治療アプリの将来性は?その効果と関わり方のポイントを紹介

Therapeutic Apps

現代医療の新たな展開として、治療用アプリの開発・導入が急速に進展しています。

治療用アプリが普及すると、患者の日常データ等の非診療時の今まで見えなかった体調の変化を把握することができ、その情報に基づき様々な提案やフォローを行うことが可能になります。さて、新たな治療方法の一つとして期待されている治療アプリですが、どのように医師の仕事は影響を受けるのでしょうか。

そこでこの記事では、治療用アプリの基本概念から市場規模、活用事例、医師がこの新領域で貢献するポイントについて紹介します。

1. 治療用アプリとは

近年、テクノロジーの進化によって、医療現場でも電子カルテやWeb問診などのデジタルツールに多くの変化が見られるようになりました。特に「治療用アプリ」は、医師や患者にメリットが大きく、特に注目されている新たなアイテムです。

以下で、治療用アプリとは一体何か、その特徴や市場規模、主な種類について紹介します。

1.1 アプリの特徴と機能

治療用アプリとは、スマートフォンやタブレットなどのデバイスを活用し、医療関係者や患者が治療に役立てるためのソフトウェアです。

主な機能としては、リモート診療、診断支援、病歴管理などがあります。治療用アプリを活用すると、医師は時間や場所に縛られることなく、より効率的かつ柔軟に診療を行えるようになり、患者とのコミュニケーションも向上します。

また、治療用アプリ内には、今まで情報を得ることが難しかった患者の日常生活のデータが蓄積されます。

その結果、治療用アプリを介して自宅での症状に合わせた指示を行うことができたり、症状の変化に応じた診察ができたりと様々な面で活躍します。

他にも、受けたリハビリやトレーニングの記録なども患者に共有されるため、データが可視化されることで患者自身の治療継続に対するモチベーション維持につながり、受診向上の期待ができます。

1.2 市場規模と将来性

近年、治療用アプリの市場は拡大傾向にあります。

調査会社の富士経済によると、治療用アプリの市場規模は2022年時点の見込みでは、2億円(2021年比で約2倍の売上)でしたが、2035年には2,850億円まで大幅な拡大が予測されています。 

Market size of treatment apps

今後急激に伸びる理由として、特にAI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ=モノのインターネット)の進化の影響が考えられます。AIやIoTが進化するとデータ収集や分析能力が向上し、個人の健康状態を自動的に評価することが可能になったり、リモート診断が普及したりと医療機関での診察などの効率化が進みます。

これらの機能や効果が期待され、医療業界全体での治療アプリ導入が加速しており、市場ニーズは拡大傾向にあります。

参照:すでに活用始まっている「治療用アプリ」に取り組む5銘柄|会社四季報オンライン

1.3 主な治療用アプリの種類

ヘルスケア・医療領域で使われるアプリには、大きく分けて以下の3種類があります。

  • 疾患管理アプリ

「治療用アプリ」医療現場で活用し薬事承認を受けている

「症状記録アプリ」血圧や血糖値など医師の診断・治療の材料を提供する

  • 健康管理アプリ

「記録用アプリ」血圧をはじめバイタルサインや体重などを記録する

日本国内で治療用アプリを活用するためには、薬事承認と保険適用をクリアしなければなりません。既に厚生労働省の承認を受け、医療保険が適用されるケースが出てきています。

治療用アプリの基本は、特定疾患に対応するタイプで、禁煙治療やアルコール依存症、糖尿病や高血圧管理など、各疾患に特化したアプリ活用に注目が集まります。

2.治療用アプリの種類と活用事例

治療用アプリは国内外で急速に導入が進んでいます。

2.1 国内の活用事例

国内で薬事承認されている治療用アプリは以下の3種類です。

  • [2020年承認・保険適用]
    禁煙治療「CureApp SC:ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」
  • [2022年承認・保険適用]
    高血圧治療「CureApp HT」
  • [2023年承認]
    睡眠障害「サスメド:Med CBT-i 不眠障害用アプリ」

以上のような、治療用アプリは実際の医療現場に影響を及ぼし始めており、利用範囲も広がりつつあります。次に、治療用アプリが具体的にどのように活用されているのかについて見ていきましょう。

2.1.1 禁煙治療「CureApp SC:ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー[2020年承認・保険適用]

治療用アプリ

CureApp SC:ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー(株式会社CureApp)」は、国内で初めて医療機器として承認されたデジタル治療法です。医師がこのアプリを「処方」することで、ニコチン依存症の心理的依存に対し効果的な介入が可能となります。

