
終末期医療(ターミナルケア)は、末期がんなど余命がわずかな人たちが、その残された余命を豊かに平穏に過ごせるようにと行われるケアのことです。
人生の最期まで自分らしく過ごし、満足してそのときを迎えることを目的としています。
終活など、人生の最後の迎え方への関心は年々高まっており、高齢化が進む日本において終末期医療(ターミナルケア)のニーズは今後ますます高まっていくと考えられます。
そこでこの記事では、終末期医療(ターミナルケア)の基本的な考え方から、ケアの内容、各提供場所での特徴や違いまでを解説しますので、最後までご一読ください。
目次
1. 終末期医療(ターミナルケア)とは
“終末期医療”は、末期がんなど余命がわずかな人たちが、その残された余命を豊かに平穏に過ごせるようにと行われるケアのことです。
人生の最期まで自分らしく過ごし、満足してそのときを迎えることを目的としており、ターミナルケアとも言われます。
近年、医療やケアに対する考え方は大きく変化しています。平成27年(2015年)3月、厚生労働省は「終末期医療」という表現を「人生の最終段階における医療」という新しい表現に変更しました。なぜ、一般にも浸透していた名称を変更するに至ったのでしょうか。
従来の「終末期医療」という言葉は、どうしても「死」にスポットが当たりがちでした。しかし「人生の最終段階における医療」という表現に変更したことで、死期そのものではなく、最期まで本人の尊厳を尊重する、人間の生き方に着目した医療・ケアが行われるべきだという考え方の高まりを後押しする狙いがあります。
「人生の最終段階における医療」という新しい用語が広がることで、患者の自己決定権を尊重し、医療者と患者・家族が十分に話し合いながら意思決定を行い、その人らしい最期を迎えるためのケアを大切にする医療・ケアが求められています。
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2. 終末期医療の3つのケア内容
終末期医療では、患者の生活の質(QOL)を向上させるために、身体的・精神的・社会的の3つの側面から総合的なケアが必要です。この3つのケアは相互に関連しており、バランスよく行われることが求められます。
それぞれのケアについて一つずつ紹介します。
2-1.身体的ケア
身体的ケアは、患者の身体的な苦痛や不快感を和らげることが目的です。終末期には様々な身体症状が現れるため、患者の症状に合わせた対応が必要となります。
まず、モルヒネをはじめとする疼痛管理によって、身体的な痛みや不快感を取り除く緩和ケアを行った上で、食事・排泄・入浴などの介助、着替えや移動といった介護で見られる日常的なケアも行います。
特に、食事を口から取れなくなった場合、栄養補給の方法を本人や家族と話し合う必要があります。経管栄養や点滴による栄養補給は生命維持に直結するため、慎重に判断します。
また、終末期では入浴による体力消耗を防ぐ目的で、清拭(せいしき)により清潔保持をするケースが一般的です。
このほか、症状の緩和だけでなく、患者のADL(日常生活動作)を維持する酸素療法や褥瘡予防なども自立した生活をサポートするために大切なケアとなります。
2-2.精神的ケア
精神的ケアでは、患者が心静かに残された時間を過ごせるサポートが重要です。
患者にとって心地よい環境づくりは精神的ケアの基本です。例えば、思い出の写真や愛用品をそばに置く、好みの音楽を流すなど、馴染みのある物に囲まれることで安心感が生まれる環境整備を目指します。
死を目前にした患者は、様々な不安や恐怖を抱えています。家族や友人との絆を維持・強化することも精神的支えとなります。孤独感は精神的苦痛を増大させるため、「あなたはひとりではない」というメッセージを伝えることが、家族や医療者の重要な役割となります。
医療者は、患者と家族の間の橋渡し役として心理的なサポートを行うと共に、必要に応じて、専門的な心理カウンセリングや宗教的なケアの提案を行う場合もあります。
2-3.社会的ケア
社会的ケアでは、患者を取り巻く社会的・経済的な問題に対応し、患者と家族の負担軽減を図ります。
終末期医療には高額な費用がかかることが多く、経済的負担は患者と家族に大きなストレスとなります。そこで、医療ソーシャルワーカーなどの専門職が利用可能な社会保障制度や医療費助成制度などについて情報提供し、申請手続きのサポートを行います。
