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加齢とともに目の機能が衰え、生活の質に大きな影響を与える「アイフレイル」。視力の低下が進行すると、転倒や骨折のリスクが増加するほか、社会的な交流が減少したり、認知機能が低下したりするなど、健康寿命を短縮させる可能性があります。
しかし、アイフレイルについての認知度はまだ低く、多くの人が目の健康リスクを十分に理解していません。
本記事では、アイフレイルの理解を深めるために、その影響や予防法、セルフチェックの方法、検査について詳しく解説します。
1.アイフレイルとは?
アイフレイルとは、加齢による目の衰えに生活習慣や紫外線、喫煙などの外的要因や糖尿病や高血圧などの内的要因が加わることで、視機能が低下した状態、またはそのリスクが高い状態のことです。
老眼、緑内障、白内障、加齢黄斑変性といった目の病気とも深く関係しています。初期段階では無症状であることが多いものの、やがて見えにくさや不快感を自覚するようになり、進行すると視力の低下が顕著になります。
重度になると回復が難しくなるため、早期発見が重要です。適切な予防や治療を行うことで、進行を遅らせ、症状を緩和することができます。アイフレイルを放置せず、目の健康を守るために早めの対応を心がけましょう。
2.アイフレイルの認知度
アイフレイルは、初めのうちは自覚症状がなく、徐々に症状が進行していくため、年齢のせいだから仕方がないと放置しがちです。しかし、アイフレイルの治療予防は早期発見が重要になりますが、そもそも「アイフレイル」という言葉を知らない方も多いようです。
ここでは、日本眼科医会が加齢により目の健康状態の低下を感じる人が急増する40歳から89 歳までの男女12,491人を対象に実施したアイフレイルに関する調査を参考に、アイフレイルの認知度と実際に目(視覚)に問題を抱えている人や予防を行っている人がどの程度いるのか見ていきましょう。
2-1.健康面で不自由に感じていることの1位は「目(視覚)に関すること」
日本眼科医会行った調査によると健康に関する不自由を感じている部位として「目(視覚)に関すること」が最も高く、42.5%の回答を占めました。次に「歯に関すること」が36.9%、「足腰(歩行や動作)に関すること」が31.3%と続き、特に不自由を感じていないと答えた人は28.8%にとどまります。この結果から、目に関する不自由さが多くの人々にとって重要な課題であることが明らかです。
しかしながら、アイフレイルの認知度は「言葉の意味を知っている」(3.3%)、「聞いたことがある」(7.9%)、「聞いたことがない」(88.9%)と低く、まだ浸透していない状況です。
2-2.目(視覚)の健康維持に努めている人は他の部位と比べて少ない
普段から健康維持や病気予防に努めていることとして「歯に関すること」が46.9%で最も高く、「足腰(歩行や動作)に関すること」が40.9%、「目(視覚)に関すること」は22.8%にとどまりました。
「歯」や「足腰」に関しては、不自由を感じていない人でも予防的なケアを日常的に行っている割合が高いのに対し、目の健康維持への関心や意識は比較的低い結果となりました。
アイフレイルは、健康な目と高度な視覚機能の障害を持つ中間に位置します。目が疲れやすくなった、夕方になると見えにくくなるなどの症状を単純に年齢によるものだと放置せずに、「アイフレイル」という状態があることを多くの人が知り、治療予防していくことが重要です。
出典:日本眼科医会「アイフレイル(加齢に伴う目の機能低下)に関する意識調査 報告書 」
3.アイフレイルと健康寿命の関係
アイフレイル(視機能の低下)は、進行することで仕事や家事などの日常生活に直接的な影響を及ぼし、健康寿命を短くします。
また、アイフレイルは転倒リスクを高めたり、認知機能を低下させたり、社会参加を難しくするなど、フレイルの3要素である「身体的フレイル、社会的フレイル、心理的・認知的フレイル」を悪化させ、さらに健康寿命を短縮させてしまいます。
ここでは、アイフレイルとフレイルの3要素「身体的フレイル、社会的フレイル、心理的・認知的フレイル」との関係を見ていきましょう。
3-1.アイフレイルの身体的フレイルとの関係
身体的フレイルは、加齢に伴う衰弱による身体活動量や移動機能の低下を指し、介護が必要になる主な原因の1つです。
アイフレイルによって視覚が低下すると、歩行速度が遅くなり、階段の昇降が困難になるなど、移動能力に直接的な影響を与えます。研究では、身体活動量の低下は、視力が特に悪い方の眼の見え方に関連していることが示されています。
また、視力や視野、コントラスト感度の低下は、骨折や転倒リスクの増加とも深く関係しています。視覚障害があると、病院内での転倒率が14倍にもなるという調査結果もあり、視覚の低下は転倒リスクを大幅に高める要因です。
3-2.アイフレイルの社会的フレイルとの関係
