2024年4月に導入される医師の働き方改革によって、大学病院を中心に設置されている医局制度にも大きな影響が出るだろうという声が挙がっています。
医師の中には、医局制度への影響を見越してすでに今後のキャリアのために動き出している方もいれば、情報収集をしながら周りの様子を伺っている方もいる状況です。
今回は、医師の働き方改革で注目されている医局の職位の中で多く検索されている“助教”に着目し、今後のキャリアなどについて解説します。
目次
1.助教とは?
まずは、助教の定義や医局内での立ち位置について解説します。
1₋1.助教は医局内で最初に就く役職のことが多い
助教は、大学教授を目指す医師が自身の選択した各診療科の医局に入局後、若手として最初に就くことが多い役職となります。
助教を皮切りに、医局によって呼び名が変わることもありますがその後、講師、准教授、教授、診療科部長、病院長とステップアップを目指すのが一般的です。
1⁻2.医局内での立ち位置
大学病院の医局には、診療科ごとに多くの医師が在籍しています。医局では、教授をトップとした役職があり、それぞれの立場で患者の診察や治療・研鑽に励むのが一般的です。
・研修医
医局で一番下の職位に該当します。
医学部を卒業し、厚生労働省が定める初期臨床研修に取り組んでいる医師です。以前は医学部卒業後3年目以降の医師を「後期研修医」と呼んでいた時期もありました。しかし、2018年以降の新専門医制度ででは3年目から専門医研修を受けるため、呼称が変わりました。
・助手、医員、専攻医
医局によって呼称が違いますが、2年間の初期臨床研修を終えた医師です。初期臨床研修を修了すると、診療科によって内容や所要年数が異なりますが、日本専門医機構が定める所定のプログラムを修め、専門医を目指すのが一般的なステップアップになります。
近年では、助手を置かない医局もあり、その場合は医員・専門医と呼ばれることが多いようです。
・助教
専門医の資格を取得し、博士号を取得した医師が助教と呼ばれます。助教となった後は、さらに研鑽を積みながら次のステップである講師を目指します。
・講師
助教になった医師のうち、何割かは外部へ出向したり、民間病院へ転職したりする人もいます。医局に残った助教の中の1名から数名が講師へとステップアップします。
医局内でも下位の職位にいる医師を取りまとめるなど、マネジメント的な仕事も少しずつ増えてくる頃です。
・准教授
基本的に、医局内に1名となります。
教授の片腕としての役割と同時に、大学で講義や研究と診療も担当します。医局内でもマネジメント的役割をこなしながら、教授を目指すために研究実績などを積み重ねていきます。
・教授・診療科部長
一つの診療科を取りまとめる存在、または一つの医局の責任者です。大きな診療科の場合は、「第一外科」「第二外科」のように一つの診療科内で複数の教授が存在し、医局をそれぞれ取りまとめるケースもあります。
一つの診療科内に複数の教授がいる場合は、その上に診療科部長が設置されているケースもあります。
いずれにしても教授は医局の責任者としてマネジメントをするだけでなく、診療や大学での講義、医師によっては所属学会などで理事などの役職を担当することも出てくるでしょう。
・病院長
病院長は、各診療科の教授のさらに上の職位です。教授や助教を束ねるだけでなく、病院経営など経営的者な仕事も入ってきます。
参照:一般社団法人 日本専門医機構
参照:文部科学省「資料2-3 大学等の教員組織の整備に係る学校教育法の一部を改正する法律等の施行について(通知)」
2.助教になるには?
助教になるためには、時間がかかるだけでなく、人脈や情報収集力が求められます。
基本的に、助教のポストは大学院を修了して博士号を取得していることが必須条件です。公募によっては博士号が必須ではない場合もありますが、数少ないポストを争うことや可能性を広げるためにも、博士号取得を前提にしておくほうがいいでしょう。
また、博士課程を修了後、タイミングよくすぐに助教のポストに就けるとは限りません。多くの医師は博士課程修了後に、数年間大学や公的研究機関などでポスドク(ポストドクター)として研究業績を積んで助教になるケースが大半です。
何度も公募の助教に応募し、晴れて助教になるにはポスドクの期間が10年近くに及ぶ人もいます。
ポスドクは任期付き雇用のため、助教になれるまで安定して仕事があるかどうかわからないという不安もあります。また、大学教員に応募するためには、博士論文の指導教員や関連する分野の教授が書いた推薦状(リファレンスレター)が必要になることもあります。
日頃から自身の研究に勤しむだけでなく、人脈や情報収集力を磨くことが助教への道のりに必要だと考えられます。
3.助教の仕事内容
助教の仕事内容は、大きく分けて研究、教育や教授のサポートがあります。
3⁻1.研究
助教になると、今まで教授や准教授の下で行っていた研究を独立してできるようになります。今までは、自分の思うとおりに研究がすすめられないことがあったかもしれませんが、独立して研究することができるので、自由度も上がるでしょう。
その反面、研究予算の獲得を自ら働きかけなければならないという一面もあります。
3⁻2.教育や教授などのサポ―ト
自分の研究室を持つことができるだけでなく、学生の講義を受け持ち、教えることもできるようになります。魅力的な研究を行っている場合は学生や大学に対するアピールとなり、その後准教授へのポストを狙う際の実績となったり、他の公募に挑戦する時に役立ったりするでしょう。
また、医局によっては教授のサポートや医局の事務処理を担当することもあるようです。
3⁻3.研究時間の減少とその確保
