地域医療構想による医師への影響とは?構想の概要や必要な理由も解説

地域医療構想 医師

「地域医療構想は勤務医にどのような影響を与えるのだろうか?」

「地域医療構想の実現にかかるコストを削減する方法はないのだろうか?」

このように考えたことはありませんか?

地域医療構想は、将来の医療需要や必要な病床数を想定し、安定的に高品質な医療サービスを提供できるように体制を整える取り組みのことです。体制構築にあたり、医療機関は設備の購入や組織の統廃合などの対応が求められます。

また、勤務医の方は体制変更に伴い医療機関の移籍が必要になる可能性があります。地域医療構想は定期的に策定されるため、医師への影響について確認しておくことが大切です。

本記事では、地域医療構想の概要を解説するとともに、医師が受ける影響について詳しくご紹介します。

1.地域医療構想とは

地域医療構想は、2025年における医療需要と必要な病床数を「高度急性期」、「急性期」、「回復期」、「慢性期」の4つの医療機能ごとに推計し、地域の医療関係者との協議のもとで病床の機能分化と連携を進め、効率的に医療を提供できる体制を実現する取り組みです。

今後起こることが想定されている人口減少や少子高齢化によって、医療ニーズの質や量は変化するといわれています。効率的に医療を提供できる体制を構築するには、予測に応じた病床の機能分化と連携が必要です。

地域医療構想は、厚生労働省が2015年3月に策定した「地域医療構想策定ガイドライン」に従い、2016年度中に全ての都道府県で策定されました。

2023年現在は、地域医療構想に基づいた取り組みを着実に進めるべく、医療機関や都道府県などの関係機関が担う責務の明確化や、計画・実行・評価・改善のPDCAサイクルを繰り返すことによる取り組みの強化を図っています。

2025年以降においても、高齢者人口がピークを迎える見込みの2040年頃を視野に入れ、中長期的課題を整理したうえで新たな地域医療構想の策定に向けて取り組む予定です。

2.地域医療構想が必要な理由

地域医療構想の目的は、症状や状態に適した質の高い医療サービスをどの地域でも受けられるようにすることです。日本は超高齢化社会と呼ばれる状況にあり、今後ますます高齢者が増加することが予想されています。

総務省統計局によると、2025年時点における65歳以上の人口は3,677万人(30%)、75歳以上は2,180万人(17.8%)、80歳以上は1,331万人(10.9%)になる見込みです。これは、日本人口の58.7%に相当します。

このように、医療と介護のニーズが今後ますます増加することが見込まれている現状を受け、必要な医療を提供できるように事前に体制を整えることが地域医療構想の目的です。

出典:総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-

3.地域医療構想の策定プロセス

まず、根幹となる地域医療構想の策定プロセスは以下の通りです。

  1. 地域医療構想を策定するための体制の整備
  2. 地域医療構想の策定および実現に必要なデータの収集・分析・共有
  3. 構想区域の設定
  4. 構想区域ごとの医療需要の推計
  5. 医療需要に対する医療供給(医療提供体制)の検討
  6. 医療需要に対する医療供給を踏まえた必要病床数の推計
  7. 構想区域の確認
  8. 将来のあるべき医療提供体制を実現するための施策の検討
  9. 構想区域内の医療機関の自主的な取組
  10. 地域医療構想調整会議による医療機関相互の協議
  11. 地域医療介護総合確保基金の活用
  12. 実現に向けた取組とPDCAサイクル

出典:厚生労働省「地域医療構想策定ガイドライン

地域医療構想は医療計画の一部として策定することから、都道府県医療審議会での議論に加え、地域の医療関係者や住民、市町村等の意見も反映されています。
都道府県による地域医療構想の策定プロセスの一部と医療機関における対応についてご紹介します。

3-1. 都道府県が「構想区域」を設定

構想区域を設定し、医療需要に適した医療提供体制を具体化します。構想区域の設定は、現行の二次医療圏を基本としながら、将来の人口規模、受療動向、疾病構造の変化、アクセス時間の変化などを勘案して検討します。

3-2. 2025年の医療需要と病床の必要量の推計

構想区域ごとの医療需要を基に必要な病床数を推計します。このとき、医療提供体制における役割分担を踏まえ、「入院医療を行う患者数」の増減の見込みを想定する必要があります。また、医療提供体制の分担や都道府県間での増減を調整し、特定の医療機関の負担が大きくならないように留意しなければなりません。

