歯科医師の今後はどうなる?期待される役割やキャリアについて解説

歯科医師 キャリア

近年、歯科健診の義務化について話題になるなど、国民の健康寿命を延ばすために歯の健康が大きく影響するという認識が広まりつつあります。それと同時に、歯科医師に対する需要も高まってきました。
一時期は歯科医師の数は年々増加しており、過剰であるという意見などもありましたが、今では超高齢社会が進行する日本で歯科へのニーズがより高まっていくことが予測されている状況です。

このような将来性の高さとニーズがあることから、歯科医師にとってこれまで以上にキャリアの選択肢が幅広く、またチャンスがある状況だと考えられます。

そこで今回は、歯科医師の将来性やニーズについてだけでなく、歯科医師の幅広いキャリアについて様々な角度から解説します。

1.歯科医師の推移と今後の予測

本章では、歯科医師数の推移と今後の予測について解説します。

1₋1.歯科医師数の推移

厚生労働省の「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2022年12月31 日時点に全国で届出のある歯科医師数は、105,267人(男性77,854人、女性27,413人でした。また、人口10 万人に対する歯科医師数は84.2人となっています。
医師数の変化では、施設別に見た歯科医師の年次推移となりますが主に診療所を中心に増えていることが分かります。

歯科医師数

参照:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」

1⁻2.歯学部定員の変化

歯科医師になるには、歯科大学または歯学部に入学した上で6年間かけて所定の科目を履修し、国家資格である歯科医師試験に合格する必要があります。歯学部の定員については、文部科学省が大学に入学する18歳の人口や歯科医師の需要予測などに基づいて決定しています。
文部科学省の「歯科医療提供体制等に関する検討会 歯学教育の現状と課題」によると、少子高齢化による若年層の人口減少に伴い、歯学部の入学定員も減少しています。

歯学部入学定員

歯学部の入学定員に対して定員割れを起こしている大学もあることから、今後新たな歯科医師は減少傾向となり、歯科医師の平均年齢も高齢化していくと考えられます。

参照:文部科学省「歯科医療提供体制等に関する検討会 歯学教育の現状と課題」

1₋3.歯科医師の平均年齢の変化

歯科医師 年齢

実際に、従事する歯科医師の平均年齢も年々上昇しています。これは、若年層で新たな歯科医師のなり手が減っていることもありますが、開業医には決まった定年がないこと、一般病院でも定年が延長されたり、女性歯科医師の働きやすさの向上、また定年を超えても働き続ける医師が増加したりしたことなどの要因が考えられます。

しかし、今後は若者の減少と共に開業医の後継者不足が懸念されており、歯科医師の減少も予測されています。現在資格を持つ歯科医師が長く働く一方で、歯学部の入学者が減り、結果的に新たななり手が減るという構図になっていくでしょう。

参照:時事メディカル「歯科医師は「過剰」なのか~超高齢社会で役割増す(日本私立歯科大学協会 櫻井孝常務理事)~」
参照:日医総研リサーチ・レポート No.126「医師養成数増加後の医師数の変化について」

2.歯科医師に今後期待されている役割

では、歯科医師に対し今後期待されている役割はどのような内容なのでしょうか。

2⁻1.健康寿命延長のための口腔ケアの推進

歯周病が、心臓疾患や脳梗塞、糖尿病、認知症といった他の疾患と関係していることが近年様々な研究で明らかになっており、口腔ケアの重要性が健康寿命延長に欠かせないものであると認識されるようになりました。
国は現在、国民皆歯科健診の導入に向けた検討を進めており、生涯にわたって歯科健診を受けられる制度導入を通じて、医療費の抑制などにつなげたいという狙いがあります。
国民皆歯科健診が導入されれば、歯科医師の果たす役割が大きくなるだけでなく、求められる場面が増えていくと考えられるのではないでしょうか。

