医師の就労環境の実態は?働きやすさとキャリアのための転職ポイント

Doctor working environment

医師は就労環境が過酷な職業と言われます。

慢性的な人手不足によって業務の負担が増大しているほか、診療や手術を含めたイレギュラーな急患対応、若手医師の教育や現場スタッフの指導に加え、職場管理や研究業務など、ハードの労働環境に置かれた医師のストレスやプレッシャーは計り知れません。

医師はやりがいや魅力があふれる職業である一方、過重労働が常態化しているのが現状です。

ただ、近年、医師の就労環境を望む声が現場から日増しに大きくなり、徐々に具体的な成果が見え始めました。国や業界が連携して医師の働き方改革を推進した結果、2024年4月に施行される医師の時間外労働の上限規制はその好例です。

しかし、行政や業界レベルで就労環境の改善が進められるものの、現場の医師の業務負担のハードさは今後もすぐに解消できる問題ではないでしょう。

そこでこの記事では、医師の就労環境の実態を紹介し、なぜ労働条件が大変なのかその理由について説明します。そして、具体的に医師の就労環境を改善するための方法について具体的に解説していきます。

働き方改革を通して、どこまで医師の就労環境が改善できるのでしょうか。また、将来のキャリア形成を考えたとき、勤務医以外で医師の活躍する場はあるのでしょうか。

1.医師の就労環境の実態とは

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医師はどのような就労環境で勤務しているのでしょうか。ここでは、次の3つの視点からデータを使って実態を紹介します。

【実態1】年代別
【実態2】勤務先別
【実態3】地域別

特に、2番目の「【実態2】勤務先別」という点は、病院の経営形態や規模によって、どの程度働き方に影響を及ぼしているかがわかる目安となります。

では、ひとつずつ見ていきましょう。

1.1【実態1】年代別

年代別の年収や労働時間、働き方の実態はどのようになっているのでしょうか。

◆年収

医師の年収は、医学部を卒業後、本格的な研修を受ける20台後半から右肩上がりで伸びていきます。

厚生労働省の「令和元年賃金構造基本統計調査」によると、医師の年収は20代後半で男性約750万円、女性638万円ですが、30代後半に入ると男女ともに1,000万円台となり、40代後半には男性1,500万円台、女性1,300万円台まで上がります。

その後、男性の場合50代には1,700万円台となり60台前半で約1,800万円台となってピークを迎えます。一方で、女性は40代後半で1,300万円台、1,600万円台となる50代後半が年収のピークです。

性別で年収に差があるのは、女性の場合、ライフステージによって医師としての働き方に変化を受けやすいためです。

結婚や妊娠・出産、育児などライフステージに合わせて離職や休業、非常勤へのシフトによる労働時間の減少が、収入に影響を及ぼします。

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和3年調査)」

◆労働時間

勤務医の週当たりの労働時間は、男性の場合、全年代平均は約57時間です。20代、30代、40代は約60時間、50代に入ると約56時間、60代では約47時間で、20代から50代までは「50〜60時間」がピークとなっています。

一方、女性の場合は、全年代平均の週当たりの労働時間は約52時間です。20代は約58時間、30代、40代、50代は約50時間となっています。全年代で「40〜50時間」にピークがありますが、20代は「60〜70時間」の割合が高くなっているのが特徴です。

出典:厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」

◆働き方

医師の働き方やキャリア形成は年代別で特徴があります。

まず、20代は医局での後期研修または一般病院でのスキル修得を行い、医師として必要な基礎的な経験を積みます。臨床、研究、開業や企業など、将来どのようなキャリアを選択するにしても、仕事に没頭して基礎スキルを培う必要があります。そのため、年収に比べると長時間労働や業務負担が大きい時期です。

次に、30代は将来のキャリアに必要な専門性やスキルを具体的に身につけて、キャリアアップに備える段階と言えます。

例えば、今後臨床で進む場合でも、専門の高度医療を極める人と総合診療医を目指す人とでは、経験すべき内容も異なります。また、医局に残るか、転職や開業をするかといった大きな目標を設定するのにも適した時期です。

そのため、専門医など将来の方向性に合わせた資格取得や、他の病院・クリニックでの非常勤医師への勤務、開業に向けた病院経営のスキル修得など、本業と自己研鑽で忙しい日々を過ごす医師が多く見受けられます。