このアプリは行動変容に焦点を当て、個々の患者に合わせた治療介入をスマートフォンを通じて行う点が大きなメリットです。アルゴリズムによるデータ解析と医療従事者への診療データの提供により、診療の効率と質が向上します。結果として、従来の医療機器や医薬品では対応困難だった「治療空白」を埋める新しい可能性が広がっています。

参照:CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー _ 株式会社CureApp

2.1.2 高血圧治療「CureApp HT」[2022年承認・保険適用]

「CureApp HT」は、最新の『高血圧治療ガイドライン2019』など医学的根拠に基づいて開発されており、その効果と安全性は臨床試験で確認されています。患者の家庭血圧や食塩摂取量のデータを医師がリアルタイムで確認でき、より精度の高い診療を支援します。

また、通院が困難な患者にも、食事や運動などの行動目標の実践や自宅での血圧測定をサポートできることがメリットです。患者一人ひとりに合わせた生活習慣の指導ができるため、診療時間が短くても患者の満足度を高める効果が期待できます。

参照:[公式]CureApp HT 高血圧治療補助アプリ|製品情報サイト

2.1.3 睡眠障害「サスメド:Med CBT-i 不眠障害用アプリ」[2023年承認]

サスメドが開発した「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」は、不眠障害の治療において認知行動療法(CBT-I)のサポートを行う治療用アプリです。

治療期間は9週間で、患者は毎日の睡眠状態や生活習慣をアプリに入力。医療従事者はデータオをリアルタイムで確認し、治療の方向性を臨機応変に決定できます。

アプリの内容は、

  • 睡眠衛生指導
  • 睡眠日誌
  • 睡眠時間制限療法

など、多角的なアプローチによる構成です。

なお、9週間の治療が終わると、アプリは自動的にデータの入力を停止し治療の終了を通知する仕組みです。

参照:サスメド 不眠障害治療用アプリの承認取得 保険適用と上市に向けて準備進める _ ニュース _ ミクスOnline

国内で治療用アプリの実用化が急速に進む中、厚生労働省もリモート診療や治療用アプリに対する新しいガイドラインや補助金制度を設け、普及促進に力を入れています。

参照:2020年から相次いで薬事承認・保険適用 診療と生活の場をつなぎ、行動変容や トレーニングを助ける治療用アプリ _ メディアスホールディングス株式会社

2.2 海外の活用事例

MyChart」は、アメリカの治療用アプリの代表例です。

アメリカでは「モバイル・パーソナル・ヘルス」と呼ばれており、患者版の電子カルテといったイメージで広く活用が広がっています。

具体的には、患者が自分自身の医療情報にアクセスできるアプリです。患者はスマートフォンやタブレットで診療結果や予約の確認、医師とのメッセージのやり取りを簡単に行えます。

アメリカやヨーロッパでは、このような患者中心のアプリが多く見られ、患者と医師との間のコミュニケーションを劇的に改善しています。

参照:個人の健康記録がひとつにまとまるアプリ、“MyChart” 【前編】 _ LSMIP

参照:「MyChart」 – Androidアプリ _ APPLION

以上のように、治療用アプリは実際の医療現場に影響を及ぼし始めており、利用範囲も広がりつつあります。

3.治療用アプリによる患者ケアへの効果

治療用アプリによって患者ケアへの効果はどのように変化するのでしょうか。

以下で、現在の課題と解決策を見ていきましょう。

3.1 患者ケアの課題と解決策

現在、医師は患者ケアの質に直結する診療時間の制限や医療リソースの不足に頭を悩ませています。具体的には、医師は患者の疾患や治療方法を探すために対面で症状を細かく聞かなければならず、診察に多くの時間を費やす必要があります。限られた時間の中で全てを把握することは難しく、患者に対する必要なフォローアップや継続的なケア、多角的な治療介入が難しくなっているのが現状です。

そこで治療用アプリを導入すると、患者ケアの課題解決につながります。例えば、禁煙治療で活用が広がっている「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」を診療に取り入れたとしましょう。医師がCureApp SC ニコチン依存症治療アプリを「処方」することで、患者に対して個別にカスタマイズされた治療介入ができます。例えば、医師はスマートフォンのアプリを通じてリアルタイムで患者の症状をモニタリングでき、早期に適切な治療計画を調整できるよう設計されています。

