医師がバーンアウト(燃え尽き症候群)しやすい理由と3つの回避策

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日々、医療現場で忙しく働いている医師の方々は、一度は「バーンアウト(燃え尽き症候群)」をご経験されたことがあるかもしれません。

今までの熱意や意気込みが突然、嘘のように消えてしまい、まるでロウソクの炎が燃え尽きてしまったかのようにエネルギーが消失し、心身の不調が起こる症状です。

数ある職業の中でも医師は「バーンアウト」しやすい職業として、世界保健機関(WHO)は警鐘を鳴らしており、予防策を知っておくことは医師という職業を長く続けていくうえで大切です。

今回は、医師が「バーンアウト(燃え尽き症候群)」しやすい理由と3つの回避策をご紹介します。

1.バーンアウト(燃え尽き症候群)の定義

まずは、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の定義を解説していきます。

バーンアウト(Burnout)は焼き尽くす・燃え尽きるという意味があり、日本語では「燃え尽き症候群」とも呼ばれています。

それまで熱心に仕事に取り組んでいた人が、ストレスや疲労によって急激に意欲や熱意を失くし、心身の過度な疲労を引き起こし、燃え尽きたような状態に陥ることを「バーンアウトシンドローム(Burnout Syndrome)」ともいいます。

▽バーンアウト(燃え尽き症候群)の特徴
 ・朝起きられない
 ・仕事から離れたい気持ちが増加する
 ・仕事に対して否定的になる
 ・いら立ち、飲酒量が増加する
 ・人間関係を避けるケースもある

1970年代にアメリカの精神科医、ハーバート・フロイデンバーガー氏が「バーンアウト」という概念を初めて提唱したことで、世界中に知られるようになりました。

2022年、世界保健機関(WHO)は「国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)」を公表し、燃え尽き症候群の定義を『エネルギーの枯渇、または疲労感がある』と記載しました。

国際疾病分類(ICD-11)に新しく「燃え尽き症候群(バーンアウト)」の定義が盛り込まれ、燃え尽き症候群の心身の不調は慢性的な職場ストレスの影響によるものとあります。

あくまでも仕事におけるストレスが原因の体の不調と分類されており、精神疾患・うつ病・不安障害・依存症などの病気・障害とは明確に区別されています。

※「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」とは、世界の医療機関へ傷病や障害などの診断基準を定めるために国際的に統一された統計分類をし、作成されたガイドラインのことです。

参照: 厚生労働省-報道発表資料「国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が公表されました」
参照:厚生労働省e-ヘルスネット「バーンアウトシンドローム」

 2.医師のバーンアウトに見られる3つの症状

アメリカの社会心理学者、マスラック博士を中心とした研究グループが発表した「マスラック・バーンアウト・インベントリー (Maslach Burnout Inventory)」と呼ばれる指標が世界的な基準となっています。

MBIによればバーンアウトの代表的な症状は以下の3つに当てはまるのが特徴です。
①情緒的消耗感
②脱人格化
③個人的達成感の低下

ではそれぞれを詳しく見ていきましょう。

2.1  情緒的消耗感

情緒的消耗感(emotional exhaustion)とは今まで情緒的に仕事に力を尽くした結果、精を出しすぎて身も心も疲れ果ててしまい、仕事への熱意・意欲が低下した状態のことです。

今まで楽しかった仕事がつまらなく思えてきて、やり甲斐や達成感がなくなり、身体的な疲労ではなく、心のエネルギーが疲れ果ててしまった情緒的な消耗感であることが特徴です。

毎日の職場で何か月、何年と仕事を繰り返しているうちに、消耗しきった状態になり、今までの努力も無駄だったと感じるようになります。

2.2  脱人格化

脱人格化 (depersonalization)とは、職場の同僚やスタッフ、患者に対して思いやりを持てなくなり、攻撃的になったり、人格を無視した言動や態度を取ってしまう状態です。

いつも普通にできていた周囲への気配りをしたくないと感じたり、相手を威圧したり、イライラするようになったり、無情で非人間的な対応を取るのが特徴です。

精神的なエネルギーが枯渇した状態になると、それ以上の消耗を防ぐため、思いやりや倫理観を守れなくなり、自身を守るために非人格化の行動、防衛反応を示すようになります。

2.3 個人的達成感の低下

個人的達成感の低下(personal accomplishment)とは今まで仕事に対して感じていた達成感や有能感が喪失し、やりがいを感じられなくなったり、自信を失ったりしまう状態です。

