医師の事業承継が増えている理由とは?病院経営のチャンスと新たなキャリア展望

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医師としてのキャリアはさまざまですが、近年、事業承継による医院経営への道が注目されています。また、高齢化が進む中で医師の引退が増え、後継者不足が問題となっています。

一方で、勤務医から開業医への興味も高まっています。特に勤務医で自分の医院を持つキャリアプランを持つ方は、30代から40代にかけて具体的な行動を起こす場合が多く見られます。

医師が新規開業するには土地や建物、医療機器などに高額な費用がかかりますが、引退する開業医からクリニックを譲り受ける継承開業は初期費用を減らすこともできます。
そのため、事業継承は引退したい医師と開業したい医師のニーズを満たす新しい開業スタイルになっています。

しかし、事業承継の道は容易ではなく、医師としての手腕だけではなく法律や経営、資産管理などの専門知識が求められる場合が少なくありません。

そこでこの記事では、医師の事業承継の現状と重要性、新たなキャリア展望について詳しく紹介します。将来のキャリア形成を考える医師にとっての有益な情報をまとめていますので、ぜひご一読ください。

1. 医師の事業承継が増えている理由

事業承継(事業譲渡)とは、現在の事業主が引退などの理由で事業を譲渡し、後継者がその事業を引き継ぐことを指します。医療施設においては合併による事業譲渡も見られます。

医師の事業承継が増えている背景には以下のような理由があります。

1.1 高齢化による医師の引退が増加しているから

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医師の高齢化が進行し、引退する開業医が増加しています。具体例として、数十年以上、診療所を経営していた高齢医師が後継者不在で引退を決断し、地域の別のクリニックに事業譲渡するようなケースです。

開業医の高齢化による医師の引退をきっかけとした事例が全国で増加しており、事業承継の重要性が高まっています。

参照:厚生労働省「-令和元年度 医療施設経営安定化推進事業-医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究報告書

1.2 後継者不足が家族経営の医院で起こっているから

家族経営の病院や診療所では、家族内に後継者となる医師がいない問題が多くあります。例として、都市部では老舗の家族経営医院が次世代に引き継ぐことができず、近隣の若手医師に事業を譲渡する形で、新たな医院経営が始まるケースがあります。

そのため、外部から後継者となる医師を引き入れる必要性が大きくなっています。

1.3 勤務医から開業医に関心を持つ医師が増えているから

病院の方針や処遇、激務をきっかけに、勤務医から自身の裁量で判断できる開業医に興味を持つ医師が増えています。地方都市では、勤務医として数年働いた後、地元で事業承継を通じて自身のクリニックを開業する医師もいます。

医師のキャリアパスを広げる方法の中でも、医師独立開業の選択肢の一つとして事業承継に注目が集まっています。

1.4 経営の専門化や医療ニーズの変化が起きているから

病院経営には、今や専門的な経営知識や手腕が問われる時代となっています。

近年、医療のニーズが複雑となった医療業界の変化に対応するため、経営そのものも専門的なスキルを必要とするからです。そのため、医師だけでなく企業や団体など経営のプロも事業承継に関与するようになっているケースが増えています。

例えば、地域医療においては、老舗医院の経営者が引退する際、地域の医療ニーズに応じた事業戦略を持つ経営コンサルタントが関与することで、新しい医院経営の方向性を築く取り組みが行われています。

このように、今後の病院経営では、医師の医療スキルだけでなく、経営に対する理解やコミュニケーション能力など、様々な能力が求められます。そのため、事業承継を考える際、医療のプロであるとともに、地域の医療ニーズに応じた経営を進める必要があるのです。

2. 医師の事業承継のプロセス

医師の事業承継で大切なのは、単に「引き継ぐ」だけではなく、多くの手続きと計画に沿って進めることです。特に、共通点も多い反面、目的と手順に違いがある医療施設の事業承継と合併とは分けて考える必要があります。