そして、40代に入った医師は、それまで培った経験やスキルを存分に発揮して、多忙を極める年代です。臨床や研究での責任も重くなり、若手指導や人事管理など病院経営も意識した業務が増大します。

医師の転職に有利な時期を迎える40代は、セカンドキャリアに向けた具体的な行動を起こす時期と言えます。ただ、勤務先の業務と合わせてキャリアアップを見据えた活動も必要になるものの、医師によっては多忙で仕事に追われる日々を送るケースも少なくありません。

50代以降は、自身のキャリアイメージや体力などを踏まえて、何歳まで働くかを考える時期です。勤務医の場合は、指導的立場として定年まで勤務する王道の働き方が選べます。

第二の人生に向けた転職や専門外の分野にシフトする医師も増えてきます。介護施設や産業医など、臨床を離れてじっくりと仕事に取り組む道もあり、落ち着いた働き方でキャリアの集大成をしていくのも50代の特徴と言えます。

1.2【実態2】勤務先別

公立または民間の病院・クリニックや、国公立または私大の大学病院など、勤務先によって年収や労働時間、働き方はどのように異なるのでしょうか。

◆年収

病院の経営形態による年収の特徴は次の2つです。

  • 大学病院より民間の市中病院のほうが年収が高い
  • 国立大学病院より私立大学病院のほうが年収が高い

中央社会保険医療協議会の「第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)」によると、医師の平均年収は、公益法人や学校法人など法人経営の病院で1,535万円、民間病院など医療法人経営の病院で1,506万円なのに対して、都道府県や市町村の公立病院は1,472万円です。また、国や国立大学法人など国立の病院は1,323万円でした。

出典:中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)」

このように、医師の場合は、病院の経営規模や施設の充実度などより、国公立より民間病院(市中病院)の方が高年収の可能性が大きいことがポイントです。

◆労働時間

医師の労働時間は、勤務医か開業医かによっても、診療科目によっても傾向が異なります。

例えば、独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、勤務医の週当たりの平均労働時間は、時間外労働を含み46.6時間です。

労働時間の多いTOP3

診療科目の種類

週当たりの労働時間

第1位

救急科

54時間

第2位

脳神経外科

53.3時間

第3位

外科

52.5時間 

労働時間の少ないTOP3

診療科目の種類

週当たりの労働時間

第1位

精神科

38.4時間

第2位

眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科

44.3時間

第3位

内科

45.8時間

しかし、上表のように、週当たりの労働時間はトップ1・救急科の54時間に対し、最も少ない精神科は38.4時間です。

このように、専門にする診療科目によって最大約16時間も労働時間に開きが生じます。

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」

◆働き方の特徴

ここでは、大学病院、国公立病院、民間病院による働き方の違いを紹介します。

大学病院の勤務医は、研究のため整備された最先端の設備や施設に囲まれる中、活躍できます。先端医療や医学研究に専念したい医師にふさわしい環境と言えるでしょう。

また、臨床面では関連病院での診療経験が培えるため、基礎スキルの修得や人脈形成に役立つ点も大学病院の魅力です。

ただ、特に国公立の大学病院は年収の低さがデメリットです。そのため、医局に残るのか、転職や開業を目指すのかなど、キャリア形成で選択を迫られる医師が多く目立ちます。

国公立病院は、一般診療と共に高度先進医療の両面から地域住民のための医療を提供していることが特徴です。公共性の高い設置目的のため、国の医療政策に応じて地域の基幹的な医療機関の役割を果たします。

しかし、救命救急や災害医療をはじめ地域医療を維持する重い責任があるものの、勤務医の年収水準は低めです。ただ、公務員または準公務員として充実した福利厚生や退職金が期待できます。

1.3【実態3】地域別

病院の所在地による医師の働き方の実態はどうなっているのでしょうか。特に、都市部と地方との比較を中心に見ていきましょう。

◆年収

医師の年収は、都市部より地方の方が高い傾向にあります。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(令和3年調査)」によると、勤務医の地域別平均月収は、1位・岩手県151万5,600円、2位・高知県118万6,300円、3位・山梨県118万円で、その後北海道、山口県、茨城県、長崎県と地方が上位10都道府県の大半を占めます。

