産婦人科医とは?年収・働き方・なる方法・先輩の声を紹介

産婦人科医は、全診療科の中でも高収入が魅力である一方、オンコールや当直業務などの頻度が高く激務というイメージが定着しています。しかし、2024年から開始された「医師の働き方改革」により、産婦人科医の労働環境が改善される兆しが見えてきました。日本産科婦人科学会も新たな取り組みを進めており、産婦人科医の働き方がより良いものになることが期待されています。

また、産婦人科医の魅力は年収や働き方だけでなく、専門分野の幅広さややりがいの大きさにもあります。
そこで今回は、産婦人科医の仕事内容や魅力、働き方や年収、先輩産婦人科医の声などについて紹介します。

1.産婦人科医とは

産婦人科医は、妊娠期の検査や妊娠中に起きた病気の診断や治療、出産に関わる医療全般を担当する医師です。そして、産婦人科は産科と婦人科の両方に対応する診療科になります。

主に産科では、妊娠の判定や妊婦健診における妊娠の状況や胎児の健康状態の管理、分娩の介助などを行い、婦人科は婦人科系の病気の検査や診断、治療を行います。

産科と婦人科医の具体的な仕事内容は下記のようになっています。

産科医の仕事

妊娠の確定

妊娠を確認するための検査や診察を行い、妊娠の有無を判断します。

妊婦健診

妊婦の健康状態や胎児の健康を定期的に評価し、必要な処置やアドバイスを提供します。

分娩の介助

分娩時のケアや支援を行い、安全な出産をサポートします。

帝王切開

分娩時の合併症やリスクがある場合に、帝王切開手術を行います。

産後管理

出産後の母体の回復や赤ちゃんのケアを行い、母子の健康をサポートします。

新生児管理

新生児の健康状態や成長をモニタリングし、必要な医療ケアや支援を行います。

婦人科医の仕事
婦人科系疾患の診療子宮や卵巣・乳房といった婦人科系疾患やがん検診などの診断や治療を行います。
緊急避妊避妊の失敗や成功施用の緊急避妊のための処置・薬の処方を行います。
不妊治療妊娠を希望する患者に対して適切な治療や支援を提供します。産科医と連携し、適切な治療計画を立てます。
ブライダルチェック妊娠に備え、妊娠・出産に影響を与える疾患の検査や健康相談を行います。

2.産婦人科医の年収

2012年の調査では、産科・婦人科の年収は1,4663,000円で、全診療科の中で2番目の高水準でした。特に分娩を扱う産科の場合、最新の求人では年収相場が1,500万円から2,000万円に及びます。さらに、年収2,000万円以上の求人も多く存在し、中には年収3,000万円に達するものもあります(※)

産婦人科医が高収入である理由として、いつ起こるか分からない出産に対応するため、24 時間 365 日体制が必要となります。そのため人手不足も深刻であり人員の確保のため、高収入となっています。
このような理由から、収入のみではなく、他の理由などをしっかりと確認しておくことが大切です。

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3.産婦人科医の働き方

産婦人科医の働き方は、病院とクリニックで異なります。それぞれの働き方の違いについて、詳しく見ていきましょう。

3-1.大学病院・総合病院

総合病院や専門病院では、先進的な手術や治療を通じて専門性を高めることができます。

例として、希少な症例や合併症のある妊娠、高リスク妊婦の管理、難産の対応など、より複雑なケースに携わる機会があるため、診断や治療のスキルを高めることが可能です。

また、最先端の医療技術や治療法が導入されることがあるため、新しい手技や手術法を学び、臨床スキルを向上させることも可能です。

さらに、胎盤早期剥離や全置胎盤、卵巣捻転など母子の生命にかかわる緊急手術が必要になる場合も多くあります。

このような、豊富な経験を積める一方で、当直やオンコール業務が多く、プライベートな時間の確保が難しい傾向にあることに留意しなければなりません。

3-2.クリニック

産科クリニックやレディースクリニックでは、より患者1人ひとりに寄り添った診療ができるでしょう。レディースクリニックは、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療、更年期障害の治療など、女性のヘルスケアや妊娠の希望を叶えるための治療などに特化しています。また、当直やオンコールの回数が少なく、ワークライフバランスを保ちやすい環境も魅力の1つです。