事業承継では、既存の医院や診療所の経営を新しい医師に引き継ぐのに対し、合併では、複数の医療機関が一つにまとまる方法を指します。

以下、事業承継のケースで手順と流れ、注意点を見ていきましょう。

参照:医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究|厚生労働省

2.1 事業承継の手順と流れ

一般的に、事業承継は以下の手順と流れで進められます。

1.引き継ぎたい医院を選定する

医師が引き継ぎたい医院を見極め、目標設定をします。

2.医院の評価・交渉をする

医院の資産、負債、患者数などを評価し、引き継ぎ条件の交渉を行います。

3.契約と準備を進める

法的な契約を結び、必要なライセンスや設備の更新など、引き継ぎに向けた準備を進めます。

4.経営を移行する

既存の経営体制と新しい経営体制の移行をスムーズに行います。

参照:医業と税理士業における事業承継の比較検討に関する研究 』|厚生労働省

2.2 事業承継の注意点

事業承継のプロセスでは、次の2つの注意点があります。

1.法律や財務的な知識が必要

引き継ぎには、法律に基づく契約や税務処理など、専門的な知識が必要とされます。

例えば、事業承継後、前経営者による税務処理に関する誤りが発覚し、後に追加の費用が発生するケースが想定されるからです。

そのため、事業承継では弁護士や司法書士、税理士といった法律や税務などの専門家と連携することも一般的です。

2.経営リスクと医師独立のバランス

事業承継は確かに医師として独立開業するチャンスですが、同時にさまざまな経営リスクを背負うことにつながります。ここでの「経営リスク」とは、資金繰り、スタッフの採用と教育、新規サービスの導入など、医院運営全般において考慮すべきポイントを指します。

例として、新しい医療機器を導入する計画を立てたが、そのコストが想定以上に高く、資金繰りに影響を与えたケースが考えられます。また、スタッフの採用や教育に時間やお金等のリソースをかける必要があり、これが経営に負担をかける可能性もあります。

このように事業承継では、医師としての専門性だけでなく、多面的な経営リスクをしっかりと把握した上で、具体的な対策を考えることが大切です。

3. 医師の事業承継のメリット・デメリット

医師の事業承継のメリット・デメリットを以下でまとめました。

3.1 事業承継のメリット

事業承継には次の3つのメリットがあります。

【メリット1】既存の患者基盤の引き継ぐことができる

事業承継を通じて、既存の患者基盤と信頼を引き継ぐことができます。新たな患者獲得の労力を削減できる場合が多いため、大きなメリットと言えるでしょう。

例えば、地域に密着したクリニックの事業承継を行うと、開業初期の集患のプレッシャーを軽減し、既存患者層の維持につなげられます。

【メリット2】設備・人材の継続利用できる

既存の設備と人材をそのまま利用できるため、開業の初期コストを削減できることがあります。結果として、資金面でのリスクも軽減される場合が多いです。

一例として、医院引き継ぎの際、経験豊富なスタッフの引き継ぎにより、人材採用のコスト削減とスムーズな開業が見込めます。

【メリット3】地域医療への貢献を継続できる

地域医療に欠かせない存在として、地域住民が期待する役割を引き継ぎできるのも大きなメリットです。地域にとって価値のある医療サービスを提供し続けることで、地域社会に対する貢献を実現します。

例えば、地域で唯一だった診療所を閉鎖・引退する医師の後を引き継ぎ、地域の医療を支え続けたケースが想定できます。

3.2 事業承継のデメリット

事業承継には次のようなデメリットもあります。

【デメリット1】既存の経営課題も引き継ぎ必要がある

既存の経営課題も引き継がなければならない可能性があります。事業承継後、具体的な解決策が必要となる場合も少なくありません。残された経営課題をクリアするためには、新たな事業に関する視点や経営戦略が必要なケースが一般的です。

しかし、引き継いだ経営課題により改革を進めることができると、新たな経営戦略にしたがって更なる事業展開に成功するチャンスにできます。

【デメリット2】後継者としてのプレッシャーがある

後継者として以前の医師と比較されるなど、地域や患者からの期待といったプレッシャーを感じることがあるのもデメリットの一つです。こうしたプレッシャーは単に医師自身のメンタル面だけではなく、医療提供の質やサービスにも影響を及ぼす可能性があります。

一例として、新しい医院経営者が、地域の期待に応えるプレッシャーに直面し、大きなストレスを抱えるケースが該当します。これまでの医院の評判を保ちつつ、新しい時代に合ったサービスの提供にも挑戦したい自分のビジョンとの間にギャップを感じる場合があるからです。

【デメリット3】医院選びが難しい

自分に合った医院選びが難しい場合があります。特に事業承継する医院選定は、経営の成否に大きく影響します。

事業承継後に自身の専門分野とのミスマッチを感じるケースが少なくありません。例えば、外科医としてキャリアを積んだ医師が、内科と小児科の医院を引き継ぐような場合です。専門スキルを十分に活かすことが困難となり、患者へのサービス提供にも影響が出る恐れが考えられます。

