医師はAIで仕事はどう変わるか?AI時代に生き残るスキルを考える

Doctor AI Technology

医師もAI(人工知能)への対応が急速に必要となってきました。近年、ChatGPTを始め、一般レベルでもAIによるサービスが加速度的に進化している中、医療現場でのAIの導入は、診断から治療計画、患者のフォローアップまで、あらゆる段階で変革をもたらしています。

ただ、「医師の仕事の大部分がAIに代替されるのではないか」「近い将来、医師の仕事はなくなるかもしれない」と不安の声を聞くことも確かです。

そこでこの記事では、医師がAI導入で現在どのような立場に置かれているのか、解説していきます。進化するAIの恩恵で医療の質が飛躍的に向上する一方で、医師でなければ対応できない部分とは何かを見ていきましょう。

1.医療AIの最前線

医療現場におけるAIの今はどのような状況なのでしょうか。

まず、医師が知っておきたいAI導入の現状と代表的な事例を確認しておきましょう。

1.1 医療現場のAI導入の現状

AI技術はすでに医療業界全体で広く活用されており、その導入は増加の一途を辿っています。厚生労働省の医療施設調査によると、2020年時点においてAI医療の土台となる電子カルテの国内普及率は400床以上の病院で91.2%、オーダリングシステムは93.1%と高い数字を誇っています。今後、医療AIの進化と共に、医師と患者にとってさらに有益な方法が取り入れられると期待されています。

AIは、電子カルテといった基本的なシステムをベースとして、患者の病状の早期発見や診断の精度向上、治療方針の策定、患者の健康管理やリハビリテーションの最適化など、さまざまな分野で活躍しています。また、AIは医学・医療研究においても重要な役割を果たしており、新薬の開発や遺伝子疾患の研究への適用が加速してきました。

このように、AIの技術は、画像認識、自然言語処理、予測モデリングなど、医療現場と親和性の高い分野において実際に普及が進んでいます。特に画像認識技術は、放射線診断や病理診断など、医療画像の解析に非常に有効です。

また、機械学習の活用例で知られる自然言語処理も、電子カルテ(電子医療記録:EMR)の解析や患者との対話を自動化するために導入が進んでいます。

しかし、医療現場へのAI導入を加速するには以下の課題があります。

・AIの開発と導入には高いコストがかかること
・医療データのプライバシーとセキュリティの問題
・AIの判断の信頼性と医師の責任との関係性

医療現場ではこうした課題への取り組みが始まっており、個別の医師もAIへの対応ニーズが高まっているのです。

出典:厚生労働省:「電子カルテシステム等の普及状況の推移」

1.2 現在活用されている医療AIの事例

医師の活躍している場によって、医療AIの導入レベルはさまざまでしょう。大学病院や総合病院ではすでに医師自身も意識することがないほど医療AIの導入が加速しています。一方で、市中病院やクリニックの場合、「ようやく電子カルテやマイナンバーカードの健康保険証利用の対応に慣れてきたところだ」といった感覚を持つ医師も少なくないのではないでしょうか。

では、医療AIを積極的に導入・活用している医療現場では現在どのような事例が見られるのでしょうか。

特にAI活用が進んでいるのは、画像診断の分野です。例えば、大腸病変の腫瘍/非腫瘍の判別を支援するサイバネット社「「内視鏡画像診断支援ソフトウェア EndoBRAIN」は、約6万枚の内視鏡画像を機械学習した結果、正診率98%の精度を達成しています。専門医の画像診断レベルに相当する数値で、すでに各地の医療現場で医師の読影の補助に役立っています。

また、放射線科では、AIがCT画像の再構成と位置決めの精度を向上させることで、診断の信頼性を高めています。特にAIを用いた画像再構成技術は、磁気共鳴画像(MRI)の検査時間および診断までの所要時間を大幅に短縮しています。特に心臓超音波測定では、AIによる自動測定作用によりエコー検査の精度の高さと時間短縮が一気に進みました。実際、LVEF(左心駆出率)の初期評価を心臓専門医が最終評価した結果、AI群は6.29%、超音波検査士は7.23%でした。このように、医療AIが超音波検査士のヒューマンパワーを上回るといった報告もされています。

画像診断は医療AIの導入・活用が進んでいる医療領域のひとつです。医療AIによる画像診断が普及するにつれて、早期発見や異常部分の検知精度の向上、病気の見逃し予防など、医師の経験やスキルに頼っていた部分が大幅にAI技術に委ねられるようになっています。

出典:厚生労働省「新しいAI戦略の策定に向けて」
出典:【Nature】AIによるLVEFの評価は、超音波検査士と比べ非劣性 | 臨床支援アプリHOKUTO(ホクト)

