近年、健康寿命の延伸についての取り組みが推進されており、予防医療が注目を集めています。特に地域に密着し、疾患の早期発見や予防に繋がる巡回健診は、予防医療のニーズが増加するほど重要性が高まるでしょう。
一方で、巡回健診など予防医療のニーズの高まりから医師の働き方が多様化し、より充実したキャリアライフを歩める可能性が大きくなっています。
そこでこの記事では、巡回健診の特徴や魅力、注意点、時給相場など待遇面についても紹介します。
新たなキャリアの選択肢である、巡回健診の魅力を見ていきましょう。
目次
1.巡回健診とは?高まる予防医療のニーズ
医師キャリアの選択肢で注目の「巡回健診」。予防医療のニーズの高まりとともに、医師の新しい働き方として注目を集めています。
以下、巡回健診の特徴と重要性を紹介します。
1.1 巡回健診とは
巡回健診は、医療機関が出向いて健康診断を行うサービスです。労働安全衛生法に基づく一般健康診断から特殊な健康診断まで、さまざまな種類の健診が行われます。例として、生活習慣病健診や充実した種類の検査が受診できる人間ドックを備えた健診車も知られています。高齢化社会で増加する悪性新生物、脳血管疾患、心疾患などに対応し、健診結果によって早期治療につなげる重要な役割を担います。
巡回健診は、学校や企業などにとって重要なものです。学校健診では学校保健安全法に基づき、児童、生徒、職員の健康を診断する役割があります。定期健康診断や特定の検査項目は、学校健診で義務付けられています。また、巡回健診にはオプション検査も用意されており、専門的な検査を受けられます。
このように巡回健診は、多くの場面でその価値を発揮しています。地域社会に密着した形での健康診断を提供し、それによって多くの人々が早期発見や予防に繋がる医療サービスを受けることができるのです。
1.2巡回健診など予防医療の重要性が高まる理由3つ
巡回健診など予防医療の重要性が高まっている理由は以下の3つです。
1.高齢化社会の影響
総務省によると2022年9月時点の日本の高齢者比率は29.1%で、社会の高齢化が急速に進んでいます。そのため、高齢者を中心に健康問題による医療費増大も加速しています。
こうした高齢化に伴い、早期発見・早期治療の重要性が増しており、医療費の効率的な使用も社会課題です。特に、高齢者が多い地域では巡回健診が不可欠となっており、地域医療の資源を最大限に活用して早期治療を促進する手段となっています。
2.生活習慣病の増加
健康寿命と生活習慣病の関連が叫ばれる中、企業や団体での従業員の健康管理が重要視されています。出張健診により、企業は従業員の健康状態を把握し、必要な場合には早期の受診を促します。
3.ヘルスケア技術の進化
近年、ヘルスケアのテクノロジーが進化しています。遠隔医療が普及する一方で、健診車でも医療機関での検査に引けを取らない精度が確保されています。したがって、院外での医療検査が一層信頼性を増しています。今後もこのようなテクノロジーの進化は、巡回健診の品質と効率をさらに高めるでしょう。
このように、巡回健診は、高齢化社会の進行、生活習慣病の増加、ヘルスケア技術の進化といった社会的背景によって、その重要性を高めています。企業、学校、地域社会などの場でこうした健診方法を活用し、従業員や生徒・学生、市民の健康管理に積極的に取り組む必要があります。
参照:統計からみた我が国の高齢者|総務省統計局
2.巡回健診とその他の健診の違いとは?
巡回健診に関して説明してきましたが、受けることができる健診には様々な種類があります。その違いについて詳しくみていきましょう。
2.1 巡回健診と出張健診の違い
出張健診は主に学校や企業へ健康診断として医師が出向くことを指すことが多いです。医療機関によっては、巡回健診と出張健診を使い分けていることもありますが、基本的には健診車や他医療従事者と共に対象施設に向かい健診を行うことが多くなっています。
一般的に巡回健診と出張健診は、巡回健診とまとめて呼ぶところも多く見られますので、違いはほとんどありません。
2.2 施設健診との違い
巡回健診と施設健診との違いは以下の表の通りです。
巡回健診 | 院内健診 | |
目的 | ・企業や学校、地域社会などを対象に健康診断を実施 ・企業や学校など集団で受けることで健康診断受診率の向上につながる | ・医療機関に予約する個人に対して健康診断を実施する ・個々のニーズにあった病院を選択することができる(ホスピタリティの高い病院や毎年健診を実施している病院など) |
対象 | ・健康な人から疾病リスクを持つ人まで多様 ・稼働を止められない工場や医療機関に赴くのが難しい高齢者、休暇を調整しにくい社会人など施設健診が難しい方も受けやすい | ・健康な人から疾病リスクを持つ人まで多様 ・自ら予定を調整し、施設に赴ける方 |
場所 | 移動する医療チーム(看護師、臨床検査技師など)とともに、企業や地域の施設などで実施 | 病院やクリニックの設備をフル活用 →診察や治療として精密に検査 |
設備 | 携帯可能な設備と簡易な診断機器を使用 | 出張健診・巡回健診に比べより高度な検査機器 |
働き方・勤務時間 | 柔軟なスケジュールや非常勤、パートタイムの働き方も選択可能 地域に根ざした医療、特に予防医療に貢献するやりがい | 通常の病院勤務と同様、定期的なシフトでの勤務が一般的 専門的な診療スキルを活かせるケースが多い |
施設健診は病院やクリニック、健診センターなどで行われるため、健診を受ける時間を確保し、個人で予約を行う必要があります。平日勤務で休暇の取得が容易ではない会社員や、高齢者、学生など、巡回健診を行うことで受診率を向上することにつながります。
