今、医師で地方勤務を希望する方が増えています。
コロナ禍によるライフスタイルの変化も追い風となり、都会の勤務医の中で「地方勤務を目指したい」「地方で都会とは異なるやりがいや生活環境を手に入れたい」といったニーズが高まっているためです。
ただ、都会と地方では勤務医の働き方や生活スタイルは大きく異なります。収入や待遇、診療内容や責任などにおいて、さまざまな特徴があるため慎重に検討することが大切です。
そこでこの記事では、医師の地方勤務の特徴やメリット、転職する際のポイントを紹介します。
若い勤務医の方はもちろん、セカンドキャリアを考えている40代以降の医師の地方勤務についても触れていますので、ぜひご一読ください。
1. 医師の地方勤務の実態とは
地方勤務の医師には、どのような特徴や傾向があるのでしょうか。
1-1. 地方勤務を希望する医師が増えている
2017年に厚生労働省が発表した「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によると、長期にわたる地方勤務の意思がある医師の割合は年齢と共に高くなる傾向が明らかになりました。
20代の勤務医のうち、地方勤務の意思がある割合は60%に上ります。その中で、20代は2〜4年間の希望を持つ割合が最も多い一方で、30代以降は10年以上の地方勤務を希望する割合が高くなっています。
こうした地方勤務を希望する医師は、コロナ禍によって生き方が多様化する中、増加傾向にあると考えられます。
また、大学病院や研究機関、製薬企業も勤務先に選びやすい都会と違い、地方では公立病院や民間病院などの病院やクリニック、介護施設や健診機関など、患者との距離が近く、臨床や介護・福祉の現場などで活躍する医師が多く見受けられます。
出典:厚生労働省「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会 報告書」
1-2. 地域医療をライフワークにする意義
地方勤務で地域医療をライフワークにする医師には、次のような意義が生まれます。
- 臨床に集中できる
- 若手育成で都市部での経験を活かせる
まず、地方勤務の医師は、これまでの都会で培った診療経験に基づいて臨床に集中できます。
都会に多い大学病院や民間総合病院では、臨床以外にも三次医療や研究をはじめ労務管理や経営参加など幅広い仕事を担当するケースが多く見受けられます。
一方、地方医療では臨床医のニーズが高く、患者と直接コミュニケーションを取り自分の責任で治療を進める診療が中心です。患者との触れ合い、治療成果がダイレクトに返ってくるので、大きなやりがいを感じられます。
また、都市部の大学病院などで培った経験や最先端の医療技術を地方の若手医師に指導することができます。地域医療を目指して地方勤務を希望する医師が増えているものの、指導医が少ないため若手の教育に課題が残る地域も少なくありません。
これまでの医師の経験やスキルを若い世代の医師に教育し、地域医療の活性化に貢献できるのも地方勤務ならではの魅力です。
2. 医師が地方勤務をするメリット
医師が地方勤務をするメリットは、次の3つがあります。
- 都市部より地方部の方が好待遇
- 落ち着いた生活環境や教育環境が手に入る
- 地方ならではの医療に取り組める
とくに2番目の「落ち着いた生活環境や教育環境が手に入る」という点は、コロナ禍によって生き方が多様化する今、地方移住が増加傾向である理由とも共通する大きなメリットです。
では、ひとつずつ見ていきましょう。
2-1. 都市部より地方部の方が好待遇
医師の生涯年収は地方の方が高いというデータがあります。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和3年調査)」によると、都道府県別の勤務医の収入は都市部よりも地方の方が高い傾向があります。
都道府県別の上位3県は、次の表の通りです。
⚫︎都道府県別の医師の生涯年収_上位3位
順位 | 都道府県名 | 平均月収 | 賞与 | 年収 |
1位 | 岩手県 | 151万5,600円 | 182万円 | 2,000万9,100円 |
2位 | 高知県 | 118万6,300円 | 41万4,800円 | 1,465万400円 |
3位 | 山梨県 | 118万4,200円 | 39万9,800円 | 1,461万200円 |
このように、医師については地方勤務の方が高年収となっています。
一般企業は東京や大阪など大都市圏の会社員ほど年収が高い傾向があるのと対照的と言えるでしょう。