また、オーラルフレイルへの対処も期待されます。オーラルフレイルは、口腔に生じる日常のささいな衰えが、やがて全身の機能の低下を招いて身体的フレイルに至る過程を示した概念です。
歯周病ケアも含めて、口腔ケアの重要性がより一層認識され、歯科医師の出番が増えると予測されているのです。

参照:日本臨床歯周病学会「歯周病が全身に及ぼす影響」

2⁻2.訪問診療などの治療ニーズへの対応

現在、歯科診療は多くの患者が病院やクリニック(診療所)へ足を運び、外来診療を受けています。しかし、急速な高齢化によって今後外出が困難な方や、施設に入所している方も増えており、これらの方々に対する治療機会の提供として訪問診療が増えていくと考えられます。

一般社団法人日本訪問歯科協会のホームページによると、訪問診療対応の実績のある歯科医院は、全国に約68,000中、約13,000医院と全体の約2割にとどまっています。
平成30年の診療報酬改定で、「質の高い在宅医療の確保」「ライフステージに応じた口腔機能の推進」の方針が打ち出されたことも、今後訪問診療に取り組む歯科医師の増加が考えられる要因です。

参照:日本歯科医師会「データで見る 2040 年の社会と 今後の歯科医療」
参照:一般社団法人日本訪問歯科協会「訪問歯科の現状」

3.歯科医師の転職の現状

実際に、歯科医師の転職事情はどうなっているのでしょうか。麻布デンタルキャリアのアンケート結果から解説していきます。

3-1.歯科医師が考える生涯転職回数

歯科医師 転職回数

歯科医師が生涯で想定している転職回数は、2~3回が最も多くなっていました。最初の勤務先で歯科医師としての総合的な経験を積んだ後、2回目以降の転職で歯科診療の中で自分の専門性を高めたり、開業や独立、事業継承を視野に入れた勤務先を選んだり、自分のキャリアプランを見据えている方が多いようです。

3-2.一医院当たりの平均勤続年数

では、一つの病院または医院の平均勤続年数はどうでしょうか。

歯科医師 平均勤続年数

勤務先となる病院規模や専門とする診療内容にもよりますが、約3~5年を想定している方が多いようです。
大学病院などの口腔外科などでより高い専門的な治療を目指す場合は、長く在籍することも考えられますが、一般的な診療所(クリニック)の場合は一通りの病院経営のノウハウなども含めて3~5年で一通りの経験を積もうと考えている歯科医師が多くなります。

参照:麻布デンタルキャリア「勤務医、歯科医師としての本当のスタート」

4.歯科医師の幅広いキャリアパス

歯科医師のキャリアパスは、様々なケースが考えられます。

4-1.勤務医として病院、診療所(クリニック)で働く

独立開業や事業継承を考えておらず、歯科診療に携わりたい場合は、大学病院などの口腔外科や歯科、診療所(クリニック)で勤務医として働くことが想定されます。

4-2.認定医・専門医としてステップアップする

歯科医師にも、口腔外科、歯科麻酔、歯科放射線、小児歯科、歯周病、インプラント、矯正と様々な専門に細分化されます。
その中で、自身がどの専門を強みにしていきたいのか、極めていきたいのかを考え、認定医や専門医としてステップアップを目指す方もいます。認定医や専門医として認定されるためには、豊富な治療実績だけでなく、指定学会に所属していること、論文を発表するなど、様々な条件があります。

4-3.開業または事業継承する

開業または、事業継承して自分で診療所(クリニック)を運営する方もいます。歯科医師として自身の得意とする分野を磨きながら、経営なども行っていくため、歯科医師以外の知識も求められます。
また、診療所(クリニック)の経営が軌道に乗り、歯科医師や歯科衛生士などを雇用して規模を拡大していく方もいます。

4-4.民間企業への就職

民間企業へ就職する方もいます。
特に多いのは、歯科医療機器を開発、製造している会社や、口腔ケア商品を製造販売しているメーカー、製薬会社が主な就職先になります。
特に、口腔ケア商品は歯ブラシや歯磨き粉、入れ歯用品など、販売される商品の種類も増加傾向です。歯科医師としての知見が求められる機会もあるのではないでしょうか。

