医師の定年後の収入と働き方を解説ーセカンドキャリアの選び方ー

医師という職業は、一般的な業種・職種の定年の概念とは異なり、国公立病院、民営病院、開業医など、働き方によって定年の設定が大きく異なります。医師は高度な専門知識や技術を要するため、年齢問わず求められています。そのため、個々の能力や健康状態、意欲に基づいて柔軟に勤務を続けることができ、70歳を超えても医療現場で医師が多数活躍しています。

ただ、医師にとって定年後に自身のスキルや経験をどのように活かして働き続けるか、キャリアに対する見通しが不透明なケースが多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、一般的に定年後の年齢に該当する60歳以上の医師の就業状況についてデータを用いて紹介し、定年後のキャリアの展望について考えていきます。

1.医師の定年後の収入と働き方

医師の職業における定年とは、一般的な意味での「勤務終了年齢」という枠を超えたものです。

国公立病院では法律で定年が設定されているものの、民営病院や開業医の場合は、その限りではありません。

60歳で定年を迎えた医師も再雇用制度を使用して、定年を超えて就業することが可能です。また、民営病院では定年制度を廃止している場合もあり、開業医と同様に年齢問わず活躍することが出来るでしょう。

そこで、下記で医師の年収データと共に、60歳以上、70歳以上の就業状況や年収状況について紹介します。

1.1 医師の年収データと業種別比較

医師としてのキャリアは、収入面で他の多くの職種と一線を画します。

doctor retirement careers

厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」をもとに令和元年から令和4年度(過去4年間)のデータから確認すると、日本の医師の平均年収は1,354万円です。他の職業と比較しても目立って高い水準と言えます。

例えば、会社員の平均年収は500万円を下回ることが一般的です。一方で、医師の年収は会社員を大きく上回り、1000万円を超える高収入を得ている医師が多数います。

また、医師は、他の高収入で知られる職業と比較しても際立っています。

パイロットである「航空機操縦士」の平均年収は1,532万円と非常に高い水準です。医師は2位で1,354万円でした。3位「大学教授」1,079万円、4位「経営・金融・保険外交員」861万円、5位「裁判官、検察官、弁護士(法務系)931万円となっています。

上位5職種を比較しても、医師が経済的な安定性とともに、社会的にも重要な役割を担っていることは明らかです。特に、医療という専門性を持ち、長年にわたる経験とスキルを有する医師には、他の職種には見られないキャリアとしての価値があります。

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査
※企業規模計10人以上のデータの使用
※年収算出方法:月額給与(きまって支給する現金給与額)×12+賞与(年間賞与その他特別給与額)
※生涯年収年齢範囲:24歳~59歳

1.2 60歳以上の医師の就業割合と増加傾向

厚生労働省のデータによると、2020年時点の医師総数323,700人のうち、60歳台は56,971人、70歳以上は33,999人に上ります。国内の医師の28.1%は60歳以上の割合となります。

日本の医療現場では、4人に1人の割合で60歳を超える医師が支えているのです。

特に注目したい点は、診療所での高齢医師の割合です。診療所に従事する医師総数107,226人のうち、60歳台は31,835人(29.7%)、70歳以上は23,322人(21.8%)。つまり、診療所の医師の約半数が60歳以上となっており、高齢医師が地域医療の重要な担い手となっていることを示しています。

このように一般的な定年である60歳以上の医師の割合は年々増加しており、医療現場における高齢医師の役割はより一段と重要になっています。

出典:厚生労働省|令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

1.3 70歳以上の医師の年収状況の特徴

医師の生涯年収を診療科・年齢別などあらゆる角度から徹底解剖!によると、医師は他の業種に比べて70歳以上も年収が大きく下がらず、男性医師の場合、70歳以上も平均年収は1500万円台を維持しています。

また、女性医師の場合も同様の傾向が見られます。70歳以上であっても平均年収990万円で、安定した収入を得ています。

これは、高い専門性と経験を有する医師が、医療機関や患者から引き続き求められる存在であり、年齢を超えて高く評価されていると言えるでしょう。

2.医師の定年後の働き方とキャリア選択

ここまで見て来たように、70歳以上の医師は平均年収を維持しており、定年後も医療現場で活躍できることは明らかです。

ただ、定年後にどのような働き方を選択するか、具体的なキャリアプランの見通しがなければ、安定した収入を維持できません。

実際に、希望するライフスタイルや生活の質、医学の専門性の追求などを満たす働き方選択するにはどうすれば良いのでしょうか?