2.医療AIの開発状況

では、現在、医療AIは以下のジャンルで特に開発が進んでいます。

  • 手術ロボット
  • 人工臓器 
  • 生体内医療ナノロボット
  • 創薬支援

特に3番目の「生体内医療ナノロボット」は、生体環境で活躍し、がんや免疫疾患といった医療分野で早期導入が期待されているところです。

では、ひとつずつ見ていきましょう。

2.1 手術ロボット

手術ロボットは、AIの活用を通じて手術の精度が向上し、低侵襲手術を実現すると言われています。

目下、手術支援分野で研究開発が進んでいるものには、「内視鏡外科手術におけるAI児童技術評価システム」や「手術動画解析AIを用いた『熟練の技』の教育と手術支援」などがあります。こうした新規開発システムが医療現場で導入されると、今後ますます医療AIによる手術ロボットがあらゆる分野の外科手術に欠かせないものとなるでしょう。

具体的には、現在主流で導入されている手術支援ロボット「ダ・ビンチ」から、より高度なAI搭載の手術ロボットが普及すると、これまで以上に手術時間が短縮され、術後の痛みも軽減されると期待されています。

出典:厚生労働省「新しいAI戦略の策定に向けて」

2.2 人工臓器 

人工臓器も医療技術の進歩により、心臓、肺、腎臓などの臓器を模した医療機器が開発されています。実際にインプラントまたは接続するかたちで運用されており、患者のQOL(生活の質)の向上に貢献してきました。

医療AIの活用で、再生医療分野で広く使われる「3Dバイオプリンティング」によって細胞レベルでの組織作成技術が飛躍的に進化すれば、将来的に完全な人工臓器が可能になると言われています。

2.3 生体内医療ナノロボット

生体内医療ナノロボットは、非常に小さなサイズで生態環境下で活躍する革新的な医療技術です。ナノロボットにより、特定の細胞を対象とした検査や治療が実現し、医師や患者双方の身体的負担を削減するとともに、効率的な治療が可能になると期待されています。

2.4 創薬支援

AI技術は、製薬企業の創薬分野でも、新薬開発の成功率を高める一方、創薬プロセスの時間やコスト削減に寄与しています。難病・希少疾病用の新たな治療薬の開発をスピードアップし、薬物の安全性と効果を得られる段階に入っています。

3.医師がAI時代到来によって得られるメリット

医療に本格的なAI時代が到来すると、医師には以下のようなメリットがあります。

  • 【メリット1】地域の壁を越えて最先端医療を提供できる
  • 【メリット2】医師の身体的・精神的負担が軽減される
  • 【メリット3】新しい診断方法や治療法に取り組むことができる

中でも、「【メリット2】医師の身体的・精神的負担が軽減される」という点は、「AIは医師にとって代わるのではないか」といった悲観的な見方をする向きもある中で、ぜひ知っておきたいポイントです。

それでは、以下で簡潔に紹介します。

3.1 【メリット1】地域の壁を越えて最先端医療を提供できる

AIとICT技術の組み合わせにより、都市部または地方勤務の医師に関わらず、地理的な制約を受けずに医療サービスの提供が可能になります。こうしたテレヘルス(遠隔医療)・リモート診療は、遠隔地に住む患者や移動が困難な患者に対して、コロナ禍の影響もあり徐々に現場で活用されるケースが増えてきました。

今後、AIがリアルタイムで医療技術や最新情報をアップデートすることで、全国どの地域の医師でも最先端の医療を提供する未来が予測されています。

3.2 【メリット2】医師の身体的・精神的負担が軽減される

AIは医療データを高速かつ大量に解析する能力を持つため、医師の業務を大幅に削減できるのも大きなメリットです。電子カルテへのデータ入力やデータ分析が加速度的に進み、AIが用意したデータを活用すれば患者の診察時間や治療時間も大幅に短縮できると期待されています。

また、AIは24時間稼働可能です。細心の注意が必要となる術前・術後管理や入院患者の異常検知に対してアラートモニタリングシステムの導入が進むと、医師の過重労働の軽減にもつながります。

3.3 【メリット3】新しい診断方法や治療法に取り組むことができる

AIの持つ高度なパターン認識能力は、新たな病気の発見や、新たな治療法の開発を後押しします。医師はより効果的な診断方法や治療法を活用できるため、患者の治療成果の向上が期待できます。また、AIは創薬プロセスの効率化を実現し、医師は最新の治療薬を患者に処方できるようになります。