また、終末期には遺産相続や身辺整理といった「終活」の問題も大きくなるため、法律の専門家や遺品整理のプロを紹介するといったフォローも社会的ケアの一環です。
終末期の患者は「迷惑をかけている」という自責の念を抱きやすく、社会的な孤立感を深めるケースが少なくありません。家族との良好なコミュニケーションをサポートし、患者が社会的なつながりを持ち続ける支援が大切です。
3. 終末期医療(ターミナルケア)に類似する4つのケア
終末期医療(ターミナルケア)には、類似するケアとして以下の4つがあります。
3.1.緩和ケア
緩和ケアは患者の身体的・精神的苦痛の軽減に焦点を当てたアプローチです。終末期の中でもがん患者において重視されています。
痛みの管理だけでなく、不安や恐怖などの心理的苦痛にも対応し、患者の生活の質向上を図ることが目的です。終末期医療と異なり病気の初期段階から治療と並行して行われる点が特徴です。
▼参考:厚生労働省「緩和ケア」
3.2.看取りケア
看取りケアは余命宣告を受けた患者に対し、主に自宅や介護施設で行われるケアです。医療や看護といった側面よりも、日常的な介護・介助に重点を置き、心身両面のサポートに取り組みます。
このケアでは、患者が尊厳を保ちながら穏やかな最期を迎えられるようアプローチします。特別な専門知識よりも、楽しい会話や優しい声かけなど、日常的なコミュニケーションを大切にしていることが特色です。
3.3.ホスピスケア
ホスピスケアは治療が望めなく人生の最終段階における患者が自分らしく最期を迎えられるよう支援するケアです。現在、広く使われている「ホスピス」とは、1967年にロンドンで創設されたターミナルケア施設に由来しています。
緩和ケアと内容的に共通点も多いものの、提供を開始するタイミングが異なります。緩和ケアはがんの診断時から始まりますが、ホスピスケアは終末期と診断された時点から提供されます。
3.4.エンドオブライフケア
エンドオブライフケアは死への意識が芽生えた患者が、最期までQOLを保った生き方ができるよう支援するケアです。患者自身はもちろん家族のほか、一般の方も老若男女、病気の有無や健康状態、年齢に関わらず幅広く死との向き合い方についてサポートが受けられます。
出典:ニッセイ基礎研究所「基礎研レター ターミナルケア(終末期医療) ってなに?」
4. 終末期医療(ターミナルケア)を提供する場所
終末期医療を提供する場所は、主に病院、在宅、介護施設の3つですが、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」では人生の最期を迎えたい場所として自宅を選んでいる方が多くなっていました。
この章では、終末期医療を受ける場所別のメリット・デメリットを表でまとめました。
場所 | メリット | デメリット |
病院 | ・医療従事者が常駐 | ・家族との時間が限られる |
在宅 | ・慣れ親しんだ環境で過ごせる | ・家族の身体的・精神的負担が大きい |
介護施設 | ・医療と介護の両面からのケア | ・入居待ちが長期化する場合がある |
提供場所による具体的な特徴を一つずつ紹介します。
4.1.病院
病院での終末期医療は「ホスピス」または「緩和ケア病棟」を中心に提供されています。いずれも身体的苦痛の緩和だけでなく、心理的・精神的なケアも重視され、患者の残された時間の質を高めることを目指す専門病棟です。
日本では2024年時点で、全国に468施設、9,746病床の緩和ケア病棟が設置されています。
また一般病棟でも「緩和ケアチーム」による専門的なサポートを受けられる病院が増えてきており、医師、看護師、薬剤師、心理専門職などの多職種連携によるケアが進んでいます。
4.2.在宅
在宅での終末期医療は、訪問診療や訪問看護を利用しながら、自宅で過ごすスタイルです。医療費の増大や介護施設の不足から、厚生労働省は看取りを含めた在宅医療の体制整備を目指しています。
在宅でのターミナルケアでは、医師や看護師が定期的に訪問し、必要な医療処置を行います。容体の変化に合わせて訪問回数を増やすなど、柔軟な対応が可能です。酸素吸入や点滴などの医療的ケアも自宅で受けられます。
