
医学生にとって将来どの診療科に進むかは、その後の人生を左右する重要な選択です。
なかには、精神科を検討している医学生もいるでしょう。
しかし、インターネットでは精神科の仕事がきついという声があります。
本記事では、精神科がきついと言われる理由と精神科医の仕事内容、将来性まで解説していきます。
1.精神科医の仕事内容と働き方
精神科医は、多くの専門家と連携しながら患者のケアをしていきます。
精神科医の仕事内容、精神科のチーム編成、そして患者との効果的なコミュニケーション技術について解説します。
1-1.精神科医の仕事内容
精神科医の仕事内容は、患者の診察、治療計画の策定、緊急ケースへの対応など精神的や肉体的な負担が大きい仕事です。
具体的には、以下のような治療を担当します。
- 認知行動療法
- 作業療法
- 薬物療法
特に、重篤な状態の患者を診察する際には、高度な専門知識と細心の注意が求められます。
例えば、うつ病や統合失調症の患者は、症状の変化に細かく対応するために豊富な経験と知識が必要です。
うつ病と躁うつ病など症状が似ている病気の判断も、慎重に行わなくてはいけません。
他にも、アルコール依存症やパニック障害、認知症などの患者にも対応します。
精神科医は1つの病院で働くケースと、曜日によって複数の病院を掛け持つ働き方があります。病院では当直を担当したり都市部では休日や夜間に対応したりしているクリニックもあるので、勤務先によっては交代勤務が必要です。
1-2.精神科のチーム編成
精神科ではチーム医療を導入して患者の治療の質と治療期間の短縮に尽力しています。
精神科医が一緒に働くのは、以下の職種です。
⚫︎精神科のチーム医療構成
- 看護師
- 心理士
- 作業療法士
- 精神保健福祉士
- ソーシャルワーカー
上記のように専門家が集まることで、患者の病気だけでなく生活や仕事面のケアを可能にし、治療成果を高めます。患者が社会的な問題を抱えている場合は、ソーシャルワーカーが介入して治療計画を策定します。
精神科医として働く際はそれぞれの役割を理解して、1つのチームとして患者の治療を進めていくことが大切です。
1-3.患者とのコミュニケーション
精神科医にとって、患者との信頼関係の構築は極めて重要です。患者と信頼関係を構築するためには、以下のスキルが必要です。
- 心理的な洞察力
- 共感
- 傾聴スキル
上記のスキルは患者の状態を正確に理解し、適切な支援を行うために欠かせません。例えば、患者が抱える不安や恐れの本質を理解して寄り添うことで、治療への協力を得やすくなります。
治療を頑張っている患者や仕事を頑張っている患者には敬意を表し、悩んだり苦しんでいる患者には優しく寄り添うことで、患者から頼られる精神科医になります。
2.精神科医療がきついと言われる理由
精神科医療は、その複雑さと精神的な負荷から、多くの医師にとってきついと感じられる職業です。
精神疾患の診断と治療における困難さ、患者との長期的な関係の構築、そして医療現場でのストレスといった側面を紹介します。
2-1.精神疾患の複雑さと治療の難しさ
精神疾患の診断と治療は、ベテランの精神科医でも簡単にできることではありません。統合失調症や双極性障害などの疾患は患者によって症状が大きく異なるため、個々の患者に合わせた治療計画を立てる必要があるためです。
同じ病気でも、症状によって薬の種類や治療内容は大きく変わります。一定の治療を行っていても急に症状が悪化するケースもあるので、精神疾患は治療が難しいといわれます。
そのため、精神科医は診察の度に患者をくまなく観察し、小さな変化にも気がつくことが大切です。
薬を増やしたり強くしたりするだけでは、根本的な解決にいたりません。患者の数だけ正解があるのが精神科医療の難しさです。
2-2.患者との長期的な関係構築
精神疾患の治療は長期的な取り組みが必要なので、患者と長期にわたる関係構築が必要です。患者との長期的な関係は治療の成功に不可欠ですが、同時に医師にも精神的な負担がかかります。
慢性的なうつ病患者のケースでは、数年にわたる経過観察と投薬治療が必要です。患者が精神科医を信頼できていないと、適切な状況や体調変化が報告できずに治療の効果が出なくなってしまうでしょう。
精神疾患の患者にとって、精神科医は大切なパートナーです。患者に寄り添う気持ちを忘れずに、日々の診療を行ってください。
2-3.精神科医の負担
精神科医は、ストレスが多くて心身共に負担がかかる仕事です。
このストレスは仕事のパフォーマンスに影響を与えるだけでなく、私生活や体調にも影響を及ぼすことがあります。