その一方で、手術や高リスクの分娩、緊急時の処置などができる範囲が限られています。また、多様な経験を積みながら専門性を高めていくことには限界があるため、キャリアプランや志向に合わせて選択することが重要です。

4.産婦人科医の働き方改革開始に向けた新たな取り組み

2024 年4月から医師の働き方改革が施行されたことを踏まえ、さらなる課題解決に向けて新たな取り組みが進められています。

ここでは、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が医師の労働時間短縮を実現するための取り組みとして挙げている例を紹介します。

取り組み

説明

タスク・シフト

医師が担当していた業務の一部を他の職種に移管することで、医師の負担を軽減し、効率的な業務運営を図る。

女性医師等に対する支援

女性医師など、特定の条件を満たす医師に対して、育児休業や復帰支援などの制度を提供し、働きやすい環境を整える。

複数主治医制(チーム制)の導入

患者一人ひとりに複数の主治医を割り当て、チームでの診療を推進することで、医師の負担を分散し、診療の質を向上させる。

勤務時間外の緊急でない対応の制限

勤務時間外において、緊急でない患者において病状説明などの対応を制限し、医師の勤務時間外の負担を軽減する。

勤務間インターバルや完全休日の設定

勤務時間内に休憩時間を設けたり、完全休日を確保したりすることで、医師の労働時間を適切に管理し、健康な働き方を促進する。

出典:日本産婦人科医会「産婦人科医療供給体制と働き方改革総論」

上記のうち、「タスク・シフト」「複数主治医制の導入」について詳しく見ていきましょう。

4-1.タスク・シフト

タスク・シフトは、医師が行っていた業務のうち、医師でなくとも対応できる業務を看護師や薬剤師などに任せることで、医師の業務を効率化し、専門性を活かした診療に集中するための手法です。

現行法で医師が行うことが必須とされている業務は対象外のため、どの業務を誰に委任するのかを慎重に検討する必要があります。

4-2.複数主治医制の導入

複数主治医制とは、1人の患者に複数の主治医が対応する仕組みのことです。例えば、妊娠中や分娩時、産後の定期健診など、患者のケアを複数の産婦人科医が分担して行います。

チームでの連携体制が整っているため、緊急時にも素早く対応できます。また、結果として夜間対応や休日対応などが求められる回数が減少し、医師の負担が軽減されます。

5.産婦人科専門医とは

産婦人科医になるには、医師免許を取得後、最低2年間の臨床研修を経て産婦人科医としての基礎的な診療能力を身につけます。

さらに、産婦人科専門医を目指す場合は、3年以上の専門研修を受けて専門医の試験に合格する必要があります。専門医取得後は、さらにサブスペシャリティ領域の専門医を目指すことも可能です。

産婦人科専門医とは、日本産科婦人科学会が認定する資格を持つ医師のことです。産婦人科領域における専門的な研修を経て、試験に合格する必要があります。

周産期、婦人科腫瘍、生殖・内分泌、女性のヘルスケアの4つの分野にわたり、幅広い知識と高度な技術を持ちます。

患者の安全を最優先に考え、適切な診療や紹介などを行うことで、患者の健康を支えます。
専門医資格を維持するには定期的な更新審査を受けて承認を得なければなりません。

最新情報につきましては、学会ホームページなどをご参照ください。

6.産婦人科医のサブスペシャルティ4

産婦人科医には、以下4つのサブスペシャリティがあります。

  • 生殖・内分泌
  • 周産期
  • 腫瘍
  • 女性のヘルスケア

それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。

6-1.生殖・内分泌

子宮筋腫、子宮内膜症、多囊胞性卵巣、卵管水腫などの疾患の診断や治療を行います。

また、不妊症の女性に対して、科学的根拠に基づく不妊治療を行うことも生殖・内分泌の領域です。

6-2.周産期

NICU(新生児集中治療室)、GCU(新生児治療回復室)、MFICU(母体胎児集中治療室)などで、ハイリスク妊娠や周産期合併症に対応します。

内科疾患を合併している女性、高年齢での出産、切迫早産、妊娠高血圧症候群、多胎妊娠などの際に、母胎と胎児の健康を守るための診療を行います。

6-3.腫瘍

婦人科悪性腫瘍には、卵巣癌や子宮頸癌、子宮体癌、子宮肉腫などがあります。また、良性腫瘍の子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣良性腫瘍などにも対応します。