3.2 医師と患者間のコミュニケーション向上

治療用アプリがどう患者と医師のコミュニケーションを向上させるのでしょうか。蓄積されるデータの活用がその鍵を握っています。

具体的には、アプリを通して日々蓄積される患者のデータが医師にとって貴重な情報源になる点が大きなポイントです。これまでの診察では、患者が自分の症状を口頭で説明する場合が多かったため、主観的な解釈や記憶の曖昧さなどにより、必ずしも正確な情報が伝わらない場合が少なくありませんでした。

しかし、治療用アプリによって得られるデータは、睡眠状態や生活習慣などを含めて患者の日常生活をリアルタイムで包括的に把握できます。したがって、医師は患者一人ひとりの状態に適した診療が行いやすくなります。

例えば、蓄積されたデータから異常なパターンを早期に発見できれば、患者に具体的な問診を実施し、検査を含めて積極的な診療を促す機会につながります。そして、医師が患者に対してよりタイムリーかつ正確な医療情報を提供する判断材料にも活用できるでしょう。患者も自分自身の健康状態をより客観的に把握し、医師との対話がより円滑に行えるようになります。

こうしたさまざまなメリットを持つ治療用アプリを導入すれば、データの活用を通じて医師と患者のコミュニケーションを大幅に改善し、治療の質向上が期待できます。

4.治療用アプリ開発に医師が関わるポイント

治療用アプリは、開発過程で医師の役割が重要です。

以下で、具体的な理由を紹介します。

4.1 専門知識やスキルを医師監修に活用する

治療用アプリの開発と運用において、医師の監修は欠かせません。アプリがより安全かつ信頼性の高いものとなり、ユーザーに対して的確な情報とサポートを提供できるためです。

また、医師の専門的な見地からの評価は、アプリの設計や機能にも大きな影響を与えます。

具体的には、服薬管理アプリにおいて医師が監修を行う場合、診療経験に基づく効果的な機能を搭載できます。

たとえば、『最適な服薬タイミングの通知』や『複数薬の併用時の注意喚起』など、スマートフォンの一般的なカレンダーアプリやリマインダーアプリではカバーしきれないような機能も盛り込むことが可能です。

また、糖尿病の治療用アプリでは、医師の監修により、糖尿病の診断基準や治療ガイドラインに準拠した精確な診断とアドバイスを提供できます。患者は自分の病状に適した指導・助言を受けられるため、治療の効果が向上します。

具体的な事例として、「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」は国内の医療機関で臨床試験を実施し、日本で初めて医療機器として承認されました。公式サイトにはさまざまなエビデンスや論文が提示されており、医師が治療用アプリの開発に関わるメリットを伝えています。

このように、治療用アプリが提供するサービスの質を格段に高める点で、医師監修による専門知識とスキルの活用は非常に重要な役割を担っています。

4.2 医師のキャリアの新しい選択

治療用アプリの開発は、医師にとって新しいキャリアパスを選択できる可能性があります。

例えば、治療用アプリの監修やコンサルティングを副業として行うことで、医師は自分の専門知識を病院外の広い範囲で活用することが可能です。医師も治療用アプリに関わることで得た、治療用アプリの良さや実用性を見出し、患者の治療に役立てることもできます。

また、遠隔診療アプリでは、健康状態の確認から診療までのすべてを病院外で行うことができるため、医師の新しい働き方の一つでもあります。遠隔診療アプリの開発に関わることで、診療をする医師を選択肢の一つとして考えることもできますが、その経験を活かすことで起業につながる可能性もあります。

このように、治療用アプリは医療現場での活用だけでなく開発フェーズから医師が参加することで、医師キャリアの新しいチャンスにつながる流れが広がっています。

参照:エビデンス・論文 _ CureApp SC _ 株式会社CureApp

5.まとめ

治療用アプリの発展にともなって医師の新たな活躍の場が広がっています。医療現場で診断と治療を行うだけでなく、医師として治療用アプリ開発の監修やコンサルタントとしての副業、さらには起業といった多様なキャリアパスへの可能性が高まっています。

治療用アプリが医師と患者、そして医療システム全体にさまざまな可能性をもたらしている今、医師自身のキャリアを考える新たな選択肢とする価値は十分にあるでしょう。治療用アプリの開発過程に関わることで診療の質を高めるだけでなく、自身のスキルセットも充実し、多様なキャリアを追求するチャンスが生まれます。

以上のように、治療用アプリは医師にとって新たな活躍の舞台となり得る重要なデジタルツールのひとつです。各アプリの機能や適用範囲、市場規模の拡大動向をチェックしながら医師自身も活用方法に注目し、キャリア形成の一環としての検討をおすすめします。