コロナ禍に不要不急の外出の抑制が推奨されたことをきっかけに、医師と患者が直接対面せずとも診察や相談が可能な遠隔医療・オンライン診療に注目が集まり、認知度も高まりました。
医師といえば病院で直接患者と接する仕事が一般的なイメージであるなか、通信機器を使った診察に注目が集まったことは、今後の医師の働き方にも大きく影響するでしょう。
この記事では、キャリアアップや年収アップを目指す医師の方に向けて、オンライン診療や遠隔医療といった言葉の定義から、始めるメリット、始め方に至るまで詳しく解説しています。
目次
1.オンライン診療・遠隔医療
まずは、言葉の定義について説明します。キーワードは「遠隔医療」「オンライン診療」「オンライン受診勧奨」「遠隔健康医療相談」の4つです。
1-1.遠隔医療:情報通信機器を使用した健康増進や医療に関する行為全般
対面ではなくオンラインで行うものはすべて遠隔医療に分類されます。後述するオンライン診療・オンライン受診勧奨・遠隔健康医療相談も遠隔医療の一種です。
オンライン診療・オンライン受診勧奨・遠隔健康医療相談はすべて患者に対して行うものですが、遠隔医療には医療従事者同士で行われるものも含まれます。医師と医師の間でオンラインで診察上の相談をしたり、病理画像や放射線画像のデータを送って診断の依頼をしたりするような行為、オンラインで健康増進や医療に関する会議や講義を行うものも遠隔医療となります。
1-2.オンライン診療:医師と患者がビデオ通話で普段通りの診察
オンライン診療は、医師と患者の間で行うものです。ここでの診療行為には、診察や診断、診断結果の伝達や処方といったものが含まれます。
基本的には病院で医師と患者が直接対面して個別に医学的判断を伴う診療行為をオンラインで行うのがオンライン診療です。直接対面との違いは、ビデオ通話でリアルタイムに行う点です。
医師と患者の間でなく、医師同士で患者の診療上の相談をオンラインで行うことや、医師と患者の間でもビデオ通話を用いず、オンラインでリアルタイムに行われていないものはオンライン診療には含まれません。
また、例外はあるものの、初診をオンライン診療することは不可となっています。
1-3.オンライン受診勧奨:医師と患者がビデオ通話で最低限の医学的判断
オンライン診療と混同しやすいものがオンライン受診勧奨です。オンライン受診勧奨は、医師と患者の間でビデオ通話を用いてリアルタイムに行われる点では、オンライン診療と同じです。
しかし、オンライン受診勧奨の場合は、疑われる疾患名の列挙、受診すべき適切な診療科の選択といった、個別の患者に応じた必要最低限の医学的判断を行うことに留める点で、オンライン診療とは異なります。オンライン受診勧奨では処方箋なしで購入できる一般用医薬品を用いた経過観察や、非受診をすすめることも可能です。
しかし、具体的な疾患名や、その疾患の治療方針を伝達すること、一般用医薬品の具体的な使用の指示や処方などを行うことなどはオンライン診療に分類されるため、オンライン受診勧奨では禁止されています。
1-4.遠隔健康医療相談: 患者に対して具体的判断を伴わない一般的な助言を行う
遠隔医療のうち、患者に対して具体的な判断を伴わない、一般的な医学情報の提供を行うものを遠隔健康医療相談といいます。
遠隔医療健康相談は、オンラインで行うという特徴はあるものの、必ずしもビデオ通話や、リアルタイムで行うものだけをいうわけではありません。たとえばメールや電話などで相談を受けるものは、遠隔医療健康相談の一種となります。
遠隔医療相談は、医師が患者に行うものだけでなく、看護師や薬剤師といった医師以外のものが患者の相談にのるものも含まれます。
いずれにせよ、診察ではないため、医師が行う場合であっても診断のような医学的判断を伴う行為が含まれないようにし、一般的な情報提供に留める必要があります。
なお、社会通念上明らかに医療機関を受診するほどではない症状の人に対して、経過観察や非受診の指示を行うことは、遠隔健康医療相談として実施できます。
2.オンライン診療の現在と今後
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに世間一般での認知が広まり、その需要は高まっています。
