空飛ぶ医者フライトドクターとは?やりがいやなる方法、体験談を紹介

救急医 フライトドクター

ドクターヘリに搭乗し、病院前救急医療を行うフライトドクター。

フライトドクターを題材に取り上げられたテレビドラマは多く、空から患者のもとに駆け付け、限られた医療器具とわずかな情報で救命処置を行う姿にあこがれる医師もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際に昨今発生した能登半島地震においても、ドクターヘリの要請が絶えず、フライトドクターは緊張を伴う現場に向かい、救急医療の向上を図りました。

そんなフライトドクターですが、医師の中には、キャリアの選択肢の1つになるかどうかを判断するために、具体的な仕事内容や魅力を知りたい方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、フライトドクターの仕事内容や魅力、なる方法、体験談などについて詳しく解説します。

1.フライトドクターとは?

フライトドクターとは、緊急の出動要請に応じてヘリコプターで現場に向かい、患者の初期治療から医療機関への搬送までを対応する医師です。現場に到着した際、即座に状況を把握して適切な判断を行い、状況に応じて治療を行う必要もあるため、大前提として基本的な初期治療が一人で出来ることが求められます。

初期治療は患者の生存率と関わりが深く、フライトドクターの存在が重要となる場面は少なくないでしょう。

1-1. フライトドクターの魅力・やりがい

フライトドクターの最大の魅力は、現場に赴き、救急医療における専門的治療を早期に開始できることにあります。現場の状況から得ることができる情報と共に症状や傷病を確認することで、適切な診断を行うことが可能になります。

また、現場にはヘリコプターで向かうため、同行できるのは看護師、操縦士のみです。そこに限られた医療機器や医療器具しか積むことはできません。その中で、今まで知識や経験を活用し、どんな治療が必要なのか、どこに搬送するのが良いのかを瞬時に判断する必要があります。さらに、現場はいつも同じ状況ではありません。

このように緊迫した状況下で素早い判断が必要となり非常に責任のある仕事ですが、自ら患者の命を救うことができ、自身の力が試される場で活躍することは、大きなやりがいにもつながります。

2.ドクターヘリについて

ドクターヘリは、救急現場に素早く医師を届け、重要な初期治療を行うための専用ヘリコプターです。基地病院で待機し、要請があれば迅速に現場に向かいます。

高速かつ直線的な動きが可能なため、地上車両よりも遥かに迅速に目標地点に到達します。ドクターヘリ運営の仕組みや導入の経緯などについて詳しく見ていきましょう。

2-1.ドクターヘリ運営の仕組み

ドクターヘリの運営は「ドクターヘリ特別措置法」に基づいています。都道府県がドクターヘリを導入し、その運航経費を負担しています。国は都道府県に対して指導を行い、補助金や交付金を提供します。救命救急センターは運航会社とは業務委託関係にあります。この仕組みにより、効率的で迅速な救急医療を提供することが可能です。

2-2.導入の経緯

ドクターヘリが日本に正式に導入されたのは20014月ですが、その歴史はスイスの山岳地帯から始まりました。世界最初のドクターヘリは1952年にスイスが山岳遭難者を救護し、病院に搬送するためのものです。その後、1970年代に入り、ドイツやアメリカでヘリコプター救急が始まり、交通事故による犠牲者を減らすための取り組みとして広がっていきました。

日本でドクターヘリが本格的に運航されるようになった背景には、1995117日に発生した阪神・淡路大震災があります。この震災では、家屋の倒壊や道路の寸断により、救急車の出動が難しくなりました。その中で消防防災ヘリの活躍が期待されましたが、実際に搬送された傷病者はわずか1人でした。この経験から、災害時の医療救護において救急医療を専門とするドクターヘリが必要であるという認識が高まりました。

1999年8月、内閣内政審議室によって「ドクターヘリ調査検討委員会」が設置され、その活動を通じて20014月にドクターヘリが本格的に運用されることとなりました。

2-3.ドクターヘリの現状

20224月時点で、日本全国には47都道府県に56機のドクターヘリが配備されています。これにより、救急医療の充実が図られ、災害時や緊急事態への迅速な医療対応が可能になりました。

出動実績としては、2020年には25,469件の出動が記録されました。この数字は、ドクターヘリが救急現場や災害地において積極的に活動していることを示しています。ドクターヘリの数については、今後も医療需要の変化に応じて変化する見込みです。

出典:認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク「ドクターヘリを知るードクターヘリとは?

3.フライトドクターになるには?