アイフレイルは、社会的フレイルとも密接に関連しており、高齢者の生活の質や健康寿命に大きな影響を与えます。社会的フレイルとは、社会活動や交流に関して脆弱な状態を指し、独居、外出頻度の減少、友人や家族との接触機会の低下などが原因とされています。
研究によれば、視覚が低下すると地域活動への参加率が約60%減少し、友人と会う頻度も同様に約60%減少することが示されています。また、見え方の低下により孤立していると感じる割合は、視覚が良好な人の1.5倍に達するという報告もあります。さらに、視覚障害を抱える人は、一般人口と比較して孤独感や寂しさをより強く自覚していることも明らかになっています。
これらのデータが示すように、視覚の低下は社会的交流や地域活動への関与を制限し、孤立を深める要因です。
3-3.アイフレイルの精神的フレイルとの関係
アイフレイルは精神的フレイルと密接に関連し、高齢者の認知機能や精神的健康に多大な影響を与えることがわかっています。精神的フレイルには認知機能の低下やうつ病などがあります。認知機能の低下は介護に至る要因の第2位であり、うつ病は認知症のリスク要因とされています。
米国、英国、欧州で行われたサンプル数1万人以上の大規模な疫学調査では、視覚障害を自覚している人は、視覚障害がない人に比べて認知機能が低下していることが明らかになりました。また、米国で行われた縦断研究で認知機能が正常な625人を8.5年間観察した結果、視覚が良好な人に比べ、視覚が悪い人の認知症発症率が63%高く、認知障害発生率も40%高いという結果が示されました。
さらに、視覚障害が認知障害と重なると、移動能力や日常生活動作(ADL)の障害リスクが大幅に上昇します。
このようにアイフレイルは、フレイルの3要素「身体的フレイル、社会的フレイル、心理的・認知的フレイル」を悪化させる要因となり、これらが作用しあうことで健康寿命の短縮に大きな影響を与えます。
出典:日本眼科医会「アイフレイル・ガイドブック2022年度版」
4.アイフレイルチェックリスト
アイフレイルについて、定義や認知度、健康寿命との深い関連性について解説しました。目の健康は私たちの日常生活や長期的な健康に大きな影響を与えるものです。
自分の目の状態を具体的に把握するためのチェックリストを紹介します。アイフレイルを早期発見するためのきっかけに活用してください。
- チェックが0の人……目は今のところ健康です。変化を感じたら、またチェックしてください。
- チェックが1つの人……目の健康に懸念はありますが、問題があるわけではありません。
- チェックが2つ以上の人……アイフレイルの可能性があります。一度、眼科専門医にご相談ください。
チェック数に応じて適切に対応し、アイフレイルの影響をなるべく抑えることが大切です。
5.目の病気を見つけるために有用な検査
アイフレイルのチェックリストを確認し、もしかしたら自身はアイフレイルの状態かもしれないと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、目の状態を確認するための検査方法について詳しくみていきましょう。
5-1.視力検査
視力検査には、裸眼視力検査と矯正視力検査の2種類があります。裸眼視力検査は眼鏡やコンタクトレンズを使用せずに行い、目の自然な状態でどれだけ見えるかを測定します。
一方、矯正視力検査では専用のレンズを使用して近視、遠視、乱視といった屈折異常を補正し、補正後の視力を確認します。視力補正が可能かどうかを判断し、矯正視力が改善しない場合には、目の疾患が隠れている可能性を考慮して、さらなる検査が必要となります。
視力検査は通常5メートルの距離で行いますが、読書や近距離作業における視力が求められる場合は、約30センチメートルの距離で近方視力を測定します。遠くの視力が良好であっても、近距離での見えづらさを感じる場合は老眼が原因のことが多く、老眼鏡の使用が視力改善につながることもあります。
また、視力検査では、ランドルト環と呼ばれる一部が欠けた円形の図形や文字を用い、どの方向に欠けているかを判別することで視力を測定します。
視力検査は単なる視力測定ではなく、目の健康状態を確認するための検査です。
5-2.眼底検査
眼底検査は、眼の奥に位置する網膜や視神経、血管の状態を詳細に調べることで、目の健康状態や全身の疾患について情報を得る検査です。網膜はカメラのフィルムに例えられる部分であり、視神経は網膜で受け取った光の情報を脳に伝える役割を果たします。また、眼底は血管を直接観察できる唯一の場所であり、その血管の状態から高血圧や動脈硬化といった全身性の疾患の兆候を発見することが可能です。
糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、網膜剥離、緑内障などの網膜や視神経に関連する疾患の早期発見に眼底検査は欠かせません。特に緑内障は、日本における失明の主な原因として知られており、進行するまで視力低下の自覚がないため、眼底検査による早期発見が重要です。糖尿病網膜症もまた自覚症状がないまま進行し、発見が遅れると視力回復が難しいため、糖尿病患者は定期的に検査を受ける必要があります。