データとして、オンライン診療可能な医療機関も増えています。総務省が発表したデータによると、2020年4月10日に要件緩和が行われて以降、電話やオンラインでの診療を実施できると登録した医療機関数は緩やかではありますが増加し続けています。2020年4月時点では10,812件だったものが5月には15.226件にまで増加し、2021年4月末には16.843件となっています。
オンライン診療に対する需要は、感染拡大が収束に向かっている現在でも変わりません。
なぜなら、オンライン診療は、患者にとっても自宅にいながら診察が受けられるという大きなメリットがあるからです。
2008年度以降の医学部定員数の拡大により、医師の数は増えています。厚生労働省が発表した「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によれば、2008年時点での医師数は286 ,699人、2020年には339 ,623人にまで増加しています。人口10万人あたりの医師数は224.5人から269.2人にまで増加しています。2025年頃には人口10万人あたりの医師数は290人に達する見込みです。
しかし、医師の地域偏在や診療科偏在は解消されておらず、地域・診療科によっては医師不足の状況が続いています。
都道府県別にみると、人口10万人あたりの医師数は徳島県が338.4人と最も多く、続いて京都府が332.6人、高知県が322.0人となっています。一方で埼玉県が177.8人と最も少なく、続いて、茨城県が193.8人、新潟県が204.3人です。医師の数そのものが増えても、地域別にみると大きな隔たりがあることが分かります。
慢性的な医師不足の状況を改善するためにも、オンライン診療の需要は今後ますます高まると考えられます。
出典:「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」【厚生労働省】
出典:「医師・歯科医師・薬剤師統計の結果の概要(医師)」【厚生労働省】
3.オンライン診療を始めるメリット
医師にとって、オンライン診療を始めることは、経済的にもキャリアとしてもメリットがあります。
現在勤めている病院がオンライン診療を行っている、もしくは始めようとしている際に、自身がスムーズに対応できれば、キャリアアップやキャリアを広げることにつながるでしょう。
また、本業とは別にアルバイトや非常勤としてオンライン診療を始めれば、収入アップにつなげられます。
オンライン診療が可能な医師を募集する求人の例としては、自宅で行うオンライン診療、クリニックに出勤して行うオンライン診療の2パターンがあります。
医師向けの求人サイトに実際にあった、求人例を簡単に2つ紹介します。
求人例① | 求人例② | |
診療科 | 産婦人科・婦人科 | 美容皮膚科 |
勤務方法 | 完全在宅 | クリニックに出勤 |
勤務 | 週2日〜 | 月12時間~ |
業務内容 | ピル、美容内服 処方 | 診療、処方(対応手技なし) |
対応数 | 対応数:最大7名 / 30分 | 対応数:5名/1時間 |
時給 | 7,500円 | 10,000円 |
求人①・②ともにオンライン診療のアルバイトです。①は完全在宅であるため時間調整がしやすいでしょう。②はクリニックに出勤する必要があるものの、クリニック内で対面診療するのではなく、オンラインで診療を行うタイプです。
オンライン診療といっても自宅勤務ではなく、クリニックに出勤が必要なタイプがあるので、求人情報をチェックする際は注意してください。
オンライン診療のアルバイトや非常勤は、時間的拘束が短いものが多いため、本業の傍ら、休日に行うことは十分に可能でしょう。収入を増やすことを目指すなら、オンライン診療のアルバイトはとても有効です。
4.オンライン診療の始めかた
オンライン診療を始めるには受講必須の研修があります。厚生労働省が発表している「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を受けてこの研修は開設されています。指針にはオンライン診療の定義などについても記載されており、いわば「オンライン診療の教科書」のような存在となっています。