そこで、医師の定年後の働き方や収入の安定度、キャリアパスの特徴について下記の3つの種類で紹介します。

  • 雇用形態別
  • 職種別
  • 診療科別

    2.1 雇用形態別

    定年後の医師には、フルタイムの常勤をはじめ雇用形態別で主に3つのパターンが挙げられます。

    ・常勤医師
    定年後もフルタイムで勤務するタイプです。医療現場で引き続き高度な医療を提供し、医療機関の中核を担います。そのため、安定した収入とキャリアを維持できる働き方です。

    定年後のキャリアの一例として、医学部や看護学校での教職に就くことも選択肢の一つです。後進の指導や研究活動を通じて、医学教育に貢献することができます。

    ・非常勤医師
    パートタイムまたは期間限定で働くスタイルです。勤務時間や場所の自由度が高く、個人のライフスタイルに合わせて勤務できます。

    例えば、定年後は専門知識と経験を活かして、医療機関や関連企業のコンサルタントやアドバイザーとして活動することができます。医療機器の開発や新薬の研究、政策立案のアドバイスなどが可能です。

    ・嘱託医師
    一定期間の契約で従事する有期雇用の働き方です。これまでと同じ病院で定年退職後に再雇用として、雇用契約を嘱託医と変えて再働くというケースが多いです。仕事内容や待遇は契約内容によって異なりますので、非常勤医師と同じく個人のライフスタイルに合わせて柔軟な働き方を選択することができます。

    こうした雇用形態やキャリアパスを、医師個人のライフスタイルやキャリア目標に合わせて選べます。

    2.2 職種別

    定年後の医師には、勤務医や開業医はもちろん、それ以外の様々な職種で専門性を活かすキャリアパスが開かれています。例えば、下記の産業医や介護施設の医師、健康診断医などで多くの高齢医師が活躍中しています。

    ・産業医
    企業の従業員の健康管理や職場環境の改善をサポートする医師です。勤務医や開業医としての経験を活かし、職場の健康リスクの評価や予防策の提案、従業員の健康相談に応じるなど、企業の健康管理を支える重要な役割を担当します。

    定期的な業務でありながら健康診断が集中する時期に時間帯に応じて短期で働くなど、フルタイムとは限らない柔軟な働き方を選べるため、定年後のライフスタイルに合わせたキャリアを続けることができます。

    ・介護施設の医師
    老人ホームや特養の配置医師をはじめ、介護施設での医療を統括する役割を担います。医師としての豊富な経験に基づき高齢者医療や健康管理に特化し、認知症や老人うつ、ロコモティブシンドロームなど高齢者特有の健康問題への対応やケアプランの策定に関わります。

    高齢化社会が進む中、介護施設の医師の需要は高まっており、医師としての深い知識と豊富な経験が求められています。定年後の医師の経験とスキル活用を高齢者医療に特化し、専門性を活かした臨床業務を続けられます。また、地域医療への貢献や社会福祉の向上に興味がある医師にとり、定年後のライフワークとしても魅力的な選択肢です。

    働き方もフルタイムだけでなく、パート勤務やアドバイザー契約など、個々のニーズに合わせた働き方が可能です。

    ・健康診断医
    企業や地域コミュニティで健康診断を行い、予防医学の分野で貢献します。定期的な健康チェックを通じて、早期の健康問題の発見や疾病予防に注力し、公衆衛生の向上に寄与します。

    定年後に健康診断医のキャリアを選択すると、比較的定時で終わる勤務ができ、フルタイム勤務にこだわらずに働けるメリットがあります。

    2.3 診療科別

    定年までに培った診療科別のスキルや経験を活かした働き方もできます。ここで、内科医と外科医を挙げて定年後のキャリアパスの一例を紹介します。

    ・内科医
    定年後の内科医師は、高齢化社会を医療面で支える重要な存在です。例えば、高齢者に多い慢性疾患の管理や治療を行い、糖尿病や心血管疾患などの診療を通じて患者の生活の質向上に深く関わります。

