医師不足の現状と今後の予想は?医師が足りなくなる原因と解消法

医師不足

少子高齢化や社会保障の変化、医師1人の負担増加などの影響で医師不足に悩む病院・クリニックが多くみられます。医師不足の原因を解消しない場合、ますます厳しい状況に追い込まれるでしょう。医師個人としては医師不足の現状や今後の予測をもとに、より充実した人生の実現に向けて行動したいところではないでしょうか。

そこで今回は、医師不足の現状と今後の予測をテーマに、医師不足の原因から解消法まで詳しく紹介します。

1.医師不足の現状

日本医師会総合政策研究機構の資料「医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-」によると、人口1,000人あたりの医師数は、世界38ヵ国が加盟するOECD(経済協力開発機構)の平均が3.5人であるのに対し、日本は2.4人です。

平均を下回っていることから、日本は諸外国と比べて医師が少ないと言えるでしょう。

2.医師不足は今後どうなるのか?

同資料によると、厚生労働省は2033年頃には医師の需要が約36万人になると推計しています。これを日本人口に当てはめると、1,000人あたりの医師数は3.1人です。

これは、医師数が増加したというよりは、日本人口が減少したためと考えられます。いずれにしても諸外国の平均値に近づくため状況は好転しているとも捉えられますが、日本では1人あたりの受診回数が多い点を考慮しなければなりません。

受診回数が多くなればなるほどに医師1人あたりの負担が増加するため、退職や転職が増加し、地域における医師不足が加速する可能性もあります。

3.医師不足の状況は地域で異なる

医師不足
医師不足の状況は地域で異なる点に注意が必要です。東京のような都心部では多くの医師がいるため、医師不足を実感しない方が多いでしょう。一部の地域では後期高齢者が増加する一方で、医師をはじめとした医療従事者の数がつり合わなくなっています。

また、訪問医療の必要性の高まりにより医師の負担が増加し、結果的に医師不足が生じるケースも少なくありません。訪問医療の重要性は医療従事者自身も理解しているものの、業務負担が大きい状況ではなかなか体制構築が難しいのが現実です。

4.今後確保すべき医師数

今後確保すべき医師数は、ある時点での医師数と将来の必要医師数の差から導き出すことができます。厚生労働省の資料「診療科ごとの将来必要な医師数の見通し(たたき台)について」では、2016年時点の医師数と2036年の必要医師数との差が紹介されています。

2016年時点において、2036年までに確保すべき医師数は以下のとおりです。

  • 内科……14,189人(2016年医師数112,978人 / 2036年必要医師数127,167人)
  • 外科……4,363人(2016年医師数29,085人 / 2036年必要医師数33,448人)
  • 脳神経外科……2,523人(2016年医師数7,713人 / 2036年必要医師数10,235人)
  • 整形外科……1,993人(2016年医師数22,029人 / 2036年必要医師数24,022人)
  • 泌尿器科……1,003人(2016年医師数7,426人 / 2036年必要医師数8,429人)
  • 救急科……508人(2016年医師数3,656人 / 2036年必要医師数4,164人)
  • 病理診断科……210人(2016年医師数1,887人 / 2036年必要医師数2,097人)
  • 麻酔科……204人(2016年医師数9,496人 / 2036年必要医師数9,701人)
  • 病床検査……52人(2016年医師数567人 / 2036年必要医師数619人)
  • リハビリテーション科……39人(2016年医師数2,399人 / 2036年必要医師数2,439人)

このように、10領域において必要な医師数が増加しています。一方、次の8領域では必要な医師数が減少しています。

  • 精神科……1,688人(2016年医師数15,691 人 / 2036年必要医師数14,003人)
  • 皮膚科……1,414人(2016年医師数8,685人 / 2036年必要医師数7,270人)
  • 耳鼻咽喉科……1,229人(2016年医師数9,175 人 / 2036年必要医師数7,946人)
  • 眼科……895人(2016年医師数12,724人 / 2036年必要医師数 11,830人)
  • 産婦人科……467人(2016年医師数12,632人 / 2036年必要医師数12,165人)
  • 小児科……213人(2016年医師数16,587人 / 2036年必要医師数16,374人)
  • 形成外科……18人(2016年医師数22,029 人 / 2036年必要医師数24,022人)
  • 放射線科……13人(2016年医師数6,931人 / 2036年必要医師数6,918人)