3-3. 地域医療構想調整会議の開催

病床機能報告制度の報告結果などに基づき、現在の医療提供体制と将来における病床の必要量を比較し、不足している機能とその不足量を検討します。
さらに、医療機関相互の協議によって、機能分化・連携について議論を行い、地域医療構想の実現に向けて細かな調整を行います。

3-4.地域医療構想の実現に向けて対応する

ここまでのプロセスは都道府県によって行われるものです。都道府県が策定する地域医療構想を実現するためには、医療機関は以下の対応を行う必要があります。

  • 回復期の充実(急性期からの病床転換)
  • 医療従事者の需給見通し
  • 慢性期の医療ニーズに対応する医療・介護サービスの確保

急性期中心の病棟から回復期の病棟への転換を検討します。その際に必要な施設や設備の整備においては、地域医療介護総合確保基金から補助を受けることができます。

さらに、都道府県が推計した病床数を踏まえて、医療従事者の需給を見直します。そして、慢性期の医療ニーズに対応する医療・介護サービスの確保を目的として、在宅医療や介護施設などの整備を進めます。

出典:厚生労働省「地域医療構想について

4.地域医療構想の策定が医師の環境に与える影響

地域医療構想の策定は、医師が働く環境にいくつかの影響を与えます。具体的に見ていきましょう。

4-1.時間外労働時間の減少

20244月からは、医師の働き方改革の一環として時間外労働の上限規制が開始します。上限規制の適用開始までに、医療機関は時間外労働時間の実態を把握し、自施設に適用される上限がどれになるのか検討する必要があります。

厚生労働省の資料「働き方改革をめぐる最近の動向」では、地域内の連携・機能分化などの取り組みが必要であれば推進すべきと示されています。この「地域内の連携・機能分化」が地域医療構想に基づくものです。

地域医療構想が実現すれば、医師1人あたりの負担が適正になることで高品質な医療サービスを安定的に提供できるようになり、同時に時間外労働時間の減少につながります。

4-2.医療機関の廃止・統合

地域医療構想の実現においては、ときに病床数の減少や医療機関の統合などが必要です。勤務先によっては他の医療機関への移籍や退職することがあるかもしれません。

なお、医療機関の廃止・統合などには多額のコストがかかるため、国による財政支援が行われます。

財政支援の種類とそれぞれの対象、支援額は次のとおりです。

地域医療構想 医師

出典:厚生労働省「地域医療構想の推進について

医療機関の経営者や開業医の方は、上記の支援を受けられるかどうか確認しておくことをおすすめします。

4-3.特別償却制度で節税できる

地域医療構想に基づき適切な医療提供体制の確保に必要な設備を導入する際は、多額のコストがかかります。設備の導入にかかった費用について、一定の割合を特別償却できる制度が設けられています。

特別償却制度の種類とそれぞれの対象、特別償却割合については以下のとおりです。

地域医療構想 医師

出典:厚生労働省「地域医療構想の推進について

4-4.優遇措置で登録免許税と不動産所得税を節税できる

医療機関の経営者や開業医は、税制優遇措置を受けることで登録免許税と不動産所得税を節税できます。

対象は、医療機関の再編に関連し、地方厚生局長が認定した再編計画に基づいて土地や建物を取得した医療機関です。

登録免許税に関しては、土地の所有権の移転登記の場合、税率が通常の1,000分の20から1,000分の10に軽減されます。建物の所有権の保存登記に関しては、税率が通常の1,000分の4から1,000分の2に軽減されます。適用期間は、いずれも令和5331日までです。

不動産取得税は、医療機関の再編に伴って取得した不動産の課税標準について、価格の2分の1が控除されます。適用期間は、令和6331日までです。

出典:厚生労働省「地域医療構想の推進について

 

5.まとめ

地域医療構想は、高品質な医療サービスを安定的に提供するために、定期的に策定・実行されている取り組みです。

勤務医・開業医ともに大きな影響を受ける可能性があるため、優遇措置や影響の詳細について確認しておくことをおすすめします。

本記事では、地域医療構想による医師への影響や医療機関に対する税制優遇措置、特別償却制度などについてご紹介させていただきました。

今回、解説した内容が、地域医療構想による影響の把握、準備などにおいて一助となれば幸いです。