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和3年調査)」

地方の勤務医年収が高くなっている背景には、国や自治体、医師会などが推進する医師確保対策が大きな理由として考えられます。地域間の医師偏在は、地方の地域医療を崩壊させかねない重大な社会問題です。そこで、医師不足が深刻な地方の中には、給与や待遇など求人条件を高く設定して医師確保に注力している自治体も増えており、その結果、勤務医の年収にもプラスに作用しています。

◆労働時間

厚生労働省の「医師の勤務実態調査(令和元年調査)」によると、20代から50代の場合、都市部より地方部の医師は1時間程度、労働時間が短いという結果でした。ちなみに、この調査における「都市部」とは東京23区、政令指定都市及び県庁所在地であり、「地方部」とはその他の地域を指します。

ただ、約1時間の労働時間の差は、実質的にほぼ同レベルと言って差し支えありません。

ただし、60代の場合は都市部より地方部のほうが5時間26分、労働時間が短くなっています。セカンドキャリアの勤務先として地方を選択し、外来中心の診療所や老健の配置医、産業医など緊急対応の少ない職場に転職していることが理由の一つです。

出典:厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」

◆働き方の特徴

都市部と地方の勤務医では、働き方にどのような違いがあるのでしょうか。

メリットデメリットを下表で比較しましたので、ご覧ください。

 

都市部の勤務医

地方の勤務医

メリット

担当する診療範囲の専門化が進んでいる

働き方改革が進んでいる

高次機能病院の紹介先が多い

診療範囲が広くプライマリ・ケアや総合診療医として活躍できる

患者との距離が近い

自然に恵まれているため、暮らしやすい

デメリット

都会のため時間の流れが速い

生活環境や教育環境が気になることが多い

業務負担が多い

急性期から慢性期まで対応するケースが目立つ

診療の大部分をひとりで担当するためプレッシャーが大きい

アクセスが不便のため、学会や研修などに参加しづらい

このように、都市部では充実した医療体制の恩恵に浴した働き方ができる反面、都会ならではの慌ただしい生活環境がデメリットといえます。

ただし、地方勤務の場合も、就労環境や生活環境は、地域や医療機関によってさまざまなメリット・デメリットが考えられることも押さえておきたいポイントです。

2.医師の就労環境が大変と言われる理由

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なぜ医師の就労環境は大変と言われるのでしょうか。

厳しい労働条件になっているのは、次の3つの理由です。

【理由1】経営方針と合わず働きづらい
【理由2】業務内容と収入が見合わない
【理由3】コミュニケーションが取りづらい

特に、「【理由2】業務内容と収入が見合わない」という点は、高収入と言われる医師でありながら業務内容とのバランスを考える時、ぜひ意識しておきたいところです。

ここでは、勤務医が置かれているハードな就労環境の理由を紹介します。

2.1 【理由1】経営方針と合わず働きづらい

医師として組織に属する以上、経営陣の方針と相性問題で悩む医師は少なくありません。

例えば、経営理念が漠然としていて体制の統一性に乏しい病院では、前触れもなく指示が下り、自身の診療方針を変更せざるを得なくなるケースもあります。

また、人員不足や設備が不十分な状況が改善されないため、その場限りの対応となり現場が混乱している病院もあります。

経営方針が曖昧な病院ほど、医師として十分に活躍することは難しいでしょう。

2.2 【理由2】業務内容と収入が見合わない

医師は高収入な職業ですが、勤務先の経営形態や規模、予算などによって労働時間や業務の責任と釣り合うほどの収入・待遇を受けられないことがあります。

例えば、国公立病院の勤務医のように、診療範囲が広く、緊急対応による時間外労働が多いことに加え、医療行政に貢献する責任も期待される一方、公務員のため低い収入水準で働いている医師もいます。