自己否定の気持ちも出てくるため、患者や同僚など周囲とのコミュニケーションに支障をきたすようになり、モチベーション低下、休職・離職に繋がるケースもあります。

3. バーンアウトになりやすい医師の特徴

バーンアウトによる心身の不調は、職場に関するストレスが要因と定義されています。

職場のストレスは大きく分けて、個人要因と環境要因に分けられます

▽個人要因
・真面目で仕事熱心
・使命感が強い
・完璧主義
・理想が高く、意欲が高い
・実直で、ひたむきに突き進む
・人と積極的に・深く関わろうとする

年齢的には若年層ほど消耗から燃え尽きる傾向にあり、高齢になるほどストレスの対処法を心得ており、慢性的なストレスを避けられると考えられます。

▽環境要因
・長時間労働や厳しいノルマ
・体への負荷が大きい身体的労働
・自分の意思や考えを仕事に反映しにくい
・給与が低い
・昇給が見込めない

激務な職場の環境に不満を抱えたまま仕事をしていると、日々、仕事に追い立てられているのに正当な評価を受けていないと感じるようになります。

▽バーンアウトとの関係性の高い職業
・医療従事者(医師・看護師など)
・福祉サービス業(介護士・社会福祉士など)
・カウンセラー、相談員
・教員、保育士
・カスタマーサポート・コールセンター
・営業職
・接客業

上記のように顧客や患者など、人と直接コミュニケーションを取りながらサービス提供する職務とする人が陥りやすいといえます。

医師は日々、患者の健康問題と直接向き合い、一人あたりが担当する患者数が多く、燃え尽き症候群に陥りやすい代表的な職務といえるでしょう。

特に命に係わる現場で働く救急医は常に緊張感が張りつめており、多くの業務量と正確さを求められ、訴訟リスクのストレスなども、生活リズムが乱れる原因となります。

参照:一般社団法人-日本神経学会「医療者のバーンアウトの 原因と対策を学ぼう」

4.  医師全体の40%以上がバーンアウトを経験

エムステージ(東京都品川区)のアンケート調査によれば、医師の40%以上が、バーンアウト(燃え尽き症候群)を経験したことがあるという調査結果が発表されました。

医師の場合、長時間労働や過重労働、患者の重篤な症状や死亡などによる精神的負担などが、バーンアウトにつながる要因として挙げられます。
バーンアウトが進むと、仕事への意欲やモチベーションの低下、対人関係の悪化、うつ病などの心身への影響が現れる可能性があります。
医師の場合、バーンアウトによって患者の治療に支障をきたす可能性もあり、医療の質低下に繋がるリスクがあります。
医師のバーンアウトを防ぐためには、医療現場における働き方改革や、医師のメンタルヘルス対策の充実が重要です。
また、バーンアウトの経験がある医師にどのような不調が起きたかという調査では以下のような結果がでています。

▽医師が不調を感じた症状
・身も心も疲れ果てたと感じる
・仕事を終えても、達成感が生まれない
・今の仕事は自分に向いていないと感じる

慢性的な疲労が溜まって、ある日突然、頭に靄がかかったような感覚になり、ある日朝布団から出られくなった。病院に向かっている途中、吐き気がしたという経験が印象的でした。

▽医師が不調を感じたタイミング
・専門医の取得後(20%)
・初期研修時(19%)
・後期研修時(16%)