    また、在宅医療や老人ホーム、デイケアでの勤務を通して、地域医療に貢献する道もあります。

    ・外科医師
    手術技術や専門知識を活かして、日帰り手術や小規模な手術で患者の診療を担当し、定年後は手術をせずに術後の緩和ケアなどを行う外科医も多くいます。

    加えて、後進の育成や手術技術の指導に関わることで、豊富な経験を若い世代に伝える役割も果たします。

    以上のように、定年後の医師にはさまざまなキャリアパスが選択できる可能性を持っています。

    3.定年後のワーク・ライフ・バランスと働き方・暮らし方

    定年後の医師にとって、ワーク・ライフ・バランスの維持は重要なポイントです。

    ライフスタイルやキャリア目標、年齢など働き方や暮らし方を検討する大切なタイミングです。

    医師として専門性を活かして長く働きたい、家族との時間を大切にするために、フレキシブルな勤務形態を選びたいなど、一般的な職種に比べ医師には様々な選択肢があります。

    具体的に、定年後のワーク・ライフ・バランスを維持するためには、どのような働き方や暮らし方があるのでしょうか。

    下記3つの順序でご自身の理想のワークライフバランスが維持できる働き方や暮らし方について考えてみましょう。

    3.1 ポイント1 これからの生き方や家族と向き合う

    定年後は、自身の生き方や家庭との関係を見つめ直す絶好の機会です。

    キャリアの節目にあたり、これまでの仕事のやりがいや達成感、自身の健康や家族との時間の大切さなどをもう一度見つめ直し、今後のライフプランを考える必要があります。

    具体的には、勤務先や働き方、勤務場所の選び方について振り返り、今後の計画を立てることがおすすめです。フルタイムからパート勤務、臨床医から産業医や施設医師へのシフトなど、さまざまなキャリアパスの可能性が考えられるでしょう。

    3.2 ポイント2 健康管理

    これまでの生き方を振り返り、定年後も医師として活動を続けることを選択する場合は、今まで以上に自身の健康管理が欠かせません。

    医師は長時間の勤務に加えて患者の命を預かる緊張感を常に持つため、心身ともに大きな負荷がかかります。今後も働き続けるために運動や食事のバランス、勤務日数の調整などを行い、健康管理を心がけましょう。

    健康維持や病気予防に対する意識や生活習慣の見直しにより、長期間にわたって医療現場での活動を継続できる素地ができます。

    3.3 ポイント3 落ち着いた環境への移住や地方勤務

    定年後のライフプランとして地方に移住することもひとつの手段です。地方に移住することは医師としても多くのメリットがあります。

    まず、都市部に比べてゆったりとした生活リズムは地方ならではのライフスタイルです。自然に囲まれた環境での暮らしはストレスの少ない日常生活となり、心身の健康にプラスに働きます。

    また、地域医療に対してダイレクトに貢献できるやりがいや、地域コミュニティとの密接な関わりなどが挙げられます。地方によっては医師不足が深刻化している地域も少なくありません。医師のニーズが高いエリアでの勤務は、医師としてのやりがいを十分に感じられるでしょう。

    そして、地域の患者との距離が近いため、より親しいコミュニケーションを続けながら社会的な結びつきを感じる生活が送れます。

    このほか、地方では医師の後継者不足が問題となっており、後進の指導や育成に取り組むことで、医療機関の事業承継を支援できます。病院やクリニックが減少傾向にある地域に移住し、定年後にキャリアや経験を活かすことで地方社会への貢献が可能です。

    このように、定年後の医師にとって、地方勤務を選ぶとそれまでのキャリアとは異なる視点が見えてくる可能性があります。

    4.医師の定年後のセカンドキャリアの選び方

    医師の定年後のセカンドキャリアの選び方には、下記の3つの視点が挙げられます。

    4.1 雇用形態を選ぶ

    定年後のキャリアにおいて、適切な雇用形態を選択することが重要です。

    フルタイム、非常勤、嘱託医師、アドバイザリー、独立開業など、多様な選択肢があります。

    どの雇用形態を選ぶかは、個人のライフスタイル、健康状態、キャリアの展望に基づいて検討することがポイントです。

    4.2 職種を選ぶ

    定年後には、医師としての経験を活かし、臨床以外の多様なキャリアにチャレンジすることができます。

    たとえば、医療管理、医療コンサルタント、医療ジャーナリスト、医療技術や創薬の研究開発など、新しい領域での活動が考えられます。

    医師の豊富な経験や専門知識を病院勤務以外の新たな形で活かすことができます。

    4.3 診療科を変える

    定年後には、診療科を変えて新たな領域にチャレンジすることも一つの選択です。

    例えば、内科から予防医学やリハビリテーション医学への転向などが考えられます。高齢化社会への対策や健康志向がますます重視される中、新しい専門分野での学びを深めるとともに臨床以外の異なる形で医療界への貢献ができます。

    このように定年後のキャリア選択は、自身の専門知識と経験、そして生活の変化を踏まえた上で行うことが大切です。

    5.まとめ

    医師としての定年後のキャリアは、個々の専門性、経験、そして生活の変化を総合的に考慮することで、より豊かなものになります。

    定年後のキャリアプランは、自身の価値観と生活の変化に基づいて慎重に計画することが求められます。医師としての新たなキャリアの可能性を広げ、人生の新たなステージを充実させることができるでしょう。