注目が高まっている施設管理医の仕事とは?求められる背景や業務内容を解説

医師 施設管理医

医師が活躍するフィールドは、病院や企業、保健所等の行政機関以外にも広がりつつあります。高齢化による介護施設の増加により、施設管理医という働き方も注目を集めるようになりました。
「施設管理医は、病院勤務と何が違うのか?」
「施設管理医になった場合、キャリアはどうなるのか?」
と考える医師の方向けに、今回は施設管理医の仕事内容や求められるスキル、キャリアなどについて解説します。

1.施設管理医とは

まず、施設管理医の概要と求められるようになった背景について解説します。

1-1.施設管理医の概要

施設管理医は、介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)、介護医療院(介護療養型医療施設)など、主に介護保険施設に入所している高齢者の健康管理を日常的に担当する医師です。 医師の配置基準は、施設の規模や種類によって法律で定められており、各施設は基準に応じた医師を配置しています。
施設によっては、病院がグループの一部として運営しているケースも少なくありません。その場合、入所者の容体急変などの際に病院と連携することもあるでしょう。

1-2.施設管理医が求められる背景

近年、日本では急速に少子高齢化が進行しています。今後より加速し、超高齢化社会が到来すると予測されている中で、医師の果たす役割はますます大きくなっているのが現実です。
以前であれば、救うことができなかった病気や疾患が、医学の進歩によって治療できるようになったことで平均寿命が長くなり、介護施設および入所者が増加すると考えられています。
こうした介護施設で入所者の健康管理、日常的な診察、処方を行う施設管理医の重要性は高まるでしょう。
厚生労働省の「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、病院の従事者は216, 474人、診療所の従事者は107,226人です。施設管理医が含まれる介護老人保健施設の従事者は3,405人、介護医療院の従事者は298人と、病院や診療所従事者に比べると少ないですが、今後増加することが考えられます。

医師 施設管理医

(「介護給付費分科会 介護老人保健施設(参考資料)」より介護老人保健施設の請求事業所数)

施設管理医が増加傾向であることは介護老人保健施設数からも予測できます。「介護給付費分科会 介護老人保健施設(参考資料)」によると、介護老人保健施設の請求事業所数は緩やかながら増加し続けているからです。今後の超高齢化社会を考えると、この傾向は続くと考えられ、増加による施設管理医の活躍の場も広がると予測できます。

参照:厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計」
参照:介護給付費分科会 介護老人保健施設(参考資料)

2.施設管理医の勤務する施設と配置基準

施設管理医の勤務する施設と、それぞれの施設の配置基準について解説します。施設管理医が勤務する施設は、主に介護医療院(介護療養型医療施設)、介護老人保健施設(老健)、特別養護老人ホーム(特養)となります。医師の配置基準も、介護医療院と介護老人保健施設(老健)・特別養護老人ホーム(特養)では違います。それぞれの配置基準は次の通りです。

医師 施設管理医

2-1.介護医療院

介護医療院は日常生活支援をはじめ、医療ケアや介護サービスを提供する施設です。
また、入所者の疾患の重篤さによってⅠ型とⅡ型の2種類に分かれており、それぞれ対象となる入所者が異なります。

医師 施設管理医

介護医療院は医療ケアが充実しており、薬剤師もいますので一定レベルの医療については対応できる体制が整っています。また、終末期の入所者もおり、看取りを行うこともあります。
医師の配置基準はⅠ型とⅡ型で異なります。重篤な身体疾患がある高齢者や合併症のある認知高齢者が入所しているⅠ型ではⅡ型に比べて医師の配置数は多くなります。

2-2.介護老人保健施設(老健)

介護老人保健施設(老健)は、リハビリを中心に行っています。基本的に、社会復帰、または生活上の中でできることを増やしたり、動作を改善したりすることが目的の施設です。
常勤医師が施設に1名以上必要となります。配置人数の基準は介護医療院Ⅱ型と同様に入所者100人に対し1名以上です。介護老人保健施設(老健)は長期的に入所しているわけではなく、基本的に短期入所となっている点で介護医療院と大きく違います。