4.医師のAI活用の加速が予測されるジャンル

今後、医師のAI活用は、次のような診療業務や医療分野だと考えられます。

4.1 カルテ管理支援(自動問診、入力効率化)

AIによりカルテ管理は医師の業務効率化が特に進むと予想されています。

AIが自動問診を通じて収集した患者の症状や健康状態、既往歴などの情報は、電子カルテに直接入力されるようになります。電子カルテの記録入力は、日々診療を続ける医師にとってボリュームの大きな業務のひとつであり、大幅に負担軽減となるでしょう。

また、医師はすでに電子カルテ化された情報を参照しながら患者の診療に集中できるため、重大な病気の見逃しリスクを減らすことができます。

4.2 画像診断

放射線科や外科を中心に医療画像診断のAI活用は今後も加速します。AIによる高度な画像認識技術を用いてCTスキャン、MRI、X線などの画像を分析し、異常部分の検知率が飛躍的に向上するでしょう。診断の精度が向上し、診断時間も大幅な短縮が期待されます。

4.3 診察支援(診断・治療支援)

AIはテキストまたは音声などを通じて、診察の際に医師を全面的にサポートします。AIは過去の電子カルテの情報と診察時の患者の症状から考えられる診断を分析し、最適な治療法を提案します。医師はAIによる精確かつスピーディーな診察支援機能を通じて、より確信を持った診断と治療を進めることができます。

4.4 医療現場の効率化

医療現場の管理と効率化もAIがもたらす大きなメリットです。例えば、予約管理、患者への情報提供をはじめ、煩雑で時間を必要とする[診察・検査・治療・処方・会計]といった一連のプロセスのスリム化などに貢献します。AIは各分野の効率化を推し進め、医師や医療スタッフの業務負担を軽減し、患者へのケアにより時間を充てられるようになります。

4.5 ゲノム医療

現在も、がんゲノム医療では、がんの組織を用いて遺伝子検査をし、患者の体質や病状に合わせた治療が行われています。AI技術の進歩によって、がん以外の多様な疾病にも遺伝子の変化を把握したデータを活用するゲノム医療が広く普及すると言われています。

4.6 新薬開発

AIは新薬開発も強力にバックアップします。膨大な化学物質データを解析し、創薬に必要な新たな成分のピックアップが可能です。また、AIは発売中の医薬品の新たな薬効を発見するためにも活用されます。一般に、10年が目安といわれる新薬の開発プロセスが加速すれば、医師はより多くの選択肢の中から最適な治療薬を患者に使用できます。

このように、医療AIは医師の診療スタイルや業務内容に大きな影響をもたらすと考えられます。では、医師の診療は、具体的にどのような変化とその対応が必要なのでしょうか。次の章で解説します。

5.医師がAIをメインツールとして活用する時代へ

AIが医療現場でより一層重要な役割を担うようになると、医師はAI技術に対応する新たな知識とスキルを身につける必要があります。

以下に、これからの医師が意識しておきたいポイントを4つ紹介します。

  • ポイント1 診断部分の大半はAIに
  • ポイント2 術後管理の質向上
  • ポイント3 手術支援
  • ポイント4 医師が関与しづらい領域のAI活用

では、ひとつずつ見ていきましょう。

ポイント1 診断部分の大半はAIに

医師はAIが提供する解析結果を十分に把握し、最適な治療法を選択するため精確に解釈するスキルが求められます。画像診断や検査データの読解といったこれまでの診療で必要だった範囲を超えて、AIのアルゴリズムがどのように動作するのか、そしてデータ解析された結果が何を意味するのかを理解することも含まれることがポイントです。

また、医師はAIによるデータ結果を患者に適切に伝えるためのコミュニケーションスキルも必要となります。これまで医師としての経験値に頼っていたり、言語化しないまま患者に説明する部分があった場合でも、客観的なAIデータを提示して患者にわかりやすく説明しなければならないシーンが増えるでしょう。

診察や検査を通じて医師が行っていた診断プロセスはAIが代行するケースが一挙に増加する一方で、患者とどう向き合うかといった医師の手腕がますます課題となります。

ポイント2 術後管理の質向上

AIは手術患者の回復状態を24時間体制でモニタリングし、周術期に予測される多様なリスクを早期に検出することが可能です。医師はAIが自動的に提供する症状診断情報を用いて、患者の術後管理の質の向上と、業務負担の軽減を同時に実現できます。ただし、医師にはAIの解析結果を適切に判断・利用し、患者の診療方針を具体的に調整するスキルが求められます。