また、病院に休暇制度や福利厚生は整備されているものの、スタッフ不足などが理由で実際には利用しづらい場合もあります。

2.3 【理由3】コミュニケーションが取りづらい

病院の規模や体制、経営陣の経営方針や現場に対する姿勢によって、現場の声が経営陣に届かず、改善が期待できない場合があります。

人員不足やICT化の遅れによる過重労働や、不十分な労務管理など、現場の働き方改革に消極的で就労環境の改善が進まない病院も少なくありません。

コミュニケーションに問題がある病院ほど、就労環境の改善が進まない傾向が強く、離職者の増加によって現場の業務負担はますます大きくなってしまうのです。

3.医師の就労環境を改善する3つの方法

医師不足

医師の就労環境を改善するには、次の3つの方法があります。

【方法1】働き方改革に取り組む
【方法2】キャリア形成を図る
【方法3】転職を検討する

特に、「【方法2】キャリア形成を図る」は、将来の医師としての方向性を決める際に重要なポイントとなるところです。

では、ひとつずつ見ていきましょう。

3.1 【方法1】働き方改革に取り組む

厚生労働省や自治体の働き方改革にまつわる施策を通して、勤務先の就労環境の改善を目指します。

国は、医師の偏在を解消し、質の高い医療体制を構築・維持するため、就労環境の改善を推進して来ました。特に、医療分野の雇用の質向上を目的とする「勤務環境改善マネジメントシステム」の導入により、病院ごとにPDCAサイクルを活用した計画的な就労環境改善への取り組みを支援しています。

勤務環境改善マネジメントの導入が進むと、医療現場での役割分担や職種間の連携、チーム医療の推進、補助的スタッフの増員などつながり、ワーク・ライフ・バランスに資する勤務シフトや休暇取得の促進が期待されます。院内保育所や休憩スペースの整備、短期間正職員制度の導入、暴力・ハラスメントへの組織的対応など、働きやすい環境整備のための取り組みも加速するでしょう。

また、自治体レベルでも、働き方改革をバックアップする「病院勤務者勤務環境改善事業」や、女性の活躍を応援し、働きやすい環境整備を進める「女性医師離職防止・復職支援」や「病院内保育所事業」などの施策が行われています。

こうした働き方改革は各医療機関や地域によって施策内容や充実度は異なります。しかし、現場の医師の勤務負担の軽減や働きがいの向上によって患者にも経営陣にもプラスになる対策のため、徐々に施策効果が広がっていくと考えられます。

出典:厚生労働省「医療従事者の勤務環境の改善について」
出典:東京都福祉保健局「病院勤務者勤務環境改善事業」
出典:厚生労働省「女性医師離職防止・復職支援について」

3.2 【方法2】キャリア形成を図る

病院の勤務医として自分のキャリアやスキル向上を図ると、収入アップが実現します。就労環境のうち、収入・待遇は大きなウエイトを占めているため、働きがいの向上につながるでしょう。また、管理職などポストに就けば、収入面はもちろんのこと、業務内容の質も向上するため就労環境の改善になります。

例えば、キャリア形成を目指して専門医や指導医を取得する、地域医療や開業を見据えて診療範囲を広げる、専門領域の知識・技術を深める、といったアプローチがおすすめです。セカンドキャリアをイメージして、本業と異なる経営形態や病院規模・地域などの医療機関を選び、非常勤での臨床経験を積むのも良いでしょう。

3.3 【方法3】転職を検討する

勤務医以外にも医師として活躍できる選択肢は多く、特に医師転職は売り手市場のためおすすめです。

とりわけ、豊富な経験やスキルを兼ね備えた30代後半から40代の医師は市場価値が高く、転職に有利な年代と言えます。自身で転職活動を行い自分のスキルに合った転職先を探す一般的な方法のほか、指導医や診療部長などの役職込みで求人側の病院が医師をスカウトするケースも多く見受けられます。

一方で、30代後半は、セカンドキャリアを意識して地方の病院や介護施設、企業の産業医など、都市部の大学病院や総合病院とは異なるフィールドへの転職を検討するのにも適した時期です。

40代以降の転職活動を有利に進めるには、遅くても30代後半から自分の実力や実績が転職市場でどの程度評価されるかを意識した働き方や行動が大切となります。

4.まとめ

医師の診察

医師の偏在などが原因で、現在も医師の就労環境は厳しい状況が続いています。

そのため、勤務先がどこまで就労環境の改善に取り組み、働き方改革を実現できるかによって、労働時間や収入など医師の就労環境は大きく影響を受けるでしょう。

そこで、厳しい就労環境の実態を踏まえた上で、キャリア形成や転職に向けた具体的な行動が将来の働きがいにつながります。

特に、40代は医師転職でもっとも有利な年代と言われています。転職先の選択肢も、病院や介護施設、企業の産業医をはじめ大変豊富です。30代後半には、セカンドキャリアを意識した新しいフィールド探しを進めてみてはいかがでしょうか。