研修医時代は、厳しい指導医からのプレッシャーを強く感じ、年齢が若い医師ほどバーンアウトするリスクが高い環境であることが推測されます。

▽医師が不調を感じた原因
・業務量の多さ、長時間労働
・十分な休日を確保できない
・上司や先輩医師との人間関係
・周囲に相談できる人がいない環境

業務量の多さと長時間労働が当たり前の環境にあり、24時間365日常にオンコールの状態、休日が取れないといった過酷な職場で気力が尽きたような状態になると伺えます。

参照:株式会社エムステージ「医師の燃え尽き症候群(バーンアウト)について、医師584名にアンケート調査」

5.  バーンアウトしないために大切にしたい3つのこと

3つのポイントをご紹介します。

5.1  職場でスタッフ同士が支えあう

医療従事者は激務な職場環境と責任感のプレッシャーからバーンアウトしやすい業界にいると理解し、職場でスタッフの仲間同士で支え合うことが重要です。

日頃から些細なことを話し合える関係を築いていると、周囲の人が異変に気が付いてサポートしてくれるため、特に職場の管理者は相談しやすい環境づくりを意識しましょう。

5.2 しっかりと休息をとる

バーンアウトした経験のある医師の話からも、頑張りすぎると心身ともに疲弊して、追い込まれてしまう結果になると分かります。

バーンアウトを防ぐためにも、友人や仲間、家族と話す時間を大切にして、話をしたり、聞いてもらえる仲間を持つことが大事です。

ストレスが溜まったと感じたら有給休暇をとって休み、家族や友人と過ごせる休日でリラックスしたり、趣味や旅行を楽しむのもよいでしょう。

5.3 外部カウンセリングを利用する

医療従事者向けのカウンセリングを行うカウンセラー、医療現場のストレスやバーンアウトについて知識や経験が豊富なカウンセラーが適しています。

カウンセリングの内容は、医師のバーンアウトの原因を特定し、その原因を解決するための具体的な方法を検討するため、健康的に働き続けるための有効な手段となります。

カウンセリングの効果を最大限に発揮するためには、一回ではなく、定期的にカウンセリングを受けることで、徐々に改善していくことができます。

参照:日本精神神経学会「医療従事者のメンタルヘルス」(PDF)
参照:厚生労働省 「心の健康 」

6. バーンアウトしないための対処法

バーンアウトしないための2つの対処法を提案いたします。

組織的アプローチとセルフケアが大切です。

6.1  組織的アプローチで改善する

組織的アプローチで医師のバーンアウトを改善するには、以下の3つの要素が重要です。

①医師が働きやすい環境づくり
医師のワークライフバランスを重視し、過労やストレスを軽減する環境づくりを行います。具体的には、残業時間の削減、休暇の取得促進、メンタルヘルス対策の充実などが挙げられます。

②医師の働きがい向上
医師がやりがいを持って働けるように、職場の雰囲気や教育体制を整えて、医師の意見を尊重する風土づくり、キャリアアップの機会を提供します。

③医療機関全体の働き方改革
医療機関全体で働き方改革を推進し、医師の負担を軽減します。例えば、業務の効率化、IT化の導入などが挙げられます。

これら3つの要素をバランスよく実現することができれば、医師のバーンアウトが改善され、医療の質と安全性の向上にも繋がっていくでしょう。

参考資料:医療者のバーンアウトの 原因と対策を学ぼう

6.2  セルフケア方法を持つ

個人的な対策としては、リラクゼーションやトレーニング、ストレスマネジメントなどを行うことで、心身の健康を維持することが重要です。

近年は、マインドフルネスなどのプログラムがバーンアウト対策として注目されています。

マインドフルネスとは、今この瞬間に意識を向け、判断や評価をせずに、あるがままを受け入れる認知行動療法の一種です。

マインドフルネスをすることで、ストレスや不安を軽減し、心身の健康を維持するこ効果があると考えられています。

参照:一般社団法人-日本神経学会「医療者のバーンアウトの 原因と対策を学ぼう」
参照:ホスピス財団 資料「2.わが国で実践している医療者向けプログラム」

7.  バーンアウトを予防するために知っておきたいワーク・エンゲイジメント

ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対する心の健康度を示す言葉で、「熱意・没頭・活力」の3つが満たされている状態を言います。つまり、バーンアウトと対極の概念となります。

ワークエンゲージメントが高い人は、仕事にやりがいを感じ、仕事に熱心に取り組んでいます。そのため、バーンアウトに陥る可能性は低くなります。

一方、ワークエンゲージメントが低い人は、仕事に意欲が低下し、仕事に前向きに取り組むことができません。そのため、バーンアウトに陥る可能性が高くなります。

つまり、ワークエンゲージメントを高めることは、バーンアウトを防止する上で重要な取り組みであると言えます。

ワーク・エンゲージメントを高めるためには、以下の3つの要素を向上させることが効果的です。
①活力(vigor):仕事に対する意欲やエネルギー
②熱意(dedication):仕事への誇りややりがい
③没頭(absorption):仕事に集中して没頭する感覚

ワークエンゲージメントを高めるための具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
・仕事の裁量権や責任の拡大
・仕事とプライベートのバランスの取れた働き方
・仕事へのフィードバックや評価の充実
・職場の人間関係の良好化

医療機関や医師個人が、これらの取り組みを進めることで、ワークエンゲージメントを高め、バーンアウトを防止することができるでしょう。

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また、仕事の資源と個人の資源は、ワークエンゲージメントを向上させるために重要な要素です。
▽仕事の資源とは
仕事のパフォーマンスを向上し、ストレスの低減につながるような組織内の要因である。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
・仕事の裁量度
・仕事のやりがい
・上司や同僚のサポート
・適切な評価
・キャリア開発の機会

▽個人の資源とは
ポジティブな心理的状態を生み出すための資質や特性である。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
・自己効力感
・楽観性
・レジリエンス

仕事の資源と個人の資源は、相互に影響し合いながらワークエンゲージメントを向上させます。例えば、仕事の資源が充実すると、個人の資源が向上し、個人の資源が豊富だと仕事の資源を活用しやすくなります。

参考資料:令和元年版 労働経済の分析 人手不足の下での働き方を巡る課題について

まとめ

医師がバーンアウト(燃え尽き症候群)を予防するには職場のストレスが蓄積されないように、仕事とプライベートを分けて、ストレスを発散する時間を作ることが大切です。

そして、バーンアウトを回避するにはワーク・エンゲイジメントを高めることがキーポイントになります。活き活きとやりがいを持って仕事ができるということは、とても幸せなことであり、この先も長く働いていくうえでとても大切なことかと思います。

ぜひこれをきっかけに、ご自身の働き方について改めて考えてみてはいかがでしょうか?