このように、医師の事業承継には、慎重に検討すべき事項が多数あります。メリットを最大限に活かしつつ、デメリットの影響を抑えるための事業戦略と十分な準備が求められます。

3.3 既存医院の成功事例

事業承継が成功につながった事例として、以下のような病院があります。

事例1:地方の町立病院A

Business Succession of Rural Hospitals

ポイント:事例1では、地域のニーズに応えるために外部からの協力を積極的に取り入れ、成功を収めました。特に、経営改善の取り組みが地域と密接に連携したものであったため、地域住民からの支持を獲得しやすかったと考えられます。

事例2:都市部のクリニックB

Succession of urban clinics

ポイント:事例2では、譲渡側と譲受側の求めることが合致したことで事業継承を成功させました。譲受側は、すでに診療基盤が確立されており、施設や医療機器にかかる資金を削減することができました。また、医療収益や集患も安定している状態で事業継承を行うことができています。

以上の事例からわかるように、事業承継成功のためには、経営状況を正確に把握し、適切な改善策を講じたり、理想とする医療を提供できるかを確認したりすることが重要です。それぞれの病院は地域ニーズや具体的な経営課題が異なるため、一律の対応ではなく、柔軟な対策と継続的な努力が求められます。

参照:『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究』|厚生労働省

4. 雇われ院長としてのキャリアパス

事業承継と共に雇われ院長としての医師のキャリアパスも注目されています。

4.1 雇われ院長の特徴

雇われ院長とは、病院やクリニックのオーナーではなく、経営者からの依頼で院長職に就く医師です。管理医師、施設管理者、院長職などと呼ばれることもあります。

年収は、経験、能力、勤務地域、施設規模などによって異なるため一概には言えませんが、開業医と比較すると一般的に安定しています。

雇われ院長と開業医や事業承継との違いはどういった点でしょうか。まず、開業医は自己資本で経営を行うためリスクは高いですが、自由度が高いことがメリットです。一方、雇われ院長の経営リスクは少なく、医師として診療に専念できます。

事業承継はちょうど中間の立場で、既存医院の知名度や患者を引き継ぐメリットがありますが、それまでの経営方針に縛られることもあるでしょう。

4.2 雇われ院長の役割と責任

雇われ院長のメリット・デメリットは次の通りです。

◆メリット

  • 経営リスクが少ない
  • 専門的な医療に専念できる
  • 経営ノウハウを学べる

◆デメリット

  • 決定権限が限定される
  • 経営方針に合わない場合の経営者との摩擦によるストレス
  • 自分が目指す医療に制約を受ける

なお、雇われ院長の法的責任の範囲は、開業医とは違いがあります。医療法人などの形態により異なりますが、雇われ院長は診療方針やスタッフの管理、法令順守などに関しての責任を負います。しかし、経営に関する最終的な決定権は経営者にあるため、その範囲内での責任となります。

経営に興味があるがリスクを抑えたい医師にとって、雇われ院長のキャリアは魅力的な選択肢のひとつです。さまざまな役割と責任を果たしながら、将来の独立開業のキャリアアップとして活用することもできます。

まとめ:事業承継による病院経営で医師の新しいキャリア展望を

現代の医療業界において、医師の役割は診療だけでなく多面的です。中でも、医師の新しいキャリアパスとして事業承継による病院経営が重要な位置を占めるようになっています。

医療提供の質や地域医療への貢献など、医療機関の経営は患者に直接的な影響を及ぼします。開業医や雇われ院長など、多様なキャリアパスが存在しますが、事業承継は特に経営と医療の両方のスキルを活かすチャンスとなるでしょう。過去の事例を学ぶことで、今後の病院経営にどう取り組むかの参考になると思います。

医師の事業承継を通して、医療サービスの継続性や地域社会への貢献、個人のキャリア成長など、医師としてさまざまな役割を果たせます。既存の経営基盤や患者を活かし、自分のビジョンに基づいてサービスを展開することが可能です。

このような背景から、医師としての専門性を深めつつ、経営者としての視野を広げたい方にとって、事業承継は今後のキャリア形成における重要な選択肢と言えるでしょう。今後の医師のキャリアパスとして、事業承継の道を検討してみてはいかがでしょうか。