検査には、眼底カメラや光断層干渉計(OCT)などを使用し、一瞬の強い光を当てたり、近赤外光を用いて網膜の断面を撮影したりします。また、より詳しい観察が必要な場合は、目薬を用いて瞳孔を広げる「散瞳」を行います。この際、瞳孔が元に戻るまで半日ほどかかり、その間は強い光に敏感になるため、運転などを控える必要があります。
5-3.眼圧検査
眼圧検査は、眼球の内部にかかる圧力、すなわち眼圧を測定する検査で、目の健康状態を確認する上で重要な情報を取得できます。専用の機械の前に顔を固定し、目に向かって弱い風を当てます。検査自体はわずか10秒程度で完了し、痛みを伴うことはありません。
眼圧が高い場合、緑内障のリスクが示唆されるため、さらなる精密検査が必要です。しかし、眼圧は1日の中でも変動するため、1回の測定だけで正常と判断するのは早計です。実際、緑内障の診断には、眼圧検査だけでなく視野検査、眼底検査、光干渉断層計(OCT)などを組み合わせ、総合的に評価する必要があります。
5-4.視野検査
視野検査は、目の前をしっかり見ている状態で、周囲にどれだけの範囲が見えるかを調べる検査です。専用の機械の前に座り、片目ずつ視野を測定します。検査には数分から20分程度の時間がかかりますが、痛みや眩しさを感じることはなく、安心して受けられる検査です。
緑内障は視野が徐々に欠けていく病気で、症状が進行して広範囲の視野が欠けた状態にならない限り、本人が気づかないことが少なくありません。これは、目が欠けた部分を補おうとする適応能力により、日常生活で視野の変化を自覚しにくいためです。視野検査を定期的に受けることで、緑内障の早期発見につながります。
6.アイフレイルに関するQ&A
アイフレイルについて、よくある質問に回答します。
Q.アイフレイルはどうやって対策すればいいですか?
アイフレイルを予防するためには、日々の生活習慣の見直しと定期的な眼科検診が欠かせません。生活習慣病である高血圧や糖尿病、喫煙の習慣は視力低下を招くリスクがあるため、これらを改善することが重要です。
特に、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、高血圧や糖尿病の予防・改善に役立ちます。1日30分以上、週に3~5回を目安に取り入れ、健康的な生活を心がけましょう。
さらに、目の健康を維持するには食生活も大切です。ビタミンA(小松菜、かぼちゃ)、ルテイン(ほうれんそう)、アントシアニン(ブルーベリー)、DHA(青魚、まぐろ)など、目に良い栄養素を含む食品を積極的に摂取することで、アイフレイルを防ぐ助けとなります。
Q.アイフレイルは若い世代は気にしなくて大丈夫ですか?
眼鏡市場を運営する株式会社メガネトップが全国の600人を対象に行った調査によると、老眼を意識していないのに、その症状の1つが出ている「かくれ老眼」は、20代では18.0%、30代以上では30%を超える割合で見られることがわかりました。特に30代後半では35.0%に達するという結果が示されています。
若い世代に見られる「かくれ老眼」は、アイフレイルの初期兆候の1つと考えられますが、早期に適切な対策を取ることで、症状を改善したり進行を遅らせることが可能です。20代や30代の段階から目の健康に対する意識を高め、生活習慣の見直しや定期的に眼科検診を受けるなどの対策を始めましょう。
参考:産経ニュース「『かくれ老眼』30代でも気をつけて 自覚なくても3割超に症状 40代からは我慢禁物」
Q.アイフレイルは眼科に相談すればいいですか?
アイフレイルについての相談は眼科で受けることができますが、より専門的な診断やアドバイスを求める場合は、アイフレイルアドバイスドクターが在籍する病院やクリニックを訪れるのがおすすめです。アイフレイルアドバイスドクターは、アイフレイルの診療・研究・啓発活動に特化した眼科医で、アイフレイルに関する豊富な知識と経験を持ちます。
2024年8月時点で、アイフレイルアドバイスドクターは全国に866人登録されており、公式サイトでリストが公開されています。近隣のアイフレイルアドバイスドクターを探したい場合は、日本眼科啓発会議のアイフレイル啓発公式サイトをご覧ください。
参考:アイフレイルアドバイスドクターリスト 866人(2024年8月時点)
7.まとめ
アイフレイルは、目の健康と直接的に関わる問題であり、健康寿命を大きく左右する重要な課題です。加齢による視機能の低下は、転倒や骨折、社会的孤立、さらには認知機能の低下といったフレイルの多面的な悪化を引き起こし、介護リスクを高める要因となります。しかし、早期の予防や適切な対策を講じることで、進行を遅らせるだけでなく、生活の質を維持し、健康寿命を延ばすことが可能です。
目の健康を守るためには、定期的な眼科検診や生活習慣の見直しが欠かせません。また、アイフレイルアドバイスドクターなど専門家のサポートを受けることで、より具体的かつ効果的な対策を講じることができます。本記事を通じて、アイフレイルに関する理解を深め、1人ひとりが目の健康維持に取り組むきっかけとなれば幸いです。