こうした背景には、地方ほど医師不足が深刻化しているため、国や自治体を挙げた医師確保に関する施策により、高収入・好待遇の求人が多いことが考えられます。
また、医師数が集中している都市部で勤務するより、地方のほうが勤務医間の競争が激しくないため、ポストに就きやすいといったメリットもあります。
医師の生涯年収に関して、より詳しい内容を下記のページで紹介しています。ぜひご一読ください。
2-2. 落ち着いた生活環境や教育環境が手に入る
地方移住の魅力の一つに、「暮らしやすさ」があります。
例えば、地方の暮らしを選択すると、次のようなメリットが得られます。
- 物価や家賃が安く生計が立ちやすい
- 人口密集度が低いため満員電車や外出先の混雑から解放される
- 自然が豊かで時間がゆったり流れている
- 郊外や山間部へのアクセスが良好でアウトドアや行楽が手軽にできる
- 子どもをのびのびと育てられる
こうした理由で、都市部から地方勤務を希望する医師の中には、上記で挙げた地方ならではの生活に魅力を感じるケースが増えています。
2-3. 地方ならではの医療に取り組める
地方の医療機関では、臨床を主軸としつつ、地域の医療制度や自治体の状況に合わせて患者や地域コミュニティに対する柔軟な役割が期待されています。
その点、都会に集中している研究や高度急性期を主軸とした大学病院や民間総合病院とは、医療の性格上、一線を画していると言えるでしょう。
地方では、地域住民の病気やケガにまつわる不安や悩みに対応する地域医療のニーズが高いことが特徴です。具体的には、総合診療医としてのプライマリ・ケアのほか、在宅の要介護者や終末期患者をケアする訪問診療など、地域の実情に合わせた活動が重要となります。
とくに、団塊の世代が75歳以上を迎える「2025年問題」に対処するため、厚生労働省は「地域包括ケアシステム」の構築を推進して来ました。地域包括ケアシステムとは、医療や介護を中心に福祉、行政、地域コミュニティなどと連携し、地域全体で高齢者の介護や生活支援・介護予防を支える体制のことです。
こうした社会の要請もあり、地方勤務の医師は、医療保険制度に加えて介護保険制度と両面をカバーが重要となる地域医療を支える立場で活躍できます。
3. 医師が地方勤務をするデメリット
医師が地方勤務をした場合のデメリットには、次の3つがあります。
- 医師に対する期待が高く業務負担が多い
- 地方の環境に馴染めない場合がある
- 最新医学のフォローがしづらい
とくに3番目の「 最新医学のフォローがしづらい」という点は、情報が集中する都市部を離れた医師生活になるため、地理的に不利になるためです。
では、ひとつずつ解説します。
3-1. 医師に対する期待が高く業務負担が多い
地方の病院や診療所では、急性期から慢性期まで一人の医師にゼネラリストとしての活躍が期待されます。
大学病院など研究や最先端医療が主体の病院と異なり、公立病院や民間総合病院では、かかりつけ医としての診療はもちろんのこと、入院患者の治療や二次救急の対応など、幅広い役割が勤務医に期待されているためです。
また、働き方改革が進む公立病院であっても、一人ひとりの両肩に業務負担や責任が重くのし掛かります。診療に加えて病院運営や事務処理など業務をこなしていくプレッシャーは非常に大きなものがあります。
さらに、都会に比べてプライマリ・ケアや在宅医療のウエイトが大きいため、患者との距離感が近い分、単に診療するだけでなく本人の体質や性格、家族構成を把握した上での心理的なフォローが必要なシーンも少なくないでしょう。
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3-2. 地方の環境に馴染めない場合がある
Uターン以外で地方勤務をする場合、転職先の地域の生活習慣や地域ルール、方言などに慣れるまで、時間や努力が必要です。特に、田舎になればなるほど方言や風習による壁が大きいため、精確な問診が出来るようになるまで苦労するケースが多く見受けられます。
また、都会とは違って地方は車社会なので、マイカー移動が中心となります。また、買い物の不便さ、教育の選択肢の少なさといった地方ならではの生活面の問題があります。
さらに、地域医療は行政や医師会、地域経済などとの連携も重要となるため、診療以外で幅広い役割を果たさなければいけません。
3-3. 最新医学のフォローがしづらい
都会とのアクセスが不便になるため、学会や研修に参加したくても時間や費用のコストがかかります。