設備に関しての違いは、診断機器による検査方法が異なってきます。具体例として、胃部X線検査であれば、巡回健診では間接撮影、施設健診では直接撮影になります。また、子宮頚部検査ですと巡回健診であればHPV検査(自己採取)、施設健診であれば子宮頸部細胞診(医師採取)など異なる場合もあります。
巡回健診は、専門的な検査を希望する方のために施設健診とほぼ同様の健診オプションを付けることが可能になっています。さらに、乳がん健診車や婦人科健診車などの専門性に特化したものもあるので、施設に赴かなくとも様々な検査を行うことができます。
巡回健診で要注意となった場合、精密検査や専門的な病院受診が推奨されます。しっかりと健診を行うことで、未病の把握や早期発見などの予防医療が今後の医療体制には必要とされています。そのため、施設に赴く手間を減らすことはできる巡回健診は重要な立ち位置にあると考えられます。
3.巡回健診で働く魅力
巡回健診で働く魅力は以下の3つ挙げられます。
3.1 柔軟な働き方ができる
巡回健診では、柔軟な働き方が大きな魅力のひとつです。
勤務条件や待遇は巡回健診を提供する施設によって多岐にわたります。巡回健診を実施する多くの場合、地域医療センター、大学病院、民間の健診会社などが大半です。
雇用形態は正規雇用のほか非常勤やパートタイムでの募集も多く、週に3日勤務や午後からの勤務など、希望する勤務条件が選べます。特に、時短や週3日など希望曜日のみでの勤務を重視したい方にはおススメです。
時給は一般的に10,000円が相場とされています。スキルや経験に応じて異なる場合もありますが、日給6万円から10万円の募集が多いです。社会保険完備、交通費支給、研修制度など、所属先によっては手厚い待遇が用意されています。
このように勤務時間を選択することなども可能なので、自身の生活リズムに合わせることができ、柔軟な働き方ができます。
3.2 予防医療に貢献できる
巡回健診の最大の目的は、健康管理や疾病予防です。日々、健康診断サービスを提供する環境で働くことで、予防医療の重要性を日々肌で感じられます。
特に、早期発見・早期治療へと至る健康改善のプロセスを目の当たりにすると、医師として社会に貢献している実感が湧き、やりがいを感じる瞬間が訪れる場面も多いでしょう。
3.3 さまざまな場所・地域住民と交流できる
さまざまな場所や地域で巡回健診の業務を行うため、医療の現場を多角的に理解する機会が増えます。
また、多様な地域の人々と直接交流することで、患者さんとのコミュニケーションスキルも自然に向上します。地域医療を通じて得た経験は、将来的により多くの医療現場で活躍するための重要なスキルとなるでしょう。
4.巡回健診で働く注意点
巡回健診で働く際の注意点は以下の2つです。
4.1 移動のストレスを感じる場合がある
巡回健診で働く場合、所属の医療機関から各健診場所への移動が必要です。勤務場所が固定される勤務医とは違い、通勤時の交通手段の調整や、現地での準備などにより、病院勤務に比べて集合時間が早くなるケースが一般的です。
例えば、ある日は地元の公共施設での健診があり、次の日は遠くの企業での健診がある場合も考えられます。公共交通機関の時刻表を事前にチェックする、必要に応じてレンタカーを手配する、拠点となる場所から最短ルートを見つけるなどの事前調整が必要です。また、現地では滞りなく健診がスタートできるように、医療機器のセットアップから必要な書類の準備、待機スペースの設定まで多くの事前準備が限られた時間で求められます。
こうした通常の勤務医とは異なる時間スケジュールで長期間続くと、ストレスを感じる可能性もあります。
ただし、健診場所への移動をポジティブに捉えることもできます。例えば、移動時間を有効活用してオーディオブックを聞く、電車やバス、移動中の検診車で専門書を読むなど、自己成長につなげることができます。
4.2 現地での機材のセットアップや管理に慣れが必要
巡回健診では、現地での機材のセットアップや管理にも慣れが必要です。スムーズにこなせるまでには、技術的な知識や手際の良い作業が求められます。
初めての場合、手間取って時間がかかることもありえます。しかし、一度慣れてしまえば、巡回健診で身につけたスキルは他の医療現場でも役立つものです。特に、多種類の機材のスピーディーな取り扱いに慣れることで、緊急時の対応力や臨機応変な対応能力が向上する可能性が高いです。
以上のように、巡回健診で働く際には注意点を踏まえておくことが大切です。ただ、業務に必要な課題を乗り越えた先には医師としての成長の機会やスキルアップが待っています。ここで挙げた注意点をきちんとクリアすることで、より多くの人々に対する医療サービスの質を高め、自身のキャリアにもプラスになるでしょう。
5.まとめ
巡回健診は、医師として新しいキャリア形成において多くの可能性と価値を持つ働き方です。
非常勤やパートタイムでの勤務も選択できるため、家庭との両立や他の職務と組み合わせるなど柔軟な働き方も選べます。
そして、予防医療に直接貢献できる点が大きな魅力と言えるでしょう。地域住民や企業・学校の健康をサポートし、早期発見・早期治療につながる成果を現場で目にする機会が多いため、健康診断の効果を肌で感じられます。
さらに、様々な地域や施設を訪れることで、多角的な視点から医療の現場を理解する機会にもつながります。地域住民である患者との触れ合いを通して、診療で必要なコミュニケーションスキルの向上にも役立つでしょう。
もちろん、移動のストレスや現地での機材セットアップなど、巡回健診ならではの課題もありますが、新しいスキルを身につける機会としてポジティブに捉えられます。
このように、巡回健診は地域住民とのコミュニケーションや新しい医療の取り組みに関心がある医師にとって、非常に興味深く、充実感のあるキャリアパスと言えるでしょう。