ただし、容体悪化に伴う往診回数の増加により経済的負担が増えることもある上に、家族の身体的・精神的負担も大きくなります。寝たきり状態になった場合の褥瘡予防など、介護者によるケアも重要になるため、医療と介護の連携強化や家族へのサポートも重要です。
4.3.介護施設
介護施設の中でも、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院などで「看取り加算」を算定している施設では看取り対応が可能です。
介護施設の看取りでは、医療機関との連携体制や十分な職員配置、医療処置を提供できる設備の充実などが質の高いケアの鍵を握ります。施設を選ぶ際は、充実した看取り体制が整っているかを確認してください。
ただし、ターミナルケア体制が整備された施設でも、容体の急変時には病院搬送されるケースが一般的です。介護施設での看取りを希望している場合も、病院で最期を迎える可能性も考慮する必要があります。
終末期の対応で施設側との食い違いを防ぐには、施設側の看取り対応について入居契約時に十分な説明を受けましょう。
出典:日本ホスピス緩和ケア協会「緩和ケア病棟入院料届出受理施設数・病床数の年度推移」
5. 終末期医療(ターミナルケア)の費用
終末期医療の費用は医療機関や受ける医療内容によって異なりますが、日本慢性期医療協会によると、終末期患者の死亡前入院医療費は医療療養病床で1日あたり約28,500円です。
終末期医療を受ける際の自己負担額は、年齢や所得によって以下のように異なります。
- 75歳以上の後期高齢者医療制度利用者:原則1割負担(約2,850円/日)
- 現役並み所得者:3割負担(約8,550円/日)
そして、長期にわたる終末期医療では、高額療養費制度が適用されます。70歳以上の方の自己負担上限額は以下のように設定されています。
- 月額上限:57,600円
- 外来のみの場合:18,000円
なお、在宅で終末期医療を受ける場合は、訪問診療や訪問看護にかかる費用が主な負担となります。病院での入院に比べると費用は抑えられる傾向にありますが、介護者の身体的・精神的負担、必要な医療機器のレンタル費用、医療保険と併用できる場合の介護保険サービスの自己負担などが別途発生することがあるため、総合的な判断が必要です。
6. 終末期医療(ターミナルケア)についてよくある質問
ここでは、終末期医療(ターミナルケア)についてよくある質問をまとめました。
Q1. 終末期医療が行われる期間はどのくらいですか?
終末期医療の期間は、患者さんの状態や疾患の進行速度によって大きく異なります。一般的には余命診断後の数週間から数ヶ月程度ですが、明確な規定はなく、長いケースでは半年以上にわたることもあります。
Q2. ターミナル期が始まるタイミングはいつですか?
期間と同様、ターミナル期の開始時期についても定義はありません。通常、治療による回復の見込みがなく、余命が数ヶ月程度と予測される段階としています。
Q3. 終末期医療の準備はいつから始めればいいですか?
加齢で健康状態に変化を感じ始めたり、大病や大ケガで生活に制限が生じた時点で、今後の医療やケアを含めた将来の備えを考え始めることが望ましいでしょう。厚生労働省が推進している「人生会議」(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)のように、人生の最期について家族で話し合ったりなど、事前に準備をしておくことで、いざというときに自分の希望に合った医療やケアを受けられます。
参照:厚生労働省「『人生会議』してみませんか」
ACP(人生会議)の基本|終末期を迎える患者を尊重する医療の重要性、役割とは?
7. まとめ
終末期医療(ターミナルケア)の理解を深め、自分自身や大切な人の「人生の最終段階」をどう過ごしたいかを考えることは今後ますます重要になります。
元気なうちから終末期医療に関する知識を得ておくことで、いざというとき慌てずにベストな選択ができます。病院、在宅、介護施設など、それぞれの提供場所のメリット・デメリットを把握した上で、最期の迎え方と向き合う必要があります。
医療費の準備や利用できる制度の確認や、家族を交えた「人生会議」も重要です。自分らしい最期を迎えるためにも、ターミナルケアの理解促進が大切です。