また、地方は大学病院や研究機関、三次医療などの施設が少ない一方、一次医療や二次医療の医療機関が中心なので、最新の医学情報や診療経験を積む機会が限られることも地方勤務の医師のデメリットと言えるでしょう。
4. セカンドキャリアを見据えた地方勤務のすすめ
地方勤務の実態やメリット・デメリットを踏まえた上で、セカンドキャリアを見据えた地方勤務を成功するには、次の3つのポイントを意識することが重要です。
- Uターン・Iターンで自分らしい生き方を
- プライマリケアを学び開業医を目指す
- キャリアの多様化が広がる40代が転換点
中でも、3番目の「キャリアの多様化が広がる40代が転換点」という点は、医師としての経験に加えて、結婚や子育て、親の介護など、ライフステージが変化するミドル世代がぜひチェックしておきたいポイントです。
では、ひとつずつ見ていきましょう。
4-1. Uターン・Iターンで自分らしい生き方を
住みたい場所、自然環境・教育環境などを主体的に選択するには、都会部だけでなく地方勤務を含めた検討が大切です。
一口に「地方」と言っても、都道府県によって人口密度は異なります。政令指定都市や中核市といった都市化した地域を選ぶのか、特例市以下の都市・町村、中山間地域など自然の豊富な地域を選ぶのかによっても、医療レベルや生活環境、インフラなど地方移住後の暮らしはさまざまなスタイルが考えられるでしょう。
特に、40代以降で家庭を持っている方は、地方移住に対する家族の意向や子どもの教育問題など、自身のキャリア形成に加えて家族の未来を見据えた判断が地方勤務の成功に大きく影響します。
Uターンで地元に帰郷する場合はもちろんのこと、その土地で生活経験のないIターンではなおさら、さまざまな視点で地域や勤務先といった移住の条件を検討する必要があります。まず自分のライフステージを明確にすることが大切です。その上で、候補地の地域性や暮らしやすさ、医師としてセカンドキャリアを積むのにふさわしいかといった視点で地方勤務の意思を固めていくことをおすすめします。
4-2. プライマリ・ケアを学び開業医を目指す
勤務医として経験後、開業医を目指すなら、地方医療の柱であるプライマリケアの豊富な経験が役立ちます。
地方の医療機関の勤務医経験や、地方国立大学医局とのつながりがあると、地域の患者の傾向や医療体制に精通できるほか、地域社会の人脈によって開業医を目指しやすいからです。
地方で大学病院や高度急性期を中心とする三次医療の医療機関に勤務する場合でも、非常勤医師として地域医療を担う病院で臨床経験を積むと、開業医を目指しやすくなるでしょう。
4-3. キャリアの多様化が広がる40代が転換点
勤務医や開業医志向が強い30代以下と異なり、40代以降は老健(介護老人保健施設)の配置医や、企業・団体の産業医など、キャリアの多様化が始まるタイミングを迎えます。
40代に入ると、勤務医として臨床経験やスキルを積み上げていった反面、救命医療や急性期医療、外科手術などで活躍するには体力面で不安を感じ始めます。そのため、30代後半から40代は、医師として第二の人生を考えた働き方を選択するのに適したタイミングです。
セカンドキャリアを成功させるためには、都市部の勤務医にこだわらず、地方勤務も選択肢に入れていくアプローチがおすすめです。
「臨床を行いながら、地域医療の未来を担う若手医師の育成をしたい」
「介護施設の配置医や産業医など、地域社会の住民の健康を守る働き方にシフトしたい」
このように、地方勤務だからこそ実現しやすいセカンドキャリアをイメージすることで、都会とは違った医師としてのやりがいを手に入れることができます。
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5. まとめ
医師の地方勤務を希望する割合は増えており、都会の勤務医と違った次のような特徴やメリットがあります。
- 地方の方が年収が高い傾向がある
- 地方ならではの生活環境や教育環境が実現できる
- プライマリ・ケアや地域包括ケアシステムなど地域医療に取り組める
地方勤務を選択するときは、「臨床中心の勤務にシフトしたい」「将来的に開業医を目指したい」など、セカンドキャリアを意識してあらゆる角度から検討することが成功の鍵を握ります。
医師の地方勤務は、収入や待遇、生活環境をはじめ多くの可能性を秘めています。
医師としてのキャリア形成を考えている方は、地方の勤務医として転職を視野に活動してみてはいかがでしょうか。