病院とクリニックの働き方の違いは?診療内容や魅力について解説

医療機関には病院とクリニック(診療所)がありますが、それぞれ病床数やスタッフの数、医療機関として担っている役割に違いがあります。現状では多くの医師が病院で働いていますが、近年では働き方の違いなどに魅力を感じ、病院からクリニックへ転職する医師も増えてきました。

また医療施設調査によると、病院数が減っているのに対し、クリニック数が増えているなど、クリニックの医師のニーズが高まっていることも調査から読み取れます。

この記事では、クリニックで働くニーズが今後も高まっていくことを踏まえて、病院とクリニックの違いを様々な角度から比較するだけではなく、クリニックの魅力やクリニックで働くキャリアについて解説します。

1.病院とクリニック(診療所)の違いは?

まずは、病院とクリニック(診療所)の違いについて、法律の視点から違いを確認していきましょう。医療法という法律によって、医師が医業をおこなえる場所は病院とクリニック(診療所)に限定されています。

11.病床数の違い

最も大きな違いは、病床数の違いです。病院は20床以上、クリニック(診療所)は19床以下または全く病床を持っていない無床診療所となります。
病院については、一般病院のほかに一定の機能を有している病院(特定機能病院、地域医療支援病院)があり、医療法で一般の病院とは異なる要件(人員配置基準、構造設備基準、管理者の責務等)を定めているのも特徴で、規模も大きくなります。

病院とクリニックの病床数の違い

参照:厚生労働省「医療施設の類型」

12.施設数の違い

施設数にも変化があります。厚生労働省の「医療施設調査」によると、次の通りとなりました。

【施設数】
・全国の医療施設は、180,396施設で、前年に比べ1,672施設増加している。
・病院は、8,205施設で、前年に比べ33施設減少している。
・一般診療所は、104,292施設で1,680施設増加している。
・歯科診療所は、67,899施設で25施設増加している。

【病院(施設の種類別)】
・精神科病院は、1,053施設で前年に比べ6施設減少している。
・一般病院は、7,152施設で、27施設減少している。
・一般病院のうち「療養病床を有する病院」は、3,515施設(病院総数の42.8%)で、前年に比べ39施設減少している。

【クリニック(診療所)】
・有床診療所は、6,169施設(一般診療所総数の5.9%)で、前年に比べ134施設減少し、このうち「療養病床を有する一般診療所」は642施設で、前年に比べ57施設減少している。
・無床診療所は、98,123施設(同94.1%)で、前年に比べ1,814施設増加している。

医療施設数の推移

超高齢化社会が進行することにより、従事する医師の高齢化も同様に進み、事業継承を行うことで既存の患者基盤を受け継ぎながら、新たに開業する医師も増えています。今後、外来に通うことができる高齢者が減少していくことも考えられる中、地域に密着した訪問医療や在宅医療の分野でも活躍できるクリニックがより必要とされていくでしょう。
また、厚生労働省は地域医療と高度先進医療の棲み分け、地域包括ケアシステムの構築からかかりつけ医を持つことを国民に推奨しています。オンラインで診療や処方など医療のデジタル化も進んでおり、クリニックの増加は超少子高齢化社会の進行と人口減、かかりつけ医の推進によって今後も進むことが推測されます。

参照:厚生労働省「医療施設調査」
参照:厚生労働省「「かかりつけ医」ってなに?」
参照:厚生労働省「かかりつけ医機能について(令和4年7月20日)」

2.病院とクリニック(診療所)それぞれの特徴について

病院とクリニックには規模や施設数の違い以外に、どのような特徴があるのでしょうか。どちらも病気や怪我の治療をするという点では同じですが、その内容には違いがあります。本章ではその内容の違いについて、それぞれ紹介します。

参照:厚生労働省「後期高齢者医療制度の準備状況」

21.病院

病院は外来と入院機能を備えており、それぞれ外来患者40名に対して医師1人、入院患者16名に対して医師1人と配置基準が定められています。また看護師や薬剤師、検査技師、理学療法士など設置する診療科によって医師以外の医療スタッフについても既定の人員配置通りの設置をしています。病院によっては医療従事者の配置を手厚くしたり、独自の療法を取り入れたりと、特色を打ち出しているため、自分のキャリアなどを考慮して勤務先に選ぶ医師もいるようです。

また、病院は医療情報提供書(紹介状)を持たない初診患者に対し、初診料以外に病院ごとに定めた特別料金を請求することができます。

紹介状を持たずに受診した際のお支払いのイメージ図

この特別料金は、病院に初診患者が殺到し、他の外来患者や入院患者に対する医療に支障が出ないようにするためのもので、病院によって料金が違います。

参照:紹介状を持たずに特定の病院を受診する場合等の「特別の料金」の見直しについて

22.クリニック(診療所)

クリニック(診療所)は、前述の通り19床以下の病棟または外来機能のみですが、患者の数に対して医師の配置基準は設定されていません。看護師も入院施設がない場合は必ずしも必要とされておらず、医師一人で全てを担うことも可能です。