これは、医師に人気かどうかだけではなく、医師1人あたりの負担の大きさも関係しています。医師の負担が大きい診療科はそれだけ多くの医師の確保が必要です。

5.医師不足の原因

医師不足は1つの原因で起きているわけではありません。医学部の卒業生が少ない、新制度の影響で一時的に医師の数が減少しているなど、さまざまな要因が重なった結果、医師が不足しています。医師不足の原因について詳しくみていきましょう。

5-1.医学部の入学定員の抑制

厚生労働省の資料「医師偏在対策について」によると、医師が将来的に人員過多にならないように平成19年の医学部の入学定員が7,625人に抑制されました。その後、平成28年には9,262人に増加していますが、過去の定員抑制が現在の医師不足に影響を与えている可能性があります。

5-2.新制度の導入

医師関連の新制度の導入も現在の医師不足に関連しています。2004年に開始した新臨床研修制度により、大学病院で後期研修および初期研修する医師が減少し、地方の大学病院を中心とした医師不足が起こりました。それを受け、医学部の入学定員が増加したものの、今なおその煽りを受けています。

今後も何らかの制度導入をきっかけに医師が不足することもあるかもしれません。

5-3.業務内容の変化に伴う医師の負担増加

近年、医師に対する患者のニーズが多様化するとともに、医師の業務負担が増加しています。患者との綿密なコミュニケーションが求められる近年では、1日の診療数がどうしても多くなります。また、訪問診療をはじめとした関連業務への対応も求められることで、さらに医師の業務負担が増加しているのです。

患者のニーズに対応しなければ病院・クリニックの患者が減少し、経営に影響が及ぶ可能性があります。そのため、医療機関の経営者は現場の医師に患者のニーズに応えることを求めます。

5-4.IT化の失敗による業務効率の低下

医療業界のIT化が急速に進む昨今では、業務効率が上がるどころか下がるケースが多々みられます。デジタル機器は確かに便利ではありますが、アナログに慣れていた医師がすぐに使いこなせることは通常ありません。

デジタル機器の利用マニュアルの読み込み、実践によるトライアンドエラーなどに時間がかかり、IT化が遅れてしまっているのが現状です。患者のニーズの多様化によって業務負担が増加している中でIT化への対応を求められると、どれも対応が中途半端になる恐れもあります。

医師1人あたりの業務負担が増加することで1日に行える診療数が減少すると、他の医師の負担が増加するという悪循環に陥るでしょう。

5-5.軽症でも受診する人が多い

日本人は軽症でも病院・クリニックを受診する傾向があります。もちろん、軽症の段階で早く受診すべきケースもあるため一概には言えません。しかし、単なる軽い風邪症状の場合は、受診する必要性は低いとされています。

受診する必要性が低いのに受診する人が多いことで医師の負担が増加し、結果的に医師不足になっている側面があります。

5-6.労働環境が悪い

厚生労働省の資料「時間外労働規制のあり方について③」によると、病院勤務医の週あたりの勤務時間の割合は以下のとおりです。

 

  • 週50~60時間……23.6%
  • 週40~50時間……20.7%
  • 週60~70時間……18.4%
  • 週40時間未満……15.1%
  • 週70~80時間……11.6%
  • 週80~90時間……6.0%
  • 週90~100時間……2.7%
  • 週100時間以上……1.8%

1日8時間労働・週休2日の場合、週の労働時間は40時間です。週60~70時間の場合、時間外労働は1日平均4~6時間、週80時間では1日平均8時間にものぼります。

ワークライフバランスを重視する医師が転職してしまい、病院・クリニックが医師不足に陥ることがあります。

5-7.女性医師が活躍できる環境の整備ができていない

女性医師は男性医師と比べて結婚や出産、育児などのイベントの影響で長期間働くことが難しい状況にあります。女性医師の数は増加傾向にあるものの、院内保育をはじめとした女性が働きやすい職場環境が整えられていないのが現状です。

日本医師会の資料「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」によると、育児休業を取得しなかった理由で最も多いのが「代わりの医師がいない」、次いで「職場で取得しづらい雰囲気がある」でした。また、育児休業の制度そのものがないとの回答が300名近くから寄せられていることから、制度に対する理解・周知が不足していると考えられます。

