリアや子育てについて悩みを相談できる機関もあるため、積極的に活用したいところです。今回、解説した内容が女性医師の方のキャリアプランや結婚・子育ての際の選択などにおいて一助となれば幸いです。