また、クリニックでは初期の病気や慢性的疾患、怪我を主に診察し、治療することが多く、訪問医療や看取りを行っている医師もいます。医療設備も病院ほどの設備を備えているところはなく、詳細な検査や重症だと診断した患者を病院へ紹介することもあります。

3.クリニック(診療所)での働き方

クリニック(診療所)ではどのような働き方をするのか、解説します。

31.給与面

クリニック(診療所)で働いた場合の給与面は、病院勤務でオンコールや夜勤をこなす場合と比べると低くなる傾向がありますが、診療科によって異なるでしょう。

厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)」では、2022年度の勤務医の平均年収は約1,461万円です。一方、同調査でクリニック勤務医の平均年収は約1,119万円(個人・医療法人・その他を含む平均値)となっています。

しかし、美容外科は例外です。近年、美容にお金をかける女性も増え、自費診療が基本となる美容外科では、経験と腕があればかなりの高給が見込めます。

単純に病院勤務の場合と比較すると、年収は低めですが勤務時間で時給換算するとクリニック(診療所)にも大きな魅力があります。

参照:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)」

32.働き方

多くのクリニック(診療所)は、平日と土曜日を中心とした午前・午後(夕方または夜間も含む)の診療時間となっています。訪問診療などをしていない場合は、夜勤もなく決まった時間内での勤務となることが多いようです。

また、扱う症例については病院ほど多くなく比較的慢性疾患や一般的な疾患が多く、特殊な事例を取り扱うことはほぼないと言えるでしょう。

前述した通り、クリニック(診療所)では病院と比べて高度な医療機器を設置しておらず、詳細な検査が必要な場合は連携している病院へ紹介するのが一般的です。

その反面、病院で治療を終えた患者の日常的な診察を担うことは多いでしょう。

4.クリニック(診療所)で働く魅力やメリット

クリニック(診療所)で働く魅力やメリットはどこにあるのでしょうか。

41.ワークライフバランスが取りやすく育児や介護と両立しやすい

訪問診療などでオンコールがある場合は別ですが、基本的に診療時間は病院ほど長くなく、日曜日・祝日は病院自体が休みのことも多いのでワークライフバランスが取りやすい環境です。
また、入院施設を備えていない診療所(クリニック)の場合は、夜勤もなく、平日の日勤が中心となります。
夜勤や休日の診察がない事が多いため、育児や介護など家庭生活との両立もしやすいでしょう。決まった範囲内の診療時間で対応しているため、予定も立てやすく、ゆとりを持った生活を構築しやすいのが特徴です。

 

4-2.特定の技術や運営方針に特化したクリニックなどがある

診療科にもよりますが、特定の治療や運営方針を掲げているクリニック(診療所)もあります。

代表的なところでは、眼科の白内障手術、内科の胃カメラ検査や内視鏡手術を日帰りで行っているところもあります。また、レディースクリニックとして女性医師、看護師などのスタッフもすべて女性とこだわるなど、クリニック(診療所)ごとに特化した方針を打ち出しているのも特徴です。

4-3.開業医の前段階としてノウハウを知ることができる

開業医として独立する前に、クリニック(診療所)に勤務して運営方法などのノウハウを学ぶ医師もいます。

最初からすべてを一人で行う前に、クリニック(診療所)で実際に勤務しながら実務経験を積んでいる医師もおり、事業継承という形で開業を選ぶ場合もあります。

44.一人一人の患者に向き合いやすい

 

一人一人の患者にしっかりと向き合いやすいのも特徴です。多くの外来患者や入院患者の対応、オンコールなどでどうしても一人の患者にかけられる時間が制限される傾向にあります。

クリニック(診療所)の場合、慢性疾患で定期的に同じ症状で来院する患者も多く、ちょっとした患者の経過や状況を把握しやすいところが魅力だと言えます。

5.クリニックで働いた医師の声

では、実際にクリニックで働いた経験のある医師はどのように感じているのか、ご紹介します。

5-1.人間関係がアットホームで働きやすい

クリニック(診療所)では、病院と比較して勤務しているスタッフの数が少なくなります。そのため、人間関係に恵まれ、アットホームな雰囲気で働きやすいという声がありました。

5₋2.地域医療に「かかりつけ医」として関われた

 

クリニック(診療所)は、地域の医療を支え「かかりつけ医」として住民に関わることが求められています。地域の高齢者を診たいと考え、クリニックを選択した医師もいます。日常的な症状の変化に対応し、きめ細やかな診療を行っています。

5₋3.クリニック(診療所)の院長職(雇われ院長)になれる

将来の開業を見据え、クリニック(診療所)で院長職として勤務することを選ぶ医師もいます。クリニック(診療所)の院長職の求人は増えており、給与水準も悪くありません。一定の給与を得ながら、開業に向けたノウハウを学び、準備を進めることもできるのです。

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6.まとめ

以上、病院とクリニック(診療所)の違いから実際に働いた場合のイメージ、魅力などについて解説しました。

病院、クリニック(診療所)は担っている機能や役割が違い、働き方や勤務環境もそれぞれに魅力があります。今後のキャリアや人生設計によって、柔軟に考えてみるのもいいのではないでしょうか。この記事が、今後を考えるための一助となれば幸いです。