6.医師不足を解消する方法

医師不足
医師不足を解消するために、病院・クリニックの経営者は次のように対応することが求められます。

6-1.オンライン診療のような遠隔医療の活用

オンライン診療の法律整備が進み、さまざまな疾病の診療をオンラインで行えるようになりました。オンライン診療には、患者の通院の負担を軽減するだけではなく、オンライン問診の結果を踏まえてスムーズに診察できるという医師側のメリットもあります。

また、レントゲン写真を遠隔で見て診断することも可能です。このような遠隔医療を活用することで、医師の負担を軽減できます。

6-2.医師の採用数を増やして1人あたりの負担を減らす

医師の負担が著しく大きい場合、早々に退職される恐れがあります。医師は売り手市場のため、労働環境が悪ければ無理に留まる必要がありません。即効性が高い解決策は、医師の採用数を増やして1人あたりの負担を減らすことです。

採用には多額のコストがかかりますが、利益と医師の数が比例すれば何人雇用しても赤字にはなりません。

6-3.キャリア形成プログラムの活用

キャリア形成プログラムとは、医師が不足している地域における医師の確保を目的に策定された制度です。若手医師が医師不足の地域の病院・クリニックに勤務し、基本スキルから専門スキルまで幅広いスキルの習得を目指します。また、高度医療から地域医療まで対応できる医師を目指すことができます。

キャリア形成プログラムの実施状況・内容は都道府県で異なります。

参考:厚生労働省「キャリア形成プログラムについて

7.医師不足の状況はキャリアアップのチャンスでもある

医師不足によって1人あたりの業務負担が増加すれば、ワークライフバランスが崩れてしまい、自身が望む人生を送ることができなくなる可能性があります。そのため、医師不足の状況は、医師にとって好ましいことではありません。

しかしながら、医師不足は医師の需要が高いことを意味するため、キャリアアップのチャンスとも言えます。次のような方法で医師不足の方法をうまく利用することをおすすめします。

7-1.医師が不足している地域の医療機関に転職する

病院・クリニック・地域によって、医師が不足しているかどうかが異なります。現在の勤務先の医師が足りているのであれば、医師が不足している医療機関に転職するとよいでしょう。医師が不足している医療機関は、そうではない医療機関と比べて給与を高く設定している傾向があります。

ただし、医師不足の医療機関に転職すると、現在の勤務先よりも業務負担が増加する可能性があるため、待遇だけで判断しないことが大切です。また、多くの経験を積めることで将来のキャリアアップにつながる可能性もありますが、人手不足の状況下では転職したいときに転職できません。

このようなリスクがあることも踏まえ、医師が不足している医療機関への転職を検討することをおすすめします。

7-2.需要が高いスキルを習得する

医師の市場価値は、スキルの影響を受けます。医師は人の生死に深く関わるため、スキル以上のことを求められる心配はありません。反対に、スキルがある医師はどんどん業務を任せてもらうことができます。業務負担が増加するものの、それだけ好待遇を得られるため、キャリアアップや高収入を目指すのであればスキルを積極的に高めることが大切です。

7-3.スキルアップの機会としてアルバイトをする

新たな知識・スキルを習得したものの、経験を積む機会が常勤の病院・クリニックで少ない場合は、常勤と掛け持ちでアルバイトをする方法もあります。アルバイトでは、特定のスキルを持つ医師を募集していることも多いため、一度チェックしてみることをおすすめします。

常勤の医師の場合は福利厚生費や社会保険料などのコストがかさみますが、アルバイトであればそれらを節約したうえで必要なときに人手を確保できるため、病院・クリニックの経営者としては積極的に導入したい雇用形態でしょう。

また、アルバイトと言えば常勤よりも待遇が悪いイメージがあるかもしれませんが、実際には常勤と変わらないかそれ以上の待遇で迎え入れています。例えば、時給10,000円の医師バイトを1日8時間、週2日で行う場合、1ヶ月で約65万円もの収入を得られます。

アルバイトだからといって、常勤よりも求められる医療の質が低いわけではありません。優れたスキルを持つ医師は、それだけ好待遇でアルバイトできます。

8.まとめ

医師不足の状況は今後も続くことが予想されています。中でも地方の医療機関は医師が不足している傾向にあるため、好待遇を求めるのであればそれらの医療機関に転職することも検討してはいかがでしょうか。

医師不足の状況は国民にとって好ましくなく、医師にとっても業務負担が増加することでワークライフバランスが崩れる恐れがあります。その一方でキャリアアップのチャンスでもあるため、転職や新たなスキルの習得などを目指してみるのもよいでしょう。