緊急入院の多い病棟で勤務する精神科医は、予測不可能な勤務時間と患者対応に追われます。また、精神科医は整形外科疾患や呼吸器疾患など精神疾患以外の知識も必要になるので、勤務を続けるためには学習と体力も必要です。
医師の長時間勤務は業界全体で問題になっていますが、精神科医も同様に当直や緊急対応で長時間勤務になる可能性があります。
体力を付けるために日頃から運動する習慣を作り、疲れにくい体作りをすることで安定した勤務を続けられます。
関連記事:激務な医師のメンタルヘルス大全!心のセルフケア3つの対策
3.精神科医のメンタルヘルス
精神科医の仕事は高いストレスを伴うため、自身のメンタルヘルスの管理が重要です。
精神科医にとって大切なストレス管理、ワークライフバランスの実現、ピアサポートを活用する自己ケアの方法を詳しく解説します。
3-1.ストレス管理とバーンアウト予防
精神科医がストレスを抱え続けると、バーンアウトを引き起こすリスクがあります。
バーンアウトは燃え尽き症候群のことで、ある日突然やる気を失ってしまう状態です。
重度の精神疾患患者のケアや緊急事態への対応などは、担当する精神科医にとって大きな負担です。
このストレスを解消するために、多くの精神科医は趣味を大切にしています。
映画が好きな人は休日にゆっくり映画鑑賞を楽しみ、食事が好きな人は外食を楽しむ時間を作るなど、自分に合ったストレス発散方法で負担を軽減します。
精神疾患の専門家として働く精神科医も、自分のストレスを客観的に判断できないと仕事を続けられません。オンとオフを適切に切り替えることが、精神疾患で悩む患者のためにもなります。
関連記事:医師がバーンアウト(燃え尽き症候群)しやすい理由と3つの回避策
3-2.ワークライフバランスの実現
精神科医としての仕事とプライベートの時間を適切に保つことは、精神科医のメンタルヘルスを維持する上で重要です。
長時間勤務や不規則な勤務スケジュールが続くと、精神科医の大切なプライベートを損なってしまうためです。
ワークライフバランスを実現するために、時間管理の徹底や仕事の優先順位付けを行いましょう。時には緊急対応も必要になりますが、常習化させないように対策することが大切です。
⚫︎精神科は有休取得率が最も高い
独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」では、精神科は産婦人科と同率で最も有給取得率が高い診療科目でした。
医師としてワークライフバランスを重視したい医学生にとって、精神科医は働きやすい診療科目の1つです。
参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」
3-3.ピアサポートと相談体制
ピアサポートは、同僚や他の医療従事者との支え合いという意味です。
このピアサポートは、精神科医のストレスとバーンアウトのリスクを軽減するのに役立ちます。
病院内でのピアサポートグループやメンターシッププログラムは、精神科医の職業的な挑戦や個人的な悩みを共有し、解決策を見つけるために有効な手段です。
厚生労働省の調査では、ピアサポートワーカーを活用している精神科医療機関は全体の13.9%で、働き方も非常勤職員となっています。精神科医が働きやすい環境を作るためには、ピアサポートの普及と気軽に相談できる体制構築が必要です。
事実、まだピアサポートを活用していないが「望ましい」「どちらかと言うと望ましい」と回答した精神科医療機関は全体の60.8%でした。ピアサポートの普及については、厚生労働省も動向を見守っています。
参照:厚生労働省「精神科医療機関におけるピアサポートの現状と活用に関する調査結果報告書」
4.精神科医の将来性
現代社会では、精神疾患の増加が大きな課題です。
精神疾患が増加するにつれて、従事する精神科医の需要も高まっています。
精神科医療の需要の増加、新しい治療法の発展、そして精神科医の社会貢献の3つのテーマについて解説していきます。
関連記事:医師の今後はどうなる?現状や将来性からキャリアの選択肢まで解説
4-1.精神科医の需要増加
現代の生活様式の変化や社会的ストレスの増加により、精神疾患を抱える人々が増加しています。
病院やクリニックだけでなく、企業での産業医の需要も増加しています。産業医の需要増加は、精神疾患が原因で離職や退職する従業員が増えていることが主な理由です。
精神科医の活躍の場が増える一方で、精神科医が不足しているのが現状です。そのため、複数の病院やクリニックを掛け持ちする精神科医も珍しくありません。
また、精神疾患の患者が増える一方で、完治しにくく治療が長期化する患者が多いことも精神科医不足の原因です。精神疾患の患者が減少する目途は立っていないので、今後も精神科医の需要は増加していくと予測されます。
4-2.精神疾患の新しい治療法