また、各項目には「考え方」というものがあり、なぜそのようにするべきかが記載されているので、ルールブックとして活用できるだけでなくオンライン診療にあたっての理念も深く理解できるようになります。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を読むことで、研修への理解度も高まるでしょう。
研修受講後にオンライン診療を始めようとした際には、オンライン医療に特化したシステムやビデオ通話システムなどを利用することになります。オンライン医療時には、対面医療よりもセキュリティ面での安全性に配慮する必要があります。指針には求められる通信環境についても細かく記載がありますので、目を通しておくようにしてください。
オンライン診療の研修はすべてe-learning形式で行われ、受講には申し込みが必要です。申し込み時に「医師等資格確認検索システム」に登録されてある必要があります。受講費用はかかりません。研修は5科目あり、それぞれ10題の演習問題があります。研修は申し込み後はインターネット上でいつでも受けられます。
研修はオンライン診療についての制度や遵守すべき事項などに加え、実際のオンライン診療事例やセキュリティ面に至るまで幅広い内容となっています。
詳しい研修の内容は以下の表の通りです。
科目名 | 担当講師 | 講義時間 | テキストページ数 |
オンライン診療の基本的理解とオンライン診療に関する諸制度 | 日本医師会常任理事 長島公之 | 34:55 | 56 |
オンライン診療の提供に当たって遵守すべき事項 | 日本医師会常任理事 長島公之 | 38:49 | 82 |
オンライン診療の提供体制 | 医療情報システム開発センター 理事長 山本隆一 | 15:33 | 17 |
オンライン診療とセキュリティ | 医療情報システム開発センター 理事長 山本隆一 | 34:34 | 31 |
実臨床におけるオンライン診療の事例 | 医療法人社団嗣業の会外房こどもクリニック理事長 黒木春郎 | 26:32 | 3 |
また、オンライン診療研修のページでは、緊急避妊薬の処方に対する研修も公開されています。2019年7月の改定より、例外的に初診からのオンライン診療による緊急避妊薬の処方が可能になっています。
産婦人科以外の医師が緊急避妊薬の処方を行うためにはこの研修の受講が必須となっていますので、オンライン診療を行う医師向けの研修と併せて受講することをおすすめします。
緊急避妊薬の処方に関する研修は2科目で、詳しい内容は以下の表の通りです。
科目名 | 担当講師 | 講義時間 | テキストページ数 |
経口避妊薬(OC)について理解すべき事項-各種避妊法とOC全般 | 日本産婦人科医会常務理事 | 45:27 | 68 |
安達知子 | |||
緊急避妊(Emergency Contraception:EC) | 日本産婦人科医会常務理事 | 39:18 | 58 |
安達知子 |
オンライン診療を始めるにあたって「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は必ず読むべきものです。「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、この記事で説明してきた用語の定義に加え、オンライン診療の安全性を担保しつつ、診療として有効な問診・診断が行われるための「最低限遵守する事項」や「推奨される事項」がまとめられています。
出典:オンライン診療の適切な実施に関する指針【厚生労働省】
出典:オンライン診療研修【厚生労働省】
5.まとめ
オンライン診療や遠隔医療の概要、始め方について解説してきました。医師数やオンライン診療に対応している医療機関は増加しているものの、地域によっては人口に対する医師数には大きな差があるのが現状です。そのような状況の中で、オンライン診療に対応できる人材になることは、キャリアを広げる上で確実に価値があるはずです。
オンライン診療を始めるにあたっては、厚生労働省が発表している「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、詳しい内容を理解することが第一です。受講必須の研修も申し込み後はオンラインでいつでも受講できますし、すべてを受講しても2時間30分ほどで完了します。休日にまとめてみるのもよいかもしれません。
医師としてのキャリアプランを考えている方に、この記事が参考になれば幸いです。