4-5.留学や大学院で学び研究者や講師を目指す

大学で講師以上の地位を目指す方や、より深い専門知識を身につけたい方は留学、または大学院へ進学して博士号の取得を目指すケースもあります。
特に、大学教員として講師以上となるには博士号の取得が応募条件となることも多く、一度勤務経験を積んだ後に進学するケースも見受けられます。

大学の場合は、講師以上のポジションを目指し、何年もポスドクをしながら応募し続けるなど、狭き門となるケースが多いでしょう。
准教授、教授となるには多くの研究成果だけでなく、人脈や熾烈な競争を勝ち抜いていく必要もあります。

4-6.公務員として公衆衛生医師や技官・医官として働く

国家公務員として厚生労働省などの技官や医官として働いたり、地方自治体で公衆衛生医師として働く道を選んだりする方もいます。募集は不定期に欠員補充で出ることが多いようです。
身分は公務員の専門職扱いとなりますが、基本的な福利厚生は一般職の方と同じです。給料は勤務医に比べると少し下がるケースが多いようですが、ワークライフバランスを考え、転職される方もいます。

5.歯科医師の具体的な転職プラン

実際の歯科医師の転職プランについて具体例を紹介します。

5-1. 勤務医として大学病院で技術を身につけて開業・事業承継する

開業を最終目標とした歯科医師の転職プランの一例を紹介します。

【1院目】
歯科医師の国家試験に合格後、丁寧で質の高い歯科治療を学びたいというテーマを持ち、1院目を選択します。基本的な手技や医療接遇、実費診療の経験などを学ぶことで、一般歯科医としての独り立ちを目指します。最初に勤務する病院のため、教育体制やフォロー体制、業務マニュアルが完備してあるかという点は重要なポイントになります。

【2院目】
2院目に転職する場合は、自身の専門分野を明確にすることを意識します。専門としたい分野の症例が多く、指導医がいる病院を選択する必要があります。特定の分野の治療方法やそれに対応する自由診療などを学ぶ事で、認定医の取得を視野に入れておくことをお勧めします。

【3院目】
3医院目では、実際に開業に向け準備を行っていきます。副院長や分院の院長として働けるような医院を選択し、経営面や開業に関して学ぶ事が可能な病院で勤めます。

学べる内容や病院の規模などにより勤める年数は変わりますが、3院までで10~15年の経験を積み、30代後半から40代にかけての開業を目標とする転職プランになっています。

近年、歯科医師の高齢化や担い手不足による第三者への事業承継も増えています。事業継承の場合、患者や病院、スタッフなどをそのまま引き継ぐことが可能なため、最初に必要な資金を抑えることもできます。自身で開業するか、事業継承という形で開業するか比較検討することをお勧めします。

参照:麻布デンタルキャリア「就業中の方|勤務医、歯科医師としての本当のスタート」

5-2. 病院勤務後、訪問歯科で福祉施設などの往診を担当する

病院や診療所(クリニック)勤務を経て、訪問歯科を担当する方もいます。
一般社団法人日本訪問歯科協会「訪問歯科の現状」では、歯科の訪問診療の現状について、次のような記載もあります。

厚生労働省の資料によると、要介護者の約9割は何らかの歯科治療または専門的口腔ケアが必要であるのに対し、実際に治療を受けたのは約27%というのが実情です。

今後の超高齢化社会の到来で、自分で診療所(クリニック)などに行くことが難しい患者の増加が見込まれることを想定されます。往診を担当したい場合は、訪問診療を行っている歯科医院で実績を積むことを考えてみてはいかがでしょうか。

参照:一般社団法人日本訪問歯科協会「訪問歯科の現状」

6.まとめ

以上、歯科医師の推移や今後期待される役割や転職、キャリアパスについて解説しました。
歯科医師数の推移については、今後の歯学部定員数の変更や、歯科診療に対する政策などによって変化することも考えられます。
この記事が、働き方を考える一助となれば幸いです。