手術療法や保存的治療など、患者の年齢や病態、妊娠の有無や状況などに応じて、治療方針を決定します。

6-4.女性のヘルスケア

女性のQOL向上を目的に、更年期障害、骨粗鬆症、骨盤臓器脱などの治療を行います。また、月経異常や思春期疾患、性感染症なども女性のヘルスケアの領域です。

女性の健康問題は、症状が現れることでQOLが大きく低下する傾向があることから、発症してから治療するだけではなく、未然に防ぐための予防医学的観点も含めて取り組みます。

7.先輩産婦人科医が語る、産婦人科に決めたきっかけ・産婦人科医の魅力 

ここでは、産婦人科医になったきっかけや魅力について、日本産科婦人科学会「産婦人科医への扉|DOCTOR’s VOICE」の先輩産婦人科医のインタビューをもとに紹介していきます。

7-1.未来の命を育てる可能性に魅力を感じた(専門分野:産婦人科全般)

産婦人科を選んだきっかけは、未来を救う可能性を感じたからです。学生時代に産婦人科の授業を受けた際に、胎児治療の重要性に触れ、胎児を患者として捉える考え方に感銘を受けました。不妊症や子宮筋腫などの治療を通じて、未来の命を育てる可能性に魅力を感じ、産婦人科医としての道を選びました。

現在は、地域の医療センターに勤務し、地域の高齢化率が高い中、標準以上の治療を提供し、幅広い患者層に対応しています。

7-2.婦人科腫瘍分野と周産期分野が共存していることに魅力を感じた(専門分野:婦人科腫瘍)

産婦人科医になる決断は、終末期医療への興味から始まりました。癌の治療に関わりたいと思い、診療科を模索していたとき、産婦人科を回る機会がありました。そのときの先生方の雰囲気や診療に触れる中で、自分にとって居心地の良さを感じ、産婦人科に興味を持ち始めました。特に、産婦人科では婦人科腫瘍分野と周産期分野が共存しており、この異なる領域が一つの診療科に統合されていることに魅力を感じました。

産婦人科医になって後悔したことはありません。自分に合った診療科を見つけるまでに悩み、選択した経験があります。その過程で産婦人科にたどり着き、多くの魅力を見出しました。学生や研修医の皆さんには、自分の興味や適性を大切にし、様々な診療科を覗いてみることをおすすめします。

7-3.親の影響と過去の入院体験がきっかけ(専門分野:周産期)

産婦人科医になる決断は、私の幼少期の経験と医師である父の影響から始まりました。病弱であり、毎年のように入院していた私にとって、病院は身近な場所でした。父が医師であったこともあり、医師を目指す気持ちが芽生えました。医学生の頃から周産期の母体救命に興味を持ち、産婦人科か救急診療科かで迷いました。一時期、救急診療科に転科しましたが、憧れの産婦人科医師の存在や周産期医療への情熱から、再び産婦人科に戻ることを決意しました。

7-4.全国で活躍する上司への憧れがきっかけ(専門分野:婦人科腫瘍、ロボット手術)

産婦人科医になったことには、婦人科腫瘍専門の上司の影響を受けています。その上司が全国区で活躍している姿が私にとって非常に魅力的でした。心臓外科も検討しましたが、最終的には産婦人科を選びました。

臨床、研究、教育、そして人材育成の4本柱を基盤として日々努力しています。地方であっても、都心に負けない医療を提供するため、全国で出会ってきた仲間に支えられつつも切磋琢磨しています。

8.まとめ

産婦人科医は、医療知識や技術を用いて新たな命が無事に産まれるようにサポートする重要な存在です。そのような産婦人科医に対して、魅力を感じている方は多いでしょう。

本記事では、産婦人科医の役割や年収、将来性などについて解説しました。

少子化が進行している日本では妊婦とその子供を守る産婦人科医の必要性がますます高まっています。今回、解説した内容を参考に、産婦人科医が自身に向いているかどうか考えてみてください。