2-3.特別養護老人ホーム(特養)

特別養護老人ホーム(特養) は、常時介護が必要で、自力で在宅での生活が難しい高齢者に対し、生活全般の介護を提供する施設です。
生活上で必要な入浴、排泄、食事などの介護、その他の日常生活の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話行い、入居できるのは要介護3以上の方が対象になります。
医師の配置基準は具体的な数字ではなく必要数となり、非常勤医師でも可能です。
特別養護老人ホーム(特養) の中でも、定員29名以下の施設は「地域密着型サービス」といわれます。

参照:厚生労働省「介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について」

参照:厚生労働省「介護老人保健施設の人員」

3.施設管理医の仕事内容

施設管理医の具体的な仕事内容について紹介します。

3-1.日常的な回診業務

まず挙げられるのが、日常的な回診業務です。病院勤務の場合も、病棟で回診業務を行いますが、基本的にはほぼ同じイメージで考えるといいでしょう。
入所者の体調に変化はないか、もし変化がみられる場合はその対応や処置を行います。急変が予測される入所者については、家族への連絡や詰所に近い部屋への移動も行い、注意深く観察対応となります。また、介護医療院では終末期の入所者もいますので、看取り対応もあります。

3-2.感染症や外傷の処置

高齢者は、抵抗力が落ちて感染症にかかる頻度も高くなります。また、小さな怪我なども発生するため、その処置も必要です。
具体的には、喀痰吸引、・経管栄養、点滴、呼吸管理、酸素吸入、インスリン注射、褥瘡ケアなどが挙げられます。介護医療院では看護師、薬剤師も常駐していますので、チームとして協力しながら対応することになります。
介護老人保健施設(老健)では、リハビリがメインとなりますのでリハビリ中に起こったけがなどの対応が多いでしょう。

3-3.施設で処置ができない患者への対応

施設で対応できない重症者が出た場合は、病院への移送対応が必要です。
移送先の病院との連携、紹介状の発行、家族への連絡などを行います。施設が病院と連携している場合は、その病院と協力して病棟への移送などの対応をします。

4.施設管理医の待遇

施設管理医の給与やワークライフバランスについて解説します。

4-1.給与

施設管理医の給与は、勤務する施設の規模や具体的な業務内容、役職などによって大きく異なります。勤務医として働き、時間外労働や日当直などがないという条件の場合は、相場は年収1,000万円程度となります。
病院勤務で当直やオンコールもある一般的な医師と比較すると、年収は低めだと考えられます。ただし、休日・夜間を問わないオンコール対応や看取りなどの対応も行い、勤務施設で「雇われ経営者」として採用される場合は、病院勤務の医師と同等レベルの高水準の年収が期待できるでしょう。
高年収を求める場合は、病院勤務と変わらないレベルの多忙さと幅広い業務を担当しなければならないケースも増えるため、ワークライフバランスを求めている場合は、具体的な勤務条件や他の医師によるバックアップ体制などをしっかりと確認しておくことが大切です。

4-2.ワークライフバランス

ワークライフバランスは、勤務条件によって大きく異なります。
当直やオンコール対応、看取り対応のない日勤のみという条件であれば、ワークライフバランスはとりやすいでしょう。しかし、オンコール対応などを行う場合は、入所者の症状が急変した際に直ぐ対応しなければならないため、ワークライフバランスは取りづらくなります。ただ、日常的に急患の対応が多い急性期病院と比較すると、そこまで過酷な勤務環境とはならないと考えられます。
応募する前に、業務内容の範囲などを確認しておくといいでしょう。

5.施設管理医になるには

基本的に、施設管理医になるために絶対に必要なキャリアや資格などは特別に定められていません。2004年以降に医師免許を取得した医師は、初期臨床研修を修了していることが前提になるケースがほとんどですが、絶対に保持していなければならない専門医資格や参加必須の研修などは特にありません。
しかし、日本老年医学会では「老人保健施設管理認定医制度」があります。老健管理認定医の申請については、次の通り定めています。