以前は、「助教になれば研究に費やせる時間が増える」と言われていましたが、近年では逆に研究に費やす時間が減少しています。
文部科学省が2024年4月から導入される医師の働き方改革に伴い、81の大学を対象に取ったアンケート結果では、下記の通りとなりました。
助教の15%が全く研究をしておらず、研究時間が1週間に5時間以下であると答えた人は約50%にのぼりました。研究時間が減少している理由としては、労働時間に対しての診療時間比の割合が高くなっている点があげられます。また、働き方改革により80%以上の大学病院が研究時間の確保ができなくなり、学生への個別指導や臨床教育などの教育の質が下がることを懸念しています。
昨年度、全国81の大学病院に勤務する助教の医師を対象に、研究に使う時間について聞いたところ、
▽1週間に5時間以下と答えた人が50%にのぼり、
▽15%が全く研究していない
と答えたことが報告されました。
その理由について、患者の診療に充てる時間が増えたことで、研究に使える時間が減っていることをあげていて、来年からの働き方改革によって、およそ80%の大学病院が、学生への個別指導や研究の時間の確保ができなくなると答えました。
これらのアンケート結果も踏まえ、医師の研究時間確保だけでなく、医師の確保自体に影響が出るということで研究時間の確保に向けた改革などが検討されています。
実際に働き方改革が始まった後、どのように変化していくのか見通せない部分もありますが、研究時間確保に向けた動きは今後も活発になると考えられます。
参照:文部科学省「大学病院における医師の働き方に関する 調査研究報告書」
4.助教の収入・年収
助教の収入は、「学校教員統計調査 / 令和元年度 第2部 大学等の部 教員個人調査 大学」によると、月給(額面)で30万以上35万円未満が最多でした。
助教の収入については国公立・私立大とも一緒ですが、その後のステップアップとなる講師・准教授・教授と職位があがるにつれて、高い月給を得ている層が最も多いのは国立大という結果も読み取れます。
研究内容や診療科にもよるので一概には言い切れませんが、国立大の給与水準の高さを考えたキャリアプランを視野に入れることも一案かもしれません。
一方で、研究力向上や有望な若手研究者獲得のために九州大学が年俸1000万以上の待遇を用意するという記事も出ており、今後は国公立・私立に関係なく魅力的な研究をしている研究者に高い待遇を用意する動きが活発になる可能性もあるでしょう。
参照:文部科学省 (2021-03-25)「 学校教員統計調査 / 令和元年度 第2部 大学等の部 教員個人調査 大学
参照:日本経済新聞「九州大学、若手研究者に年俸1000万円超 研究力向上狙う」
5.助教のキャリアパスとは
助教になった後のキャリアパスは、複数考えられます。
5-1.医局で出世する
まず考えられるのは、今在籍している医局で講師以上のポストに昇進していく方法です。長く在籍していれば、その分医局内部の人事に関する情報などを入手しやすいでしょう。
しかし、同じ医局内に有望な研究を行っている助教や講師がいる場合、彼らとの競争に打ち勝つ必要があり、非常に熾烈なポジション争いとなる可能性もあります。
講師以上のポストに昇進するためには、冷静な判断が求められるでしょう。
5-2.新たに医局を選択する
現在在籍している医局の状況や、自分のやりたい研究内容・働き方などの方向性が違うと感じた場合は、他の医局へ移ることも選択肢の一つとして考えられます。
同じ医局に在籍し続けても、教授が交代するなど状況の変化に応じて方針が変わることもあり、必ずしも同じ医局にいることが最善の選択肢とならないこともあるからです。
冷静に状況を見極め、より自分にとってよい方向性を考えてみましょう。
5₋3.民間企業や地方自治体へ転職する
大学でのキャリアではなく、民間企業や一般医療機関、地方自治体への転職も選択肢の一つです。
・民間企業
製薬会社やヘルスケア会社、治験を行っている企業など、医学の知見を求めている企業で研究や開発、品質保証、安全性評価などに携わることもできます。企業によって求められているスキルや経験は様々です。
働き方も大きく変わり、ワークライフバランスが取りやすくなる傾向があります。
・産業医
民間企業で産業医として勤務することもできます。常勤・非常勤など、求人要件も企業によって様々です。
休日や福利厚生については、勤務先の企業に準じるため、興味がある場合は確認してみるといいでしょう。
・民間医療機関や福祉施設
民間の病院で勤務医として働いたり、福祉施設で施設管理医として勤めたり、医局という枠組みにとらわれない働き方ができます。
病院や診療科、勤務条件にもよりますが、助教や講師よりも高待遇を提示するところも珍しくありません。大学とは環境が異なりますが、選択肢として考える方も少なくありません。
・地方自治体
公衆衛生医師など、地域の公衆衛生対策などに携わる方もいます。
中には、一度公衆衛生医師として勤務後に教育の現場へ戻って来られる方や、医療機関への転職など、多様なキャリアプランを選ぶ方がいます。
欠員が出たときの募集が多いため、タイミングよく応募できるとは限りませんが、地域の医療施策などに携わるなど、臨床医とは違うやりがいがあるでしょう。
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6.まとめ
以上、医局における助教の仕事内容やなるために必要なこと、収入やキャリアパスを解説しました。
医師のキャリアパスは、働き方改革の実施によって今後新たな話題が出てくる可能性もあり、目が離せません。また、大学の医局内においても変化していくことが考えられます。
この記事が、働き方を考える一助となれば幸いです。