医療技術の進歩は、精神疾患の治療にも革新をもたらしています。
今回紹介するのは、「TMS:経頭蓋(けいとうがい)磁気刺激」という治療法です。
TMSは、うつ病で機能が低下している脳に磁気刺激を与えて活性化する治療法です。TMS治療を行った後に脳波を測定すると、活動量が増加したことから新しいうつ病の治療法として注目を浴びています。
1回あたりの治療時間は20〜40分程度で、これを30回ほど行います。TMS治療は副作用がないので患者への負担が少ないことも特徴です。
TMS治療は半年ほどかかるので、患者の仕事や生活を考慮しながら進める必要があります。精神疾患でも日々新たな治療法が研究されているので、これから精神科医になる医学生は新しい医療技術を積極的に学ぶことが大切です。
参照:J-Stage「うつ病に対する 経頭蓋磁気刺激(TMS)」
4-3.社会貢献と精神医療の価値
精神科医は、個々の患者の治療を通じて社会全体への貢献も果たしています。例えば、グループホームでの入居者向けプログラムの開催や職場でのメンタルヘルスケアプログラムの策定などの活動です。
上記の活動を通じて精神疾患の早期発見や予防を促進し、1人でも多くの人が安定した社会生活を送る手助けになります。
精神疾患の患者対応だけでなく、精神疾患になる前の予防を周知することも精神科医の大切な役割です。
5.精神科医に向いている人の特徴
医学生が精神科医の道を選ぶか判断するためには、精神科医に向いているかどうかも重要です。
精神科医に向いている人には、冷静な判断ができる、共感力がある、コミュニケーション力があるなどの特徴があります。
それぞれの特徴について解説していきます。
関連記事:医師への適性が高い性格とその理由とは?各診療科との相性も合わせて解説
5-1.冷静な判断ができる
精神科医は常に冷静な判断が求められます。
患者の話を聞き、態度や状態を的確に判断することで最適な治療を行うためです。
精神疾患は、風邪や皮膚疾患のように目に見える症状ではありません。目に見えない病気を治療するためには、限りある情報を分析して冷静な判断をする必要があります。
また、患者の話は全てが正しいとは限らないので、正誤の判断も必要です。笑顔で丁寧に接しつつも、内面は常に冷静でいることで、患者一人ひとりに最適な治療を提供できます。
5-2.共感力がある
精神科医は患者に共感することも大切です。
患者の中には、良くないと思いつつも自分を傷つけてしまう行為をしたり、薬を過剰に摂取したりする人がいます。
上記のような患者を叱責するのではなく、共感しながらなぜそのような行動をしてしまったのか、本心はどうしたいのかを傾聴しましょう。精神科医が寄り添ってくれると感じることで、患者も治療に前向きな姿勢になります。
注意点としては、患者の心情に深入りし過ぎないことです。共感することは大切ですが、過剰に感情移入してしまうと、冷静な判断の妨げになるためです。
患者が安心して治療できる環境を考え、日々の仕事に還元してください。
5-3.コミュニケーション力がある
精神科医は患者とコミュニケーションを取る必要があります。しかし、精神疾患の患者の中には他者との関わりを拒絶したり攻撃的な人がいたりします。
精神科医は、どんな患者と対面しても話を丁寧に聞き、適切な治療を提供するのが役割です。そのため、精神科医にはコミュニケーション力が必要です。
患者の性格や精神疾患の症状に合わせた会話や対応を心がけ、長期的な信頼関係を築けるようにしましょう。
精神疾患の患者にとって、セカンドオピニオンは勇気のいる決断です。自立支援医療制度を活用している患者は手続きも負担になります。
患者が安心して通院できるためには、精神科医のコミュニケーション力や共感力が必要です。
6.まとめ
精神科医がきついと言われる理由には、精神疾患の治療の難しさと治療の長期化が関係しています。
精神疾患は時間をかけて症状を緩和し、日常生活に支障が出ないようにコントロールしていく病気のためです。
精神疾患の患者は感情の起伏が激しくなったり適切な会話が難しかったりするため、精神科医にとっても負担がかかります。
長く精神科医を続けるためには、ストレス管理を徹底する、ワークライフバランスを整えるなどの対策が必要です。
現代はストレス社会と呼ばれている通り、精神疾患の患者は増加する一方です。
現状では精神科医の人手不足が深刻になっているので、将来性がある仕事の1つともいえるでしょう。
悩んでいる人に寄り添いたい、サポートしてあげたいなど他者への優しい気持ちを持っている医学生は、精神科医として多くの患者から慕われる才能を持っています。
精神科医は、患者と社会にとってなくてはならない大切な職業です。
コメント