(1) 日本国の医師免許又は歯科医師免許を有し、医師として優れた人格および見識を備えていること。
(2) 老人保健施設に従事しているか、従事した経験があること。
(3) 本会の会員であること。
(4) 本会が実施する老人保健施設管理医師総合診療研修会を受講修了していること。
(5) 業務を通じて高齢者医療ならではの基礎知識を習熟した上で、病態の改善などに資する結果につながった症例を5症例報告できること。
(6) 施行細則に定める到達度確認問題を実施し、一定の水準を満たした者であること。

必須の資格ではありませんが、取得していると採用に有利になると考えられます。

参照:一般社団法人日本老年医学会「老人保健施設管理認定医制度規則」

6.施設管理医に求められるスキル

施設管理医として活躍するためには、入所者の様々な疾患や外傷などに対応できる幅広い知識と経験が必要とされます。臨床現場を経て特に活かせる診療科ごとの経験やスキルについて解説します。

6-1.内科

入所者は高齢者が多く、様々な基礎疾患を持っていることが考えられます。また、食欲の低下や感染症、肺炎などにかかりやすい人が多い年齢層でもあることから、一般内科や循環器内科の経験を活かすことができます。
また、外来や病棟勤務で点滴、栄養管理や呼吸補助、インスリン注射などの対応をした経験も重宝されます。

6⁻2.整形外科

入所者のリハビリ対応や、慢性的な膝や指、腰などの疼痛対応などでは、整形外科の経験が大いに役立つと考えられます。
特に、高齢者は体のどこかに痛みを抱えていることも珍しくありません。痛みを軽減する治療は、入所者にとって非常に有用な経験であると考えられます。

6⁻3.皮膚科

入所者である高齢者は褥瘡ケアをはじめ、皮膚トラブルも多く発生します。加齢や乾燥によるかゆみや湿疹、ぶつけることによってできる傷や打撲などの対応が求められます。
高齢者の場合、小さな傷を放置するとひどい化膿を起こすことも考えられます。日常的な回診業務では、皮膚科としての専門的な知識を活かし、早めに皮膚の変化に気づき、悪化を防ぐことができます。

6⁻4.外科

外科の知識も重宝されます。重篤な症状については、病院で対応しますが簡単な処置であれば介護医療院内に処置室が設けられており、ある程度の対応をすることが考えられるからです。
また、心臓などの臓器機能が低下している入所者も一定数いることが考えられるため、一般外科の知識は重宝されるでしょう。

6⁻5.歯科

入所している高齢者は、口腔内にむし歯や歯周病のトラブルを抱えていることも珍しくありません。入れ歯をしている入所者もいると考えられます。
口腔内のケアの重要性は、例えば糖尿病や心疾患との関連性を示唆する論文も発表されており、健康維持のため無視できないものです。しかし、歯科医が施設管理医になるケースはまだ少ないと考えられます。

6⁻6.終末期医療

入所者の中には、がんなどの終末期医療を受けている方が終の棲家として介護医療院に入所するケースもあります。
そのため、終末期医療の経験を豊富に持っている医師は知識を活かして入所者の生活を支えることが出来るでしょう。

また、看取りの機会も多くなると考えられ、入所者本人や家族のケアに関する知識も役立つでしょう。

7.まとめ

施設管理医は、一人で多くの入所者に対応することになり、幅広い症状や疾患を瞬時に判断して治療することが求められます。また、重症者かどうかを見極め、病院と連携する判断も必要です。
施設内では、多くの専門職と一緒に働くため、それぞれの知見を持ち寄って柔軟な判断力で対応することも大切になるでしょう。
以上、施設管理医の仕事内容や求められるスキルなどについて解説しました。
今後ますます進む高齢化によって、施設管理医の重要性は高まると予測されるため、キャリアの一つとして考えてみるのはいかがでしょうか。
この記事が、医師のキャリアとしての一助となれば幸いです。