ポイント3 手術支援

AIは手術のプランニングとシミュレーションに大いに役立ちます。医師は、AIの活用を通して、手術の結果予測や個別の患者に合わせた治療戦略の策定に取り入れることができます。例えば、新たな術式や新規の手術支援システムを採用する場合や、失血予測、手術後の合併症リスクなどにAIは大いに貢献するでしょう。

そのため、医師側もAIの提供する情報を適切に判断し、実際の手術計画や周術期管理に反映させる能力が求められます。

ポイント4 医師が関与しづらい領域のAI活用

AIは患者の生活習慣をモニタリングし、病気のリスクを予測することができます。そのため、これまでの医師の手が届きづらかった予防医学、生活習慣管理といった領域にAIが入り込むでしょう。

医師は予防医学関連の検査データや在宅でのモニタリングの解析結果を活用して、患者の健康維持と病気予防に役立つアドバイスを提供することができます。

このように、医師はAIを活用することで、より効率的かつ精確な医療を提供することが可能となります。しかし、医師自身がAIの役割や機能を十分に理解し、最大限に活用するためには、新たな知見づくりが必要です。AI活用に対するスキル習得は医学部教育や臨床研修制度でも大きな課題となっており、医学生や研修医はもちろん現役の医師に対する医療AI研修の重要性が高まっています。

6.医師はAIと積極的な共存を

医療現場でのAI導入は避けられない時代を迎えました。これからの医師は、加速度的に進化する医療AIの特性を把握し、積極的に活用する姿勢が求められます。

ただ、医師でなければ難しい重要な業務は残るため、共存していくことが大切です。

6.1 AIと医療の倫理の関係性

AIは機械学習から飛躍的に進化した結果、高度なデータ分析能力と圧倒的な精度を誇りますが、AIの提供するデータに基づきどのように活用し、診療を判断するかといった最終的な医療の責任は医師にあります。医療の最終責任をAIに負わせることはできません。そのため、AIのアドバイスや分析結果はあくまで参考材料の一つであり、今後も診断および治療法の決定は医師が患者との対話を通じて行うことに変わりはないでしょう。

そのため、患者の生命を預かるという責任は医師に帰結します。AIは患者の生命を直接預かることはできません。AIの役割とは、医師の支援を通して診療の精度を向上し、業務負担を軽減することです。患者の生命と健康維持のための医療を提供すること、患者のプライバシーを保護することなど、倫理的な責任からも引き続き医師がすべての責任を引き受けることが前提といえます。

6.2 AI時代の医師とキャリア形成

本格的なAI時代が到来した後も、医師でないと必ず対応できない範囲が残ります。医療AIの普及により、診断や治療のプロセスの一部が自動化される未来はほぼ確実ですが、患者とのコミュニケーションや心理的ケア、最終的な診断や治療の決定など、医師にしかできない業務はより一層経験やスキルが求められることとなります。

また、診察科目の中でも薬物療法に加えて精神療法や行動療法を主体とする精神科や、不妊治療・生殖医療や周産期治療などが必要な産婦人科などはAIが活用しづらいため、医師の役割はますます重要になると予測されます。

一方で、高度なデータ解析能力により健診の医師ニーズの低下は加速するでしょう。また、

AI普及により医療の質の向上と医師の役割の根本的な変化が起こるとも言われています。都会と地域、病院の規模などに物理的な制約がなくなるため、未来はフラットの医療業界へとなっているのかもしれません。

7.まとめ

AIの進化と普及は、医師の役割とニーズに新たな可能性をもたらすことは確実です。ただし、AIを医療現場がどれだけ導入・活用しても、医師のニーズそのものはなくならないでしょう。むしろ、医師の労働環境の改善や、最終的な診断や治療といった医師でなければならない役割が一層重要になると考えられます。

例えば、AIは電子カルテ管理など日常業務を自動化し、医師がより専門的な業務に集中することをバックアップするため、医師の仕事の質が向上し、患者への治療成果もアップする未来も間近に迫っています。

さらに、全国どこでも最先端医療を提供できる可能性が広がる点もAI活用の魅力です。こうしたAIによるメリットが常識となれば、医師のキャリア形成やセカンドキャリアにおいて、勤務先や地域差による制約が希薄化するため大きな変化をもたらすでしょう。AIの活用を通して、医師は自身の専門知識とスキルをさらに磨き、これまでの枠を超えて活躍することが期待されています。

AIによる医療現場の大きな変化により、AI時代は医師にとって魅力的な未来が訪れる可能性が高いと言えます。来るべき時代に生き残るためにも、医師はAIを前提として自身の役割とキャリアを再考し、積極的に活躍の場を選んで行く必要があるでしょう。