一般的にフライトドクターはドクターヘリを所有している病院で救急医として勤務しているため、まず救急科専門医の資格取得が必要です。

救急科専門医になるためには、医学部を卒業した後、初期臨床研修を修了する必要があります。この初期臨床研修は、どの専門医になるにも共通のステップであり、臨床経験を積むためのものです。

初期臨床研修終了後、救急科専門医を目指すためには、5年以上の臨床経験が必要です。また、専門医指定病院での救急部門での専従医として3年以上の経験も求められます。一定のハードルがあるものの、救急医療において必要なスキルを確立するためには不可欠な条件です。

救急科専門医の資格を取得したら、次はフライトドクターになるための研修を受けることが求められます。この研修は後期臨床研修の一環であり、救急科において病院内救急医療を学び、指導医のもとで診療を行います。ドクターヘリを備えた病院では、実際のヘリ搭乗経験を積みながら本格的なフライトドクターとしてのスキルを磨くことが可能です。

出典:日本救急医学会「専門医制度」

4.救急医の現状

フライトドクターを目指す際は、救急医の現状について理解しておくことが大切です。救急医の年齢や人数、年収などについて詳しく見ていきましょう。

4-1.救急医の年齢と人数

救急医 フライトドクター

2020年の厚生労働省の統計によれば、救急医の数は3,950人で、平均年齢は41.8歳となっています。

医師全体の平均年齢は50.1歳であるため、救急医の多くが比較的若い世代で構成され、新しい知識や技術を取り入れながら、高度な救急医療を提供していることがうかがえます。人数については、内科や呼吸器内科など、一般診療を行う診療科と比べて少ないのが現状です。また、救急医の中でも救急専門医でなおかつ研修を受けた人物だけがフライトドクターになるため、フライトドクターだけを見るとさらに少なくなるでしょう。

出典:厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

4-2.救急医の年収

2020年のデータによると、救急医の平均年収は1,2153,000円となっています。他の診療科と比較して、年収は高くも低くもありません。救急医は、24時間体制で緊急患者の対応が求められ、その仕事の特殊性から高い専門知識や経験が要求されます。

ただし、他の診療科においてもそれぞれ特殊性があるため、他の診療科とも比較してみてはいかがでしょうか。

5.フライトドクターの声

フライトドクターが自身に適しているかどうかや魅力について知りたい方に向けて、実際にフライトドクターとして働いている人の体験談を2つ紹介します。

5-1.重大な責任のもとで人の命を救うことで達成感を得られる

大学病院救命救急センターの医局長でフライトドクターとして活躍している方もいます。救急現場では医療系専門職と連携し、全体を指揮するリーダーとしてコミュニケーションを大切にしているそうです。過去に、交通事故によって危険な状態に陥った子どもに手術を行い、スポーツを楽しむまで回復させた経験が印象的だったと述べています。

救急現場では迅速な判断が求められ、医師の判断が全てを左右する責任の重さを感じながらも、人の命を救う達成感に満ちているとのことです。また、フライトドクターになるためには、フライトドクターを育てる施設を持つ病院に就職することが一番の近道であるとアドバイスしています。

自身も小児科医としてスタートし、病院での勤務を経て救急医としてヘリに搭乗するようになった経歴を持ちます。救急医になるための特別な教育はないため、医学部を卒業し初期研修医を経ることが最初のステップです。しかしながら、フライトドクターには体力が求められるため、医学部進学を目指しつつも、高校時代から健康な体を作るために体育系の部活動に参加することを勧めています。

出典:進路ナビ「瞬間の判断力とチームを引っぱる力が救急医には必要不可欠な能力です

5-2.最初に患者に触れて救命に尽力できる

静岡県にある総合病院の救命救急センターの医局長は、フライトドクターとして豊富な経験を持ちます。長崎の離島で自衛隊のヘリが患者搬送に役立つことを知り、ドクターヘリの存在を知ったそうです。そして、最初に患者を診る立場としてかかわりたいと思ったのがフライトドクターを目指すきっかけとなったと語っています。

現場での初期治療や救命活動に積極的に参加し、特に危険な状態で心肺停止となった患者の救命に尽力した経験が鮮明に残っているそうです。医師はドクターヘリにおける役割について、「判断」が鍵であると述べています。

患者の状態や治療の必要性を素早く見極め、適切な対応を決定することがフライトドクターの役割であり、そのためには高い「対応力」「マネジメント力」「広い視野」が求められるといいます。これまで1,000回以上ドクターヘリに搭乗しており、常に質の高い医療を提供するために健康管理と体力維持に努めているとのことです。

出典:HEM-Net救急のスキルを武器に現場に駆けつけるフライトドクター

6.まとめ

フライトドクターは、救急車よりも迅速に災害現場や事故現場に駆けつけ、患者に初期対応を行う医師です。救命率に大きく関わる仕事であるため、常に知識と技術の向上が求められます。本記事では、フライトドクターの仕事内容や魅力、体験談などについて解説しました。フライトドクターになるためには、救急専門医となったうえでフライトドクターとしての研修を受ける必要があります。

やりがいと魅力にあふれていながらも、自身の体力作りや健康管理が求められるフライトドクターについて興味がある方は、キャリアの選択肢の1つとして検討してみてください。